No | 116651 | |
著者(漢字) | マルチェロ,タバ | |
著者(英字) | Marcello,Tava | |
著者(カナ) | マルチェロ,タバ | |
標題(和) | 宇宙輸送システムにおける最適化方法に関する研究 | |
標題(洋) | Optimization Techniques for Space Transportation Systems Design | |
報告番号 | 116651 | |
報告番号 | 甲16651 | |
学位授与日 | 2001.09.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5063号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 航空宇宙工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 21世紀の宇宙活動を考える際、宇宙輸送システム開発を支えるためには、スペースシャトルより更に発展した、再使用型の宇宙輸送機といったものの設計を考えることが必要になる。そして、それらの設計を行うためには、設計過程を自動的かつ効率的にする、斬新な設計技術を開発しなくてはならない。この研究では、宇宙輸送システムの設計を行うために、効率的な最適化方法を開発し、同時に宇宙輸送システムの最適な飛行経路と機体形状を得た。この問題を解く場合には、様々な側面から考えなくてはならない。この論文の要約は二つの部分から構成される。まず、複合基準最適化方法について述べ、次に複合領域最適化方法を示す。 航空宇宙工学の設計を行う場合、最適な設計を求めるためには、一つの評価基準のみではなく、数多くの様々な評価基準について同時に考えなくてはならない。その問題を非線形計画問題として定式化するためには、複合基準最適化方法が必要である。それにより、非線形計画問題を多目的な最適化ソフトで解くことができる。非線形計画問題の評価関数はスカラ関数であるから、複合基準最適化問題を解く際の最も困難な問題は評価基準をどのように定義するかである。単一基準最適化とは違い、複合基準最適化では最適な解は一つではなく複数存在し、作られた評価関数によって最適化問題の解は違い得る。従って、ユーザの満足できる解を求めるためには評価関数をうまく作らなくてはいけない。それを効率的に行うためには、会話型過程を用いることが有効である。会話型過程では、最適化ソフトの計算とユーザの決定(decision-making)が交互に行われる。まず、様々な評価関数を用い、コンピュータで得られた解をユーザに示す。それで、ユーザは最も満足のいく解を選び、その選択によって新しい評価関数を作る。その会話型過程を繰り返して行う。 この研究には[1]、線形計画法(Linear Programming, LP)として経営問題の解法として最近提案されたアルゴリズムを、非線形計画として工学的設計の問題のために適用した。ここで、最初のアルゴリズムと比べて、新しいアルゴリズムで用いるユーザ選択の手段は変わってくる。またこのアルゴリズムでは、様々な最適化問題を並列的に行い、最適化計算を行うと同時にグラフィカル・インタフェースでユーザに解を示す。新しい並列アルゴリズムを用いる場合には、ユーザは最適化計算のイタレーションの途中で解を見ながら、最終的な解決を満足のいく設計点へ導くことができる。その並列アルゴリズムで再突入問題を解き、クロスレンジ、熱量速、熱負荷、航空管制コスト四つの評価基準を同時に考慮した。 最近、統合的最適化(Multidisciplinary Optimization, MDO)への注目が増し、特に宇宙機や航空機の初期設計に関する適用可能な例が数多く出てきた。航空機の設計を行うためには、さまざまな分野についての考慮が必要である。今日の技術者が直面している問題は設計の繰り返し過程を自動化する系統的な手法を開発することである。今回、リエントリービークルの飛行経路と機体形状の統合最適化に用いた方法の機構は図1に示す[2]。最適化は統合解析により計算される評価関数と制約条件を入力として扱うシステムレベルで行われる。標準的なNLP問題とMDOの問題の違いは、専門領域が絡み合うかどうかである。たとえば、図1で、熱流束qのピークは航空機力学ブロックにおいては出力で、重量推算においては入力となっている。また、全装備荷重は重量推算ブロックにおいては出力で、航空機力学ブロックヘは入力になっている。ここからは、サブシステムと最適化ソフトに関して述べる。 飛行経路においては、レンジの改善は最大の(L/D)で飛ぶ時間を長くすることにより実現される。図2に熱流束の条件がない場合とある場合の飛行経路を示す。後者のほうは熱流束の制約条件の境界上を、熱流束一定で飛行する。熱流束の制約条件を厳しくすると長くて滑るような軌道(gliding)をもたらすために、再突入の最初の段階に高い迎え角と低いバンク角が必要となる。評価関数を熱流束、または熱負荷にする場合によって、反対の解が生成されるから、トレードオフが必要である。例えば、最小熱流束の問題で、長い間に一定の熱流束で、滑るような飛行経路が良い。最小熱負荷の問題では、高い抵抗の飛行経路を選び、吸収エネルギーを制限するが、熱流束とダイナミック・ロードのピークは増加する。 機体形状においては、機体重量条件はビークルのサイズパラメータ(全長、ベース半径)に影響したが、それらの比率には影響しなかった。しかし、後者のほうは熱流速条件に依存するところが大きかった。最大クロスレンジ問題の解は細長い形状であり、熱流束条件を考慮する際、最適化形状はもっと細長くなった。熱流束と熱負荷のトレードオフは形状の問題より、飛行経路の問題であることが実証された。縦安定条件を考慮する際、前コーンは後コーンよりかなり細長である形状になった。 この研究によって、従来単一であった評価基準を複数扱えることが可能になり、また、構造や空力などの複数の分野を統合した飛行経路最適化問題を解くことが可能になった。宇宙輸送システムの設計は厳しい制約の下で多様な評価基準を満たさなくてはならず、本論文で提案する手法がシステム実現のために有効な手法となり得ることを示した。 参考文献 [1] Tava, M. and Suzuki, S., "Optimal Re-Entry Trajectories by Interactive Multiobjective Optimization with Parallel Programming", received positive review from the Journal of Guidance, Control and Dynamics (2000). [2] Tava, M. and Suzuki, S., "Multidisciplinary Design Optimization of Shape and Trajectory of a Re-Entry Vehicle", received positive review from the Transactions of the Japan Society of Aeronautical and Space Sciences (2000). 図1 図2 | |
