学位論文要旨



No 116658
著者(漢字) 羅,廣南
著者(英字)
著者(カナ) ロー,グアンナン
標題(和) ケルビンプローブを用いた金属ならびに酸化物セラミックスのイオン照射による仕事関数変化に関する研究
標題(洋) Study on Work Function Change of Metals and Oxide Ceramics under Ion Irradiation by Means of Kelvin Probe
報告番号 116658
報告番号 甲16658
学位授与日 2001.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5070号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山脇,道夫
 東京大学 教授 田中,知
 東京大学 教授 寺井,隆幸
 東京大学 教授 勝村,庸介
 東京大学 教授 岩田,修一
 日本原子力研究所 副主任研究員 山口,憲司
内容要旨 要旨を表示する

1.序論

 核融合エネルギーの実現に向けてプラズマ対向材料(PFM)とトリチウム増殖材(TBM)が技術的な論点となっている。前者は表面もしくはバルク材料中でトラップされるプラズマ粒子フラックスに重要な影響を及ぼす。後者は天然には存在しないトリチウムを供給することにより核融合反応を維持する。両材料は核反応により生成する中性子や各種のイオンによる強度の照射を受ける[1]。

 この研究においては、Ni(Heトラッパーの可能性)、W(ITERで提案されているPFM)、Auなどの金属、Li酸化物セラミックス(ITERにおけるTBM)が、MeVおよび低エネルギー(<1keV)の軽イオン照射下にて研究された。ケルビン計は本研究の主要な装置であり、実験中「その場」仕事関数変化を評価するために用いられた。表面の変化は得られた情報から推測された。この研究は、表面科学あるいは薄膜製造上の重要な問題であるイオン照射下の表面改質の理解にも有益である[2]。

2.仕事関数とケルビン計

 仕事関数は一つの電子を金属から抽出するのに必要な最小のエネルギーとして定義される。異なる物質でできた二つの伝導体AとBを接触させると、ポテンシャル変化が生じ、その大きさは、

で表され、CPDは電圧の単位を持つAB間の接触ポテンシャルであり、ΦAとΦBは仕事関数、EFAとEFBはフェルミレベルを表す。単位はすべてeVであり、eは素電荷である。現在CPD測定に使用しているケルビン計は外回路を経由して接触する並行平板コンデンサーの2枚の平板として二種類の物質を配したケルビン卿にちなんで名づけられた[3]。仕事関数は表面の状態や変質に非常に感度の高い指標となるので、ケルビン計は試料の仕事関数の平均値を測定するため、主要な実験装置としてだけでなく表面研究のいろいろな補助的な装置として近年の表面物理の分野において広く用いられている。特に、Yamawaki et al. [4]では近年、気体雰囲気と酸化物セラミックスの相互作用の研究にケルビン計が応用されている。

3.表面とイオンビームの相互作用

 エネルギーを持った粒子による固体への照射はさまざまな現象を引き起こす[5]。表面では入射粒子の後方散乱、電子やフォトンの放出、ターゲット分子や原子の放出(すなわちスパッタリング)が起りうる。固体の表面近傍では、入射粒子のエネルギーと相対的質量に依存する深さにわたって、減速された入射粒子はターゲット原子にエネルギーと運動量を移行し、それらを元の場所から移動させる。本研究では最外表面の過程のみが考慮され、そこではスパッタリングが組成変化にも重要な役割を演じる。仕事関数変化の主要な因子である。イオンの速度に依存して原子核ストッピング(v<0.1v0、v0=2×108[cm/s]、原子外殻電子のBohr速度)もしくは電子ストッピング(v≧0.1v0)が、イオンから固体へのエネルギー輸送を支配している。H+、He+などの軽いイオンの垂直入射では、1keV以下のエネルギーで第一のはじき出しターゲット原子を生じる。それは一つ(もしくはいくつか)のターゲット原子との一回の(もしくは多数回の)衝突後、試料から直接外へ放出される。他方、MeVオーダーのエネルギーの場合、は常に電子的ストッピングの方が原子核的ストッピングより優越する(通例3桁程度の差がある)。その時、格子へと輸送されたエネルギーは表面過程に影響を与える可能性がある。

