学位論文要旨



No 116544
著者(漢字) 小池,幸宏
著者(英字)
著者(カナ) コイケ,ユキヒロ
標題(和) DES-γ-CARBOXY PROTHROMBIN (DCP)は肝細胞癌における門脈腫瘍浸潤の最も強力な予測因子である : 277症例のprospective study
標題(洋)
報告番号 116544
報告番号 甲16544
学位授与日 2001.05.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1855号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 幕内,雅敏
 東京大学 教授 大友,邦
 東京大学 教授 深山,正久
 東京大学 助教授 小池,和彦
 東京大学 講師 大西,真
内容要旨 要旨を表示する

 肝細胞癌(HCC; hepatocellular carcinoma)における門脈腫瘍浸潤(PVI; portal venous invasion of HCC)は患者の予後を左右する重要な因子である。門脈腫瘍浸潤発生の予測因子を明らかにすることがこの研究の目的である。

 1994年から1996年までに東京大学第二内科に入院した肝細胞患者249症例中、入院時にPVIの合併が認められず、初回治療として経皮的エタノール注入療法、或いはマイクロウェーヴ凝固療法が選択された227症例を対象とした。肝細胞癌に対する治療終了後,外来にて平均19ヶ月フォローした。HCCの再発,及びPVIの有無を見つけるために3ヶ月毎の対外超音波,6ヶ月毎のCT scan,腫瘍マーカー(AFP及びDCP)を含む血液検査を毎月行った。PVIの診断はHCCが門脈の2次分枝以上に浸潤が認められた時とし、Dynamic CTの門脈相で門脈内の血流が欠損し、門脈を管腔内から膨張性に圧排する病変の存在(28-29)によりPVIと診断した。検討項目は年齢,性,ウイルスマーカー(HBs Ag and HCV Ab),腫瘍数,腫瘍径,TNM分類、腫瘍組織型,非癌部肝組織の線維化の程度,血清アルブミン,ALT,総ビリルビン,血小板数,プロトロンビン時間,ICG R15,腫瘍マーカー(AFP、DCP)。

 経過中に227例中24症例(11%)に門脈2次次分枝以上のPVIが発生した。PVIの発生した24例では,PVI発生時,初回入院時と比較して腫瘍径の増大とアルブミン値の低下,プロトロンビン時間の延長、ビリルビン値の上昇,AFP及びDCP値の上昇が見られた(signed rank test)。単変量解析では初回入院時の腫瘍数が多いこと,腫瘍組織の分化度が低いこと,AFP及びDCPの高値がその後のPVIの発生に関係した。stepwise法を用いた多変量解析ではDCPの陽性(>0.1UAU/mL)がHCCにおけるPVIの最も強力な予測因子であった(P<0.0010,Risk Ratio=5.65)。さらに、初発時のHCCの位置(亜区域)とPVI発生の関係についても検討したが明らかな相関は認められなかった(chi-square test)。

 1984年Liebman等はHCC患者では90%に血清中のDCPが上昇していることを示し,HCCの腫瘍マーカーとしてのDCPの有用性を明らかにした。以来,DCPがHCC患者の予後を反映するという多くの検討が報告されている。しかしながらその理由は明らかにされていない。最近,HCC患者の非腫瘍部肝組織おけるビタミンk濃度は正常であるが,腫瘍部においては低下しているという報告がされた。一方で変性したトロンビンは凝固活性を示さないが細胞の増殖能を高めるという報告もある。従ってDCPのgrowth factor様の働きが,PVIの発生率を高めている可能性もある。更に,プロトロンビンはHep 3B細胞の増殖を抑えるという報告や,ビタミンkやそのアナログがsulfhydryl arylationを介してPTPasesを抑えることでDCP産生HCC細胞の増殖を抑制し,培養液中のDCP濃度を下げるとも報告されている。従って,ビタミンk投与により,HCC患者のPVI発生を抑制できるかも知れない。この仮説に基づいた検討が当施設では進行中である。

 今回の検討の結果はPVIの早期発見にはDCP値の上昇が有用である事を示している。PVIの発生を早期に診断し、治療することで予後の改善が得られるかもしれない。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、肝細胞癌における重要な予後因子のひとつである門脈腫瘍浸潤発生の予測因子を明らかにするために臨床病理学的因子を用いて解析を行ったものであり、下記の結果を得ている。

(1)経過中に227例中24症例(11%)に門脈2次分枝以上の門脈腫瘍浸潤が発生した(平均観察期間19ヶ月)。

(2)門脈腫瘍浸潤の発生した24例では,PVI発生時,初回入院時と比較して腫瘍径の増大とアルブミン値の低下,プロトロンビン時間の延長、ビリルビン値の上昇,AFP及びDCP値の上昇が見られた(signed rank test)。

(3)単変量解析では初回入院時の腫瘍数が多いこと,腫瘍組織の分化度が低いこと,AFP及びDCPの高値がその後のPVIの発生に関係した。stepwise法を用いた多変量解析ではDCPの陽性(>0.1UAU/mL)がHCCにおけるPVIの最も強力な予測因子であった(P<0.0010, Risk Ratio=5.65)。

(4)初発時のHCCの位置(亜区域)とPVI発生の関係についても検討したが明らかな相関は認められなかった(chi-square test)。

以上、本論文は肝細胞癌における門脈浸潤が発生するのに先立ってDCPが上昇することを明らかにし、DCPが門脈浸潤の重要な予測因子であることを示した。本結果は門脈浸潤の早期診断、ひいては肝癌患者の予後改善につながる可能性があり、臨床的に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

尚、審査会時点から、論文の内容中、以下の点が改訂された。

1 治療方法の統一を図るため対象症例をPEITあるいはPMCTの施行された227症例にした。

2 portal venous invasion (PVI)の具体的例を図で示した(p6図1)。

3 AFPのcut-off値を25ng/mLから100ng/mLにした。

4 DCPのcut-off値を0.0625AU/mLから01AU/mLにした。

5 PVIの定義をDynamic CTの門脈相で門脈内血流が欠損し、門脈を管腔内から膨張性に圧排する病変の存在とした(p5, para2, line2)。

6 DCP, AFPのcut-off値を段階的に変えてPVIの発生率の変化を求めた(p20表6)。

7 腫瘍の位置(亜区域)とPVIの発生率の関係を検討した(p21表7)。

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