No | 116620 | |
著者(漢字) | シャナザリ,ハビブ | |
著者(英字) | SHAHNAZARI,HABIB | |
著者(カナ) | シャナザリ,ハビブ | |
標題(和) | 繰り返しせん断を受ける砂の変形と体積変化に関する実験的研究 | |
標題(洋) | Experimental investigation on volume change and shear deformation characteristics of sand undergoing cyclic loading | |
報告番号 | 116620 | |
報告番号 | 甲16620 | |
学位授与日 | 2001.09.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5032号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 土質動力学は、特に地震国にとって、最も重要な地盤工学の一分野である。その進展は、実験的観察結果に基づく部分が大きい。 本研究では、砂に繰返し載荷を行った時の挙動を観察するために、日本の豊浦標準砂で中空ねじり載荷試験機を用いた実験を多数行った。その主要な目的は、砂の排水または非排水条件下での繰返し載荷による体積変化と変形の特性を調べることである。砂の密度、拘束圧、初期異方応力状態、せん断履歴、繰返し振幅の不規則性などの種々の要因が、砂の特性に及ぼす影響を調べた。 はじめに、砂の中空円筒供試体に対して、等方応力での圧縮実験を行い、体積圧縮率と膨潤係数、およびメンブレンペネトレーションによる誤差を測定した。砂の体積圧縮係数は、せん断による体積変化(ダイレタンシー)を全体積ひずみ量から求めるときに、必要となる。実験の結果、メンブレンペネトレーションによる誤差が無視できないほど大きく、体積変化や間隙水圧の変動を扱う研究では実験結果の補正が必要であることが分かった。 従来の等方硬化則にもとづく塑性理論の考え方では、応力の履歴はひずみ増分の発生に影響しない。しかし、近年の移動硬化則の発展においては、異なる意見が表明されている。このような問題に対して、本研究では、あらかじめねじりせん断をかけた場合とかけない場合の実験を行った。その結果、ねじりせん断履歴が、砂の塑性域における応力増分対ひずみ増分の関係に影響を及ぼす事が分かった。同じひずみ増分ベクトルを与えた場合の応力増分ベクトルの向きは、ねじりせん断履歴によって変化した。また、同じ応力増分ベクトルを与えたときの、ひずみ増分ベクトルの大きさは、ねじりせん断履歴を与えた方が小さくなった。 供試体が排水条件下で繰り返しせん断を受けた場合、その密度と剛性は繰返し載荷回数が増えるほど高くなった。しかし、この剛性の増加が、密度の増加だけによるものなのかどうかは、よく分からない。この疑問に答え、また砂の硬化に影響しうる要因を探すために、排水条件下での繰返し単純せん断実験を行った。この実験では非常に緩いものから非常に密なものまで、様々な密度の供試体を用いたが、供試体の密度は、載荷を繰り返すにつれて大きな範囲で変化した。各実験段階での間隙比と同じ間隙比を持つように作った供試体に対する実験を別途行った結果と比較することで、純粋に密度変化による影響を取り除いて考えることにした。実験結果について考察した結果、密度の増加だけでなく、せん断履歴自体も砂の剛性に影響していることが分かった。すなわち、間隙比が同じである場合、初期密度が高くせん断履歴を受けていない供試体の方が、初期密度が低くせん断履歴を受けた供試体より、剛性が低く、かつ繰返し載荷の初期の数サイクルでの剛性の向上が速かった。しかし、多数回の繰返し載荷の後では、供試体の剛性は、どの実験ケースでもほぼ同じ値に落ち着いた。また、せん断応力を初期間隙比に応じて正規化することにより、正規化された剛性と体積ひずみとの間に、線形な相関関係が見いだされた。 砂の繰返し載荷時の体積変化を実験的に求めることにより、地震などの動的載荷時の土構造物の沈下を予測するため有益な情報が得られる。非排水繰返し載荷実験で発生する間隙水圧の変化も、土の挙動に影響し、強度と変形のモデルで考慮すべき重要な要因である。体積変化や過剰間隙水圧をせん断エネルギーの累積に関係付ける研究がある。本研究では、排水・非排水条件下での繰返し単純せん断実験で、塑性せん断エネルギーの累積と体積変化、あるいは過剰間隙水圧との相関を調べた。 排水条件下では、初期拘束圧と初期応力異方性が、体積変化とエネルギーの累積との関係に影響を与えることが分かった。しかし、有効軸圧縮応力の関数で正規化したエネルギーを用いると、その関係はほぼ一意になった。また、大きな体積変化が起こる場合には、繰返しせん断の振幅がエネルギーとの相関に影響を与えるものの、様々なひずみ振幅に対する体積ひずみを予測するのに、平均的な相関関係を一つ定めればよいことが分かった。 