No | 116625 | |
著者(漢字) | ラマンチャルラ プレディープ クマール | |
著者(英字) | Ramancharla Pradeep Kumar | |
著者(カナ) | ラマンチャルラ プレディープ クマール | |
標題(和) | 地下の地震断層の挙動が地表地盤に与える影響に関する解析的研究 | |
標題(洋) | NUMERICAL ANALYSIS OF THE EFFECTS ON THE GROUND SURFACE DUE TO SEISMIC BASE FAULT MOVEMENT | |
報告番号 | 116625 | |
報告番号 | 甲16625 | |
学位授与日 | 2001.09.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5037号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年発生したトルコ・コジャエリ地震(M. 7.4, 1999年8月17日)や台湾・集集地震(M. 7.6, 1999年9月21日)では,地下の地震断層の変位が地上に達し,この影響で甚大な被害が発生した.濃尾地震(1891年)における根尾谷断層などを代表として,地表断層の変位による被害がこれまで全く認識されていなかったわけではないが,地震工学的な立場から地震被害の原因として重要視され,またその対策が進められてきたのは,地震による地面の揺れ,すなわち地震動である.しかし,先のトルコ・コジャエリ地震や台湾・集集地震による地表断層の変位は最大10mを越え,改めて地下の地震断層の影響で地表に現れる断層変位や地盤変状の重要性が強く認識された. 地表に現れる地盤変状の大きさやその位置/分布は,地震断層の破壊メカニズムと地表堆積物(表層地盤)の物性や厚さによって大きく変化すると考えられることから,これらの関係の解明は活断層近くに建設される構造物の設計をはじめとして,都市計画や国土計画において重要な意味を持つ.特に日本のように,国土に多数の活断層が分布する地域での重要性は非常に高いが,現状ではこの対策は進んでいない.例えば,国家の物流の要とも言える道路・鉄道の大動脈である東海道線を横切る国府津−松田断層の予想変位量は10mのオーダーであるが,この変位量に対する対策は具体化していない. ここで取り上げるような研究では,従来は実験的な手法が用いられることが多かったが,材料の物性値や境界条件など,実験を実施する上での制約条件が厳しいことから,多様な条件下での分析は不可能であった.一方,数値解析的なアプローチ法では,物性値や境界条件を多様に変化させることは容易であるが,断層の破壊挙動は非線形性の高い大変形挙動であることから,今日一般的に用いられている連続体解析法の適用には限界がある.そこで本研究では,微小変形領域から大変形領域までの挙動を高精度に解析できる応用要素法(AEM : Applied Element Method)を用いて解析を行った. まず最初に,従来鉄筋コンクリート(RC)構造物の破壊解析法として利用されてきたAEMを本研究で対象とする岩盤や地盤にも適用できるようにモデルの改良を行った.そして改良版のモデルが地震断層に関係する挙動解析に適用できるかどうかを,既存の研究成果と比較することで検討した.具体的には,まず2次元モデルを用いて,地盤を弾性体と仮定した場合についてはOKADAによる理論解との比較,非線形解析に関しては,鬼塚らによるアルミニューム棒の集合体から成る供試体を用いたせん断破壊試験結果との比較を行い,本手法で用いるモデルの精度が十分高いことを確認した. 次に2次元静的モデルを用いて,地下の地震断層の変位量,すべり角度,表層地盤の特性と厚さを変化させた一連の解析を行い,これらの関係を分析した.そして地表変位の出現するエリアの特定と変位量を求めた.また埋設管などを代表とする地下構造物の設計において重要となる深さごとの変位と応力の分布も求めた.結果を要約すると,次の通りである.表層地盤の剛性が低く変形能が高くなると,影響の出現する範囲は拡大するが,地表断層の変位は大きくならない.一方表層地盤の剛性が高い場合,地表に大きなクラックが生じ断層の変位量が大きくなるが,影響の出現する範囲は狭くなる.地下の断層の変位量が大きくなるほど上記の特徴は強くなる.断層のすべり角度が低角の場合は,地下の断層位置から見た場合の下盤側で影響を受けるエリアの範囲が大きくなる. 次に地震動までを含めた動的な挙動を明らかにするために,2次元AEMモデルを用いた動的解析を行った.まず弾性体モデルを仮定して波動や変位の伝播を解析し,静的な場合との違いについて確認した.次に境界を無反射境界とする条件を設定するための検討を行った.さらに静的な場合と同様に基盤に変位を入力して非線形解析を行った.そして地表地盤内を伝播する波動やクラックの進展,地盤変状の及ぶ範囲などを分析した.基盤入力としては,台湾・集集地震で得られた記録から逆解析して得られた基盤入力変位を用いた.表層地盤の深さ別,位置別の応答記録を分析することによって,いくつかの非常に興味深い結果が得られたが,その代表的なものとしては,以下の成果が上げられる.通常,地震動の距離減衰式では,地震動のピーク値は地震断層に近ければ近いほど高くなるように定式化されている.しかし地表断層が観測された過去のいくつかの地震では,断層変位の直接的な影響を受けて壊れた構造物は別として,地表断層の極近傍に位置していた構造物が大した被害もなく残っていることが認められている.本解析で得られた地表の各位置での最大加速度をプロットすると,地表断層の極近傍では地震動は最大とはならず,距離が少し離れた位置で最大となり,そこからは距離に従って減衰することがわかった.この事実は,地表断層を伴うような地震では,地表断層の極近傍での地震動が小さくなることを示すものであり,先の観察事実を説明するものとなっている. 最後に3次元的な影響を見るために,3次元AEMを用いた解析を行った.解析精度をまず理論値と比較し,次に非線形解析を行った.横ずれ変位を作用させた場合に表層地盤内部と地表に発生するクラックの分布や応力状態を分析した. 以上のように本研究は,従来それほど研究が行われていなかった地下の比較的浅い地震断層の変位が,表層地盤の内部と地表に与える静的・動的影響のメカニズムの解明に貢献するものとなっている. | |
審査要旨 | 従来の地震工学や地震防災では,地震による地面の揺れ,すなわち地震動が地震被害の原因として重要視され,これに対する適切な構造物の設計/施工や対策の実現がこの学問分野の主題と考えられてきた.しかし1999年に発生したトルコ・コジャエリ地震(M. 7.4, 8月17日)や台湾・集集地震(M. 7.6, 9月21日)では,数メートルから10メートルにも及ぶ地盤変状(断層変位)が地表に現れ,これが橋梁やダムなどのインフラストラクチャー,さらに多数の住宅やビルに甚大な被害を及ぼした.本研究では,地震動の問題以上に地震被害に大きな影響を与えうる地表の断層変位を解明するために,地下の起震断層の破壊メカニズムと地表堆積物(表層地盤)の物性や厚さなどの関係を数値解析的に分析するものである. 従来この種の研究は数が限られているとともに,用いられてきた手法は実験的な手法である.しかし実験では材料の物性値や境界条件の設定などにおいて制約が厳しいことから,多様な条件下での分析は不可能であった.一方,数値解析的なアプローチは,実験における制約条件の問題は存在しないが,対象となる断層の破壊挙動が非線形性の高い大変形挙動であることから,今日一般的に用いられている連続体解析法の適用には限界がある.そこで本研究では,微小変形領域から大変形領域までの挙動を高精度に解析できる応用要素法(AEM : Applied Element Method)を用いて解析を行った. 本論文は全6章から構成される.まず第1章では研究全体の目的や背景,既往の研究と本論文の構成を説明している. 第2章では,本研究で用いる最新の非線形破壊解析手法である応用要素法(AEM)の断層解析への適用性を検証している.すなわち,従来構造物の破壊解析法として利用されてきたAEMを断層の破壊挙動に適用するための改良について説明するとともに,改良モデルを用いた解析結果を理論解と実験結果と比較することで,本研究で採用するモデルの精度を確認した.具体的には地盤を弾性体と仮定した場合のOKADAによる理論解との比較,鬼塚らによるアルミニューム棒の集合体から成る供試体のせん断試験結果との比較を行い,本手法で用いるモデルの精度が十分高いことを確認した. 第3章では2次元静的モデルを用いて,縦ずれ断層運動における地下の起震断層の変位量,すべり角度,表層地盤の特性と厚さを変化させた一連の解析を行い,これらの関係やせん断クラックと引張クラックの進展の特性を分析した.そして地表変位の出現するエリアの特定と変位量を求めた.また埋設管などの地下構造物の設計において重要となる深さごとの変位と応力の分布などを求めた.結果を要約すると,次の通りである.表層地盤の剛性が低く変形能が高くなると,影響の出現する範囲は拡大する.一方表層地盤の剛性が高い場合,地表に大きなクラックが生じ断層の変位量が大きくなるが,影響の出現する範囲は狭くなる.地下の断層の変位量が大きくなるほど上記の特徴は強くなる.断層のすべり角度が低角の場合は,地下の断層位置から下盤側で影響を受けるエリアの範囲が大きくなる. 次に第4章では,地震動までを含めた動的な挙動を明らかにするために,動的2次元AEM解析を行った.静的な場合と同様に基盤に変位を入力して非線形解析を行い,地表地盤内を伝播する波動やクラックの進展,地盤変状の及ぶ範囲などを分析した.基盤入力としては,台湾・集集地震で得られた記録から逆解析して得られた基盤入力変位を用いた.表層地盤の深さ別,位置別の応答記録を分析することによって,いくつかの非常に興味深い結果が得られたが,その代表的なものとしては,以下の成果が挙げられる.通常,地震動の距離減衰式では,地震動のピーク値は地震断層に近ければ近いほど高くなるように定式化されている.しかし地表断層が観測された過去の幾つかの地震では,断層変位の直接的な影響を受けて壊れた構造物は別として,地表断層の極近傍に位置していた構造物が大した被害もなく残っていることが認められている.本解析で得られた地表や地盤内分の各位置での最大加速度や最大速度をプロットすると,地表断層の極近傍では地震動は最大とはならず,距離が少し離れた位置で最大となり,そこからは距離に従って減衰することがわかった.この事実は,地表断層を伴うような地震では,地表断層の極近傍での地震動が小さくなる場合があることを示すものであり,先の観察事実を説明するものとなっている. 第5章では,断層挙動の3次元的な影響を見るために,3次元AEMを用いた解析を行った.解析精度をまず理論値と比較し,次に非線形解析を行った.横ずれ変位を作用させた場合に発生する表層地盤内部と地表にクラックの分布や応力状態を分析した.具体的には,表層地盤の厚さや材料特性を変化させた場合のエシュロンクラックの発生する間隔やエリアなど変化について検討した. 最終章の第6章では論文全体のまとめと今後の研究の方向性や課題について整理している. 以上のように本研究は,従来それほど研究が行われていなかった地下の比較的浅い地震断層の変位が,表層地盤の内部と地表に与える静的・動的影響のメカニズムの解明に貢献するものとなっている.よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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