学位論文要旨



No 116637
著者(漢字) 川畑,隆常
著者(英字)
著者(カナ) カワハタ,タカツネ
標題(和) 首都圏域から排出される焼却灰の広域的処理システムに関する研究
標題(洋)
報告番号 116637
報告番号 甲16637
学位授与日 2001.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5049号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,和夫
 東京大学 教授 花木,啓祐
 東京大学 教授 原田,昇
 東京大学 助教授 貞廣,幸雄
 東京大学 講師 荒巻,俊也
内容要旨 要旨を表示する

 首都圏域から大量に排出される焼却灰の処理・処分の方法を改善することによってコストや環境負荷を低減させることが必要とされている。特に最終処分場の延命化を図るべく、根本的には廃棄物の発生量自体を抑制するために社会の意識やシステムを変えてゆくことが重要であるが、と同時に、現在の問題に即応した対応も必要であり、処理処分の効率化や減量化・資源化は喫緊の課題である。

 本博士論文研究では、広域的視点に立った廃棄物処理構想段階における事例について、様々な課題について検討を加え評価し、適正な事業の推進のための提言となる研究を行った。研究の目的は、首都圏域の各焼却施設から発生する焼却灰を、現在原則として区市町村の単位で行われている一般廃棄物の処理・輸送・処分システムに代わり、市町村あるいは県境を越えて広域的に処理・輸送・処分(3つの過程をあわせて"処理"とも呼ぶ)するシステムについて、首都圏におけるケーススタディーとして、その具体像の提示を通じて、合理的なシステムのあり方を示すことである。

 主たる成果を以下に示す。東京圏を中心とした一都三県、及び一都九県において排出される焼却灰を、トラック、鉄道貨物、船舶を利用して広域的に輸送し、東京湾内に想定した大規模な海面埋立処分場に埋め立てるという想定の下、それに伴うコスト及び環境負荷項目の計算を行い、いくつかの輸送・埋立てのケースを想定して比較検討を行った。なお、施設間の幹線道路経由の輸送における最適経路及び距離検出、また本研究で扱うデータ特性の解析などをGIS ArcViewを利用して行った。

 陸上輸送(トラック輸送、鉄道輸送)と海上輸送を含めた輸送コストで比較すると、広域的に運ぶほど、また鉄道輸送で一部を代替することで、本研究で想定した広域圏においては従来参照ケースである各都県内で埋立てするケースよりもコストが高くなった。しかし輸送〜埋立てコストまで含めた全体で比較すると、従来型の輸送〜埋立処分ケースとそれ程変わらず、また将来的な内陸型処分場埋立てコストの上昇も考えられることから、広域的処理・処分がコスト的に有利となる可能性も示唆された。環境負荷項目の負荷量は、広域輸送をトラックに代わり鉄道で一部代替することで減少することを数値的に示した。

 焼却灰トンあたりの広域輸送に関してコスト効率が悪く、環境負荷項目の負荷量の大きい焼却施設は東京湾から遠隔地に同心円状に存在するため、そのような地域内の焼却施設から排出される焼却灰は広域輸送せずにエコセメント化リサイクルを行い、最終埋立て処分量の削減を図る方策について示した。また東京湾の臨海部周辺に立地する焼却灰発生量の非常に大きい焼却施設からは鉄道代替輸送せずに、荒川などの一級河川を利用した河川輸送を組み合わせることでコストが削減されることを示した。

 以上のような成果を総合した、首都圏域の一都九県から排出される焼却灰の広域的な輸送〜埋め立て、あるいはリサイクルについてのシステムを提案した。一都九県全地域の焼却施設をコスト、焼却灰発生量などの特徴から"遠隔地"、"中距離地域"、"東京湾周辺"と三分類し、それぞれにおいて広域輸送〜海面埋立て、エコセメント化リサイクルなどのシナリオを用意し、それぞれを組み合わせて12のシナリオを設定した。コストについて以下のような知見が得られた。焼却灰のリサイクル率が高いシナリオほど総コストが増加し、最もコストの小さいシナリオで年間443億円、最もコストの高いシナリオで年間827億円であった。特に東京湾周辺地域でのリサイクルの有無でコストが大きく影響を受けた。一都九県内の焼却施設において広域輸送〜海面埋立てを行う場合のトンあたりコストは約18500〜26000円、エコセメント化リサイクル(シナリオによっては広域輸送〜エコセメント化リサイクル)を行う場合のトンあたりコストは約35000〜40500円であった。環境負荷項目負荷量は広域輸送せずにエコセメント化リサイクルをするシナリオほど輸送距離が短く負荷量も小さいが、特に本研究のシナリオでは中距離地域でリサイクルを行うことで負荷量を小さくすることができることを示した。以上の知見を総合して、ある条件を課したときに、その条件に沿った最適なシナリオを、コスト・環境負荷項目負荷量の数値と共に焼却灰の広域的処理・処分方法として提示することができる。一つにコストを最小限に抑えるためには、焼却灰のリサイクル率を低くし、鉄道輸送や河川輸送を利用した広域輸送〜海面埋立てを行う、というシナリオが適しているとした。二つに環境負荷項目負荷量を最小限に抑えるためには、東京湾周辺地域の外側に位置する焼却施設では広域輸送せずにエコセメント化リサイクルを多く取り入れる、三つに埋立て処分量を最小限に抑えるには、コストは高いものの焼却灰をなるべくエコセメント化リサイクルする、とした。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「首都圏域から排出される焼却灰の広域的処理システムに関する研究」と題し、一般廃棄物の焼却過程から発生する焼却灰について、東京を中心とした首都圏域として一都9県を対象に、従来のの行政区域単位ごとの発想を越えて、きわめて斬新な広域的視点から現状を把握し、その実態をもとに地理情報システムを利用した詳細な検討を行い、焼却灰の処理・処分及びリサイクルシステムの提案を行ったものである。

