No | 116524 | |
著者(漢字) | 廖,文偉 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | リョウ,ブンイ | |
標題(和) | インパルス高電圧測定システムの評価・解析法に関する研究 | |
標題(洋) | Evaluation and Analysis of High Voltage Impulse Measuring System | |
報告番号 | 116524 | |
報告番号 | 甲16524 | |
学位授与日 | 2001.04.13 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5015号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電気工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 高電圧試験は大電力輸送にかかわる電力機器の信頼性を確保する上できわめて重要である。高電圧試験においては使用される高電圧を既知の不確かさをもって測定することが基本となる。直流、交流、開閉インパルスの高電圧については、その技術はほとんど確立しているといえるが、近年改訂された国際規格が明記している不確かさの要求に沿って、雷インパルス電圧を測定することは容易でないことが、最近の研究の結果明らかになっている。 雷インパルス電圧は数マイクロ秒以内で波高値に達し、継続時間が数百マイクロ秒以内の単発パルス電圧の総称である。高電圧試験の上ではとりわけ立ち上がり時間と波高値が重視され、生産設備に付属する高電圧測定システムにおいても、それぞれ10%、3%以内の不確かさで測定することが要求されている。一般に測定対象の電圧が高くなると、測定設備も空気中での絶縁強度を確保するために大型化し、数百万ボルトの電圧を測定できる設備では高さが10mにも達する。光速で伝搬する電磁波といえども、このような大きさの設備の内外を伝搬するときの時間遅れは無視できず、各部での電磁波の散乱、再放射が高電圧測定の結果に影響してくる。この問題は産業用の高電圧測定システムでも、1マイクロ秒以内に裁断される雷インパルス電圧波形の測定の際には現実となる。 従来、高電圧測定システムの性能の確認は、専ら実験に頼っていた。しかしながら、大型のシステムの設計パラメータが測定結果に及ぼす影響を、すべて実験によって求めるのは大変な手間がかかるばかりか、動特性を測定するためのステップ応答試験の再現性は必ずしも良くなく、実験により得られる知見の限界も明らかになってきた。このため本研究では、雷インパルス電圧の測定において最も広く使われている抵抗分圧器を用いた測定システムについて、その動特性を3次元数値電磁界解析により求めることを試みた。この試みは初めてではないが、従来の研究は計算精度が明らかではなく、実験との一致の度合いも不十分で、残念ながら実験結果と比較して論じるだけの実用性を持つには至っていなかった。 今回使用したのはアンテナ系の解析には広く用いられて定評のある数値電磁界解析コードNEC-2である。このコードは著者が所属した研究室において、世界で最初に送電線系における雷サージ現象の解析に適用され、成功を収めた実績がある。このコードは周波数領域で解析を行うので、雷サージや雷インパルス測定の分野に応用するには広帯域で解析を行い、時間領域との間で相互に変換を行わなければ実用にならない。最終的には実験結果と比較できる計算結果が得られ、この解析法が十分に実用性を持つことを確認できた。この計算法を用いて、雷インパルス電圧測定系の動特性に関する種々のパラメータの影響に関し、次のような新たな知見が得られた。 パルス発生源が大地面から離れて、ある高さに存在する場合、その接地側電極と大地を接続する導体に金属板を使用すると、導線を使用する場合よりもシステムのステップ応答の振動周期が短くなり、部分応答時間、オーバシュート、安定時間は減少する。高電圧実験室の大きさ、近接物体の影響はそれほど顕著ではない。ただし分圧器とパルス発生源直下を結ぶ大地帰路導体の幅は動特性に大きく影響し、垂直導体と同様な効果が見られた。また分圧器には性能を向上させるためにシールドリングと呼ばれる金属環を上部に取り付けるのが普通だが、静電界解析に基づく従来の設計理論が与える最適解は誤っていることを明らかにした。 以上の知見に関わる諸条件は、電磁界が静電界と同じ分布をもつことを仮定した従来の進行波解析手法では、いずれも解析できなかったものである。このほか進行波解析でも検討できる集中定数のインピーダンスの影響、すなわち分圧器高電圧部分の残留インダクタンス、システムの制動抵抗の影響についても良好に進行波解析結果を再現することができた。 次に、雷インパルス電圧測定システムのステップ応答パラメータの値と、雷インパルス電圧波形の測定精度の関係について、時間領域の重畳積分による手法を用いて広範なステップ応答波形を対象に調べた。 