No | 116632 | |
著者(漢字) | モハジェリ,マスド | |
著者(英字) | MOHAJERI,MASOUD | |
著者(カナ) | モハジェリ,マスド | |
標題(和) | 繰返し載荷による残留ひずみの進展に関する実験的研究 | |
標題(洋) | EXPERIMENTAL STUDY ON DEVELOPMENT OF RESIDUAL STRAIN DUE TO CYCLIC LOADING | |
報告番号 | 116632 | |
報告番号 | 甲16632 | |
学位授与日 | 2001.09.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5044号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 繰返し載荷を受ける土構造物の残留変形は、地震時、及び地震後の被害の程度と深く関係している。地震による土構造物の被害事例や地震被害の危険性が高い地域が依然としてある。また、河川堤防や道路盛土などの比較的密な不飽和土構造物に関する研究は不十分である。そこで本研究では、河川堤防や道路盛土構造物などの残留変形量評価手法の開発のために、繰返し載荷を受ける密な不飽和土斜面の地震による残留変形の研究を行った。 本研究では、残留ひずみ挙動を調べるために要素試験と大型振動台模型実験の2つの実験シリーズを行った。これらの実験に使用した地盤材料は、豊浦砂及び東京都内で採取した2種類の有楽町層砂、千葉県で採取したロームの計4種類である。また、これらの試料特性の違いを見積もるために、比重、粒度分布、液性・塑性限界試験の物性試験を行った。 斜面上の土要素は、地震力によって単純せん断モードの繰返し荷重を受ける。そこで繰返し載荷による単純せん断モードを再現するために、通常の一面せん断試験機を改良した。具体的には、一面せん断試験機のボックスを、厚さ2mm、内径60mmのテフロンリングを積層したものに置き換え、リング内の土供試体を支持するためにゴムメンブレンを供試体の周囲に取付けた。そして、供試体底面で荷重を直接計測するために2方向ロードセルを採用し、供試体の底面の鉛直荷重とせん断力を測定した。同様に供試体の上板にも鉛直方向と水平方向のロードセルを取付けおり、供試体上面に作用する鉛直荷重とせん断力を計測している。尚、この供試体底面と上面のロードセルを使用して静的な載荷試験を行い、今回改良したテフロンリングによる単純せん断試験機の性能を確認した。また、鉛直方向の載荷にベロフラムシリンダーを使用し、水平方向の載荷に自動制御のモーターを使用して、載荷・除荷・クリープ過程を再現している。実験は、供試体作成後に所定の圧密圧力及び圧密時間で圧密を行った。そして、圧密終了後に所定の水平方向にせん断することで初期せん断応力を加え、クリープ後に、様々な規則・不規則の繰返し載荷試験を行った。 本研究では排水条件で、単調載荷及び、規則・不規則の繰返し載荷の単純せん断試験を行った。これらの試験は、繰返し載荷を受ける砂質土の基本的な応力ひずみ関係を調べるためのものである。そして、各パラメータの違いによる影響を調べた。具体的には、繰返し載荷の回数、初期せん断・クリープ時の応力レベル、試料、締固めの程度、圧密時間と応力、クリープ時間、規則・不規則繰り返し載荷の振幅を変えており、これらの応力ひずみ関係や残留ひずみ挙動に与える影響を調べた。 これらの試験から、繰返し載荷による残留ひずみ増分は、繰返し振幅が大きいほど増加する。しかし、繰返し回数が増加すると残留ひずみ増分は著しく小さくなる。つまり、1回目の繰返し載荷のひずみ増分は、応力振幅に強く依存しており、このことは、大きな応力振幅を受けると、1回目の繰返し載荷によってすぐに大きなせん断ひずみが生じてしまうことを意味する。また、2つの異なる繰返し荷重が、急勾配と平坦な斜面に作用すると、せん断応力が等しければ、平坦な斜面の方が残留ひずみは小さいことになる。長時間圧密を受けた供試体は剛な挙動を示し、結果として、繰返し載荷初期におけるせん断ひずみが小さくなった。また密度や締固めの程度が、残留ひずみと体積ひずみの進展に大きく影響する。尚、不飽和土においても間隙水圧が上昇するが、液状化までには至らない。不規則周期の繰返し載荷試験から、最大せん断応力が作用するピーク前の繰返し載荷時刻歴が残留せん断ひずみに影響する。しかし、ピーク後の小さな応力振幅の繰返し載荷では、残留ひずみがほとんど増加しない。またピーク時の繰返し荷重の大きさは体積ひずみにあまり影響しておらず、むしろピーク後の小さい繰返し荷重によって体積ひずみの増加が続く。規則的な繰返し単純せん断試験では、全ての試験において、1回目の繰り返し載荷による残留ひずみの増分が全残留ひずみの大半を占めており、繰返し回数が増加すると残留ひずみ増分はほとんど小さくなってしまう。時間と荷重の変化率が繰返し載荷による応力ひずみ関係に与える影響を調べた。これらの試験から、長期クリープ後の供試体は、クリープ後に剛な応力ひずみ関係を示すため、1回目の繰返しによる残留ひずみは短期クリープ後の供試体よりも小さくなる。