審査要旨 | 工学修士Marcello Tava提出の論文は「Optimization Techniques for Space Transportation Systems Design」(宇宙輸送システムにおける最適化方法に関する研究)と題し8つの章からなっており英文で書かれている。 制約条件のもとで、評価関数を最小にする変数の組み合わせを見い出す最適化手法を、工学的設計問題に適用するための研究が進められている。今日、航空宇宙工学における最も困難で重要な設計問題の一つは、将来の宇宙輸送システムの設計問題である。宇宙輸送システムに代表される航空宇宙機の設計には、複数の技術分野が複雑に関連し、その設計評価基準の設定も容易ではないという難しさがある。 本論文では、宇宙輸送システムの設計問題を対象として、最適化技術の様々な技術的な課題を研究し、特に、複数分野の統合的最適化問題と、多目的最適化問題に焦点を当てている。最初は二つの問題が個別に議論され、統合的最適化問題においては、宇宙帰還機の機体形状設計と帰還軌道設計の統合的最適化が検討され、多目的最適化問題においては帰還軌道設計における複数の設計評価基準の対話型満足化問題が扱われる。最終的に、SSTO(Single-Stage-To-Orbit)機の上昇軌道と帰還軌道を含めた統合的機体設計問題として統合的最適化と多目的最適化が同時に検討されている。 序論(Introduction)では、本研究の背景と目的とを明確にし、過去の研究動向を概観している。 第1章では最適化手法の数学的定式化を整理し、特に、飛行軌道最適化問題の数値計算法に関する技法をまとめている。 第2章では本論文で検討する宇宙輸送システムの概念設計に必要となる数学モデルを記述している。主な技術分野は軌道計算、飛行力学、熱・空気力学、重量推算であり、軌道計算では質点モデルの運動方程式が、飛行力学では剛体モデルによる安定微係数が使用される。空気力学ではスレンダー・ボデー理論と修正ニュートン流理論が採用され、熱空力特性の推算には加熱率の経験式が利用される。重量推算には統計的な推算公式であるWATTSとHASAが用いられた。 第3章では、宇宙帰還機を対象として、機体形状と帰還軌道の同時最適化問題が扱われている。機体形状として二重円錐が仮定され、形状を決定する変数が、制御入力と共に最適化される。評価関数にはクロスレンジ、総加熱量が、制約条件としては最大加熱率、機体重量、縦安定微係数などが考慮され、制約条件、評価関数をさまざまに変化させ、最適解の特性が詳細に検討されている。一連の検討によって、クロスレンジの確保には揚抗比最大での飛行と、機体の細長比向上が効果的であり、総加熱量と最大加熱率のトレードオフには急激な沈下と滑空帰還の切り替えと、機体先端形状が重要であることなど、帰還軌道と機体形状に関する総合的な設計指針を導くことに成功している。 第4章では、帰還軌道の設計を、複数の評価基準を多目的最適化手法によって満足化させる方法により検討している。第3章では、様々な評価基準から一つの目的関数を設定し、残りを制約条件として定式化しているが、実際の設計問題では、こうした明確な区別は困難な場合が多く、試行錯誤的な検討が不可避である。著者は、対話的な多目的最適化手法を新たに開発し、並列的な計算機環境で効率よく多目的最適解を探索する方法を提案し、帰還軌道設計に適用している。計算例では、クロスレンジ、最大加熱率、総加熱量、制御コストの4つの目的関数が同時に考慮され、多目的最適化手法を適用することで、目的関数と制約条件の区別が不要となり、探索領域も結果的に拡大され、制約条件の削減により計算効率が向上することなどが確認されている。 第5章では、第3章の複数分野の統合的最適化と第4章の多目的最適化が、SSTOの上昇軌道と帰還軌道の両者の最適化を考慮した機体形状の最適化問題として結合することが試みられている。上昇問題では消費燃料の最小化が、帰還問題ではクロスレンジ最大化が目的関数となり、機体形状や離陸重量が両者に関連する大域的な最適化変数となる。著者は、二つのフェーズの問題を動的に優先権を交換することで分割して最適化する定式化を新たに提案し、この複雑な問題の数値最適解を得ることに成功している。上昇フェーズと帰還フェーズの重み付けによって最適解は変化し、上昇フェーズを重視すると、構造効率を向上させるために機体の細長比が小さくなり、帰還フェーズを重視すると、揚抗比を向上させるために細長比が大きくなるという解を得ている。最適解は重みの変化とともに連続的に変化し、その傾向も合理的であり適切な解が得られていると判断できる。 結論(Conclusions)では、本研究で得られた主な成果が要約されている。 以上、要するに、本論文は宇宙輸送システムの飛行軌道と機体形状の設計問題を対象として、複数の技術分野や飛行フェーズを統合化して最適化するとともに、複数の目的関数を満足化させるための多目的最適化を検討した。特に、並列計算環境における対話型の多目的最適化手法と、複数フェーズの多目的最適化アルゴリズムに新たな提案をしており、提案する最適化手法の有効性は宇宙輸送システムの設計問題によって詳細に検証されており、航空宇宙工学上貢献するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格であると認められる。 | |
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