学位論文要旨



No 116662
著者(漢字) 金,永奭
著者(英字)
著者(カナ) キム,ヨンソク
標題(和) Cu−CVD成長初期過程観察及び界面構造制御
標題(洋) Interface Control and Observation of the Nucleation Stage in Copper Chemical Vapor Deposition for Advanced Metallization
報告番号 116662
報告番号 甲16662
学位授与日 2001.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5074号
研究科 工学系研究科
専攻 金属工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 霜垣,幸浩
 東京大学 教授 堀池,靖浩
 東京大学 教授 鳥海,明
 東京大学 助教授 幾原,雄一
 東京大学 教授 尾嶋,正治
内容要旨 要旨を表示する

 デバイスの高集積化に伴い多層配線における信号伝達遅延(RC遅延)がデバイス性能のボトルネックとなってきている。ギガスケールインテグレーション(GSI)を実現するには低抵抗金属配線、低誘電率層間絶縁膜を用いRC遅延を改善せねばならない。Cu配線は従来のAl配線に比べ低抵抗であるだけではなく高エレクトロマイグレーション耐性も併せ持つ。現在はIBM等がスパッタ法によるCu膜をシード層としたメッキ法によりCu配線を形成し、デバイスの高性能化に成功している。今後デバイスの高性能化が進むに連れ、段差被複性が優れたCu-CVD(Chemical Vapor Deposition)プロセスを採用していかなければならない。しかしCu-CVDは成膜速度が遅く、スパッタプロセスに比べると密着性、エレクトロマイグレーション耐性などにおいて劣っている。下地との密着性の問題はCMP(Chemical Mechanical Polishing)などとのintegrationが難しくなる。また、エレクトロマイグレーション耐性の低下はデバイスの信頼性を落とす可能性がある。本研究の最終目標は、上記Cu-CVDプロセスの問題点を解決するため、Cu-CVD成長初期過程の微視的解析を行った。界面形成過程を理解し、プラズマ処理とCu-CVD製膜の変調操作により反応初期の核発生・成長を制御することによって、不純物が少なく、密着性が良好で、グレインサイズが大きく、(111)配向性が高い良質なCu配線を形成できるプロセスの構築を目標とした。

 以上の目的を達成するため、本研究では有機原料を用いたCu-CVDの成長初期過程の検討、最適な変調操作プロセスの設計、プラズマ処理による界面状態の制御を行い最終的に最適なプロセス下で製膜されたCu膜の特性評価を行った。具体的な研究内容を以下に示す。

1.有機金属を原料にしたCu膜と基板との界面制御のため基礎的研究

 基板上の自然酸化膜はCuとの密着性を阻害するということが知られているが、どのようなメカニズムで密着力が下がるのかについてはあまり知られていない。我々は試料の真空搬送が可能なCu-CVDシステムを構築、界面に存在する酸素量を制御し、それに伴い密着力の変化を引っ張り試験で評価した。また、X線分光器(XPS)で界面を観察し、引っ張り試験結果と比較した結果、Cu膜の密着性に対する自然酸化膜の影響が明らかになった。自然酸化膜が存在すると、Cu原子の弱いoxygen affinityのため、基板との相互作用が弱くなり、その結果密着力が弱くなる。残留不純物が及ぼす影響についても検討を行った。Cu原料が分解して残留するフッ素は、大きな影響は与えないが接触抵抗の増加の恐れがあるため、除去するべきであると考えられる。フッ素とは逆に、残留塩素は密着力を増やすことが実験結果から分かった。この二つの不純物が各々Cu膜の密着力に与えるメカニズムを調べるため量子化学計算プログラムを用いてCu原子と基板を想定いたTiを含む分子との物理的な力を計算した結果、塩素が有る場合分散力が増えることによって密着力が増進されることを明らかにした。こういう基礎研究の結果は、今後Cu膜の密着性問題の解決に益する参考として使われると期待され、本論文全般において重要な基準として用いられた。

