No | 116680 | |
著者(漢字) | 劉,長明 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | リュウ,チョウメイ | |
標題(和) | 豚伝染性胃腸炎ウイルス核蛋白質遺伝子のクローニングと発現およびDNAワクチンの構築 | |
標題(洋) | Cloning and Expression of Porcine Transmissible Gastroenteritis Virus Nucleoprotein Gene and Construction of DNA Vaccine | |
報告番号 | 116680 | |
報告番号 | 甲16680 | |
学位授与日 | 2001.09.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第2337号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 豚伝染性胃腸炎(TGE)は嘔吐,水様下痢を主徴とするウイルス性の急性伝染病である。本病はすべての豚に感染するが,発病率および死亡率は幼齢豚ほど高い。原因ウイルスであるTGEウイルス(TGEV)の生ワクチンしてより大規模な発生は激減したが,臨床症例の増加が報告されている。この理由としては野外での生ワクチンの効果が不十分であることが考えられる。TGEV粒子はスパイク糖蛋白質(S),膜糖蛋白質(M)および核蛋白質(N)という3種類の構造蛋白質を持つ。S糖蛋白質は腸管における定着性に関与し中和抗体の結合部位が存在する。M糖蛋白質はα-interferon免疫応荅を誘導する。N蛋白質はウイルスの複製や転写に関係し,細胞性免疫を誘導する。本研究では,N蛋白質の遺伝子をクローニングして,大腸菌の発現システムを用いて組換えN蛋白質を発現し,抗TGEV抗体の検出を目的とした間接ELISA法を開発するとともして,DNAワクチン開発を試みた。結果は以下の通りである。 1. TGEV N蛋白質の遺伝子解析および発現 TGEVのT014野外株を豚腎細胞(CPK)で増植させ,ショ糖密度勾配遠心で精製し,ウイルスのRNAを得た。精製RNAを鋳型としてRT-PCR法でN蛋白質遺伝子のcDNAを増幅し,大腸菌用発現ベクター(pTrcHis)のNheI-EcoRIサイトに挿入した。N蛋白質遺伝子の塩基配列(1149 b)を公表されている他のTGEV株の塩基配列と比較したところ,相同性はFS772/70, TF1, Purdue115およびBritain 96-1933株とそれぞれ98%, 97%, 98%および96%であった。大腸菌発現系でN隔合蛋白質を発現し,SDS-PAGEおよびWestern-Blotting法で48.7kDaの発現蛋白産物を検出した。 2.抗TGEV抗体の検出を目的とした組換えN蛋白質を用いた間接ELISA診断法の開発 TGEVのN蛋白質は感染に際して最も大量に合成、発現され,かつ非常に安定な蛋白質なので,TGEの診断に適した標的分子であると考えられる。そこで,第一章で作成した組換えN−末端にhistidineタグを持ったN蛋白質を作製し,アフィ二ティーカラムで精製するとともに間接ELISA法への利用を試みた。TGEV中和試験陰性豚血清101サンプルと陽性豚血清141サンプルを用いて組換え蛋白質(rnELISA)および精製ウイルス粒子(pvELISA)を抗原とするELISA法を比較したところ,共に同程度の感度(それぞれ98.6%と97.9%)と特異性(それぞれ98.0%と99.0%)を示し,両者の測定値に高い相関性(R=0.829)が見られた。この結果は組換えN蛋白質がTGE診断用のELISA抗原として代用し得ることを示しており,組換え蛋白質の利点を考慮すると取り扱いが平易なTGE診断法を提供するものと期待される。 3. TGEVのN蛋白質遺伝子を用いたDNAワクチンの構築 TGEVのN蛋白質遺伝子のcDNAを哺乳類細胞用発現ベクター(pcDNA3.1)に挿入し,組換えDNAワクチン(pcDNA/N)を構築した。哺乳動物類COS7細胞にリポフェクチン法で遺伝子導入し,発現したN蛋白質が抗原性を持つことを免疫蛍光抗体法によって確認した。このベクターの免疫原性を評価するために異なる投与量(マウス1匹あたり50,100および200μg)の精製DNAを5週間隔で二回BALB/cマウスの筋肉内に接種し,上述のpvELISAを用いて特異抗体の検出を試みた。その結果,pcDNA/Nを接種した全てのマウスで抗体産生が認められ,少なくとも11週目まで持続した。最適の応答はマウス1匹あたり100μg DNAを接種した群で観察された。この抗体はTGEVに対する中和活性は有していなかった。Western-Blotting分析によって産生された抗体はN蛋白質と思われる分子量47kDaのバンドと特異的に反応することが明らかとなった。