学位論文要旨



No 116645
著者(漢字) 劉,金山
著者(英字)
著者(カナ) リュウ,キンザン
標題(和) 熱間変形加工時の内部組織予測に関する研究
標題(洋)
報告番号 116645
報告番号 甲16645
学位授与日 2001.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5057号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 柳本,潤
 東京大学 教授 谷,泰弘
 東京大学 教授 光石,衛
 東京大学 教授 鈴木,俊夫
 東京大学 助教授 吉川,暢宏
内容要旨 要旨を表示する

 形状の創成と機能の創出が鉄鋼材料製造・加工の基本である。従って次世代の鉄鋼材料製造・加工技術の研究開発、商品開発においては、塑性変形形状と材料機能(内部組織)との二つ面を見極めた上で、適切に両者を最適な条件に制御できる加工技術、特に圧延技術が必要である。両者の適切な制御を行うためには両者を融合した理論体系を欠かすことができない。材料機能創出FEM解析技術とは、塑性変形形状と内部組織を同時に最適な条件に制御するための理論体系である。

 材料機能創出FEM解析技術体系には、加工時の塑性変形−温度分布−ミクロ組織変化の統合解析を、あらゆる金属材料について可能とするための数値解析基盤を、鉄鋼材料を重点として開発する。この数値解析体系には、塑性変形解析時のマクロパラメータである加工条件と、内部組織解析時のミクロパラメータである加工後の材質とを結び付けることが要求されている。

 本研究では、材料機能創出FEM解析技術体系を構築するため、必要な解析モデルと解析手法について研究を行う。熱間加工時と熱間加工後の内部組織変化が予測できる「内部組織解析の変形・温度・内部組織の総合手法」を開発した。

1) 擬似三次元FEM温度解析手法の開発。

 多パス連続圧延時に各パスで圧延材の三次元温度分布を解析できる。この温度解析手法は、時間増分毎に圧延の進行と共に断面内の温度分布を求めて、内部組織の変化を連成解析する。

2) 熱間加工時の内部組織予測に関する解析手法の開発。

 熱間加工時に、加工硬化・動的回復と動的再結晶などの動的現象が発生する。塑性ひずみが臨界値に達すると、動的再結晶が起って動的再結晶組織を生成する。本研究では、熱間加工の進行と共に動的再結晶した組織が繰り返し動的再結晶を発生すると考えて、動的再結晶した回数により生成された種々組織を副組織として取扱う。各副組織において、加工硬化と動的回復の影響を考えて、結晶粒径・転位密度・体積分率などの変化を記録する。

 熱間加工後、静的再結晶・静的回復と動的再結晶した組織の回復などの静的現象が発生する。本研究で、これらの静的現象による内部組織の変化を記録し、最終的に内部組織を予測する。

3) 熱間加工後の連続冷却変態組織を予測する増分形解析手法の開発。

 熱間加工後のオーステナイト粒径と残留転位密度を用い、相変態の核生成速度・成長速度に及ぼす熱間加工の影響を表す。熱間加工の段階から連続冷却変態段階までの内部組織の変化を記録し、最終的に相変態組織を予測する。

 材料機能創出FEM解析技術の応用として、各種の圧延加工プロセスに対して塑性変形・温度分布と内部組織変化を連成解析し、圧延設備のレイアウト並びに圧延スケジュールの妥当性を検討した。

1) 熱間加工時のオーステナイト組織変化の解析事例として、2ロールと3ロール棒材圧延後の内部組織を予測した。圧延機のロール空間配置により圧延材の断面ひずみ分布が大きく影響され、3ロール棒材圧延時する場合、圧延材の中心部の変形ひずみが小さいので、粗大なオーステナイト組織になり易いことを示した。

2) 棒材圧延時の結晶粒の粗大化問題において、粗大化の判断因子を提案し、圧延時の粗大化現象を予測する事例を示した。

3) フェライト変態に及ぼす残留転位密度の影響が大きく、より低い加工温度で転位が大く残られ、結晶粒が微細化されることが予測結果から検証された。3ロール4パス圧延の場合、フェライト変態・パーライト変態などに及ぼす残留転位密度・オーステナイト粒径の影響を示した。

