学位論文要旨



No 116673
著者(漢字) 鄧,惟中
著者(英字)
著者(カナ) トウ,イチュウ
標題(和) ネットワークロボットシステムにおけるインタラクティブな操作法の研究
標題(洋) An Interactive Manipulation Approach for Networked Robot Systems
報告番号 116673
報告番号 甲16673
学位授与日 2001.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5085号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 舘,章
 東京大学 教授 南谷,崇
 東京大学 教授 廣瀬,通孝
 東京大学 助教授 中村,宏
 東京大学 講師 前田,太郎
内容要旨 要旨を表示する

 近年ネットワーク技術の著しい発達により,従来のテレロボットシステムをネットワーク経由で実装する研究が今まで盛んに行われてきた.この新しい応用分野のひとつの形にアールキューブ(R-Cubed),または実時間遠隔ロボット制御技術という研究開発構想があったのである.アールキューブの大きな特徴として,操作者はあたかも自分が遠隔地に居て振舞う感覚で遠隔地にあるロボットを操作する,いわばテレイグジスタンス方式でありながら,このロボット操作をネットワーク資源として個人が気軽に利用できるとの二点が挙げられる.本論文はアールキューブ構想を基にして,異機種・異構造のロボットシステムと操作するネットワーク端末を結びつける汎用性のもつ手法を開発提案する.

 提案した手法のシステム構成を図1に示す.ロボットをネットワーク資源として扱うため,クライアント・サーバ構造を取り入れる.また,ロボット側と操作者側の情報の入出力を行う機能上のユニットを入出力オブジェクトと呼び,そして任意の入力オブジェクト・出力オブジェクトのペアを可能にする構造を導入することで,異機種・異構造のロボットシステムに対するフレキシブルな操作系の実装が出来るようになる.さらに,物理デバイスやディスプレイが扱う特定形式の情報とネットワーク上を流れる標準形式の情報の間に変換を行うモジュールであるトランスレータという機構を導入することで,すべての実装システムが共通の通信プロトコルを利用できると図る.

 このシステム構成を実現するには,2つの基礎技術が必要とされる.一つはサーバである遠隔ロボットの情報記述,例えば遠隔環境の3次元モデル,ロボットの位置,入出力オブジェクト構成,自由度配置,制御パラメータなどが挙げられる.もう一つは上記のシステム構成に合わせたサーバとクライアントの間の通信プロトコルである.我々はその必要を満たすべく,アールキューブ操作言語(R-Cubed Manipulation Language, RCML)とアールキューブ通信プロトコル(R-Cubed Transfer Protocol, RCTP)を開発提案したのである.

 RCMLでは遠隔環境の3次元モデル記述をするのに,すでにISO標準になったVRML97を取り入れる.また,他の情報はVRML97のPROTO機能を用いて形式を定義し,表1のツリー構造になっている.RCML_Robotノードはサーバ全般の情報を記述しながら,layer 2のノードを包括する.システムノードはサーバとクライアントのシステム構成などの情報を記述し,入出力オブジェクトはその扱う情報の種類により違った種類のノードを用いてその情報を記録する.最後に,制御情報の入出力オブジェクトは通常複数存在するため,layer 3のノードに細分して記述するよう定義する.

 クライアントがサーバに接続し,操作を行う手順はRCTPに定義されるのである.一回のコネクションは三つの段階に細分できる:

(1)操作者がWWWサーバなどからRCMLファイルを入手し,クライアントソフトによりこのRCMLファイルを解析する.

(2)RCTPサーバに接続を要求し,RCMLファイルで記述した情報を元に利用可能なデバイスとディスプレイを割り当てる.

(3)制御を行うための接続を切断するまでの遠隔操作.