4.実験装置の開発

4.1設計

 ケルビンプローブは東京大学の高フルエンス照射施設(HIT)内のヴァンデグラーフイオン加速器のビームラインへ接続された真空チャンバー中に設置された。このバンデグラーフ加速器はH+、He+などのいろいろな種類の気体状イオンをMeVオーダーのエネルギーで供給できる。プローブと試料ホルダーの初期配置を図1に示す。プローブはBesocke Delta Phi GMBHの商品であり、図2のようにイオンからプローブが直接衝撃を受けないためのスタンドに固定されている。プローブチップは直径2.5mmの金メッシュ製である。プローブと試料の距離は1mm以下である。プローブと試料の配置のため、試料AまたはBへの照射中は仕事関数の測定は行なえない。また測定圧力は1×10-4Paであった。

 著者の研究室で開発された新装置は図3に示すように低エネルギーイオンによる照射効果の研究に用いられ、図2に示すのと同じKelvin計を用いている。ビームソースは直流アーク放電であり、ビーム抽出とフォーカスセクションも装備している。ソースは660eVまでの正イオンと電子のビームをそれぞれ生成できる。フラックスはファラデーカップにより測定される。プローブと試料との間隔を微調整できるようにプローブは移動、回転できる。試料の表面温度は回転可能な熱電対を用いて測定できる。抵抗ヒーターにより試料を加熱または焼鈍できる。四重極質量分析計(QMS)はガス分析に用いられる。点線の部分にはオージェ電子スペクトロメーター/低エネルギー電子線回折(AES/LEED)装置が設備される予定である。真空装置は150l/sのターボ分子ポンプ、5l/sのロータリーポンプからなり、到達真空度は1×10-7Paである。

4.2改良点

 HITと研究室での数回の実験後、測定装置へのチャージアップの影響という重要な問題が起こった。図4に結果の一つを示すが、それは新しい装置においてヒーターからの熱電子放出によるチャージアップ効果である。プローブ出力はsiteB上で記録された。SiteBにドリフトした熱電子は出力を変化させたことは明らかで、それは図2に示す絶縁体への負電荷の付着によって誘起されると考えられる。その結果発生した外部電場はチップとNi試料との間のゼロフィールドバランスに変化を与える。同様の効果はHITと実験室での両方の一連の実験においてイオン照射による二次電子放出の結果として観察された。ガラス窓の熱誘起チャージアップ、イオンゲージ、QMSのイオンチャンバーのような他の電荷源もプローブの正常な動作に影響を与えると報告されており、本研究でも観察された。

 このような妨害的な効果を避けるために慎重なシールディングを行う必要があった。HITでの実験の場合、図5にプローブと試料の新しいレイアウトを示す。それは照射中に絶縁体の電荷を最小にし、不測の照射を受けることから試料とリファレンス試料を守り、試料の照射中にリファレンス試料をモニターすることができる。シールディングすることで図6に示すようなよい結果が得られた。この図で"Beam Adj"はビームラインに平行なDの位置で照射中もしくは事前調整期間にビームカレントを与えられた値に再調整することを意味し、矢印はそれぞれの照射の開始、秒は"s"、分は"m"で照射時間を示す。図6(a)はプローブへのチャージのため、未照射のリファレンスのプローブ出力(-Vb)は、照射の部分的ディスチャージの結果としてリカバリー過程の後、約400[mV]に減少する。飽和した電荷は一回目の調整によって達成された。はじめの突然のドロップやイオンビーム停止時のリーププローブチップ経由の電子の集合を示す。リファレンスと試料の出力の違いは、一回目の調整後、おそらくビームの拡張のため、調整の間、リファレンスと試料もしくはその一方が、照射された可能性を示す。しかし、図6(b)では、突然の出力変化は基本的に見られなかった。調整後の出力は同じであった。最後の電荷誘導変化はただ200[mV]であった。これら全てはシールディングの効果を示している。しかし、チャージを取り除くことはできなかった。これは可能ならデータセットの正しい解釈を難しくさせる。