4) 多パスタンデム棒線圧延後の内部組織を予測するため、12パスS−D圧延方式と14パスO−S圧延方式の数値実験を行って、内部組織の変化を解析した。累積ひずみが大きく再結晶が完全に起り、内部組織に及ぼす温度の影響が最も大きいことが明かになった。

5) H形鋼圧延する場合、フィレット部の結晶粒粗大化現象を改善するため、IMC+TMCP温度制御が実施されている。本研究では、圧延時の内部組織変化を解析し、IMC+TMCP温度制御による内部組織変化と最終の変態組織を定量的に検討した。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は「熱間変形加工時の内部組織予測に関する研究」と題し、高温変形加工より変態に至る過程での結晶粒径、各相の分率などの内部組織を予測する手法について、実験による検証を交えつつ検討したものである。

 変形加工に課せられた2つの重要な課題は、製品の寸法形状などの形状の創成と、材料内部のミクロ組織の創出である。材料内部のミクロ組織(材料内部組織)の創出には、合金元素の添加とともに塑性変形が深く関与しており、製品内部の機械的特性を適切な状態に保つためには、製品ごとに加工条件を制御する必要がある。

 本論文では、熱間変形加工時の内部組織予測について、基本理論の構成より実製造プロセスへの適用までを総合的に扱っている。第1章は序論であり、変形加工における内部組織制御の役割、位置づけ、さらに、従来この分野で行われてきた研究を総括し問題点を抽出している。

 第2章より第4章までは、内部組織予測手法の構成について記述している。第2章では、塑性変形、温度分布の解析を対象とした、3次元FEM解析手法について説明している。変形加工時の3次元変形形状の解析には剛塑性有限要素法を、温度分布の解析にはガラーキン法に基づく有限要素法を利用しており、これらを連成させることによって、高温変形加工時の塑性変形と温度の高精度な解析を可能としている。

 第3章では、熱間変形加工中および加工パス間での内部組織変化を解析するための、増分形解析手法について論じている。この手法は、転位密度を媒介として定式化されているため、含まれるパラメータの物理的・金属学的根拠が明快であり、さらに増分形定式化を採用しているため、変形加工時に材料が受ける変形履歴、温度履歴を内部組織(オーステナイト結晶粒径分布)、転位密度(変形抵抗)に正確に反映することが出来る。この章では理論の構成と共に実験との比較結果についても論じており、増分形内部組織解析手法によって高精度な材料ミクロ組織の解析が可能であることが示されている。

 第4章では、変形加工後の冷却過程で、鉄鋼材料に発生する変態を予測するための内部組織解析手法について述べている。古典的核生成−成長理論をもとにした増分形解析手法を新たに提案し、解析結果を実験結果と比較することにより、提案した解析手法の妥当性について検証している。ここで提案した解析手法は核生成−成長理論をもとにしているため、ごく小数の冶金学的パラメータにて変態後の結晶粒径や、フェライト/パーライト/ベイナイト分率を予測することができる。また、従来は別個の現象として扱われてきた熱間加工と冷却変態との一貫した理論的な取り扱いを可能とするために、変態時の核生成速度を変態開始時点での残留転位密度の関数として表現し取り込んだ。このことにより、熱間変形加工の影響を正確に冷却変態に反映させることが可能となった。なお、残留転位密度と核生成速度との関係については実験によって、両者が線形比例の関係にあることを示した。

 第5章、第6章では、提案された解析手法の実生産熱間圧延に適用し、既存圧延工程の評価を行っている。棒線材圧延の異なる2つの圧延方式によって創り込まれる内部組織について理論的に検討したのが第5章であって、当然のことではあるが圧延方式によって最終的に得られる内部組織が大きく異なることが示されている。第6章では、形鋼圧延における断面内内部組織分布について、フィレット部の結晶粒粗大化と、これを抑制する為の圧延プロセス条件、特に冷却条件について論じている。スタンド間のフランジ水冷を行うことによってフィレット部の内部組織が顕著に改善されることを示している。

 第7章は結論であって、研究成果を総括し、今後の今後の研究について展望している。

 以上を要するに本研究では、熱間変形加工における内部組織予測手法について、基礎理論の構築よりより応用事例に至るまで一貫して取り扱っており、今後の変形加工による内部組織制御の広範囲での実現に向けた工業的意義が高いのみならず、機械工学−材料工学の境界領域を取り扱った研究として、学術的な意義も高い。

 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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