学位論文要旨



No 116465
著者(漢字) 飯島,浩一
著者(英字)
著者(カナ) イイジマ,コウイチ
標題(和) アミロイド前駆体タンパク質(APP)細胞内ドメインの生理機能解析
標題(洋)
報告番号 116465
報告番号 甲16465
学位授与日 2001.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第939号
研究科 薬学系研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桐野,豊
 東京大学 教授 関水,和久
 東京大学 教授 岩坪,威
 東京大学 助教授 青木,淳賢
 東京大学 助教授 鈴木,利治
内容要旨 要旨を表示する

序論

 アルツハイマー病患者脳に特徴的な病理学的変化として、大脳皮質、海馬等への老人斑の沈着がある。この老人斑の主要構成成分としてβアミロイドペプチドが精製され、その前駆体タンパク質として、アミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein;APP)が単離された。APPは、長い細胞外ドメインと一つの膜貫通ドメイン、短い細胞内ドメインからなる、一回膜貫通型受容体に似た構造をとる糖タンパク質である。βアミロイドドメインは、APPの細胞外から細胞膜内にかけての領域に存在し、細胞内代謝過程で、セクレターゼと呼ばれる酵素により切り出されることでβアミロイドペプチド(Aβ)が生成する。このAβの持つ神経細胞毒性が、シナプスの脱落や神経細胞死を引き起こすという仮説が「βアミロイド仮説」と呼ばれ、現在広く支持されている。アルツハイマー病の発症機構解明を目指し、APPからのAβ生成メカニズムを解明しようとする試みが数多くなされているが、いまだその全貌は明らかではない。また、APPの生理機能についてはさらに不明な点が多い。APPのホモログ分子はC.elegans、Drosophila、electricrayといった生物種においても確認されており、哺乳類と同様に神経組織での発現レベルが高いことが知られている。これは、APPが神経組織において普遍的な生理機能を担っている可能性を示唆している。APPはその構造上、45アミノ酸からなる短い細胞内ドメインがその生理機能の発現、またAβ生成を含めた代謝制御において重要な役割を果たしていると考えられる。私は修士課程において、APP細胞内ドメインThr668サイトがラットにおいて神経組織特異的にリン酸化されているという興味深い現象を見い出し、その生理的意義を解明するという研究に取り組んできた。このThr668サイト周辺の配列はC.elegans、electric rayといった生物種においても完全に保存されており、特に、electric rayにおいては、このサイトが神経組織においてリン酸化を受けていることを見い出している(Iijima,K,et,al,1998)。これらの事実は、Thr668サイトのリン酸化がAPPの普遍的な生理機能に関与している可能性を示唆している。私は修士課程の研究において、このThr668サイトのリン酸化が神経組織に特異的な現象であること、海馬初代培養神経細胞において、このサイトでリン酸化を受けたAPPが神経突起に局在していること、さらに、このサイトがin vitroでCdk5(cyclin-dependent kinase 5)によりリン酸化されることを明らかにした(Iijima,K.et,al,2000)。また当研究室の安藤により、PC12細胞をNGF刺激により神経細胞へ分化誘導すると、神経突起の伸長に伴いThr668サイトのリン酸化レベルが上昇すること、Thr668サイトに変異を導入したAPPを定常的に発現するPC12細胞では、野生型APPを定常的に発現させたPC12細胞に比べて、NGF刺激後の神経突起の伸長が著しく抑制されることなどが見い出され、このリン酸化の神経突起伸長への関与が示唆された(Ando,K.et,al,1999)。以上のような事実をふまえ、私はAPPがCdk5によりリン酸化されることで何らかの機能制御を受け、それが神経突起の伸長に関与しているのではないか、という仮説の下にThr668サイトリン酸化の生理機能発現分子メカニズムを解明する研究に取り組んできた。

