No | 116482 | |
著者(漢字) | 尹,志洙 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ユン,ジス | |
標題(和) | グルコース飢餓ストレスによって誘導されるtopoisomerase II αの分解の制御ドメインの同定 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 116482 | |
報告番号 | 甲16482 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(薬学) | |
学位記番号 | 博薬第956号 | |
研究科 | 薬学系研究科 | |
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 「序」 固形がんの薬剤耐性の原因として、低酸素やグルコース飢餓などの特有の環境ストレスがある。事実がん細胞は、こうした環境下でDNA topoisomerase llα(topo llα)を標的とするエトポシドなど、種々の抗がん剤に耐性を示す。topo llα標的抗がん剤は、反応中間体topo llα-DNAのcleavable complexを安定化し細胞死を誘導する。そのため、topo llαの発現量が低下すると、細胞は耐性を示す。実際、低酸素やグルコース飢餓ストレス下では、topo llαの発現低下が起こる。これには、蛋白分解酵素プロテアソームが関与しており、プロテアソーム阻害剤によって、topo llαの分解が抑制され耐性誘導も抑制されること、さらには、動物レベルにおいてもプロテアソーム阻害剤がtopo llα標的抗がん剤の効果を増強することが明らかになっている。このようにストレス環境下でのtopo llαの分解やその制御に関る因子は、薬剤耐性克服のためのよい標的となることが期待される。しかしながら、topo llα分解の制御機構についてはほとんど明らかにされていない。本研究において私は、ストレスによる分解誘導に重要なtopo llαのドメインを明らかにすることを目的として、種々の欠失変異体を作製することによって検討し、以下の成果を得た。 「結果と考察」 1.グルコース飢餓ストレスによるtopo llαの分解 ヒト線維肉腫HT1080細胞を用い、グルコース飢餓ストレス環境下でのtopo llαの発現量をウェスタンブロット法で調べた(Fig1)。その結果、ストレスによってtopo llαの発現量が減少すること、また、プロテアソーム阻害剤PSlによってこの発現低下が抑制されることが確認された。一方、topo llβの発現は変化しなかった。 2.topo llα欠失変異体の作製とストレスによる分解 グルコース飢餓ストレス下でのtopo llαの分解に必要なドメインを明らかにするため、種々の欠失変異体を作製した(Fig2)。これらの欠失変異体をHT1080細胞にトランスフェクションして発現させ、グルコース飢餓ストレス環境下での分解を検討した。その結果、C-末端側に存在する核移行シグナル(NLS2)あるいはN-末端側のATPaseドメインを欠失させた変異体はストレスによる発現低下が起こらないことが明らかになった。一方、ATPaseドメインとNLS2を含む変異体ではストレスによる分解が確認された(Fig3)。従って、ATPaseドメインとNLS2の両ドメインがストレスにより誘導されるtopo llαの分解に必要であると考えられた。 次に、作製したtopo llαの欠失変異体の細胞内における局在様式を免疫染色法で検討した。全長topo llα及びNLS2を含む変異体は核に局在するが、NLS2の欠失変異体は核への移行が起こらないことが明らかになった(Fig 4)。以上から、ストレスによるtopo llαの分解は核内で起こることが示唆された。 3.topo llαの分解制御部位の同定 グルコース飢餓ストレスのよるtopo llαの分解制御に関与する部位を同定するため、ATPaseドメイン内のC-末端から欠失変異体を作製した(Fig.5)。ストレス環境下での分解誘導を検討した結果、ATPaseドメインの1-140アミノ酸が必要であることが明らかになった(Fig.6)。さらに、N-末端からの欠失変異体も作製して調べた結果、1-70の欠失では分解が誘導されたが、1-125の欠失では分解誘導が起こらないことが明らかになった。これらの欠失変異体を用いた検討の結果、ストレス環境下でのtopo llαの分解にはATPaseドメイン内の70-140のアミノ酸配列が重要な役割を担うことが明らかになった。 さらに、同定した部位がストレスによる分解の制御ドメインとして働くことを確認するため、topo llαの1-170及び70-170アミノ酸配列とGFPとの融合タンパク質を作製した(Fig.7)。なお、融合タンパク質のc-末端側には、核局在化させるためにtopo llαのNLS2ドメインを付加した。これらの融合タンパク質を用いた解析の結果、コントロールのGFPは分解誘導が起こらないのに対し、topo llα1-170及び70-170を付加したGFPはストレス下で分解が誘導されることが明らかになった(Fig,8)。 「まとめ」 topo llαの種々の欠失変異体を用いた解析の結果、グルコース飢餓ストレスによるtopo llαの分解には、topo llαの核局在化が必要であること、また従来topo llαの制御ドメインと考えられてきたC-末端側ではなくN-末端側に存在するATPaseドメインが重要な働きをしていることを明らかにした。さらに、70-170番のアミノ酸配列が、ストレスによるtopo llαの分解制御部位として機能することを明らかにした。この同定した部位の役割を詳細に解析していくことによって、topo llαのストレス下における分解機構が明らかになるとともに、それを制御する新たな抗がん剤耐性克服法の開発につながることが期待される。 