学位論文要旨



No 116552
著者(漢字) 鄭,武龍
著者(英字)
著者(カナ) ジョン,ムリョン
標題(和) 無線ネットワークにおけるサービスモデル及びパケットスケジューリング
標題(洋) Service Model and Packet Scheduling in Wireless Networks
報告番号 116552
報告番号 甲16552
学位授与日 2001.06.14
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5018号
研究科 工学系研究科
専攻 電子情報工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 森川,博之
 東京大学 教授 青山,友紀
 東京大学 教授 浅野,正一郎
 東京大学 教授 相田,仁
 東京大学 助教授 瀬崎,薫
内容要旨 要旨を表示する

 現在の有・無線インターネットは、ベストエフォート(best-effort)サービスモデルに基づき、FIFO (First-In First-Out)という単純なスケジューリングによってパケットを処理するため、定量的な確実なQoS (Quality of Service)保証は困難な状況にある。

 しかし、将来のネットワークでは、様々なQoSの保証を求めるマルチメディアアプリケーションをサポートする必要があると予想されており、多様なQoS条件を効率的に満たすためには、より精巧なサービスモデル及びパケットスケジューリング手法の開発が必須である。

 このような観点から、インターネットの標準化機構であるIETF (Internet Engineering Task Force)では、Integrated Service及びDifferentiated Serviceのようなサービスモデル及びそのパケットスケジューリング手法を規定した。しかし、これらは主に有線ネットワークを前提にしたものであり、無線ネットワークにおける(1)端末の移動性や、(2)狭い帯域、(3)高いチャネルエラー率、(4)バーストであり場所によって異なるエラー特性、などの制約を考慮していないため、無線ネットワークにそのまま適応するには無理がある。

 本論文は、無線ネットワークにおいてマルチメディアアプリケーションをサービスするために、

 ・どのようなサービスモデルが必要となるのか?

 ・どのようなパケットスケジューリングによって、上記サービスモデルを実現できるのか?

という問いに対して論じたものである。まず、第一に、無線ネットワークでのサービスモデルに対しては、WFS (Wireless Fair Service)モデル、MBGS (Minimum Bandwidth Guaranteed Service)モデル、RDDS (Relative Delay Differentiated Service)モデルの3つのサービスモデルを提案する。これらのサービスモデルは、不安定な無線ネットワークにおいてどのくらい確実なQoSの保証が必要であるかによって、使い分けることができる。第二に、パケットスケジューリングについては、上記3つのサービスモデルをそれぞれ実現する3つのパケットスケジューリング手法を示し、その性能評価を行う。

 第2章では、無線ネットワークにおけるサービスモデルに関する基礎的検討を行い、WFSモデル、MBGSモデル、RDDSモデルの3つのサービスモデルを提案する。WFSモデルでは、各フローのサービスシェアによってサービスが定義され、無線チャネル劣化に関係なくサービスシェアの観点から公平になるようにサービスを割当てる。無線ネットワークでの公平性を定義するためにはWGPS (Wireless General Processor Sharing)という概念を導入する。MBGSモデルでは、最低保証帯域及び残余帯域に対するサービスシェアによってサービスが定義され、各フローは、最低帯域が保証されるとともに、最低帯域保証後の残余帯域がサービスシェアに応じて配分される。RDDSモデルにおけるサービスは、遅延条件に応じて、上下関係のある複数のサービスクラスの1つに分類され、上位クラスのパケットが下位クラスのパケットより、パケット伝送に応じて優先されることを保証する。

 続く第3章から第5章は、第2章で提案した3つの無線ネットワークのサービスモデルのそれぞれを実現するパケットスケジューリング手法を論じている。

 第3章では、WFS (Wireless Fair Service)モデルを実現するパケットスケジューリング手法としてPWGPS (Packetized Wireless General Processor Sharing)を示している。PWGPSは、無線チャネル劣化によるQoS劣化を公平性の観点から考察し、チャネル劣化で不公平になったフローをそのサービスシェアを一定時間増加させることによって補償するような手法である。なお、サービスシェアの増加に必要な帯域は予め要約することで、補償されるフロー以外のフローにおけるQoS劣化を防ぐ。PWGPSによる公平性の改善は解析によって検証し、NS2によるシミュレーションによってその動作を確認した。

 第4章では、MBGS (Minimum Bandwidth Guaranteed Service)モデルを実現するパケットスケジューリング手法を示している。この手法では、スケジューラがGuaranteed SchedulerとSharing Schedulerの2つのスケジューラからなっており、Guaranteed Schedulerが各フローの最低帯域を保証し、その後の残余帯域をSharing Schedulerがサービスシェアに応じて配分する。この手法は、シミュレーション及びIEEE802.11への実装によって検証した。

