学位論文要旨



No 116446
著者(漢字) 畢,文傑
著者(英字)
著者(カナ) ヒツ,ブンケツ
標題(和) Nociceptinが誘発する熱痛覚過敏に対するJTC-801の効果の検討
標題(洋) Effect of JTC-801 on Nociceptin-induced Thermal Hyperactivity of Spinal Dorsal Horn Neurons
報告番号 116446
報告番号 甲16446
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1841号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高橋,智幸
 東京大学 教授 宮下,保司
 東京大学 教授 加我,君孝
 東京大学 講師 井手,康雄
 東京大学 講師 五嶋,孝博
内容要旨 要旨を表示する

目的

 ノシセプチンnociceptinは近年発見された神経ペプチドで、中枢神経系特に痛覚刺激伝達経路に高密度に存在するノシセプチン受容体を介して作用する。ノシセプチン受容体はオピオイド受容体と類似の構造及び細胞内機能(adenylyl cyclase抑制、電位依存性Ca2+チャンネル抑制、K+チャンネル活性)を持つが、その生理学的作用としてはオピオイド受容体とは対照的に、脳室内投与およびクモ膜下投与で痛覚過敏反応hyperalgesiaやallodyniaを作ることが報告されて以来、注目されている。一方、高用量のノシセプチンは逆に鎮痛作用を示すことも報告されて,このペプチドは投与経路や用量によって侵害作用並びに抗侵害作用を示すことが明らかとなった。

 本研究は、ノシセプチンとノシセプチン受容体拮抗薬JTC-801の脊髄後角単一細胞活動への影響を検索し、ノシセプチンシステムの疼痛制御機構への関連を考察した。

方法

 実験には、300〜400gの雄のSprague-Dawley系ラットを用いた。ハロセン麻酔下にて、気管切開、総頚動脈・外頚静脈カニュレーションの後、第12胸椎レベルから第2腰椎レベルまで椎弓切除術を行った。その後ラットは筋弛緩薬にて非動化され、浅麻酔(エンフルラン0.5〜1.0%投与)下に人工呼吸にて一般状態を生理学的正常範囲内に維持した。微小電極を第7腰髄内に細胞活動のmodalityを確かめつつ、マイクロドライバーを用いて挿入し、脊髄後角単一細胞活動を細胞外微小電極誘導記録法において測定観察する。実験には、熱刺激(50℃.cut-off time10秒)に反応するWide Dynamic Range (WDR)細胞を用いた。

 4種類の実験を行った。

(1)自発発射数、及び熱刺激装置による誘発発射数の対照値を測定した後、微小電極挿入付近の脊髄表面にノシセプチン(2pmol,5pmol,10pmol;生理食塩水で希釈したものを50μL)を直接投与し,脊髄後角単一細胞活動の変化を観察した。

(2)自発発射数、及び熱刺激装置による誘発発射数の対照値を測定した後、JTC-801(0.1mg/kg,0.2mg/kg)を静脈内投与して、JTC-801単独による効果を観察した。

(3)ノシセプチン2pmol脊髄投与で前処置した後、JTC-801(0.05mg/kg,0.1mg/kg,0.2mg/kg)を静脈内投与して、ノシセプチンとJTC-801の相互作用を観察した。

(4)JTC-801(0.1mg/kg)静脈内投与で前処置した後、ノシセプチン2pmolを脊髄投与して、JTC-801とノシセプチンの相互作用を観察した。

 実験は5分毎に熱刺激による誘発発射数の変化を測定し、対照値と比較して、その変化率を検索した。

結果

(1)高用量のノシセプチン(5pmol,10pmol)は脊髄後角単一細胞活動を抑制したが、低用量のノシセプチンは脊髄後角単一細胞活動を活化した。

(2)JTC-801(0.1mg/kg,0.2mg/kg)の単独投与により脊髄後角単一細胞活動は変化しなかった。

(3)ノシセプチン2pmol脊髄投与により亢進した脊髄後角単一細胞活動は、JTC-801(0.1mg/kg,0.2mg/kg)の静脈内投与で拮抗された。

(4)JTC-801(0.1mg/kg)静脈内投与で前処置した後、ノシセプチン2pmolを脊髄投与しても、脊髄後角単一細胞活動は亢進しなかった。

まとめ・考察

 低用量のノシセプチンは脊髄後角単一細胞活動に対し侵害作用を示し、高用量のノシセプチンは抗侵害作用を示した。JTC-801は低用量ノシセプチンの脊髄後角単一細胞活動刺激作用を抑制および予防した。

 脳内には各種神経伝達物質に対する特異的な受容体が存在し、それぞれの分子が疼痛制御機構において中心的役割を果たしている。本研究では痛覚過敏反応hyperalgesiaやallodyniaなどの病的疼痛において重要な役割を果たしている可能性のあるノシセプチンシステムに焦点を絞り、電気生理学的に解析した。ノシセプチン拮抗薬がノシセプチンシステムに影響して鎮痛作用を発現する可能性を示唆し、複雑な疼痛制御機構を解明して、ひいては新しい鎮痛薬の開発に繋がると考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は難治性疼痛の発生過程と治療において重要な役割を演じているノシセプチンとノシセプチン受容体拮抗薬JTC-801の脊髄後角単一細胞活動への影響を検索し、ノシセプチンシステムの疼痛制御機構への関連を考察した。下記の結果を得た。

1. 高用量のノシセプチン(5pmol,10pmol)は脊髄後角単一細胞活動を抑制したが、低用量のノシセプチンは脊髄後角単一細胞活動を活化した

2. JTC-801(0.1mg/kg,0.2mg/kg)の単独投与により脊髄後角単一細胞活動は変化しなかった。

3. ノシセプチン2pmol脊髄投与により亢進した脊髄後角単一細胞活動は、JTC-801(0.1mg/kg,0.2mg/kg)の静脈内投与で拮抗された。

4. JTC-801(0.1mg/kg)静脈内投与で前処置した後、ノシセプチン2pmolを脊髄投与しても、脊髄後角単一細胞活動は亢進しなかった。

 以上、本研究では痛覚過敏反応hyperalgesiaやallodyniaなどの病的疼痛において重要な役割を果たしている可能性のあるノシセプチンシステムに焦点を絞り、電気生理学的に解析した。ノシセプチン拮抗薬がノシセプチンシステムに影響して鎮痛作用を発現する可能性を示唆し、複雑な疼痛制御機構を解明して、ひいては新しい鎮痛薬の開発に繋がると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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