 それゆえデータ処理に用いられるモデルはリファレンスと試料のデータセットが順番に得られた事実とサンプリングレートが十分速いと仮定し、真の試料信号がリファレンスデータセットから試料のデータセットまで差し引くことによって抽出されるとする仮定に基づく。厳密な推理により試料の仕事関数変化は

のように表される。ただし、△Φsは試料の仕事関数変化で単位は[meV]、△(-Vb)や△(-Vb)rは試料とリファレンスのプローブ出力変化である(単位は[mV])。図6(b)の二つのデータの処理は図(c)に示す。これは改良を意味し、特にビーム調整後と照射前の不変の値によるものである。実験室での新装置に関して図7にシールディングが、HITの実験とは異なる方法でイオンビームを囲うことを示す。外の要因によるチャージ効果を除くことで適切に測定される。

 上記の実験中のステップ後、±20[mV]より測定誤差は低いと思われる。さらに、現在のむき出しの抵抗ヒーターに替え電子を放出しないヒーターを探している。

5.イオン照射下での酸化物セラミックスの研究

 現在、研究室でシールドが導入されているわけであるが、Li2OやLiAlO2、Li4SiO4などのリチウム酸化物セラミックスの研究がシールディング導入以前にHITで行われていた。実験で得られた典型的な結果を図8に示す。

 1MeV、2×1015/m2/s He+イオンビームの照射下でのLiAlO2の結果を示す。出力はプローブよりセラミックス試料二次電子放出のため、調整の間、出力が増加している。照射により出力が激しく減少しているが、これはイオンビームから試料上に大量に正電荷が付着した結果であり、おそらく放出過程のため早く回復する。信号は照射を終了させた後、直ちに使用不可能になる。なぜなら、プローブを試料に対し一直線にするために移動させるのに数秒かかるためである。この信号は図に示す信号よりかなり大きい。この場合、出力変化は試料に直接チャージされるため、図6に示すプローブのチャージによるものよりもかなり大きい。このようにシールドは重要ではない。

 図8(b)に低エネルギーイオン、もしくは電子ビームの照射結果を示す。1分間150eV、1.4×1016/m2/s He+イオンビーム照射後、出力はプローブコントローラーの範囲(-14V以下)から外れる。そのとき、150eV、1.4×1016/m2/sを1分間の電子照射と250eV、4×1016/m2/sを3分間の電子照射のため、出力増加が観察される。二次電子放出のため、イオンビームはチャージの増強過程で電子ビームより有効である。余分な電荷の存在があり、セラミックスの分極化効果を考慮すると、プローブ出力は[6]であり、CPDはプローブとサンプルホルダーとの接触電位差、δは表面の自由電荷密度、Dは絶縁試料厚さ、εσεはそれぞれ自由空間の誘電率、誘電係数。明らかに試料表面で負電荷とは反対に正電荷が出力を減少させている。

 したがって、絶縁体試料を加熱し高い電気伝導率を達成すれば満足のいく結果をえることができるだろう。

6.イオン照射下での金属の研究

6.1 低エネルギーイオンビームの効果

 低エネルギーHe+照射をNiに行ったところ、低フルエンスで仕事関数が減少し、高フルエンスで飽和するまで増加した。これを図9に示す。低フルエンスでの詳細なデータは最初の照射のフルエンスが大きすぎたため失われるたかもしれない。

6.2 MeVイオンビームの効果

 NiとWへの照射についての結果は図10、図11に示す。4.2で言及したチャージアップの効果を式(2)によって差引いてある。照射はイオンビームフルエンスに伴い仕事関数の減少を引き起こし、やがて大きいフルエンスでは飽和する傾向を示した。低フルエンスではHe+の方が常にH+より大きい減少を引き起こした。1回目の照射でフルエンスが大きすぎたため、図10で得られたような十分低いフルエンスでの挙動は図11では得られなかった。また、NiよりもWの方が照射に対し敏感であることが示された。

