No | 116559 | |
著者(漢字) | 大畑,順子 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オオハタ,ジュンコ | |
標題(和) | 副刺激分子阻害による移植片対宿主反応抑制後の抗腫瘍効果と免疫エフェクター細胞機能の解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 116559 | |
報告番号 | 甲16559 | |
学位授与日 | 2001.06.17 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第1857号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | T細胞の活性化にはT細胞抗原受容体を介した刺激とともに副刺激(costimulation)と呼ばれる第2の刺激が重要な役割を果たしている。抗原提示細胞(antigen-presenting cell; APC)上に発現されるCD80およびCD86 (CD80/86)のT細胞上に発現するCD28への結合によるCD80/86-CD28シグナルはT細胞の活性化に重要な副刺激である。一方、活性化されたT細胞上に発現するCD154 (CD40 Ligand)とAPC上に恒常的に発現しているCD40を介するCD154-CD40経路は、CD80/86-CD28経路とは異なり、T細胞からAPC方向への副刺激経路であり、APCの活性化を誘導する。CD28あるいはCD40副刺激経路を阻害することで、実験的臓器移植モデルにおける移植片長期生着が、またマウス同種骨髄移植においては急性移植片対宿主病(Graft versus Host Diseases; GVHD)の抑制が報告されてきた。しかし、実際の白血病治療を目的とした造血幹細胞移植では大量化学療法、放射線療法による前処置後のドナー由来細胞による造血の再構築に加え、移植片対白血病(Graft versus Leukemia ; GVL)効果を得ることが重要な目的である。臨床的にドナー骨髄細胞からのT細胞除去は同種造血幹細胞移植後のGVHD予防に有効な反面、GVL効果が抑制されることが知られており、ドナー由来T細胞がGVHDとGVL効果の両者に関与していることが示唆される。その一方で、マウス骨髄移植モデルでは、GVL効果を保持したままGVHDの抑制が得られた事例が報告され、GVH反応とGVL効果に関与するエフェクター細胞および機能分子は必ずしも同一ではないことが推察される。 本研究では、同種骨髄移植と同時に白血病細胞を宿主に移入して、CD28あるいはCD40副刺激経路阻害によるGVHDの予防を試み、その後のGVL効果と宿主の免疫エフェクター細胞の機能について比較検討を行った。 方法および結果 1.親→F1骨髄移植モデルにおけるCD28あるいはCD154欠損ドナーT細胞移入による致死的急性GVHDの回避 放射線照射(10 Gy)を行ったCBF1を宿主マウスとし、野生型B6マウスのT細胞除去骨髄細胞とともに、野生型B6、CD28欠損B6あるいはCD154欠損B6マウスの脾細胞を尾静脈より同時移入しGVHDを誘導した。CD28欠損、あるいはCD154欠損ドナー脾細胞を移入したマウスでは、野生型B6ドナー脾細胞を移入した対照マウスに比較して、GVHDの指標である生存率、体重減少が明らかに改善され、これらの分子がGVHDの発症に重要な役割を果たしていることが示された。 2.完全同種骨髄移植モデルにおける抗CD154抗体あるいは抗CD80およびCD86 (CD80/86)抗体投与のGVHDに及ぼす影響 これらの副刺激経路阻害によるGVHD予防後のGVL効果を、BALB/c由来Bリンパ球性白血病細胞株であるBCL1を用いて検討するために、BALB/cを宿主とし、放射線照射量を650Gyに減じてGVHD陽性対照群が骨髄移植後第28日までに70%が生存可能である急性GVHDモデルを確立した。