しかながら、繰返し載荷回数の増加に伴い、残留ひずみは変わらなくなり、ある1点に収束する。さらに、クリープや荷重の変化率が無視できる程の時間内に十分な繰返し載荷回数を受けると、せん断応力ひずみ関係、及びせん断ひずみと体積ひずみ関係は、同様な繰返し挙動を示す。 シルト混じり砂では、繰返し載荷後の単調載荷時のせん断応力ひずみ関係は、一時的に繰返し載荷を行わない単調載荷試験による応力ひずみ関係より上になるが、載荷に伴い2つの曲線は一致する。しかし、ロームではこのような傾向が見られず、常に単調載荷試験の応力ひずみ曲線の上側にある。つまり、繰返し載荷を受けてピーク強度は大きくなった。 大型振動台模型実験では、幅1000mm、高さ1000mm、奥行500mmのせん断土層を使用した。尚、土層内にはメンブレンを取付けている。また容器の上板は、土層内に負圧を作用させるために用いており、これにより上載荷重を加えることができる。底板には2方向ロードセルを設置し、底板に作用するせん断力を直接計測した。せん断土層の底板を所定の角度に傾けることで斜面を再現し、5度と14度の角度の斜面で振動台実験を行った。加速度計を土層内と、容器の底板及び上板に設置し、鉛直方向と水平方向の加速度を測定した。各土層高さの変位を測定するために非接触型であるレーザー変位計を使用している。振動実験前後に模型土層の固有周期を求めるために非常に小さな応力振幅を用いたスイープ試験を行った。同様にスウェーデン式貫入試験を実験前後に行った。この一連の試験では、せん断ひずみ挙動や残留ひずみの進展挙動、強度及び固有振動数に影響する初期せん断応力、入力加速度、拘束圧及びせん断応力履歴について調べた。 これらの試験より、より実際に即した地震時及び地震後の不飽和度斜面の変形特性を明らかにした。繰返し荷重の増大、繰返し回数の増加、斜面勾配が急になればなるほど、残留ひずみは大きくなり、拘束圧が高いほど残留ひずみは小さくなることが振動台模型実験からも分った。また、せん断応力の除荷・載荷、過圧密度やクリープ時間は振動時の残留ひずみに著しく影響した。既に大きな応力振幅や繰返し載荷回数を受けた模型土層や、過圧密、長時間のクリープを経た模型土層では、生じる残留ひずみが小さい。試料や模型作成法、密度は残留変形の分布に大きく影響する。スイープ試験とスウェーデン式貫入試験から、振動台実験前後の土層の固有振動数及び強度の変化を捉えた。 次に、これらの実験結果から、斜面上の一自由度系非線型振動モデルを提案した。この手法の基本的な枠組みは、Newmark(1965)法に基づいている。この提案したモデルでは、斜面を構成する土層を、傾斜した基盤斜面上の一つの土塊と見なした。そして、この土塊の応力ひずみ関係を非線型ばねとして再現している。尚、この土塊の底面は斜面上に固定しており、斜面上に生じる残留変形は土塊の単純せん断モードによる残留ひずみとして表している。基盤の振動による加速度の時刻歴は、基盤からの入力加速度を静的な初期せん断力に慣性力として付加することで再現できる。そして、この運動方程式の数値解析によって振動後の残留変形を予測することができる。実際に、数ケースのモデルにおいて解析を行い、振動台模型実験と比較した。 今回提案したモデルによる残留変形評価では、相対的に密な不飽和斜面上に生じる残留せん断ひずみを予測することができた、しかしながら、このモデルを広範囲の問題に適用するために、さらにモデルを修正する必要がある。 | |
審査要旨 | 地震力によって土構造物に発生する変形は近年、大いに注目を集めている問題である。従来の手法では、震度法と許容応力度の組み合わせ、すなわち安全率の計算に依存して破壊の有無を判定するだけであった。しかしこの手法では、90年代以降に設計で想定される地震荷重が強大化するにつれ、1より大きい安全率を確保することが困難になって来た。材料としてのせん断強度に限りのある土を使う限り、耐震設計が困難になって来たのである。 このような行き詰まりを打開するための戦略が、地震時の許容変形量に基づく設計思想である。土構造物には修復が比較的容易であるという特長があり、強大な地震動に見舞われても変形が一定の限度以下に収まれば、地震後の迅速な修復作業により、被害(社会への影響)を最小限に留めることが可能である。この変形の限度を地震時許容変形量と呼称し、残留変形量を予測して、これが許容変形量以内に収まれば可とするのが、新しい耐震設計法の考え方である。 本論文は世の中に無数存在する盛土構造物を対象にして、その耐震設計の新しいあり方を探ったものである。盛土構造物の例には、道路や鉄道などの交通基盤施設、河川堤防、宅地造成地等があり、その総数は無数である。さらに総延長も計り知れず、それが多様な基礎の地盤条件の上に設置されている。設置の費用も安価であることが期待されている。以上のような状況の下で耐震設計の革新を達成する為には、残留変形の予測が合理性を保持しつつも、なるたけ簡便なものであることが必須である。