6.3 考察

 金属の挙動を説明するため表面構造のモデルを以下のように提唱する。金属表面は2相からなる。すなわちバルクに接している酸化物相と、いろいろな化学形を持つC、H、Oや他の不純物から構成される酸化物に接した弱く結合した吸収相である。図9では低フルエンスでの仕事関数の減少は吸着相の脱着による。これはバルクに向かう双極子モーメントを減少させ、その結果、仕事関数が減少する。Niの仕事関数がその酸化物より大きいことを考えると、次の増加は酸化物相のスパッタリングに帰せられる。

 図10や図11では仕事関数の減少は表1に示すSRIM2000.39による計算から判断すると、表面においてエネルギー輸送を支配する電気的過程によって誘導される。電子的過程を経て格子へ移送されるエネルギーは吸着相を脱着させるほど十分高いが、酸化物相とバルク材料をスパッタするほど高くはない。それで、仕事関数の減少が観測され、残留気体との平衡が達成されるまで表面相が脱着した時、飽和が達成された。

7.結論

(1)MeVおよび低エネルギーイオンビーム照射により誘起される仕事関数変化を観測するための二つの実験装置を完成させた。いろいろなソースからのチャージアップが、プローブに対し悪影響を与えることがわかった。悪い効果を減じたり排除したりするため適切な対策がとられた。

(2)リチウムセラミックスに対する実験は試料の分極を引き起こす試料表面のチャージアップによって失敗に終わった。この場合、プローブ出力は試料の仕事関数をまったく反映していなかった。

(3)500eV He+の照射によって仕事関数は減少し、ついで飽和まで増加したが、他方1MeVイオンによっては仕事関数は減少して、飽和に達した。核ストッピングが500eV He+の照射による金属試料の結果の原因である。そのビームはバルク表面から表面層をスパッタにより剥ぎ取るのに十分強力だった。MeVオーダーの照射では電子ストッピングが決定的な役割を果たしており、1MeVのHe+やH+イオンによってゆるく結合した最外層のみが除かれた。

参考文献

[1] G. Federici, et al., J. Nucl. Mater. 283-287 (2000) 110.

[2] D. P. Woodruff and T. A. Delchar, in Modern Techniques of Surface Science (2nd ed., Cambridge University Press, 1994), Chap. 7.

[3] J. Hoelzl and F. K. Schulte, in Solid Surface Physics, edited by G. Hoehler (Springer, Berlin, 1979), Vol. 85, p. 1.

[4] M. Yamawaki, A. Suzuki, F. Ono and K. Yamaguchi, J. Nucl. Mater. 248 (1997) 319.

[5] H.Gnaser. Low-Energy Ion Irradiation of Solid Surfaces (Springer-Verlag, Berlin, Heidelburg 1999).

[6] L. B. Harris and J. Fiasson, J. Phys. C 18 (1985) 4845.

図1 HITの実験での装置図

図2 ケルビンプローブ

図3 新装置

図4 Wヒーターからの熱電子放出によるチャージ効果

図5 HITの実験でのKPのシールド

図6 結果(a)シールドなし(b)シールドあり(c)差し引き後

図7 実験室でのシールド

図8 セラミックスのチャージ効果(a)HITでのLiAlO2(b)実験室でのLi4SiO4

図9 Niの低エネルギー照射の効果

図10 NiのMeV照射の効果

図11 WのMeV照射の効果

表1 1MeVイオンのSRIM結果(eV/A)