 第1章は、「緒論」である。研究の背景と目的、及び論文の構成を示している。

 第2章は、「既存の知見の整理」である。日本の廃棄物処理の現状、焼却灰の発生状況、焼却灰の処理技術、広域処理等に関する文献レビューを行っている。

 第3章は、「評価の方法」をまとめたものである。

 第4章「焼却灰の広域輸送における鉄道代替性の評価」及び第5章「焼却灰の海上輸送と埋め立てまで含めた評価」では、東京圏を中心とした一都三県、及び一都九県において排出される焼却灰を、トラック、鉄道貨物、船舶を利用して広域的に輸送し、東京湾内に想定した大規模な海面埋立処分場に埋め立てるという想定の下、それに伴うコスト及び環境負荷項目の計算を行い、いくつかの輸送・埋立てのケースを想定して比較検討を行った。陸上輸送(トラック輸送、鉄道輸送)と海上輸送を含めた輸送コストで比較すると、広域的に運ぶほど、また鉄道輸送で一部を代替することで、本研究で想定した広域圏においては従来参照ケースである各都県内で埋立てするケースよりもコストが高くなった。しかし輸送〜埋立てコストまで含めた全体で比較すると、従来型の輸送〜埋立処分ケースとそれ程変わらず、また将来的な内陸型処分場埋立てコストの上昇も考えられることから、広域的処理・処分がコスト的に有利となる可能性も示唆された。環境負荷項目の負荷量は、広域輸送をトラックに代わり鉄道で一部代替することで減少することを数値的に示した。

 第6章「溶融スラグリサイクルを考慮した焼却灰の広域処理の評価」及び第7章「エコセメントリサイクルを考慮した焼却灰の広域処理の評価」では、溶融スラグ化及び次世代のごみ焼却と期待されているガス化溶融のコストやエコセメントのコスト等を検討した結果、焼却灰トンあたりの広域輸送に関してコスト効率が悪く、環境負荷項目の負荷量の大きい焼却施設は東京湾から遠隔地に同心円状に存在するため、そのような地域内の焼却施設から排出される焼却灰は広域輸送せずにエコセメント化リサイクルを行い、最終埋立て処分量の削減を図る方策について示した。また東京湾の臨海部周辺に立地する焼却灰発生量の非常に大きい焼却施設からは鉄道代替輸送せずに、荒川などの一級河川を利用した河川輸送を組み合わせることでコストが削減されることを示した。

 第8章「焼却灰の広域的処理・処分総合的評価」では、以上のような成果を総合し、首都圏域の一都九県から排出される焼却灰の広域的な輸送〜埋め立て、あるいはリサイクルについてのシステムを提案している。一都九県全地域の焼却施設をコスト、焼却灰発生量などの特徴から"遠隔地"、"中距離地域"、"東京湾周辺"と三分類し、それぞれにおいて広域輸送〜海面埋立て、エコセメント化リサイクルなどのシナリオを用意し、それぞれを組み合わせて12のシナリオを設定した。コストについて以下のような知見が得られた。焼却灰のリサイクル率が高いシナリオほど総コストが増加した。特に東京湾周辺地域でのリサイクルの有無でコストが大きく影響を受けた。環境負荷項目負荷量は広域輸送せずにエコセメント化リサイクルをするシナリオほど輸送距離が短く負荷量も小さいが、特に本研究のシナリオでは中距離地域でリサイクルを行うことで負荷量を小さくすることができることを示した。以上の知見を総合して、ある条件を課したときに、その条件に沿った最適なシナリオを、コスト・環境負荷項目負荷量の数値と共に焼却灰の広域的処理・処分方法として提示することができることを示した。

 第9章は、「総括及び今後の課題」である。

 以上要するに、首都圏域から排出される焼却灰の広域的処理システムについて、地理情報システムを利用した定量的検討を行い、従来と違う行政区界にとらわれない独創的視点で合理的な広域処理処分システムを提案したものであり、今後の廃棄物管理に関する施策や廃棄物学の進展に極めて貴重な情報を提供している。従って、本論文により得られた知見は都市環境工学の学術の発展に大きく貢献するものである。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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