学位論文要旨



No 116597
著者(漢字) 寧,晶
著者(英字)
著者(カナ) ニン,チン
標題(和) 住環境の構成要素と人口分布の非均質性に関する研究
標題(洋)
報告番号 116597
報告番号 甲16597
学位授与日 2001.09.20
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5026号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 長澤,泰
 東京大学 教授 大野,秀敏
 東京大学 助教授 西出,和彦
 東京大学 助教授 岸田,省吾
 東京大学 助教授 曲渕,英邦
内容要旨 要旨を表示する

はじめに

 都市は一つの地域であるとともに、一つの場所でもある。一つの場所としての都市のアイデンティティを規定している要素には二つある。空間を構成する物的要素と都市の中で様々な活動をしている人的要素である。都市は既存の物的要素として人間に活動の場所を提供し、人間は自分の意志によって、物的要素が構成された場所に活動を展開する。

 住環境は都市における物的要素により構成される環境の一つである。それは人間が自分の住まいを中心にして、一定の活動している範囲である。人間の生活に対する異なる概念により、地域の住環境に対しても異なる欲求が存在すると考えられる。すなわち、人間がどのような住環境を選択するのかは人間の意識を反映したものといえる。住環境に対する選択の結果、都市における人口分布の非均質現象は、人間の住み分けの現象を生成する源と考える。この人口分布の非均質性現象に着目すれば、人間はどのように環境を認識し、どのような条件の住環境を選択しているかが分かる。さらにこのような人口分布と住環境の物的要素の関係性を把握することができれば、新たな地域開発や住環境の計画を住民の要求や意識に適合させるためのひとつの解決方法を提供することができると考える。

 本論文では、このような考えに基づき、東京都の中野区を一つの事例として取り上げ、GISの空間解析機能を用いて、その住環境の構成要素および人口の分布状況を視覚化し、その視覚された両要素の関係を考察することによって、住環境の構成要素と人口分布非均質性との関係の解明を試みる。さらに、住環境を構成する空間要素と人口の分布関係を見出すことによって、将来的には、今後の中国の住環境づくりにも応用できるのではないかと思われる。これが本研究の最終的目標である。具体的には以下のような展開である。

 本論文は、序章、及び第1章から第7章によって構成される。

 序章では、本研究の基本的考え方を述べた。第1章では、本研究の基本認識について述べた。第2章では分析対象とデータについて説明を加え、分析の準備を行った。第3章では、研究対象地域の空間構成要素について分析し、その分布状況の記述を行った。第4章では、居住者の年齢層別の構成によって分析し、人口の分布状況を記述した。第5章では、住環境の空間構成要素と人口との分布状況の重ね合わせを行い、両者の関係を解明した。第6章では、本研究の総括及び展望を述べた。以下は各章について要旨を述べる。

序章

 本研究の背景、目的及び対象といった基本的考え方について述べた。その中で、住環境を構成する物的要素と人的要素の視点から住環境に現れる人口分布の非均質現象と構成要素との関係について、建築計画学的意義について述べた。そして、本研究の手段・方法としてのGISについて説明した。また、関連する既往研究の概要の整理を通して、本研究の位置づけを行った。

第1章 基本認識

 都市と住環境に対する基本認識を述べた。また、住環境の構成要素及びその非均質性について基本的理解と認識を述べた。そして、住環境の構成要素と人口の分布について、住環境と人間行動、分布現象とその意味、そして影響分布要因の三項目から説明し、住環境の構造認識を説明した。

第2章 研究対象と基本データの概観

 研究対象地域の選定及び基本データの内容について説明した。そして研究手段・方法としてのGISのデータベースに変換するため、基本データの整備の解説を加えた。

第3章 住環境における物的要素分布に関する考察

 住環境を構成する物的要素の分布状況を視覚化し、その構成と分布の特徴を抽出した。具体的には、はじめに住環境の物的要素について、対象地域の物理環境の概要、物的要素のレイヤーの確定、レイヤーと視点、分析指標の確定などの面から概観し。分析方法と内容について解説した。

 次に住環境の6種類の物的要素、すなわち(1)法律、(2)経済、(3)交通、(4)道路網、(5)住居形式、(6)施設のさまざまな分布について重点的に考察を行い、具体的に二段階で分析を行った。

 第一段階では、建ぺい率及び容積率の実態などの法律的要素、地価関係の経済指標、交通施設のうち駅とバス路線、道路網、建物形式として建物高さ、住宅の所有関係、建て方などについて考察を行った。

 第二段階では、住環境の物的要素について、居住者の日常生活と関連する物的要素の分布状況について分析を行った。具体的には、商業、サービス、医療、教育、文化・レジャーなどについて、施設の内容について分析を行った。

第4章 住環境における人口分布に関する考察

 住環境を構成する人的要素の分布状況について考察した。人口分布現象を視覚化するとともに、その特徴を抽出した。具体的にははじめに、対象地域の人口概観、すなわち分析指標、人口総数、密度、年齢層別の総数、比率を解説し、同時に人口分布に関する考察を行った。

 次に、人口分布に関する考察を、人口の分布状況と密度の分布状況について考察した。また、5歳きざみの年齢層別の人口分布状況と比率の分布状況について考察を行った。さらに、職業別の就業人口分布状況及び従業・通学先別の従業・通学者の分布状況に対する考察も行った。