非排水実験の結果からは、初期拘束圧が同じであっても初期応力異方性が異なれば、せん断仕事量と過剰間隙水圧の相関が異なることが分かった。過剰間隙水圧を、そのとりうる最大値で正規化した場合には、せん断仕事量との相関は初期応力異方性によらず一定であった。また、せん断仕事量と平均有効拘束圧との相関は、初期応力異方性によらず一定であった。従って、東畑・石原(1985)によって提唱されたせん断仕事のコンター図の手法が、初期応力異方性のある場合にも適用できることが分かった。 非常に多数回の、振幅が一定、あるいは不規則に変化する繰返し載荷の下での応力−ダイレタンシー特性を調べるために、排水条件で繰返し単純せん断実験を行った。同時に、初期応力異方性や初期拘束圧、密度、せん断履歴の影響も調べた。応力−ダイレタンシー特性は、載荷の反転時に変化し、その直後は圧縮性を示した。応力比の高い状態で載荷が反転すると、反転後にはさらに圧縮傾向が強くなった。振幅が不規則な載荷の場合、応力−ダイレタンシー曲線は、載荷が反転するごとに異なる圧縮変形を示すが、繰返し載荷することによって一定の曲線に収束した。 また、初期拘束圧が応力−ダイレタンシー特性に及ぼす影響は小さかった。応力−ダイレタンシー特性は、載荷の第1サイクル目を除いて、初期応力異方性にもよらなかった。密度とせん断履歴については、密度が高いほど、またせん断履歴が与えられている場合の方が、応力−ダイレタンシー特性の圧縮傾向の程度が小さくなり、その結果、最終的な体積圧縮量が小さくなった。これは、密度とせん断履歴が、非排水繰返し載荷が進むにつれて変化していく点も、考慮に入れて考察する必要がある。 砂の繰返し載荷時の応力−ダイレタンシー特性の実験結果を用いて、応力−ダイレタンシー特性の幾何学的なモデルを提案した。このモデルでは、砂の振幅が不規則な一般的な載荷に対する応力−ダイレタンシー特性を、せん断応力比の関数として再現できる。この単純なモデルで、排水繰返し載荷時の砂の体積変化の予測を行った。非排水載荷時の過剰間隙水圧の増加は、排水載荷時の体積変化に対応する現象として扱うこととし、e-logP特性と合わせて用いて予測した。 応力ひずみ関係の、新しく簡便な双曲線モデルを開発した。このモデルはMasing則の改良版であるため、従来型のモデルがエネルギー消散を過大評価するのに比べて、エネルギー消散を少なく、現実に即した量として扱うことができる。また、双曲線モデルに比べて単純化されているために、振幅が不規則な繰返し載荷に対しても計算機メモリーの消費量を少なくできた。また、入力パラメータとしては、各種の応力状態に対して、過去に受けた最大の応力比と最後の載荷の反転時の応力・ひずみの初期値が与えられれば、計算ができる。 このモデルを非排水繰返し載荷実験の結果に応用したところ、応力ひずみ挙動と、液状化した砂の大変形をうまく予測する事ができた。 | |
審査要旨 | 地盤の地震時挙動を数値計算する手法は、地震災害の予測および対策の効果を見積もるための重要な方法の一つである。この手法の長所は複雑な地形や地層、あるいは構造物と地盤の相互作用を容易に取り扱えることであり、実際にも頻繁に利用されている。それと同時に問題点も幾多あり、その一つに使用されている土の応力ひずみモデルの良否に計算の信頼性が強く依存することがある。この事情は震動の強弱を推定する場合にもあてはまるが、ゆる詰め砂地盤で過剰間隙水圧が蓄積して地盤が軟化してしまう液状化の予測において、特に深刻である。 現在の時点において、液状化を含む地盤の地震応答解析には、いくつもの手法が利用可能である。そこで利用されている応力ひずみモデルのうち、或は砂の単調静的載荷、すなわちせん断応力が単純に増加する時の挙動を理想化した弾塑性モデルに基づいており、地震時に特有の繰り返しせん断荷重載荷に実験的に関する実験的知見があまり考慮されていない。また他の手法は砂の繰り返しせん断挙動に基づくモデル化が行なわれているものの、1サイクルごとの累積変形しか考慮しない粗いモデルであったり、非排水せん断条件にしか適用できない過剰間隙水圧上昇挙動であったりしている。後者はすなわち、間隙水圧上昇に伴う水の流動は考慮外ということである。また、応答解析への適用にこだわらず、砂のくり返しせん断挙動に関する実験的研究を見渡してみると、剛性やエネルギー減衰、非排水せん断時の過剰間隙水圧上昇に関する研究が詳細かつ豊富であるのに対し、正のダイレイタンシーすなわち排水せんだん時の体積収縮に関する研究が少ないことが判る。数少ない例でも繰り返しせん断載荷のサイクル数が少なく、10ないし20サイクル以上に及ぶ地震載荷状況に直接応用できない。 上述のような状況になっている理由として、液状化の直接の原因である過剰間隙水圧上昇があまりにも重視されすぎたことが考えられる。