 第5章では、RDDS (Relative Delay Differentiated Service)モデルを実現するパケットスケジューリング手法としてWWTP (Wireless Waiting-Time Priority)を示している。この手法では、無線チャネル劣化時間を含むパケットの待ち時間を、遅延差別化パラメータによって正規化し、その正規化された時間の大きいものから伝送することにする。遅延差別化パラメータは、上位クラスのものであるほど小さく設定されているため、同じ遅延時間のパケットであれば、上位クラスのパケットから伝送されることになる。WWTPによる遅延の差別化はNS2によるシミュレーションによってその動作を確認した。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「Service Model and Packet Scheduling in Wireless Networks(無線ネットワークにおけるサービスモデル及びパケットスケジューリング)」と題し、6章からなる。現在の有・無線インターネットは、ベストエフォート(best-effort)サービスモデルに基づき、FIFO (First-In First-Out)という単純なスケジューリングによってパケットを処理するため、確実なQoS (Quality of Service)保証は困難な状況にある。しかし、将来のネットワークでは、様々なQoS保証を求めるマルチメディアアプリケーションをサポートする必要性が急増することと予想されており、多様なQoS条件を不安定な無線リンク上で効率的に満たすためには、より精巧な無線サービスモデル及びパケットスケジューリング手法の開発が必須である。本論文では、無線ネットワークにおいてマルチメディアアプリケーションをサービスするために、(1)どのようなサービスモデルが必要となるのか、(2)上記サービスモデルをどのようなパケットスケジューリングによって実現するのか、という問いに対して論じている。

 第1章は、「Introduction(序論)」であり、本研究の背景と目的、本論文の構成について述べている。

 第2章は、「Service Models in Wireless Networks(無線ネットワークにおけるサービスモデル)」と題し、マルチメディアアプリケーションの特性及び無線リンクの特性からみて、どのようなサービスモデルが無線ネットワークにおいて望ましいか、を検討し、WFS (Wireless Fair Service)モデル、MBGS (Minimum Bandwidth Guaranteed Service)モデル、RDDS (Relative Delay Differentiated Service)モデルの3つのサービスモデルを提案している。WFSモデルでは、各フローのサービスシェアによってサービスが定義され、無線チャネル劣化に関係なくサービスシェアの観点から公平になるようにサービスを割当てる。ここで、無線ネットワークでの公平性を定義するためにWGPS (Wireless General Processor Sharing)という概念を導入する。更に、WGPSによる公平なサービス割当に呼受付制御を組合せることによって、最低帯域の保証ができることを示す。次に、MBGSモデルでは、最低保証帯域及び残余帯域に対するサービスシェアによってサービスが定義され、各フローは最低帯域が保証されるとともに、最低帯域保証後の残余帯域がサービスシェアに応じて配分される。RDDSモデルにおけるサービスは、遅延条件に応じて、上下関係のある複数のサービスクラスの1つに分類され、上位クラスのパケットが下位クラスのパケットより、パケット伝送に応じて優先されることを保証する。

 第3章は、「Packetized Wireless General Processor Sharing(パケット化された無線一般プロセッサーシェアリング)」と題し、第2章で提案したWFS (Wireless Fair Service)モデルを実現するパケットスケジューリング手法としてPWGPS (Packetized Wireless General Processor Sharing)を示している。PWGPSは、無線チャネル劣化によるQoS劣化を公平性の観点から考察し、チャネル劣化で不公平になったフローをそのサービスシェアを一定時間増加させることによって補償する。なお、サービスシェアの増加に必要な帯域を予め要約することで、補償されるフロー以外のフローにおけるQoS劣化を防ぐ。解析やNS2を用いたシミュレーションによって、PWGPSによる公平性の改善、及び、サービスシェアによる帯域の保証を検証し、WFSがPWGPSによって提供可能であることを確認している。

 第4章では、「Scheduling for Minimum Bandwidth Guaranteed Service(最低帯域保証型サービスのためのスケジューリング)」と題し、MBGSモデルを実現するパケットスケジューリング手法を示している。この手法では、スケジューラがGuaranteed SchedulerとSharing Schedulerの2つのスケジューラからなっており、Guaranteed Schedulerが各フローの最低帯域を保証し、その後の残余帯域をSharing Schedulerが残余サービスシェアに応じて配分する。シミュレーション及びIEEE802.11への実装によって、MBGSの提供可能性を検証している。

 第5章では、「Wireless Waiting-Time Priority Scheduling(無線待機時間優先スケジューリング)」と題し、RDDS (Relative Delay Differentiated Service)モデルを実現するパケットスケジューリング手法を示している。この手法では、無線チャネル劣化時間を含むパケットの待ち時間を、遅延差別化パラメータによって正規化し、その正規化された時間の大きいものから伝送する。遅延差別化パラメータは、上位クラスのものであるほど小さく設定されているため、同じ遅延時間のパケットであれば、上位クラスのパケットから伝送されることになる。このようなWWTPの遅延の差別化はNS2を用いたシミュレーションによって確認している。

 第6章は、「結論」である。

 以上、これを要するに、本論文は、無線ネットワークにおいてマルチメディアアプリケーションをサービスするための新しいサービスモデルならびにパケットスケジューリング手法を提案し,数学的解析,シミュレーション,実装実験などを介して有効性を実証したものであって,電子情報工学上寄与するところ少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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