審査要旨 要旨を表示する

 種々のエネルギーを持つ粒子ビームと固体表面の相互作用は、物質科学の基礎的な関心から、また核融合炉や材料表面改質などの実用的な面からも、近年ますます注目されている分野である。しかし、ビーム−表面相互作用を「その場」的に調べることは一般的に容易でなく、新しい手法の導入が期待されてきたと言える。本研究は、ケルビン計による仕事関数評価法を適用して、ビーム−表面相互作用の新たな「その場」的分析法を確立しようとして行われた。

 まず第1章は、表面とイオンビームの相互作用について既往の研究を概観するとともに、ケルビン計により解明しうる表面物性について論じた上で、本研究の目的と位置づけを明確に示している。

 第2章は、実験装置の開発についてまとめている。高エネルギー照射用と低エネルギー照射用の2種類の実験装置を開発したが、いずれもケルビン計としては直径2.5mmの金メッシュ製プローブチップを用いた横方向振動型の市販品を用いて測定系を組立てている。高エネルギー照射用装置は、東京大学高フルエンス照射施設(HIT)内バンデグラーフ加速器のビームラインへ接続された真空チャンバー内に設置され、プローブがイオンにより直接衝撃を受けないためのスタンドに固定された。他方、低エネルギー照射用装置は、直流アーク放電によるイオン源を備えた独自に設計製作された高真空装置であり、660eV以下のエネルギーの正イオンと電子ビームを別々に生成できる。フラックスはファラデーカップで測定され、抵抗ヒータにより試料温度を制御できるように設計されている。

 これら2つの装置での予備試験により、測定装置や試料のチャージアップが重大な問題を生じうることが明らかにされた。チャージアップの原因は、HITではイオン照射による二次電子放出、また低エネルギー装置ではヒーターからの熱電子放出が主要なものであったが、その他装置内の高温に加熱されるパーツ等種々の電荷源も影響することが分かったとしている。このような妨害的効果を避けるために、遮断板でプローブを囲い込む改良が施された。また、参照試料を設置して、照射試料と同様にケルビン計で測定を行い、両測定値間の相殺を行う方法で、照射による効果を抽出することに成功している。このようにして、チャージアップの問題を回避することが可能となり、本測定手法が照射効果を測定するための有効な分析手法たりうることが示されたとしている。

 第3章は、リチウム酸化物セラミックスへのイオン照射効果を、本研究で開発したケルビン計装置で調べた結果をまとめている。高エネルギー入射でも低エネルギー入射においても、ヘリウムイオン照射により正電荷付着による直接チャージの影響が強く出ることが示された。リチウム酸化物のような低温で絶縁体に近い半導体の場合は、加熱により電気伝導度を増大させることが期待でき、表面荷電の影響を緩和できるので、より本質的な物性測定が可能になるとの方向づけを提示している。

 第4章は、金属へのイオン照射効果を、本研究で開発されたケルビン計装置により測定した結果をまとめている。ニッケルとタングステンへのヘリウムイオンと水素イオンの照射により、仕事関数がフルエンスの増加とともに減少し、やがて飽和する傾向を示すことが見出されたとしている。ニッケルよりタングステンの方が照射に対し敏感に反応することも観測され、これらの挙動を表面2層構造モデル、即ちバルクと強く結合する酸化物層と、その上のC、H、O等から成る弱い結合の吸着層の2層からなるモデルに基づき説明づけている。

 以上で述べられたことから、本研究の結論が第5章で導かれる。

 以上を要約すれば、本研究は、固体表面のイオンビーム照射による変質を、「その場」的に分析する新しい測定手法として、ケルビン計による仕事関数評価を行える実験装置を開発するとともに、それを用いての測定手法上の問題点を明らかにし、その解決策を提示したものである。表面荷電の問題などは、材料特性に根ざした本質的な問題を含んでいる一方、測定方法上の工夫により乗り越えられる要素も多分にあることが示され、イオンビームと材料の相互作用の研究に新しい領域を開拓することのできる研究成果と評価できる。このように、本研究は、システム量子工学の中でも、核融合炉工学、並びに量子ビーム工学の分野において、またさらに広くビーム−材料相互作用一般の分野の発展に寄与するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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