 本研究において、まずThr668サイトリン酸化制御へのAPP細胞外ドメインの関与について検討を行った。その結果、APP細胞外ドメインはThr668サイトのリン酸化制御には関与しないということを示した。次に、Thr668サイトリン酸化により生じた細胞内ドメインの構造変化がAPP細胞内ドメイン結合タンパク質の親和性の変化を引き起こし、それが機能発現の引き金となるのではないか考えた。そこで、Thr668サイトリン酸化による細胞内ドメインの構造変化依存的にAPPへの結合様式が変化する分子を想定し、そのようなタンパク質をyeast two-hybrid法により探索した。その結果、APPへの結合様式はThr668サイトのリン酸化により変化しないものの、これまでにAPPへの結合が報告されていない新規APP結合タンパク質hard1の単離に成功した。hard1は分子内に酵素ドメインをもち、これまでにAPP細胞内ドメインへの結合が報告されているアダプター様タンパク質とは明らかにタイプが異なり興味深い。そこで、hard1のAPP細胞内ドメインへの結合様式を詳しく検討し、さらにその機能解析の一端としてAPPの細胞内代謝、またAβ生成へ与える効果について検討を行った。

結果

1)APP細胞外ドメインのThr668サイトリン酸化への関与の検討

 APPは一回膜貫通型のレセプター様構造をとることから、レセプターとしての機能が想定され、APP細胞外ドメインに相互作用するリガンドやレセプターを単離しようとする試みが数多くなされてきた。しかし、現在までにそのような試みは成功しておらず、APPの細胞外ドメインに結合する有力な分子は報告されていない。さらに、APPが実際にレセプターとして機能しているのかについても不明である。APP細胞内ドメインThr668サイトのリン酸化は、神経組織およびNGF刺激により神経細胞分化させたPC12細胞において観察されるが、その制御機構については不明である。私は、APPの細胞外ドメインへの何らかのリガンドの結合、または細胞外ドメインの構造変化がThr668サイトのリン酸化に関与している可能性を考え、これについて検討を行った。まずAPPの細胞外ドメインを様々に欠失させたコンストラクトを作成し、次にこれらのコンストラクトを安定的に発現するPC12細胞株を樹立した。各コンストラクトにおけるThr668サイトリン酸化レベルの検討は以下の方法で行った。PC12細胞は、NGF刺激により神経突起を伸長し、副交感神経様細胞に分化する。また、NGF刺激による神経突起の伸長に伴いAPPのThr668サイトのリン酸化レベルが上昇することが当研究室で示されている。そこで、樹立した各細胞株をNGF刺激して神経細胞分化させ、細胞外ドメインの欠失に伴うThr668サイトリン酸化レベルの変化について検討を行った。その結果、いずれの細胞外ドメイン欠失コンストラクトにおいても、野生型APPと同程度にThr668サイトのリン酸化が見られた。以上よりAPP細胞外ドメインはNGF刺激により神経細胞分化したPC12細胞で観察されるThr668サイトのリン酸化制御に関与していないことを示した。