第5章 住環境の物的要素と人口分布の関係性に関する考察

 第3章と第4章で得られた住環境の物的空間構成要素と人口分布特徴の結果に対し、両者の関係性について考察を行った。はじめに、考察内容について概観した。すなわち物的要素の分布図と人的要素の分布図を重ね合わせることによって、次の3つの関係、

(1)年齢層別の人口比率分布と物的要素、

(2)職業別の人口分布と物的要素、

(3)年齢層別の人口分布と物的要素

について考察を行った。

 次に、人口分布の要素と各物的要素との関係について考察、(1)、年齢層別の人口比率の分布傾向と各施設との結びつきについて考察を行い、そして、(2)、影響人口分布要素の様々な物的要素との関係について考察した。

第6章 具体的施設と人口分布の関係性に関する考察 〜仮説の設定と検証〜

 第3章から第4章までは、住環境を構成する物的要素及び人的要素の分布状況について考察し、その結果、住環境を構成する物的要素の分布と、地域による人口分布には非均質性とが存在していることが明らかになった。第5章では、こうした人口分布の非均質性と住環境の物的要素との関係について考察し、各物的要素と人口分布の関係性を明かにした。第6章では、こうした施設による人口分布の非均質性にはどのような関係があるかを考察した。

 施設と世帯構成別比率の関係性について仮説を設定し、この検証を試みた。人口数でなく世帯構成別によることにしたのは、「施設との関係性は第一義的に世帯構成により決定される。」という前提による。

 地域の物的要素の分布図と世帯構成別比率の分布図を重ね合わせることによって、

(1)具体的施設からの3段階の圏域設定(300m、500m、720m)、

(2)各圏域での世帯構成別比率分布の把握、

(3)各圏域と世帯構成別比率分布の相関係数の算出、

の関係性を明らかにした。

第7章 結論と展望

 序章から第6章まで総合的総括を行い、本研究の成果をまとめ、これからの課題及び今後の研究方向を展望した。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、東京都中野区を一つの事例として取り上げ、GISによる空間解析機能を用いて、その住環境の構成要素および人口の分布状況を視覚化し、両要素の関係を考察することによって、住環境の構成要素と人口分布の非均質性との関係の解明を目的としている。

 本論文は、序章及び第1章から第7章によって構成される。

 序章では、本研究の背景、目的及び対象といった基本的考え方について述べている。特に、住環境を構成する物的要素と人的要素に着目して住環境に現れる人口分布の非均質現象と構成要素との関係についての建築計画学的意義について述べ、そして、本研究の主な分析手段・方法であるGISについて説明し、関連する既往研究の概要の整理を通して、本研究の位置づけを行っている。

 第1章では、都市と住環境に対する基本認識を述べている。また、住環境の構成要素及びその非均質性についての基本的認識を述べ、住環境の構成要素と人口の分布について、住環境と人間行動、分布現象とその意味、そして影響分布要因の三項目から住環境の構造認識を説明している。

 第2章では、研究対象地域の選定及び基本データの内容について説明し、研究手段・方法としてのGISのデータベースに変換するため、基本データの整備の解説を加えている。

 第3章では、住環境を構成する物的要素の分布状況を視覚化し、その構成と分布の特徴を抽出している。具体的には、はじめに住環境の物的要素について、対象地域の物理環境の概要、物的要素のレイヤーの確定、レイヤーと視点、分析指標の確定などの面から概観し、分析方法と内容について解説している。次に住環境の6種類の物的要素、すなわち(1)法律、(2)経済、(3)交通、(4)道路網、(5)住居形式、(6)施設といったさまざまな分布について重点的に考察を行っている。分析は二段階を踏んで行われ、第一段階では、建ぺい率及び容積率の実態などの法律的要素、地価関係の経済指標、交通施設のうち駅とバス路線、道路網、建物形式として建物高さ、住宅の所有関係、建て方などについて考察を行っている。第二段階では、住環境の物的要素について、居住者の日常生活と関連する物的要素の分布状況について、具体的には、商業、サービス、医療、教育、文化・レジャーなどについて、施設の内容についての分析を行っている。

 第4章では、住環境を構成する人的要素の分布状況について考察している。人口分布現象を視覚化するとともに、その特徴を抽出し、はじめに、対象地域の人口総数・密度・年齢層別総数・比率を示し、次に人口と密度の分布状況について考察している。また、5歳きざみの年齢層別の人口分布と比率の考察、職業別就業人口分布及び従業・通学先別分布状況の考察を行っている。

 第5章では、住環境の物的空間構成要素と人口分布第の関係性について、(1)年齢層別(2)職業別(3)年齢層別の人口分布と物的要素について考察を行っている。

 第6章では、こうした施設による人口分布の非均質性にはどのような関係があるかについて仮説を設定し検証を試みている。施設との関係性は第一義的に世帯構成により決定されるという前提に立ち、地域の物的要素の分布図と世帯構成別比率の分布図を重ね合わせることによって、(1)具体的施設からの3段階の圏域設定(300m、500m、720m)、(2)各圏域での世帯構成別比率分布、(3)各圏域と世帯構成別比率分布の相関係数の算出を行って関係性を明らかにしている。

第7章では、序章から第6章まで総合的総括を行い、本研究の成果をまとめ、これからの課題及び今後の研究方向を展望している。

 以上のように、本論文はGISによる空間解析機能を十分に活用して人口分布の非均質性と都市の物的要素との関係を分析したもので、今後の地域開発や住環境の計画を住民の要求や意識に適合させるためのひとつの解決方法を解明したものであり、建築計画学の発展に大いなる寄与を行った。

 よって本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。

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