副刺激阻害は抗CD80/86抗体あるいは抗CD154抗体投与によって行った。このモデルにおいて、抗CD80/86抗体あるいは抗CD154抗体投与マウスでは、対照抗体投与マウスに比較して、生存率、体重減少、リンパ球再構築を指標とするGVHDが明らかに改善された。 3.抗CD154抗体あるいは抗CD80/86抗体投与の同種骨髄移植後のBCL1増殖に及ぼす影響 上記完全同種骨髄移植モデルを用いて骨髄移植と同時にBCL1を移入し、骨髄移植後第28日に宿主マウスの脾臓重量測定を行ったところ、抗CD80/86抗体投与群では対照抗体投与群と同様の脾臓の萎縮がみられたのに対し、抗CD154抗体投与群で約半数に腫瘍性脾腫を認め、CD40経路阻害によって明らかにGVL効果が抑制されることが示された。 4.副刺激分子阻害のT細胞機能への影響 抗CD154抗体投与ではGVL効果が顕著に抑制された一方で、抗CD80/86抗体投与ではGVL効果が保持された理由を明らかにするために、両者のT細胞機能を比較した。骨髄移植後第14日のGVHD誘導宿主マウスの脾細胞において、ドナー由来細胞は99%以上を占めていた。骨髄移植後第14日の宿主脾T細胞のIFNγの発現および宿主同種抗原に対する細胞障害活性を調べた。各副刺激阻害群は、対照抗体投与群と比較して明らかにCD4+T細胞のIFNγの発現が抑制されていたが、各副刺激阻害群の間に有意な差はなかった。CD8+T細胞のIFNγの発現にはいずれのマウス群間にも有意差はなかった。BCL1、宿主アロ抗原を保持するA20細胞およびBALB/c脾細胞のPHA芽球に対する細胞障害活性は、いずれの群にも明らかな差は認められなかった。脾細胞中のCD3+、CD4+、およびCD8+T細胞比率は、各副刺激阻害群で同等に抑制され、有意な差はなかった。これらの結果より各副刺激阻害群間にT細胞エフェクター機能の明らかな差異は認められなかった。 5.ドナーasialo GM1+細胞のBCL1増殖に及ぼす影響 BCL1はasialo GM1+細胞に感受性であることが報告されているので、asialo GM1+細胞の各副刺激分子への依存性の違いがBCL1の増殖に影響を及ぼしているかを検討するために、ドナー脾細胞からasialo GM1+細胞を除去し、骨髄移植および抗体投与後のBCL1の増殖を比較した。骨髄移植後第28日の脾臓重量を測定したところ、asialo GM1+細胞の除去によって、対照抗体投与群における脾臓重量は顕著に増大した。各副刺激阻害群においてもasialo GM1+細胞の除去によって、さらに脾臓重量は増大し、抗CD154抗体投与群では、対照抗体投与群および抗CD80/86投与群に対して優位の脾臓の増大が認められた。3群間におけるasialoGM1+細胞除去による変化は2元配置分散分析法により同等であった。これらの結果から、ドナーasialo GM1+細胞はBCL1に対する抗腫瘍免疫反応に重要な役割を果たしていることが明らかになったが、各副刺激阻害によるBCL1増殖の違いには、関与していないことがわかった。抗CD154抗体投与は、asialo GM1+細胞非依存性の抗腫瘍免疫反応を強く抑制していることが推測された。 6.抗CD154抗体投与によるIL-12発現抑制 抗CD154抗体投与がGVL効果を強く減弱させる理由をさらに検討するために、抗原刺激直後のAPC機能について検討した。同種脾細胞移入直後のIL-12 p40 mRNAの発現を半定量的RT-PCR法にて検討した。B6マウスに、放射線照射BALB/cマウス脾細胞を尾静脈より移入し、同時に各種抗体投与を行ない、B6マウス脾細胞のIL-12 p40の経時的発現を調べた。対照抗体投与マウス脾細胞のIL-12 P40は、6-12時間をピークに発現が認められたので、6時間後の発現を各群間で比較した。