また,実際の高電圧試験において、あるいは測定システムを校正する手段として国際規格では標準の方法とされている比較試験においては、ステップ応答試験と物理的に異なる結線、構成が用いられる。それらの構成の下でのステップ応答は、当然ステップ応答試験において得られた波形とは異なってくる。このような回路条件の変更がステップ応答パラメータに及ぼす影響を、比較試験の回路、すなわち2台の抵抗分圧器がパルス発生源と並列に接続された構成を対象に、3次元数値電磁界解析手法を用いて調べた。計算により得られたステップ応答パラメータの変化の度合いは,ステップ応答パラメータの測定値の変動に較べて小さいことがわかった。 以上の知見にもとづいて、ステップ応答とシステム構成要素のインピーダンス測定による高電圧測定システムの校正法と、比較試験による校正法を,測定値の不確かさを通じて関連づけることができた。その結果、国際規格で要求される不確かさを確保するには、特に裁断波雷インパルス電圧の測定において,同じ規格内に記述されているステップ応答パラメータに関する要求や目安では不十分なことが明らかになった。 | |
審査要旨 | 本論文は"Evaluation and Analysis of High Voltage Impulse Measuring System"(インパルス高電圧測定システムの評価・解析法に関する研究)と題し,高電圧試験において重要な雷インパルス電圧を測定するシステムの性能を評価するための手法について英文でとりまとめたもので,5章より構成される。 第1章は"Introduction"で,数マイクロ秒以内で波高値に達し、継続時間が数百マイクロ秒以内の単発のパルス高電圧である雷インパルスを高い精度で測定する場合の問題点について述べている。また高電圧測定システムの校正法に関するIEC規格が1994年に比較測定を主とする方向に大幅に改訂され,特に雷インパルス電圧測定において,従来の測定システムの性能評価法との関連が明確でなくなった事情を説明し,両者の関係を明らかにすることを目的の一つとした本研究の意義を明らかにしている。 第2章は"Calculation of Unit Step Response Waveform of Impulse Voltage Measuring Systems"と題し,従来もっぱら実験に頼っていた雷インパルス電圧測定システムの動特性評価を,3次元数値電磁界解析により行う試みについて述べている。大型の測定システムの設計パラメータが測定結果に及ぼす影響を,すべて実験により求めるのは大変な手間を要するばかりか,動特性の測定のために実施されるステップ応答試験の再現性は必ずしも良くなく,実験による手法の限界も認識されつつある。数値電磁界解析の適用は本研究が最初ではないが,従来の研究は計算精度が明確でなく,実用性を持つには至っていなかった。本研究ではアンテナ系の解析に広く用いられて定評のある周波数領域の電磁界解析コードNEC-2を用いて時間領域の計算に適用することにより,実験結果と比較できる計算結果が得られ,この解析法が十分に実用性を持つことを確認している。 第3章は"Application of the Numerical Analysis by NEC-2 Code"と題し,もっとも一般的な抵抗分圧器で構成される雷インパルス電圧測定システムのステップ応答に及ぼす実験室の大きさ,接地導体の幅など,回路モデルでは検討が困難な種々の要素の影響を,3次元数値電磁界解析により明らかにした結果を述べている。 第4章は"Relationship between USR Parameters of Measuring System and Uncertainty in Measurement of Lightning Impulse"と題し,IEC規格で要求されている不確かさの水準を満足する測定の行える雷インパルス測定システムの性能を,比較試験によらずにステップ応答パラメータの測定によって確認する方法について論じている。その結果,全波雷インパルス電圧の測定においては,比較試験によらない校正法でも十分実用になるが,波頭裁断雷インパルス電圧の測定で同様の校正法を採用しようとすると,極めて高い性能の測定システムが要求され、同じ規格に示されているステップ応答パラメータの要求を満足するだけでは,要求される不確かさの水準を満足する測定を行うことは保証できないことが明らかとなった。 第5章は"Conclusion"で,本論文の成果を総括している。 以上これを要するに本論文は,高電圧測定の中で最も技術的に困難な雷インパルス電圧の測定において,測定システムの性能の評価方法に,数値電磁界解析による実用的な手法を初めて適用すると共に,これまで不明確であった,測定値の不確かさと測定システムの動特性を示すパラメータの関係を明らかにしたもので、電気工学、特に電力工学上,貢献するところが少なくない。 よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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