 1段階目はHTTPコネクションで実現できて,そして2と3段階目はRCTPコネクションに属する.RCTPでは,それぞれネゴシエーションフェーズとライブセッションフェーズと呼ぶ.ネゴシエーションフェーズではクライアントがオブジェクト単位でロボットの制御権を要求し,成功の場合ではサーバが許可を下すとともにオブジェクトのID及び初期値を発行する.ネゴシエーションフェーズの通信のやり取りはHTTP/1.0をベースに上位互換の形になっているが,オブジェクトの割り当ておよび次のフェーズへの移行をするためASSIGNとGOの二つの拡張メソッドを定義する.そして,ライブセッションフェーズの通信はバイナリモードで行われる.複数コマンド・データの多重送信を行い,通信のオーバーヘッドを回避するとともに,各トランスレータが独自に通信手段を持たずにすむような構成をとった.図2にシナリオの詳細を示す.

 RCML・RCTPシステム設計の有効性は,試験的実装システムにより検証を行った.入出力オブジェクト指向なシステム構成をとったため,フレキシブルな操作インターフェースを構築できることが確認されている.図3に実装システムを用いて操作するスクリーン画面を示す.

 結論として,本研究は異機種・異構造のロボットシステムと広範な入出力デバイスを結びつき,インターアクティブな操作を行うのに,汎用的なアプローチの開発および検証を行った.このアプローチにより遠隔ロボット操作システムの標準化の可能性も示されているのである.

図1 機能レベルのシステム構成

表1 RCMLにおけるノード構造

図2 RCTPコネクションのシナリオ

図3 クライアントの操作画面

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「An Interactive Manipulation Approach for Networked Robot Systems(ネットワークロボットシステムにおけるインタラクティブな操作法の研究)」と題し、5章からなる。ネットワーク技術が著しく発展しロボットやメカトロニクスが進展するなか、ロボット・メカトロニクス機器をネットワーク経由で自在に操作することを目指す研究開発が盛んに行われるようになってきており、ネットワークロボティクスという新たな分野が形成されつつある。しかし、既存のネットワークロボットシステムとしてはインターネットに公開されたロボットなどがあるものの、それらの操作ソフトウェアは専用システムであり、ネットワーク資源として要求される共通性や標準化が実現されていない。また、従来のWebブラウザを開発プラットフォームにしたアプローチでは、遠隔制御に対応する通信手段やユーザインタフェースをサポートしていないのが現状である。本論文は、人間型ロボットやマニピュレータなどのハイエンドなロボットシステムから、車輪型移動ロボット、あるいは首振りカメラなどのローエンドのロボット機器までを統一的に扱えるアールキューブ操作言語(R-Cubed Manipulation Language : RCML)を提案し、その具体的な言語を研究開発して、このシステムが共通性を有してネットワークロボットシステムに適用しうる新しい方式となりうることを、システムを構築して実際のロボットに実装することにより実証し、その有効性を示すことにより応用への道を拓いている。

 第1章「General Introduction(序)」は緒言で、テレオペレーションからテレロボティクスを経てアールキューブ(R-Cubed:Real-time Remote Robotics)構想で代表される所謂ネットワークロボティクスに至る歴史的な経緯を概観し、インターネットなどを利用する気軽さでロボットやロボット機器を操作するネットワークロボティクスの意義を明確にするとともに、従来のネットワークロボティクス研究ではネットワーク資源として要求される共通性や標準化が実現されていないという問題点を明らかにして、広範囲のロボットを共通の言語で記述しネットワークを介して制御するという本研究の目的と立場と意義を明らかにしている。

