学位論文要旨



No 116623
著者(漢字) レグワン,アンダン
著者(英字) LE,QUANG,ANH,DAN
著者(カナ) レグワン,アンダン
標題(和) 三軸試験と三主応力制御試験による密な礫の微小ひずみ挙動と変形特性の時間効果に関する研究
標題(洋) Study on small strain behavior and time effects on deformation characteristics of dense gravel by triaxial and true triaxial tests
報告番号 116623
報告番号 甲16623
学位授与日 2001.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5035号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 堀井,秀之
 東京大学 講師 桑野,玲子
内容要旨 要旨を表示する

 大型三軸試験装置と大型三主応力制御試験装置を用いて、密な礫の変形特性に関する試験を系統的に実施した。特に、微小ひずみレベルでの剛性と時間効果、および三次元的に載荷した場合の挙動に着目して研究を行った。供試体は直方体とし、メンブレンペネトレーションとベディングエラーの影響を受けずに鉛直・水平方向の変形を正確に測定するために、局所変形測定装置を供試体側面に多数設置した。試験を適切に実施するために、試験装置の自動制御システムも新たに開発した。

 実務では、線形弾性体などの簡易な構成モデルを用いて密な礫の変形挙動を予測することが多い。これは、密な礫が非常に剛性の高い材料であり、ほとんど変形せずに大きな荷重を支持できると考えられてきたためである。さらに、密な礫の基本的な特性に関する系統的な試験の実施例は、大型の試験装置と多大な時間および労力を要するためにこれまで極めて限られていた。以上の背景のもとで、本研究においては正確な制御と計測が実施できるように新たに開発した大型の試験装置を利用して密な礫の変形特性を詳細に調べることとした。

 常時の荷重条件下における地盤中のひずみは比較的小さいことが知られている。小さなひずみレベルにおいても土の応力ひずみ関係は強い非線形性を示すが、このような土の変形挙動は、微小ひずみレベルにおいて定義した弾性的な変形特性と関連づけて整理することができる。この点に、密な礫の弾性的な変形特性を調べることの意義がある。

 弾性的な変形特性の測定方法には動的および静的の2種類がある。実務では、動的方法としての弾性波速度測定が多用されている。しかし、原位置で動的に測定した礫質土の弾性的変形特性は、室内試験で静的に測定した値とは一致しないことが報告されている。そこで、本研究では同一の供試体(高さ58cm,断面23×23cmの直方体)を対象として動的および静的な測定を実施し、密な礫の弾性的変形特性を比較した。その結果、動的および静的な測定によるヤング率の異方性や圧力レベル依存性は両者で同じような挙動を示すものの、これらのヤング率の比は平均粒径31.5mmのポルトガル礫(花崗岩質)では2.3倍程度,平均粒径40mmの千葉礫では2.0倍程度となることを示した。平均粒径が12.5mmのポルトガル礫(花崗岩質)ではヤング率の比が1.3倍程度まで減少し、これらの比率は既往の研究結果とも整合していた。

 実務においては、密な礫は非粘性材料として扱われ、クリープ変形などの時間効果は無視されている。しかし、最近の事例によれば、軽くセメンテーションされた密な礫地盤のように良好な支持地盤においても、無視できない量のクリープ変形が生じることが明らかになってきた。そこで、このような変形特性の時間効果を詳細に調べるために、密な千葉礫の三軸試験を系統的に実施した。その結果、軸ひずみ速度を突然変化させると応力値が急に上昇または低下し、その後明確な降伏挙動を示すことが応力ひずみ関係に観察された。クリープ中に生じるひずみは極めて大きく、せん断応力レベルとともに増加した。また、クリープ後に載荷を再開すると、ほぼ弾性的な挙動を示した。これらの挙動は従来のモデル化では説明することができないため、新たに開発したモデルを適用し、実験値のシミュレーションに成功した。以上の結果として、密な礫の変形特性に及ぼす時間効果が、従来考えられていたよりも重要であることが明らかになった。

 地盤工学の分野では、軸対称の載荷を行う三軸試験がよく用いられている。しかし、実際の地盤中の応力状態は、三軸試験のような軸対称応力状態とは異なる場合が多い。そこで、より現実に近い三次元的な載荷を行った場合の土の挙動を調べるために、大型の三主応力制御試験装置を新たに開発し、直方体供試体(高さ50cm,断面22×25cm)の3方向に作用する主応力を独立に精度良く制御できることを確認した。本装置を用いて密な豊浦砂と千葉礫の試験を実施し、弾性的なヤング率の応力状態誘導異方性に関しては、動的および静的な測定値の挙動が通常の三軸試験で得られた結果と一致することを示した。一方、定量的には一致しない試験結果も得られ、今後の課題として残された。