IL-12 p40発現は、各副刺激阻害群において対照抗体投与群より抑制されていたが、抗CD154抗体投与群において、抗CD80/86抗体投与群と比較して有意に強く阻害されていた。 考察 本研究では、CD40阻害、CD28阻害とも同種骨髄移植後の急性GVHDを効果的に抑制し致死性を回避するが、CD40阻害では、in vivoにおけるGVL効果も著しく減弱させることを、BCL1白血病モデルにおいて明らかにした。 本研究においてasialoGM1+細胞除去によってBCL1の増殖は顕著に促進され、asialoGM1+細胞はGVL効果のエフェクターであると考えられた。asialoGM1+細胞除去前後の解析では、NK細胞、NKT細胞およびCD8+T細胞の一部が除去されていたことから、これらの複数の細胞分画の除去が骨髄移植後の顕著なBCL1の増殖を促進したと考えられた。しかし、asialo GM1+細胞の抗BCL1反応はこれらの副刺激経路阻害による明らかな影響を受けていず、asialo GM1+細胞除去後のGVL効果は、CD40阻害によりさらに抑制されたことからasialo GM1+細胞非依存性のGVL機序が存在することが示唆された。 骨髄移植後第14日のT細胞機能解析の結果では、T細胞機能は、各副刺激阻害群においてGVHD陽性対照群に比べ抑制されていたが、各副刺激阻害群間の明らかな差異は認められなかったのに対して、APC機能解析の結果では、同種細胞移入直後のIL-12 mRNA発現が、CD40阻害群でCD28阻害群に比べ有意に低下していた。このことから、移植後初期のIL-12の発現の違いが、IL-12を介する抗腫瘍エフェクター機能に影響を与え、BCL1に対する免疫応答の違いをもたらした可能性が考えられた。 CD28とCD40阻害によるT細胞免疫寛容誘導には異なる機序が存在することが明らかにされつつある。本研究ではin vitroでの各副刺激阻害群間でのT細胞機能の差異を検出できなかったが、in vivoにおいてはCD40経路阻害にみられる免疫寛容誘導機序により、白血病細胞に対する免疫反応が強く抑制された可能性も考えられた。 骨髄移植後第28日の脾細胞数は、CD40阻害群においてやや多い傾向がみられた。BCL1の生着増殖に移入後早期に脾臓が存在する必要があることが報告されているが、本GVHDモデルでは骨髄移植後第14日において、脾臓の萎縮を肉眼的にも、全脾細胞数の評価からも認めなかったので、GVHDによる脾臓の萎縮がBCL1増殖に与える影響は少ないものと考えられた。 一方、CD28経路阻害はCD40阻害と異なりAPCの活性化を直接抑制しないため、CD40刺激を介して活性化されたAPCは、CD80/86-CD28以外の副刺激経路を介してCTLを誘導できる可能性がある。また、CD4 T細胞と比較し、ナイーブCD8T細胞におけるCD28刺激の依存性が低いことが報告されている。さらに、CD8+T細胞にはCD28-分画が存在し、高い細胞障害活性を保持していることなども報告された。これらより、ナイーブCD8+T細胞はある条件下ではCD28阻害では寛容誘導されにくい可能性が考えられ、このことが本研究においてCD28阻害を行ってもGVL効果が維持されていた理由の一つであるのかもしれない。 本研究結果は、白血病治療のための造血幹細胞移植治療法において、免疫抑制療法としての副刺激阻害抗体療法の導入に対する警鐘を促す重要な結果と考えられた。 | |