2)Thr668サイトリン酸化依存的にAPP細胞内ドメインと結合する新規タンパク質の探索

 Thr668サイトのリン酸化がもつ生理機能の一つとして、このリン酸化に伴い生じた細胞内ドメインの構造変化によりAPP細胞内ドメイン結合タンパク質の結合様式が変化することで、何らかの生理機能制御を行っている可能性が考えられる。また、APPの細胞内ドメインの立体構造はNMRとCD spectroscopyによって解析されており、Thr668リン酸化サイト周辺のVTPEER配列がtype1 β-turn構造をとること、さらにVTPEER配列は、N-cap(T668)とN-3(E671)の側鎖と主鎖同士の水素結合がみられ、N-terminal helix capping boxを作っている。このN-terminal helix capping boxは立体構造の安定化に重要であることが報告されており、Thr668サイトのリン酸化に伴いAPP細胞内ドメインの構造変化が生じることは十分に予想される。既知のAPP結合タンパク質Fe65 family、X11-like 1、mDab1については、当研究室の安藤が研究を進め、Fe65 familyのAPPへの結合が、Thr668サイトのリン酸化により著しく低下することが明らかになった。私は、Thr668サイトのリン酸化に伴いAPP細胞内ドメインへの結合様式が変化する新規分子を想定し、特にThr668サイトのリン酸化により結合能の上昇するタンパク質をyeast two-hybrid法により探索した。方法としては、baitとしてThr668サイトをGluに置換したものを用いた。このThr668Glu変異APPは、Thr668サイトでリン酸化を受けたAPPの細胞内ドメインを特異的に認識する抗体により検出できることから、Thr668サイトでリン酸化されたAPPと構造上類似していると考えられる。このようなThr668Glu置換体をbaitとして、これと相互作用する分子の探索を、神経発生ならびに脳皮質形成が盛んな時期であるヒト胎児脳cDNAライブラリー(Gal4 system)、およびヒト胎児前脳cDNAライブラリー(LexA system)を用いて行った。その結果、LexA systemのcDNAライブラリーのスクリーニングにより、新規APP結合タンパク質の単離に成功した。この分子は、yeastのard1 N-terminal acetyltransferaseと全体のアミノ酸レベルで40%程度の相同性を示した。特にN-teminal acetyltransferaseドメインでは、相同性が60%以上であることから、このヒトホモログ分子であると考え、human and1 N-terminal acetyltransferase;hard1と命名した。この分子について、APP細胞内ドメイン結合へのThr668サイトリン酸化の関与について調べた。しかし、両者の結合はThr668サイトのリン酸化に依存しないことが判明した。しかし、hard1は分子内に酵素ドメインとしてN-terminal acetyltransfearse domainを持ち、これまでに報告されているアダプター様のAPP結合タンパク質とは明らかにタイプが異なる。N-terminal acetyltransferaseは、タンパク質のN末端にアセチル基を付加することで、何らかの機能制御を行なうと考えられている。一つの可能性として、この分子が生体内においてAPP細胞内ドメインの周辺環境に存在する分子をアセチル化することで、何らかの機能制御を行なっていることが考えられ興味深い。このhard1について、さらに解析を進めることにした。

3)新規APP結合タンパク質hard1がAPP細胞内代謝へ及ぼす効果の解析

 hard1の生理機能については全く報告がなく、この分子から直ちにAPPの生理機能予測を行うことは困難である。そこで、まずこの分子のアルツハイマー病への関与という観点から研究を進めることにした。まず、hard1がAPP familyすべての細胞内ドメインに結合することを明らかにした。次にAPP細胞内ドメインのhard1結合領域の決定を行なった。その結果、hard1との結合には細胞内ドメインのN末側19アミノ酸で十分であり、さらにこの領域に含まれるYxxI配列で特に重要だと考えられているtyrosineが結合に必須なアミノ酸であることが判明した。また、hard1側のAPP細胞内ドメイン結合領域はC末側の50アミノ酸であり、N-terminal acetyltransferaseドメインは結合には関与しないことが明らかとなった。さらに、両者は培養細胞内でも結合し、さらにその結合は直接おこっていることを証明した。また、HEK293細胞内において、APPとhard1は細胞膜近辺で共局在する様子が観察された。このことはhard1が細胞膜近辺でのmature APPの代謝に関与している可能性を示唆している。実際、hard1の強制発現がmature APPの細胞内代謝に作用し、その代謝分解を抑制することで細胞外に分泌されるAβ40量を抑制することを見い出した。

総括

 APPは一回膜貫通型のレセプター様構造をとるが、その細胞外ドメインには明確なリガンド結合モチーフはなく、実際にレセプターとして機能しているのかは不明である。私は、APPの細胞内ドメインが神経組織特異的にThr668サイトでリン酸化されていることに注目し、このリン酸化制御へのAPP細胞外ドメインの関与について検討を行なった。その結果、NGF刺激により神経細胞分化させたPC12細胞において、APP細胞外ドメインを様々に欠失させたコンストラクトは、野生型APPと同程度にThr668サイトでリン酸化を受けていた。以上の結果より、PC12細胞において神経突起の伸長に伴い観察される細胞内ドメインThr668サイトのリン酸化制御にAPP細胞外ドメインは関与していないと考えられる。次に、Thr668サイトリン酸化の生理機能発現分子メカニズム解明の糸口を求めて、APP細胞内ドメインへThr668サイトのリン酸化状態依存的に結合するような分子の探索を行った。その結果、最初に想定したようなタンパク質を単離することは出来なかったが、これまでにAPP細胞内ドメインへの結合が報告されていない新規タンパク質、hard1の単離に成功した。hard1は分子内にN-terminal acetyltransferaseドメインを持ち、これまでに報告されているアダプター様の結合タンパク質とは明らかにタイプが異なり興味深い。

hard1のアルツハイマー病への関与という観点から、APPの細胞内代謝、及びAβ生成へ及ぼす効果について検討したところhard1の過剰発現により細胞内APPの代謝分解が抑制され、さらにAβ40の分泌量も減少することを見出した。この分子メカニズムは不明であるが、二つの可能性を考えている。第一に、bard1の結合するYxxI配列はAPPの再取り込みシグナルとしての報告があること、またAPPからのAβ40生成の主要なコンパートメントは細胞膜上に分布後の再取り込みによるendosome/lysosome分解系であることから、hard1の過剰発現がAPPのendocytosisを阻害している可能性を考えており、現在検証を進めている。第二に、YxxI配列がbasolateral sorting signalとして機能するという報告があること、また、YxxI配列に結合し、その分子内にkinesin light chainと類似したtandem repeat構造をもつことから、APPのmicrotuble上の輸送への関与が予想されているタンパク質としてPAT1が報告されていることから、hard1の強制発現によりこの分子とAPPの相互作用が競合阻害されることで、transgolgiから細胞膜へのAPPの輸送が阻害され、結果としてAPPの代謝分解が抑制され、Aβ40の生成も減少するという可能性も考えられる。しかし、PAT1が細胞内においてtransgolgiに局在化しているのに対して、hard1は細胞膜近辺に局在化することから、両者が分布する細胞内コンパートメントは異なり、実際に両者のAPPへの結合が競合しうるかについては疑問がある。また、APP細胞内ドメインのもう一つの再取り込みシグナルとして知られているYENPTY配列への結合タンパク質であるFe65 family、またX11 familyについても、その強制発現によるAPPの代謝、またAβ生成への影響が調べられている。Fe65 familyについてはAβの生成を抑制するという報告と促進するという報告がある。またX11 familyについてはAβ生成を抑制することが報告されている。しかし、これらの効果はいずれも結合タンパク質がimmature APPへ作用することで、mature APPへの変換を促進または抑制し、その結果Aβ生成が促進、抑制されたと考えられる。この点において、今回私の単離したhard1がAPPの細胞内代謝に及ぼす効果は独特なものであり、非常に興味深い。今後はhard1が実際にN-terminal acetyltransferase活性を示すのかについて検討を進め、さらにAβ生成抑制への酵素活性の関与、またその生体内における基質についても明らかにしていきたいと考えている。

審査要旨 要旨を表示する

アルツハイマー病(AD)は、神経細胞自身の変調が原因となる老人性痴呆症の代表的な病気である。AD患者脳内に大量に観察される老人斑の主成分βアミロイド(Aβ)は、レセプター様一回膜貫通型構造を持つアミロイド前駆体蛋白質(APP)の代謝過程で生成される。このため、Aβ生成量増加もしくは異常代謝によるAPPの生理機能不全がAD発病の原因と考えられている。従って、ADを理解するためには、APPの代謝と生理機能を解明することが必要である。

 本研究は、APPの生理的代謝と機能発現に必須である細胞質ドメインの機能解析を行ったものである。APP細胞質ドメインの機能は、細胞質ドメインに結合する因子によって発現されると考えられている。APP細胞質ドメインには、3つの機能モチーフが含まれている。細胞膜に近いN-末端側から653-YTSI-656、667-VTPEER-672、682-YENTPY-687(アミノ酸番号はAPP695アイソフォームに対するものを用いる)である。Fe65,X11L,mDab1等はすべて682-YENTPY-687モチーフが結合認識サイトである。667-VTPEER-672モチーフを認識するタンパクは、本研究室で見出されたTBAだけであり、また653-YTSI-656に結合するタンパク質はPAT1が報告されているがPAT1がAPPの代謝・生理機能にどのように関与しているのかは報告がない。本研究は、653-YTSI-656に結合する新規タンパク質hard1を見いだし、その生理機能を解明したものであり、653-YTSI-656に結合するタンパク質がAPPの代謝を制御する事を明らかにした初めての研究である。

 Yeast-two hybrid法を用いて、APP細胞質ドメインと相互作用する新規遺伝子の探索を行った。その結果、酵母のArrested deficiency 1 N-terminal acetyltransferase(ard1)とホモロジーを持つ新規タンパク質がAPPと相互作用することを見いだし、その全長cDNAを単離した。このタンパク質をhuman ard1 N-terminal acetyltransferase(hard1)と名付けた。hard1は酵母ard1の酵素活性ドメインと60%のアミノ酸相同性を示したが、C-末端側の活性調節因子結合ドメインは40%の相同性であった。hard1の活性調節因子は見出されていないので、hard1がard1同様に酵素活性を持つかどうかは未確認である。hard1の部分欠失変異体を作成し、APP結合ドメインをYeast-two hybrid法を用いて同定した。その結果、hard1のc-末端側50アミノ酸がAPPとの相互作用に必要であることを明らかにした。また、APP細胞質ドメインの欠失変異体を作成し、APP側の結合領域が653-YTSI-656モチーフであることを同定した。特に653-YTSI-656のTyr653をAla653に置換するとhard1の結合は完全に阻害された。HEK293細胞にAPPとhard1を共発現させ、共役免疫沈降法を行うことで、両タンパク質が細胞内でも相互作用を行うことを確認した。APPとhard1は細胞の細胞膜近辺で共局在する事を免疫染色法で明らかにした。パルスチェイス法を用いて、hard1がAPPの代謝に及ぼす効果を解析した。その結果、hard1はAPPの成熟化(後期ゴルジ体以降の0-型糖鎖修飾を受けること)には関与しないが、成熟したAPPの代謝を遅らせ安定化させることが明らかになった。さらに、生成されてくる培地中のAβをサンドイッチE LISA法で測定したところ、Aβ40の生成を20-30%抑制したが、Aβ42の生成には影響を及ぼさなかった。hard1は、Aβ40の生成を抑制する初めてのAPP結合タンパク質であることを明らかにした。これまで、Aβの生成を制御するタンパク質はすべて682-YENTPY-687を認識するタンパク質であったので、hard1の作用メカニズムの解明はAPPの代謝を理解する上で重要である。

 さらに飯島は以下の研究を行った。APPは一回膜貫通型の受容体構造をとる膜タンパク質であるため、APPが細胞外情報を細胞内に伝える受容体の働きを行っている可能性が考えられた。飯島は、修士課程においてAPPの神経特異的リン酸化を見いだし、リン酸化が神経特異的に活性化されるキナーゼCdk5によって触媒されることを実証した。このリン酸化が細胞外からの刺激によって細胞内に情報を伝える可能性を考え、APP細胞外ドメインがリン酸化制御に果たす役割の解明も行った。様々なAPP細胞外ドメイン欠失変異体を作成し、細胞に発現させて、細胞内ドメインのリン酸化レベルを定量した。リン酸化は細胞外ドメインの構造により影響を受けない事を証明した。APP細胞内ドメインのリン酸化は外部からの情報伝達に関与していると言うよりはむしろ、APPの機能・代謝制御に細胞内側から制御されている可能性が高くなった。

本研究は、新規APP結合タンパク質を単離し、その機能の解析を中心としたもので、多くの新発見を含んでいる。従って、アルツハイマー病の原因因子であるAPPの生理機能と発病原因の1つとされているβ-アミロイドの生成機構を解明する上で貢献するところ大であり、博士(薬学)の授与に値するものと認めた。

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