2.XPSを用いたCu-CVD成長初期過程観察

 GSIを実現する新しい配線材料として、Cuが注目された理由は低抵抗・高エレクトロマイグレーション耐性のためである。また、Cu-CVDプロセスはGSIに要求される段差被覆性が良好でより高アスペクト比のビアの埋め込みが可能なため、seed層の作製及び埋め込みプロセスとして期待されてきた。しかし、デバイスの微細化が進むにつれCVDプロセスでもその限界が見えてきている。この問題を克服するためには、その特性を決める成長初期過程への深い理解が必要となる。本研究では、SEMとXPSによりCu膜の初期過程観測をした。今まではCu原子が凝集して三次元的に成長すると知られていた。しかし、SEM,XPS及びMicro-AESで観察した結果、まず単層が形成され、その上に三次元的核が生成するStranski-Krastanov型であるのが分かった。また、今回新しく導入したXPS分析方法は薄膜の形成過程や構造の研究に広く用いられると期待される。

3.CVD TiNとのIntegration

 Cu-CVDプロセスはデバイスの微細化に伴い、seed layer形成及び埋め込みプロセスとして期待されているが、Cuの拡散を防ぐバリア膜との密着性が弱いためCMPなどとのintegrationが難しくなる。我々はCVD-Cu膜の密着性がPVD-TiNよりも、TiCl4とNH3を用いたCVD-TiNの方が強いことを確認した。CVD-TiN及びCuプロセスのインテグレーション性を調べるため、当研究グループにより提案された変調操作CVD(Flow Modulation CVD; FMCVD)など、CVD-TiNの作製方法の違いによるCVD-Cu膜の密着性の変化を引っ張り試験で評価した。また、密着性に最も大きな影響を与える界面結合状態をXPSにより評価し、Cu-CVD膜の特性を最適化するために必要なバリア膜の満たすべき性質について検討を行った。その結果、塩素の濃度が高い場合は密着力が増したが、Cuの膜質を悪くするという問題が観察された。また、高塩素濃度のTiN膜はCuの拡散を防ぐバリア性が劣るため、プロセス全体の観点から除去するべきであると考えられる。

4.変調操作とプラズマを用いたプロセス制御

 Cuの材料としての不活性さとCVDプロセスの特性のため、通常のCVDプロセスでは界面制御が難しいことが基礎研究から明らかになった。また、界面残留塩素は密着性の観点からはプラス的な存在だが、他の膜質にマイナス的に働くため塩素がなくても良好な密着力を持つCu-CVDプロセスの開発が必要となった。そこで周期的にCu原料の供給とプラズマ表面処理を行い、Cuとバリア膜の密着性向上及び核発生の制御を行った。初期成長の段階でプラズマ操作を導入することによって密着性の向上ならびに核発生密度の増加が得られた。このようなプラズマ変調操作プロセスの開発は、今後Cu-CVDプロセスの応用範囲を広げるきっかけになると考えている。

 以上、まとめると、本研究では成長条件及び表面状態による核形成の変化を観測し、結晶性や密着性などの膜質に与える影響を検討し、信頼性の高いCu配線作製に必要な基礎的情報を得た。それを基に、積極的に界面と初期成長を制御する方法として周期的なCu原料供給とプラズマ処理の変調操作を提案し、非定常状態の積極的な活用と新概念プロセスの開発を目指した。このようなCVD成長初期過程の微視的検討と、変調操作による初期核発生・成長の制御は、他にはない独創的なものであり、0.1μm以後のデバイス微細化に即応するCu-CVDプロセス及び前処理方法の構築に大いに寄与するものである。

審査要旨 要旨を表示する

 ULSIデバイスの高集積化に伴い,多層配線における信号伝達遅延(RC遅延)がデバイス性能向上のボトルネックとなってきている。ギガスケールインテグレーション(GSI)を実現するには,低抵抗金属配線および低誘電率層間絶縁膜を用い,RC遅延を改善せねばならない。Cu配線は従来のAl配線に比べ低抵抗であるだけではなく,高エレクトロマイグレーション耐性も併せ持つため,GSI配線材料として有望であり,スパッタリングによるCu膜をシード層としためっき法による配線形成が実用化されている。さらなるデバイス高集積化に対処するにはシード層形成において段差被覆性に優れたCVD(Chemical Vapor Deposition)プロセスを採用していかなければならない。しかしCu-CVDはスパッタリングに比べると密着性,エレクトロマイグレーション耐性などにおいて劣っている。下地との密着性低下はCMP(Chemical Mechanical Polishing)による平坦化時の剥離を誘発し,エレクトロマイグレーション耐性劣化はデバイス信頼性低下につながる。本論文は"Interface Control and Observation of the Nucleation Stage in Copper Chemical Vapor Deposition for Advanced Metallization"(Cu-CVD成長初期過程観察及び界面構造制御)と題し,上記Cu-CVDプロセスの問題点を解決するため,Cu-CVD成長初期過程の微視的解析を行い,プラズマ処理とCu-CVD製膜の変調操作を採用して核発生・成長制御による理想的な界面構造形成を目指したものであり,全部で8章からなる。

