学位論文要旨



No 116617
著者(漢字) ディマランタ,カルラ
著者(英字) DIMALANTA,CARLA
著者(カナ) ディマランタ,カルラ
標題(和) 海洋性島弧システムの構造発達過程に関する研究
標題(洋) A STUDY OF THE TECTONIC EVOLUTION OF OCEANIC ISLAND ARC SYSTEMS
報告番号 116617
報告番号 甲16617
学位授与日 2001.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4067号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 徳山,英一
 東京大学 教授 平,朝彦
 東京大学 助教授 芦,寿一郎
 東京大学 教授 玉木,賢策
 東京大学 助教授 石井,輝秋
内容要旨 要旨を表示する

 西太平洋地域は、地質構造形成過程が現在も進行している様子を観察できるため、地球科学上興味深い場所である。この複雑な地域の構造発達過程に関する理解を深めるため、海底掘削、ドレッジや、多様な地球物理学的調査を含む、数多くの研究がこの地域で行なわれてきた。本研究は海洋性島弧の発達過程に関して、2つの観点から論じたものである。1つめの観点は島弧火成活動とそれによる大陸地殻成長への寄与に関するものであり、もう1つは地震層序学的な手法を用いた九州−パラオ海嶺の発達史に関するものである。

 第1部は島弧火成活動と、その大陸地殻成長への寄与に関しての研究である。

 プレート収束境界において重要な役割を持つプロセスに島弧火成活動があげられる。島弧火成活動は大陸地殻の成長に寄与するメカニズムの一つと考えられている。本研究では、島弧マグマの付加速度を決定することで、島弧火成活動と大陸地殻成長におけるその役割について調べた。

 屈折法地震探査によって得られた地震波速度構造と重力データを用いたモデリングを行なうことによって、西太平洋におけるいくつかの海洋性島弧地殻のボリュームを見積もった。これによって新しく得られた島弧マグマの付加速度は48-91km3/km/m.y.であった。この結果はこれまでの研究から得られている値より大きいものであり、大陸地殻成長における島弧火成活動の影響がこれまでは実際より低く見積もられてきたことを意味する。

 第2部では、地震層序学的手法を用いた九州−パラオ海嶺の発達史に関しての研究である。

 プレート収束境界、特に西太平洋では、島弧火成活動や、リフティング、背弧拡大などが多く見られることが特徴である。ここでは、九州−パラオ海嶺をとりあげ、その発達過程の解明を試みた。

 マルチチャンネル反射法地震探査データの解析とその解釈を行なった。地震探査データと、海底地形、重力、地磁気のデータを統合的に解釈し、九州−パラオ海嶺の発達史を議論した。

 九州−パラオ海嶺では、太平洋プレートが西フィリピン海プレート下へ沈み込むことにともない,48-49Maに島弧火山活動が開始された。30Maには、島弧火山活動が停止すると同時にリフティングが始まった。リフティングは島弧の北端から始まり南へ伝播していった。リフティングの直後に四国海盆の拡大が数段階にわたって起こった。これは26Maに始まった。

 島弧と海盆の境界を地震探査断面から決定した。シンリフト堆積物やポストリフト堆積物によって埋められたトラフによって特徴づけられるこの境界は、地磁気異常とよい一致を示した。この島弧−海盆境界が狭いことは、リフティングとほぼ同時に火山活動があったことを意味する。海底面とシンリフト堆積物が明瞭に接していることは、リフトベースン中央部の沈降に沿って拡大軸が伝播したことを示唆する。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は海洋性島弧の発達史をテクトニクスの視点から考察したものであり,2章から構成されている.第1章は海洋性島弧の地殻成長速度を,また第2章は海洋島弧の代表として古伊豆・小笠原弧のリフティングから背弧拡大に至るプロセスを論じている.