審査要旨 | 本研究では、マウスを用いて、MHC不一致同種骨髄移植と同時に白血病細胞を宿主に移入したGVHD-白血病モデルで、CD80/86-CD28あるいはCD154-CD40副刺激経路阻害によるGVHD予防効果、およびGVHD予防後の白血病細胞増殖に対する免疫反応であるGVL効果を比較検討し、さらに宿主マウスにおける免疫エフェクター細胞の機能についての検討を行ったものであり、下記の結果を得ている。 1.C57BL/6 (B6)→C57/BL/6 x BALB/c (CBF1)骨髄移植モデルにおいて、放射線照射(10 Gy)を行ったCBF1宿主マウスに、野生型B6マウスのT細胞除去骨髄細胞とともに、野生型B6、CD28欠損B6あるいはCD154欠損B6マウスの脾細胞を同時移入しGVHDを誘導した。CD28欠損、あるいはCD154欠損ドナー脾細胞を移入したマウスでは、野生型B6ドナー脾細胞を移入した対照マウスに比較して、GVHDの指標である生存率、体重減少が明らかに改善され、これらの分子がGVHDの発症に重要な役割を果たしていることが示された。 2.これらの副刺激経路阻害によるGVHD予防後のGVL効果を、BALB/c由来Bリンパ球性白血病細胞株であるBCL1を用いて検討するために、BALB/cを宿主とし、放射線照射量を650 Gyに減じてGVHD陽性対照群が骨髄移植後第28日までに70%が生存可能である急性GVHDモデルを確立した。副刺激阻害は抗体投与によって行った。このモデルにおいて、抗CD80/86抗体あるいは抗CD154抗体投与マウスでは、対照抗体投与マウスに比較して、生存率、体重減少、リンパ球再構築を指標とするGVHDが明らかに改善された。 3.上記C57BL/6 (B6)→BALB/c骨髄移植モデルを用いて骨髄移植と同時にBCL1を移入し骨髄移植後第28日に宿主マウスの脾臓重量測定を行ったところ、抗CD80/86抗体投与群では対照抗体投与群と同様の脾臓の萎縮がみられたのに対し、抗CD154抗体投与群で約半数に腫瘍性脾腫を認め、明らかにGVL効果が抑制されることが示された。 4.C57BL/6 (B6)→BALB/c骨髄移植モデルにおける骨髄移植後第14日のGVHD誘導マウスの脾細胞において、ドナー由来細胞は99%以上を占めていた。各マウス群における脾細胞のIFNγ産生細胞率、宿主同種抗原に対する細胞障害活性によるT細胞機能を測定したところ、各副刺激阻害によるT細胞機能に明らかな差異がないことが示された。 5.ドナー脾細胞からasialo GM1+細胞を除去することによりBCL1の増殖は顕著に促進されドナーasialo GM1+分画はBCL1に対するGVL効果に重要な役割を果たしていることが示された。しかし2元配置分散分析によりasialo GM1+細胞は各副刺激阻害によるBCL1増殖の違いには関与していないことが示された。 6.抗原刺激直後のAPC機能を評価するために、B6マウスに、放射線照射したBALB/cマウス脾細胞を尾静脈より移入し、B6マウス脾細胞のIL-12 p40 mRNAの経時的発現を半定量的RT-PCR法にて測定した。IL-12 p40は細胞移入後、6-12時間をピークとして発現した。同種脾細胞移入および副刺激阻害抗体投与を行い、6時間後のIL-12 p40の発現量を各マウス群において比較したところ、IL-12 p40の発現は各副刺激阻害群で対照抗体投与群より抑制されており、抗CD154抗体投与群での発現は抗CD80/86抗体投与群と比較して有意に強く阻害されることが示された。このことから、移植後初期のIL-12の発現の違いが、IL-12を介する抗腫瘍エフェクター機能に影響を与え、BCL1に対する免疫応答の違いをもたらした可能性が考えられた。 以上、本論文は、CD40阻害、CD28阻害とも同種骨髄移植後の急性GVHDを効果的に抑制し致死性を回避するが、CD40阻害では、in vivoにおけるGVL効果も著しく減弱させることを、BCL1白血病モデルにおいて明らかにした。白血病治療のための造血幹細胞移植治療法において、免疫抑制療法としての副刺激阻害抗体療法の導入に対する警鐘を促す重要な結果と考えられ、学位授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |