学位論文要旨



No 116628
著者(漢字) マナンダー,ディネス
著者(英字) MANANDHAR,DINESH
著者(カナ) マナンダー,ディネス
標題(和) 都市3次元空間データ取得のための車載型レーザーマッピングシステム(VLMS)の開発
標題(洋) Development of Vehicle-borne Laser Mapping System (VLMS) for Urban 3-D Data Acquisition
報告番号 116628
報告番号 甲16628
学位授与日 2001.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5040号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柴崎,亮介
 東京大学 教授 安岡,善文
 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 清水,英範
 東京大学 助教授 有川,正俊
内容要旨 要旨を表示する

 レーザーマッピング手法は直接3次元空間データを取得する能力が高いことから、ここ数年たいへん普及、定着してきている。一方、3次元空間データは、カーナビゲーションシステム、都市計画や防災管理、電気ガス水道などのインフラストラクチャー整備、バーチャルリアリティー、コンピューターゲームなど様々な分野での利用が行われている。しかしながら都市部においては、3次元空間データの解像度(詳細さ)や信頼性の不足、データ取得の非効率性といった課題が依然として存在する。従来の車載型3次元空間データ取得システムのほとんどが、主要なデータをステレオ写真から取得しており、上記の課題の解決には必ずしも成功していない。そこで著者は都市部における3次元空間データ取得の抱える以上のような課題を克服し、高解像度で信頼性向上と迅速化を実現すべく車載型レーザーマッピングシステム(VLMS)を開発することを構想した。このシステムは都市3次元GISデータベース構築を支援するものである。

 本研究の主な目的は、レーザースキャナーとCCDカメラもしくはラインカメラを組み合わせた3次元空間データ取得システムの開発、センサーキャリブレーションと座標系参照統合アルゴリズムの開発、そして最終的に地物特徴抽出アルゴリズムとレンジデータの分類手法の開発である。

 本研究ではVLMSを2世代にわたり開発した。最初のシステムはINS(慣性航法装置)、GPS(汎地球即位システム)、ナビゲーションのためのオドメーターを装備し、さらにデータ取得用の4台のレーザースキャナーと4台のCCDカメラから構成されるものである。このシステムは操作上の制限があり、レーザースキャナーとCCDカメラの走査速度との関係で、自動車の走行速度を時速10キロメートルまでしかだすことができない。これは都市部での利用を想定している本システムにおいて深刻な制限である。CCDカメラは反射ミラーを装着したシステムであり、全周画像が得られる。あいにく画像解像度は(480x480pixels)と十分なものとは言えなかった。そこで第2世代目は3台のレーザースキャナーと6台のラインカメラとINS、GPSを組み合わせたものである。このシステムの場合、通常で時速40キロメートル走行での操作が行えると同時に、時速80キロメートルでもレーザースキャンニング解像度が1ビット分低くなる程度である。ラインカメラの解像度は2048ピクセルと極めてよい。

 VLMSは各センサーと位置測位装置をそれぞれ組み合わせて使用しているので、車体のそれぞれ異なる位置に配置されたレーザーやカメラによってスキャンされた対象物の空間座標を、局地座標系(センサー座標系)から共通座標系に変換統合でき、さらに同一座標系の地図上に表現することができる。なお、いくつかのレーザーセンサーやラインカメラを統合することで、隠ぺいされてしまうような複雑な地物の3次元データの取得には有効である。

 本システムはレーザースキャンや画像取得可能な範囲にあるすべての都市構造物を取得可能である。構造物抽出はスキャンライン(走査線)ごとにレンジデータを処理することで行われる。道路表面データ抽出には最初にすべてのスキャンライン(走査線)の標高頻度分析を行う。次に直線を加重最小2乗法により、抽出したレンジポイントにあてはめ、あてはめたラインを組み合わせて3次元パッチ処理により道路表面データを生成する。

 次に、残りのレンジデータは、レンジ距離の2次導関数分析によりグループ分けをする。これはつまり連続性をもつポイント群と散乱しているポイント群にグループ分けをおこなうものである。ある幾何学的な形状に準じた人工構造物の周辺では、樹木などの自然物のレンジポイントは一般に散乱する傾向がある。直線を連続性をもつグループにあてはめ、さらに垂直方向の線、水平方向の線、斜線と分類する。なお線分のつながりを表す線の連結テーブルを線分の方向ベクトルと線分距離に基づいて作成する。スキャンライン中の線分は、同じ「連結線分リスト」にあれば、1本の線分に合成される。次に3本から4本の隣り合った線をあてはめ、3次元上の表面を生成する。が、その際近接する面の標準ベクトルがある閾値以内であれば、統合を行い、平面を生成する。結果的に構造物表面や道路表面ではない地表面のレンジポイントが残ることになる。