Fig.1 Proteasome-mediated degradation of topo llα under glucose-free conditions Fig.2 Schematic diagram of deletion mutants of hTopo llα Fig.3 Dogradation of hTopo llα deletion mutants under glucose-fee condlions Fig-4 lmmunqfluorescence of HT1080cells expresslng deletion mutants of hTopo llα Fig.5Constructs of C-terminal deletion mutants of hTopo llα ATPase domain Fig-6 Degradation of hTopo llα ATPase domain under glucose-free stress -C-terminal deletion mutants- Fig.7 Schematic representation offusion proteins containing hTopo llα ATPase and GFP Fig.8 hTopo llα ATPase acts as a transposable degradation signal | |
審査要旨 | 固形がんの薬剤耐性の原因として、低酸素やグルコース飢餓などの特有の環境ストレスがある。事実がん細胞は、こうした環境下でDNAtopoisomerase llα(topo llα)を標的とするエトポシドなど、種々の抗がん剤に耐性を示す。topo llα標的抗がん剤は、反応中間体topo llα-DNAのcleavable complexを安定化し細胞死を誘導する。そのため、topo llαの発現量が低下すると、細胞は耐性を示す。実際、低酸素やグルコース飢餓ストレス下では、topo llαの発現低下が起こる。これには、蛋白分解酵素プロテアソームが関与しており、プロテアソーム阻害剤によって、topo llαの分解が抑制され耐性誘導も抑制されること、さらには、動物レベルにおいてもプロテアソーム阻害剤がtopo llα標的抗がん剤の効果を増強することが明らかになっている。このようにストレス環境下でのtopo llαの分解やその制御に関る因子は、薬剤耐性克服のためのよい標的となることが期待される。しかしながら、topo llα分解の制御機構についてはほとんど明らかにされていない。そこで本研究では、ストレスによる分解誘導に重要なtopo llαのドメインを明らかにすることを目的として、種々の欠失変異体を作製することによってドメインの解析を行った。 グルコース飢餓ストレスによるtopo llαの分解 ヒト線維肉腫HT1080細胞を用い、グルコース飢餓ストレス環境下でのtopo llαの発現量をウェスタンブロット法で調べた。その結果、ストレスによってtopo llαの発現量が減少すること、また、プロテアソーム阻害剤PSlによってこの発現低下が抑制されることが確認された。一方、topo llβの発現は変化しなかった。 topo llα欠失変異体の作製とストレスによる分解 グルコース飢餓ストレス下でのtopo llαの分解に必要なドメインを明らかにするため、種々の欠失変異体を作製した。これらの欠失変異体をHT1080細胞にトランスフェクションして発現させ、グルコース飢餓ストレス環境下での分解を検討した。その結果、C-末端側に存在する核移行シグナル(NLS2)あるいはN-末端側のATPaseドメインを欠失させた変異体はストレスによる発現低下が起こらないことが明らかになった。一方、ArPaseドメインとNLS2を含む変異体ではストレスによる分解が確認された。従って、ATPaseドメインとNLS2の両ドメインがストレスにより誘導されるtopo llαの分解に必要であると考えられた。次に、作製したtopo llαの欠失変異体の細胞内における局在様式を免疫染色法で検討した。全長topo llα及びNLS2を含む変異体は核に局在するが、NLS2の欠失変異体は核への移行が起こらないことが明らかになった。以上から、ストレスによるtopo llαの分解は核内で起こることが示唆された。 topo llαの分解御部位の同定 グルコース飢餓ストレスのよるtopo llαの分解制御に関与する部位を同定するため、ATPaseドメイン内のC-末端から欠失変異体を作製した。ストレス環境下での分解誘導を検討した結果、ATPaseドメインの1-140アミノ酸が必要であることが明らかになった。さらに、N-末端からの欠失変異体も作製して調べた結果、1-70の欠失では分解が誘導されたが、1-125の欠失では分解誘導が起こらないことが明らかになった。これらの欠失変異体を用いた検討の結果、ストレス環境下でのtopo llαの分解にはATPaseドメイン内の70-140のアミノ酸配列が重要な役割を担うことが明らかになった。さらに、同定した部位がストレスによる分解の制御ドメインとして働くことを確認するため、topo llαの1-170及び70-170アミノ酸配列とGFPとの融合タンパク質を作製した。なお、融合タンパク質のC-末端側には、核局在化させるためにtopollαのNLS2ドメインを付加した。これらの融合タンパク質を用いた解析の結果、コントロールのGFPは分解誘導が起こらないのに対し、topo llα1-170及び70-170を付加したGFPはストレス下で分解が誘導されることが明らかになった。以上の解析から、グルコース飢餓ストレスによるtopo llαの分解には、topo llαの核局在化が必要であること、また従来topo llαの制御ドメインと考えられてきたC一末端側ではなくN-末端側に存在するATPaseドメインが重要な働きをしていること、さらに、70-170番のアミノ酸配列が、ストレスによるtopo llαの分解制御部位として機能することが明らかになった。 本研究により、ストレス環境下で特異的に起こるtopo llαの分解の制御部位が明らかになった。この部位の同定によってtopo llαのストレス誘導の分解制御機構の詳細を明らかにすることが可能になるとともに、それを制御する新たな抗がん剤耐性克服法の開発につながることが期待される。この成果は生命薬学における興味ある知見を明らかにしたものであり、博士(薬学)の学位を受けるに充分値するものと判断した。 | |
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