現場の土の不攪乱サンプルの採取と繰り返しせん断実験とを要する手法は時間と費用の面から考えて機能しないし、建設予定中の未設置盛土ではなおさらである。河川盛土を削孔して試料を採取することは、洪水時の安全の見地から忌まれる行為である。 以上のような視点から本研究では、必要最小限の土質パラメータを使って地震時の残留変形を予測できるようにしたい、と考えている。種々の貫入試験によってせん断強度を推定すること、常時微動観測から(微小ひずみ時の)せん断剛性を決定することが、その内容である。繰り返しせん断時の変形特性など、これ以外の情報については、本研究の中で数種の土の実験を行って基本的な知見を得ておき、将来のプロジェクト毎に土質実験が要求されないようにする。また交通施設や堤防のように常時は水浸していない地表面より上の盛土を対象に定め、飽和土における過剰間隙水圧発生の問題を対象外とした。 本論文は全体で八章から成っている。その第一章は問題の所在、研究の構成を記述するとともに、盛土の地震被災事例についても若干の説明をしている。 当該分野の既往の研究を振り返ってまとめたのが第二章である。土構造物の地震時残留変形予測法には幾つかの提案例があり、状況に応じて使い分けをしなければならない。その内で本研究のような不飽和盛土に適している、と考えられているのがニューマークの剛体すべり解析法である。この方法は概念的には簡潔で理解しやすい特長を有している。しかし「土のせん断強度」が排水・非排水・繰り返し強度などのいずれ(もしくはそれ以外)であるのかはっきりしていないこと、強度に満たない外力の下では変状が一切算出されないこと、一定振幅繰り返し載荷時には変形が蓄積しないという、実験的にはやや現実に反するようにも思われる解析であることなどが、疑問を抱かせる諸点である。 実験方法が第三章で述べられている。繰り返しせん断実験には既存の単純せん断装置を使用した。また実験材料には豊浦標準砂に加えて、東京有楽町層上部砂のように細粒分を含む砂、千葉県産の関東ローム層を用い、現実の盛土に使われる土、今後の使用を検討すべき土をも視野に入れた。これと併せて模型斜面の振動実験を行ない、より実際に近い条件で残留変形の蓄積過程を観察した。 第四章において繰り返し単純せん断試験の結果を報告した。締め固めた供試体に静的なせん断応力が作用したままの状態でクリープ変形させ、その後に繰り返しせん断荷重を重ね合わせた。 せん断ひずみの蓄積の記録によれば、一定振幅の繰り返し応力が作用する実験では、第一サイクル中の変形発生が全体の内でも格別に重要である。これは豊浦砂のみならずロームに於てもあてはまる。それに比べると体積収縮すなわち揺すりこみ沈下は、後続サイクルによる貢献分も、ある程度重要である。実験の途中で応力の振幅を減ずると、せん断変形、体積収縮ともにほとんど進行しない。反対に応力振幅を増すと、変形が再び大きく進展する。また、クリープした土には単調載荷試験の応力ひずみ関係よりも大きな剛性を示す挙動が見られたが、繰り返しせん断にも同様の効果のある点が、興味深い。 第五章では模型振動実験の結果が報告されている。無限長斜面の一部を模擬した有楽町層砂の堆積をせん断箱中に造り、傾けた底版上に設置した後、水平に加振した。加振サイクル数とともに変形が蓄積すること、第一サイクルの貢献が大きいことは、前章の考察と同様である。クリープさせることにより地震時変形が小さくなることも見出された。模型地盤の力学的性質を、スウェーデン貫入試験と共振試験の二通りの方法で、測定した。前者は土のせん断強さに関わるものであり、後者は微小ひずみ時のせん断剛性を推定するものである。実際の盛土の変形解析に於ても、何らかの貫入試験(コーン貫入試験や最も手軽なスウェーデン貫入試験)で土の強度を推定し、常時微動の測定から土のせん断剛性を推定させることは、決して過重な現場調査とは言えない。 クリープと圧密時間の影響については前述したが、再度これについて議論したのが第六章である。また第七章では、土の骨格応力ひずみ関係を双曲線で近似し、せん断強さと剛性とを入力パラメータとして残留変形解析を試みた。既存のニューマーク型すべり解析に比べて、破壊に至らない載荷重の下でも残留変形が生ずる点で、現実に近くなっている。また繰り返し載荷時の変形蓄積も考慮されている。従来のニューマーク法では、これらの諸因子を全てまとめて「強度」というあやふやなパラメータの中に閉じ込めていたが、本論文では諸因子を別々に扱うことにしたので、却ってモデルの構造が明確になった。 第八章は結論である。 以上をまとめると本論文は、盛土に代表される土構造物の耐震設計を許容変形という見地から革新する、という目標に向けて、実験的な立場から研究したものである。その成果は河川堤防や道路盛土のように比較的安価でありながら総延長が長い施設の耐震性向上のために有用であり、地盤工学と耐震工学上の業績は大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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