水圧上昇を予測することの重要性は疑うべくもないが、問題の第一は、水圧上昇100%すなわち液状化としても、液状化発生後の地震荷重の継続の程度に応じて被害の度合いに大差の生ずることが、水圧上昇量だけでは評価できないことである。また第二の問題は、実地盤のように水圧上昇と同時に透水と圧力の伝播が起こるような状況は、非排水せん断モデルだけでは極めて解析しにくいこと、すなわち根拠に乏しい恣意的なモデル化を相当行なわなければならないことである。このような視点から本研究では、繰り返し載荷を多数行ないつつ、砂の体積収縮量を調べ、そのモデル化を行なった。それと同時に、従来の弾塑性論の問題点と考えられる塑性ひずみ増分方向の一意性、つまりひずみ増分方向が応力増分方向には依存しない、という仮定の良否を検定した。 本論文は全11章から構成されており、第一章では研究目的と研究方針を説明した。また第二章では、中空ねじりせん断装置を用いた実験の手法について詳しく説明されている。そして第三章以降が研究の内容に当たる。 第三章は等方圧密実験の結果を述べた。これは排水条件で等方的な圧縮応力の増減を繰り返すもので、メンブレン貫入誤差を補正式を得るのが目的であった。この貫入誤差とは砂試料を包むゴム膜(メンブレン)が砂粒子の隙間に食い込む現象が起こり、砂の圧縮変形を過大に見積もってしまうことになる。本研究の実験では、このような体積収縮量を本章の補正式によって修正している。 第四章では弾塑性論の根源的な仮定である、塑性ひずみ増分の方向が載荷履歴や応力増分方向に依存せず、現在の応力状態から定まる塑性ポテンシャルによって一義的に定まる、という考え方を検証した。そのために、二通りの大幅に異なる履歴をたどった後に同一の応力状態を実現し、そこから発生する塑性ひずみ増分の方向を比較検討した。その結果、応力履歴によってひずみ増分には影響が生まれることを確認した。このような現象は既存の弾塑性モデルでは再現できないものであり、研究者らが創案してきた全く異なる理論によって説明されるものである。 第五章では繰り返しせん断実験の結果を提示した。排水せん断では体積収縮とせん断剛性の増加、非排水せん断では過剰間隙水圧の上昇と砂の軟化が起こった。 本研究の中心テーマは、繰り返し排水せん断時の体積収縮量の評価である。そこで第六章では、体積収縮について詳しく検討した。それによれば、載荷一サイクル当たりの体積収縮量は、現時点の間隙比(充填率)のみならず、第一サイクル以降に累積した体積収縮にも影響を受けることがわかった。また体積収縮に伴って砂のせん断剛性も増えるが、剛性増加もまた現在の間隙比だけでなく、せん断履歴の影響をも被っ ていることがわかった。そして剛性増加と体積収縮の間に一対一の相関を見い出した。 第七章では、繰り返しせん断中に消費されたひずみエネルギーと指標にして、過剰間隙水圧や体積収縮量との相関を検討した。既往の研究によれば、過剰間隙水圧とひずみエネルギーとの間には、良好な相関関係が存在し、それをモデル化することも可能である。しかし刻々の体積収縮について、同様のモデル化はできなかった。ただしサイクルごとの残留体積収縮に限れば、累積ひずみエネルギー消散量の関数としてこれをモデル化することは可能であった。 刻々の体積収縮量を決定できるモデルを構成するためには、エネルギー相関というアプローチが使えないことが前章で判明した。そこで第八章ではせん断ひずみと体積ひずみの増分を刻々の応力比(せん断応力と圧縮応力との比)に関連づける「ストレスダイレイタンシー」の手法を試みた。これは従来、単調載荷に対して適用され、ある程度の成果を挙げて来たものである。これを百を越える繰り返し回数の実験結果にも適用してみた。その結果、除荷と再載荷を含む繰り返し載荷について、モデル化をすることが出来た。特に不規則載荷においても、応力比・ダイレイタンシー比グラフ中の対角線上からストレスダイレイタンシー曲線が始まることが、見い出されたことは、第九章で展開されたモデル化において有用であった。 本研究の成果をまとめた変形予測モデルを使用した例が、第十章に示されている。モデルは未だ一次元の応力条件(水平地盤の一方向震動)にしか適用できない簡単なものではあるが、過剰間隙水圧が地震時に上昇する様子、そして砂のせん断剛性が低下する現象を再現することが出来た。 以上をまとめると本論文は、地震荷重の作用する砂質地盤の挙動のモデルという問題に対して、要素のせん断実験という立場から研究したものである。その成果は地盤の地震応答と液状化の解析のために有用であり、地盤工学と耐震工学上の業績は大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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