審査要旨 要旨を表示する

 密な礫は、盛土構造物や鉄道・道路の路盤を建設する材料として、また、直接基礎や杭基礎などの支持地盤として、広く利用されている。密な礫は剛性が高いために、通常の荷重下で生じるひずみレベルは小さく、弾性的な変形成分が占める割合が比較的高い。実務では、原位置で測定した弾性波速度等に基づいて微小ひずみレベルでの剛性を求め、さらに、想定されるひずみレベルに応じてこれを低減して変形解析に用いることが行われている。

 しかしながら、大粒径の土粒子を有し堆積構造の不均質性が高い礫においては、弾性波速度測定等による動的な測定と繰返し載荷等による静的な測定で得られる微小ひずみレベルでの剛性の値が異なることが指摘されている。また、礫を密に締固めた場合の変形特性は強い異方性を示すが、前述した測定方法の違いがこれに及ぼす影響については不明な点が多い。

 さらに、近年における構造物の大型化に伴い、例えば明石海峡大橋主塔基礎の支持地盤のように、密な礫が比較的高い荷重を受けるケースも生じてきた。このような場合には、従来は無視されてきたクリープ変形などの時間効果が顕著に現れる可能性も考えられるが、密な礫の変形特性の時間効果についての検討例はこれまで極めて限定されている。

 以上の背景のもとで、本研究では大型の三軸試験装置と三主応力制御試験装置を用いて動的および静的な測定を行い、密な礫の変形特性の時間効果と微小ひずみレベルでの異方性に関する検討を系統的に実施している。

 第一章は序論であり、関連する既往の研究をまとめながら研究の背景と目的を説明し、最後に論文の構成を記述している。

 第二章では、研究に用いた試験装置と試験材料の詳細、および試験方法と試験条件を記述している。

 第三章では、大型三軸試験で得られた密な礫の変形特性の時間効果について記述している。せん断中に軸ひずみ速度を突然変化させると応力値が急に上昇または低下し、その後明確な降伏挙動を示すこと、また、クリープ中に生じるひずみは極めて大きく、せん断応力レベルとともにクリープひずみ量が増加することを示し、密な礫においても時間効果が無視できないことを明らかにしている。

 第四章では、上記の時間効果のモデル化について記述している。密な礫の試験結果に見られる挙動が従来のモデル化では説明できないことを明らかにしたうえで、ひずみ速度とひずみ加速度の一時的な影響を考慮できる新しいモデルを適用し、試験値のシミュレーションに成功している。

 第五章では、大型三軸試験において、微小ひずみレベルでの鉛直・水平方向のヤング率を動的および静的に測定した結果を記述している。小型の圧電型アクチュエータと加速度計を利用した計測システムを新たに導入し、2方向の弾性波速度の局所計測に成功している。ヤング率の初期異方性と圧力状態誘導異方性に関しては動的および静的な測定結果が同様な傾向を示すが、試料の平均粒径とともに2種類の方法によるヤング率の値の定量的な差が大きくなることを明らかにしている。

 第六章では、大型三主応力制御試験において供試体と側方拘束板の間に設置する摩擦軽減層の条件に関する基礎的な検討結果を記述している。

 第七章では、大型三主応力制御試験の結果を記述している。新たに導入した試験装置を用いて、大型直方体供試体の3方向に作用する主応力を独立に精度良く制御することに成功している。密な砂と礫の微小ひずみレベルでのヤング率の応力状態誘導異方性に関しては、動的および静的な測定値の傾向が前述した三軸試験結果と一致することを明らかにしている。一方、定量的には一致しない試験結果も得られており、今後の検討が必要である点を指摘している。

 第八章では、結論と今後の課題を記述している。

 以上を要約すると、本研究は、密な礫の変形特性に及ぼす時間効果の影響が従来考えられていたよりも重要であることを示してそのモデル化に成功し、さらに、新たに確立したいくつかの試験手法を併用することにより、動的および静的な測定方法の違いが微小ひずみレベルでの変形特性の異方性に及ぼす影響を明らかにしたものであり、地盤工学の発展に貢献するところが大である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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