 第1章では,本研究の着眼点,独創性について述べており,第2章においては本研究の背景となるULSI多層配線の変遷とCu配線技術の問題点,および,密着性と界面構造に関する既往の知見についてまとめている。

 第3章では,有機金属ガスを原料にしたCVD-Cu膜と種々の基板との密着性に関して検討した結果をまとめている。まず,試料の真空搬送が可能なCu-CVDシステムを構築し,Ta,TiNなどのバリヤメタルが形成されたSi基板上にCu膜を作製して密着力を引っ張り試験機を用いて評価した。また,X線光電子分光法(XPS)を用いて界面組成を測定し,界面に存在する酸素量と引っ張り試験結果との比較を行った。その結果,自然酸化膜が存在するとCu原子の弱い酸素親和性のため,基板との相互作用が弱くなり,密着力が弱くなることを明らかにした。

 第4章では,Cu原料が分解して残留するフッ素とTiN薄膜作製時に混入する塩素の密着性に及ぼす影響について検討している。その結果,フッ素は密着性には大きな影響は与えないが接触抵抗増加の恐れがあること,塩素は密着力を増やすことが実験結果から分かった。この二つの不純物がCu膜の密着力に与える影響の原因を調べるために,量子化学計算プログラムを用いてCu原子と各不純物が存在するTiN基板表面を想定したTiCl3,TiF3などの分子との物理的な相互作用を計算した結果,塩素が存在する場合は分散力が増えることによって密着力が増進されていることを明らかにした。

 第5章では,SEMとXPSによりCu膜の成長初期過程観測をした結果について述べている。従来はCu原子が凝集して三次元的に成長すると考えられていた。しかし,SEM,XPS,Micro-AESを用いて観察した結果,まずCu原子単層が形成され,その上に三次元的に核が生成するStranski-Krastanov型であることを明らかにした。

 第6章では,段差被覆性と残留不純物制御性に優れた変調操作CVD(Flow Modulation CVD, FMCVD)により生成したTiN膜とCVD-Cu膜とのプロセスインテグレーションについて検討した結果について述べている。TiC14とNH3を原料としたTiN薄膜形成では,変調操作を用いると残留塩素濃度を低減することができる。このようにして作製したTiN膜とCVD-Cu膜との密着性を評価した結果,塩素残留濃度が高い場合には密着力が増加するが,CVD-Cu膜の膜質を悪くすることを確認した。また,高残留塩素濃度のTiN膜はCuの拡散を防ぐバリア性が劣るため,残留塩素濃度は数%以下に制御する必要があることも明らかにした。

 第7章では,上記の検討結果をもとに,CVD-Cu膜の更なる密着性向上には新たな界面構造制御手段の導入が必要と判断し,プラズマ変調操作を用いたプロセス制御技術について検討した結果をまとめている。Cu-CVD製膜とプラズマ処理を行うことができる装置を作製して,周期的にCu原料供給とプラズマ表面処理を行い,密着性向上及び核発生の制御を行った。その結果,初期成長の段階でプラズマ操作を導入することによって密着性の向上ならびに核発生密度の増加という好ましい結果を得ている。

 第8章は結論であり,本研究の成果をまとめるとともに,将来展望について述べている。

 以上,本論文はULSI多層配線用Cu-CVDプロセスの初期過程を解析し,密着性との相間を検討するとともにプラズマ処理を導入して界面構造制御技術を確立したものであり,デバイスプロセス工学の発展に大いに寄与するものである。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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