 柱の抽出は近接する線の距離を分析して行う。一般的に柱はある高さまで単独でまっすぐ立っているものである。散乱したポイントのグループは樹木として分類される。駐車車両は小さい範囲での水平方向の線と垂直方向の線の組み合わせで表示される。単一の散乱ポイントは混合クラスか未知クラスに分類する。このクラスが道路沿いのガードレールのような小さな都市オブジェクトデータを含んでいるが、これらの分類は今後の課題としたい。これらが道路や建物、樹木、柱を抽出のために開発したアルゴリズムである。

 我々は、効率よく効果的に高解像度都市3次元空間データベースを開発するために、以上のようなシステムを築き上げた。データは画像データテクスチャを貼り付けることでよりいっそう有効に視覚化できる。

審査要旨 要旨を表示する

景観シミュレーションからコンピュータゲーム、バーチャルモールにおけるウォークスルーなど都市を対象とした3次元空間データに対する潜在的な需要は根強い。都市の3次元空間データは、従来は航空機やヘリコプターに搭載された航空測量カメラやレーザスキャナにより作成されてきた。しかしながら、これらの方法には大きな制約がある。まず、上空からデータを取得するため、道路から見えるような地物の詳細(たとえば、建物のファサードや道路上の付属物など)をうまくカバーできないことである。また写真画像は高精細なテクスチャ情報を提供してくれるものの、立体視という過程を通してはじめて3次元計測が行えるため、計測の自動化という意味では大きな困難が未だ存在する。一方、レーザスキャナは3次元計測の自動化を達成しているものの、計測速度が十分でなく、高い分解能を持ちながら広域をカバーする画像を得るのは容易ではない。道路上から詳細な地物の3次元データを自動的に取得することができれば、大きな意義があると考えられる。

こうした背景の下、本論文は以下のような目的を設定している。

1)車載型のレーザスキャニングシステム(VLMS:Vehicle-borne Laser Mapping System)をデザインし、実現すること。

2)同時に利用されるさまざまなセンサ(GPSやレーザスキャナ)の統合やキャリブレーションの方法を開発すること。

3)得られたデータから道路、建物など重要な地物を自動的に抽出する方法を開発すること。

地物の分類・抽出は空間データベースを構築・更新するための基礎であり、視覚化のためのサーフェスモデリングの際にも重要な補助情報を与えることから地物の分類・抽出を、データ処理手法上の主要な研究目標としている。

本論文は、8章からなっている。

第1章は研究の背景と目的を述べている。第2章は既存の研究であり、既存の車載マッピングシステム(モバイルマッピングシステム)について整理している。既存のシステムは全てビデオカメラやデジタルカメラなどステレオ画像を利用した3次元計測手法を利用していること、計測や地物抽出の自動化という意味で大きな限界を抱えていること、その結果、計測や抽出の対象になっている地物は道路付属物や交通信号、レーンマーカーのようなごく少数の地物に限られていることなどが示されている。第3章と第4章はそれぞれ2世代に分かるVLMSのシステムデザインの進化の過程を述べている。VLMSはまず水平面内をほぼ360度回転する3つのレーザを組み合わせることで、沿道の樹木などにより建物が隠蔽されるのを極力抑えるべく設計された。また、同時に360度のオムニ画像の得られる放物線ミラーを備えたデジタルカメラを装備することにより、テクスチャも得ることが出来るように工夫された。しかし太陽光の影響を受けやすく画質が劣化することがたびたび生じたこと、またデジタルカメラとレーザとの完全な同期を図っていたため、データ記録速度が遅く、結果として十分な速度で計測できなかったこと等の問題が生じていた。そのため、第2世代VLMSではテクスチャ画像をラインカメラにより高速かつ高精細に取得することを可能とした。かつレーザスキャナの回転数を向上させ、データ記録時のタイムスタンプにより事後的に時刻同期をとることで、高速走行をしながらデータを取得することを可能とした。5章と6章はそれぞれのシステムにおけるセンサキャリブレーション手法を述べている。多数のセンサの相互位置・姿勢を求めることではじめて正確なマッピングが可能となった。7章はレーザセンサデータからの地物の自動抽出手法について述べている。レーザセンサからは膨大なデータが得られることから、効率的に地物を抽出するために、スキャンラインごとに水平線、垂直線などの幾何学的特徴を抽出してデータ量を減少させながら、特徴を明確化し、さらに隣接するスキャンラインごとの特徴(水平線、垂直線など)相互の関係を明らかにすることにより、道路、建物、樹木、ポール類、自動車、トンネルなどを自動抽出する手法を提案している。現時点では、地物の種類と周辺環境によっては完全自動化は達成されていないものの、従来のモバイルマッピングシステムに比べ、圧倒的に高い精度で多様な地物の抽出が可能になっている。第8章は結論と今後の課題を整理している。

 以上をまとめると本論文は世界で初めてレーザスキャナとラインカメラを搭載したモバイルマッピングシステムを開発し、そのキャリブレーションの方法などの基礎的な手法を開発した。そして、レーザデータから多様な地物を高い自動化率で抽出する方法を提案した。地物の抽出はレーザデータやラインカメラデータをモデル化する上で不可欠な基礎ステップであり、こうした手法が開発されたことによりVLMSの手法的な基礎が築かれたと言ってよい。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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