 第2章は、「RCML System Design(RCMLシステム設計)」と題し、アールキューブ操作言語の概念を明らかにし、その要求仕様を満たす具体的な設計法を提案している。提案するRCMLシステムは、システムとしての構造設計、システム情報を記述する言語RCMLおよび通信プロトコルRCTP (R-Cubed Transfer Protocol)の三つからなる。提案システムでは、ロボットをネットワーク資源として扱い、RCMLシステムをクライアント・サーバ構造として定義するとともに、ロボットと操作者側の操作装置を入力または出力する機能上のユニットから構成すると見なして、そのユニットをデバイスと呼び、さらにロボット側のデバイスと操作者側のデバイス間の情報交換ができるよう、各デバイスに依存した形式の情報とネットワーク上を流れる標準形式の情報間の変換を行うトランスレータを提案し導入している。RCMLは遠隔環境の3次元モデル、ロボットの位置、入出力オブジェクト構成、自由度配置、制御パラメータなどを記述する言語として定義される。提案方式では、遠隔環境の3次元モデルを記述するのに、すでにISO標準になったVRML97を取り入れることにより現在のインターネット環境での利用を容易にしている。その際、遠隔制御に関する情報をVRML97のPROTO機能を用いて形式を定義したツリー構造で系統的に記述することにより、遠隔操作に当たって必要な情報を容易に取り入れることができるようにしている。クライアントがサーバに接続し、実際の操作を行う手順はRCTPにより定義される。操作は、クライアントがWWWサーバなどからRCMLファイルを入手し、クライアントソフトによりこのRCMLファイルを解析することから始まる。次のネゴシエーションフェーズではRCTPサーバに接続を要求し、RCMLファイルで記述した情報を基に利用可能なデバイスとディスプレイを割り当てることで広範囲の機器への対応を可能としている。その後のライブセッションで実際の遠隔操作を行う。ライブセッションでの通信はバイナリモードで行われる。複数コマンド・データの多重送信を行うことで、通信のオーバーヘッドを最小限にするとともに、各トランスレータが独自に通信手段を持たなくとも済むような構成としている。

 第3章は「System Implementations(システム実装)」と題し、RCMLシステム設計の有効性を試験的実装システムにより検証している。実装に用いたロボットはパンチルトカメラ、自律移動ロボットおよび作業用マニピュレータの3種類で、すべてのロボットがTCP/IPネットワークによりPCで操作できるよう実装されている。RCMLシステム設計により、ロボットに対応したトランスレータを用意することで、上記の異なるすべてのロボットやロボット機器を同一のサーバプログラムで制御することに成功している。一方、クライアント側のPCではGUI,ジョイスティックならびに3次元位置センサを用いて制御オブジェクトを実装している。カメラからの映像に加えて、ロボットの姿勢や位置を示すVRMLモデルの提示を可能とし、その結果、ユーザは同一のクライアントを用いて三つの異なるロボットを遠隔操作することができる。

 第4章は「Tactics for Easier Manipulation(簡易操作のための方法)」と題し、RCMLシステムの操作性を高める手段や可能性についての提案を行っている。従来の遠隔制御システムでは通信に生じる時間遅延に対処する手段として、プレディクティブディスプレイ技術を用いることが多い。従って本論文でも、プレディクティブディスプレイ技術を制御出力オブジェクトの一つとして実装する手法を提案し、簡単な実装例を示している。また、第3章で実装した単純なGUIオブジェクトによる操作の欠点を検討し、種々のハードウェアインターフェースの自由度を考慮した上でこれらを直接にロボット側のオブジェクトに対応させる、より直感的な操作インターフェースの構築法を提案するなど、提案方式をさらに有効に利用するための幾つかの工夫を行っている。

 第5章「Conclusion(結論)」は結論で、本論文の結論をまとめている。

 以上これを要するに、本論文では、異機種・異構造のロボットシステムと広範な入出力デバイスを結びつけ、現在のインターネット環境で、インタラクティブな操作を行うための汎用的なアプローチの開発および検証を行ったものであり、このアプローチにより遠隔ロボット操作システムの標準化の可能性も示されるなど、ネットワークロボットシステムにおけるインタラクティブな操作法構築に対しての有力な手段を提供しつつ応用への道を拓いたものであって、システム情報学及びロボット工学に貢献するところが大である。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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