 第1章は2部に別れており,1部はこれまでに提案された様々な地殻成長モデルを紹介し,それぞれのモデルの定量的貢献度がレビューされている.また,本部では地殻の削剥モデルも併せて紹介されている.2部では島弧火成活動に起因した地殻成長速度が定量的に論じられている.今回用いられた地殻成長速度算出方法は従来,Reymer and Schubert(1984)が提唱した方法である.しかし,制約条件となる島弧の地殻構造断面は,当時と比較して著しく精度の高いものが使用可能である.代表例が伊豆・小笠島弧とアリューシャン島弧の地殻構造断面である.この2つの例は,海洋性地殻の上に島弧型火成活動に伴い島弧地殻が新たにオーバープリントして形成された海洋性島弧であり,その地殻成長のプロセスが比較的単純であることから,地殻成長の速度を精度よく求めることが可能である.また,海洋性島弧の場合,島弧活動のイニシエーションが比較的識別可能な地学現象であることから,速度算出のもう一つの重要なパラメーターである島弧の年代も,地学的視点を加味して限られた年代値の中から最適なものが選択可能である.今回のシュミレーション結果では,地殻の成長に島弧火成活動が寄与する値は,Reymer and Schubert(1984)のそれよりも約2倍大きいとの結果を得ることが出来た.このことは,島弧型火成活動は大陸地殻成長にほとんど貢献しないと考えられてたが,逆に大陸成長の大きな要因である可能性を示唆するものである.

 第2章は,島弧のリフティングから背弧海盆拡大にいたるテクトニック・プロセスをレムナントアークの典型例である九州パラオ海嶺を対象として解明したものである.本研究の特徴は,高精度海底地形図をベースマップとし,マルチチャンネル地殻断面記録,地磁気異常データ,さらに重力異常データを統合して地殻構造の特徴化を試みたことであり,以下の結果が明らかにされた.

 1) レムナントアークとその周辺海域で,今回新たに電算機処理して得られた高解像マルチチャンネル地殻断面記録を用いて音響層序解析を行った.

 2) 音響層序解析の結果,レムナントアークのリフティング以前,リフティング時,リフティング以降の堆積層が識別され,さらにその分布が明らかにされた.国際深海掘削計画第31節,58節,59節の掘削柱状図と対比することにより,リフティング時堆積物は後期漸新世の火砕岩を主体とし,リフティング以降の堆積物は中新世以降の石灰質軟泥を主体とする堆積物と解釈することが出来る.

 3) リフティング時堆積物の四国海盆西縁での分布境界(AOB)が,島弧と背弧海盆の地殻構造境界に相当することが明らかにされた.

 4) 地磁気異常,重力異常についても,音響層序解析から導き出されたAOBを境にして島弧と背弧海盆の境界を認定することが出来る.

 5) 高解像地殻断面図を用いた地殻構造解析から,九州パラオ海嶺のほぼ全域で多数の正断層が識別された.この正断層の大半はリフティング時堆積物に変位を与えているが,その上位の堆積物には変位を与えていない.このことから,リフティング活動はセントラルリフト近傍のみならず,少なくとも背弧側島弧において広範囲に起こったと理解される.

 6) 地磁気縞状異常とAOBの配置は平行ではなく,時代の古い地磁気縞状異常,つまり,7,6C3,6C2,6C1から順にAOBと北から交差することが明らかにされた.このことから,背弧海盆の拡大軸は北から南に移動したものと推測される.この地磁気縞状異常と5)のリフティングの分布から,古伊豆・小笠原弧は26Ma以前に島弧の広い範囲でリフティングが発生し,その中央にはリフティング時堆積物が厚く堆積したセントラル・デプレッションが発達していたものと考えられる.四国海盆の背弧拡大は26Ma前以降に北から順次開始された.その形態は,南に要を持つ扇型のシュードフォルトの形状を示すものと推測される.

 以上のように,本論文は海洋性島弧の島弧型火成活動による地殻の成長,およびリフティングから背弧海盆拡大に至るダイナミック・プロセスを明らかにした.特に,マルチチャンネル地殻断面記録を用いた音響層序を,レムナントアークおよびその近傍の背弧海盆域で実施したのは今回の研究が始めてであり,この成果は,今後の海洋性島弧システム研究に新たな展開を与えるものと期待される.また,その解析手法,結果,議論とも十分な評価を与えることができる.よって,博士(理学)の学位が授与できると認める.

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