学位論文要旨



No 116528
著者(漢字) 吉田,浩美
著者(英字)
著者(カナ) ヨシダ,ヒロミ
標題(和) バスク語アスペイティア方言の主要な動詞述語に関する記述的研究
標題(洋)
報告番号 116528
報告番号 甲16528
学位授与日 2001.04.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(文学)
学位記番号 博人社第318号
研究科 人文社会系研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 湯川,恭敏
 東京大学 教授 上野,善道
 東京大学 教授 熊本,裕
 東京大学 教授 角田,太作
 東京大学 教授 林,徹
内容要旨 要旨を表示する

 本論文は,最も基本的な動詞述語である「動詞の分詞形+助動詞」という複合形,助動詞が動詞を伴わずに現れる場合,動詞が助動詞を伴わずに活用変化する単純について,分析・記述する.いずれも直説法を扱う.

 第1章では,バスク語アスペイティア方言の音韻と文法の概要を示す.

 第2章では,動詞述語の構造を概観し,助動詞の内部構造を認めるか否かについて論ずる.

 第3章では「助動詞du活用が現れる複合形」を扱う.du活用は基本的に「能格と絶対格が考えられる場合」に現れるが,「能格しか考えられない場合」,「絶対格しか考えられない場合」,「能格も絶対格も考えられない場合」にも現れる.各々について分析・記述する.

 第4章では「助動詞da活用が現れる複合形」を扱う.da活用は基本的に「絶対格のみが考えられる場合」に現れるが,「絶対格も能格も与格も考えられない場合」,「絶対格と与格が考えられる場合」にも現れる.各々について分析・記述し,また動詞の意味の問題にも触れる.

 第5章では「助動詞diyo活用が現れる複合形」を扱う.diyo活用は基本的に「能格と絶対格と与格が考えられる場合」に現れるが,「能格と与格のみが考えられる場合」,「絶対格と与格のみが考えられる場合」,「与格のみが考えられる場合」,「能格と絶対格のみが考えられる場合」にも現れる.各々について分析・記述し,与格についても考察する.

 第6章では「助動詞zako活用が現れる複合形」を扱う.zako活用は基本的に「絶対格と与格が考えられる場合」に現れるが,「与格のみが考えられる場合」にも現れる.各々について分析・記述する.

 第7章では,助動詞が動詞を伴わずに現れて繋辞的な働きをする場合を扱う.「絶対格ともう一つの要素と助動詞da活用が現れる場合」,「能格と絶対格ともう一つの要素と助動詞du活用が現れる場合」,「能格,絶対格,与格と助動詞diyo活用が現れる場合」,「4系列の助動詞のどれもが現れ得る慣用句的表現」について分析・記述する.このような助動詞をどう捉えるかという問題も扱う.

 第8章では動詞の単純形について分析・記述する.

 なお,助動詞は,単独で現れるときのみならず,動詞を伴う場合にも,動詞と,そこに関わる能格,絶対格,与格(のうちの一つ/二つ/全て/ゼロ)で表されるものとを関連づけて「まとまった意味」を完成させる「繋ぎ」の働きをすると考えられる.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、スペインとフランスの太西洋側国境付近に話されるバスク語のアスペイティア方言の動詞述語についての研究である。

 バスク語の動詞は、述語としてあらわれる場合、

 動詞の分詞形(または原形)+助動詞

という構造をとることが普通である。これを筆者は「複合形」と呼ぶ。少数の動詞は、複合形計の他に、助動詞を伴わない「単純形」を持つ。

 複合形にあらわれる助動詞には、次の4種類がある。

 文中の「能格名詞句」と「絶対格名詞句」に人称・数の点で呼応する「du活用」

 文中の「絶対格名詞句」に人称・数の点で呼応する「da活用」

 文中の「能格名詞句」と「絶対格名詞句」と「与格名詞句」に人称・数の点で呼応する「diyo活用」

 文中の「絶対格名詞句」と「与格名詞句」に人称・数の点で呼応する「zako活用」

 本論文では、第1章で文法の概要を示し、第2章で動詞述語の構造を示した上で、第3〜6章で上述の複合形を扱い、第7章で助動詞が動詞を伴わずにあらわれる場合を扱い、第8章で単純形を扱っている。第3〜6章では、その構造にあらわれる動詞を最大限列挙し、主なものについては豊富な実例をもとに詳細な検討を行っている。特に、「呼応」するはずの名詞句(たとえば、du活用の場合は、「能格名詞句」と「絶対格名詞句」のいずれかもしくは両方)が考えられないのにその活用があらわれるという、いわば例外的な場合の記述に力を注いでいる。また、似たような意味をあらわす、構造の異なるものとの比較もくわしく行っている。文例は、すべて筆者が収集したものか母語話者に確認したものである。

 全体として、膨大な実例を駆使しての考察は説得力があり、バスク語研究を大きく押し進めたものと評価できる。先行研究の検討および一般言語学的考察にやや弱点があり、また、扱っている対象が広いため、個々の点での考察不足も散見されるが、それも全体としての価値を損なうものではない。

 以上のような評価により、本論文が博士(文学)の学位を授与するに足るものであると結論する。

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