学位論文要旨



No 116442
著者(漢字)
著者(英字) Sheykholeslami,Kianoush
著者(カナ) シェイコレスラミ,キヤヌシュ
標題(和) 新しいミュータントウズラ(Quv)の聴覚神経系の電気生理学的および組織病理学的研究
標題(洋) Electrophysiological and histopathological evaluations of auditory system in a new mutant strain of Japanese quail, named quiver(Quv)
報告番号 116442
報告番号 甲16442
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1837号
研究科 医学系研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 花岡,一雄
 東京大学 教授 中村,耕二
 東京大学 教授 上野,照剛
 東京大学 助教授 郭,伸
 東京大学 助教授 本間,之夫
内容要旨
審査要旨 要旨を表示する

 本研究では末梢および中枢神経系においてニューロフィラメントの形成不全が存在する突然変異ウズラ“Quv”の聴覚系について電気生理学的および組織病理学的な解析を行った。

 実験1では、聴性脳幹反応、蝸電図、中間潜時反応を用いて電気生理学的な検討を行った。まずQuvウズラの聴性脳幹反応ではP1は潜時は正常であったが閾値がコントロールウズラに比べやや上昇していた。P2は潜時が大きく延長し、またP3、P4は消失していた。次に蝸電図では蝸牛マイクロフォン電位は振幅・潜時とも正常であり、またP1の潜時も正常であった。また中間潜時反応は振幅は正常範囲にあったがNo,Pa,Naの各ピークの潜時はコントロールウズラに比べ延長していた。このようにQuvウズラは聴性誘発反応において異常を示すことが明らかとなった。

 実験2ではQuvウズラの聴覚伝導路を組織病理学的、特に組織学的な形態の計測により検討し、このような電気生理学的な異常と関連する所見の有無を調べた。方法としては、末梢から中枢に至る聴覚伝導路の連続切片を作成し、H.E.染色とK.B.染色を行い光学顕微鏡で観察した。また電子顕微鏡による検討も行った。Quvウズラでは外耳道および鼓室には異常を認めず、また髄鞘染色性については、K.B染色とH.E染色の両方においてコントロールウズラとほぼ同様であった。ラセン神経節細胞も光学顕微鏡レベルの観察では正常と考えられた。一方Quvウズラの有髄神経線維と軸束の直径はコントロールウズラに比べ細いという結果が得られた。ただし、軸束と神経線維の直径の比はQuvウズラとコントロールウズラで差を認めなかった。Quvウズラの神経線維はMTs,MCs,smooth endoplasmic reticulum, dark densebodyから構成されており、NFsは見出せなかった。また髄鞘の破壊像とMCs,とMTsの蓄積が稀ではあるが見出された。以上の所見より、Quvウズラでは神経線維の低形成および細胞内動態・軸索輸送・可塑性等の異常、また軸索が細くなったことによる抵抗の増大などにより伝導速度の低下と誘発電位の異常が生じたものと思われた。

 以上、本研究はニューロフィラメント形成不全ウズラQuvに聴覚系の異常が存在することを初めて明らかにするとともに、その病態生理に関し電気生理学的・組織病理学的な手法を用いて詳細な解析を行った。本研究で得られた知見は末梢・中枢神経系における聴覚刺激伝導のメカニズムの解明に大きな示唆を与えるとともに、今後ヒトにおける聴覚障害の病態解析にも貢献しうると思われ、学位の授与に値するものと考えられる。

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