抗体のサブクラスはIgG2aが優勢的で,これはpcDNA/N接種マウスにおけるTh1型細胞の活性化を示唆するものと考えられた。またこのマウス由来の脾細胞はTGEVワクチン株に対して強い応答を示すことが確認された。これらの結果は本ベクターが生体内でTGEVに対する液性ならびに細胞性の免疫応答の両者を効率的に誘導し得ることを示している。またDNAワクチンの追加投与に対しては強い既往応答を示すので,記憶T細胞の誘導能をもつと考えられ,幼豚の早期免疫賦与にも利用できる可能性が示唆された。 本研究で得た研究成果は,TGEV遺伝子の組み換え体を用いた本病に対する新しい診断法,予防用のワクチン技術の開発が可能であることを示唆している。組換えN蛋白質をTGE診断用のELISA抗原として代用することにより,取り扱いが平易で安全性の高いTGE診断法の確立が可能となった。TGEV感染と免疫については腸管内のIgA抗体や細胞性免疫の重要性が明らかにされてきている。DNAワクチンの免疫特徴は弱毒生ワクチンとおなじように抗原提示細胞内で新たに抗原蛋白が作られることになる。これら抗原は弱毒生ワクチンと同様にMHCクラスIを介しての細胞免疫を誘導しやすい利点をもつ。今回はマウスでの基礎試験を行なったが,細胞性の免疫応答を効率的に誘導し得ることを示唆された。今後はマウスでの基礎データをさらに積みかさねるとともに豚での臨床試験を試なければならない。 | |
審査要旨 | ブタ伝染性胃腸炎(TGE)は嘔吐,水様下痢を主徴とするウイルス性の急性伝染病である。原因ウイルスであるTGEウイルス(TGEV)はすべての豚に感染するが,発病率および死亡率は幼齢豚ほど高い。本ウイルス(に対して生ワクチンが実用化され大規模な発生は激減したが,近年臨床症例の増加が報告されている。この理由としては野外での生ワクチンの効果が不十分であることが考えられる。TGEV粒子はスパイク(S),膜(M)および核(N)という3種類の構造蛋白質を持つ。S糖蛋白質は腸管における定着性に関与し中和抗体の結合部位が存在する。M糖蛋白質はα-interferonを誘導する。N蛋白質はウイルスの複製や転写に関係し,細胞性免疫を誘導する。本研究では,N蛋白質の遺伝子をクローニングして,大腸菌の発現システムを用いて組換えN蛋白質を発現し,抗TGEV抗体の検出を目的とした間接ELISA法を開発するとともに,DNAワクチン開発を試みた。 第一章ではTGEV N蛋白質の遺伝子解析および発現について記載した。TGEVのTO14野外株を豚腎細胞(CPK)で増植させ,ウイルス粒子をショ糖密度勾配遠心法で精製し,ウイルスRNAを抽出した。精製RNAを鋳型としてRT-PCR法でN蛋白質遺伝子のcDNAを増幅し,大腸菌用発現ベクター(pTrcHis)のNheI-EcoRIサイトに挿入した。N蛋白質遺伝子の塩基配列(1149 b)を公表されている他のTGEV株の塩基配列と比較したところ,相同性はFS772/70, TF1, Purdue115およびBritain96-1933株とそれぞれ98%, 97%, 98%および96%であった。大腸菌発現系でN蛋白質を発現し,SDS-PAGEおよびWestern-Blotting法で48.7kDaの発現産物を検出した。 第二章では組換えN蛋白質を用いた抗TGEV抗体の検出を目的とする間接ELISA診断法の開発について記載した。TGEVのN蛋白質は感染時に最も大量に発現され,かつ非常に安定な蛋白質なので,TGEの診断に適した標的分子であると考えられる。そこで,第一章で作成したN-末端にhistidineタグを持った組換えN蛋白質をアフィニティーカラムで精製するとともに間接ELISA法への利用を試みた。TGEV中和試験陰性豚血清101サンプルと陽性豚血清141サンプルを用いて,組換え蛋白質(mELISA)および精製ウイルス粒子(pvELISA)を抗原とするELISA法を比較したところ,共に同程度の感度(それぞれ98.6%と97.9%)と特異性(それぞれ98.0%と99.0%)を示し,両者の測定値には高い相関性(R=0.829)が見られた。 第三章ではTGEVのN蛋白質遺伝子を用いたDNAワクチンの構築について記載した。TGEVのN蛋白質遺伝子のcDNAを哺乳類細胞用発現ベクター(pcDNA3.1)に挿入し,組換えDNAワクチン(pcDNA/N)を構築した。動物細胞(COS-7)にリポフェクチン法で遺伝子導入し,発現したN蛋白質が抗原性を持つことを免疫蛍光抗体法によって確認した。このベクターの免疫原性を評価するために異なる投与量(マウス1匹あたり50,100および200_g)の精製DNAを5週間隔で二回BALB/cマウスの筋肉内に接種し,上述のpvELISAを用いて血清中の特異抗体の検出を試みた。その結果,pcDNA/Nを接種した全てのマウスで抗体産生が認められ,少なくとも11週目まで持続した。最適の応答はマウス1匹あたり100μg DNAを接種した群で観察された。この抗体はTGEVに対する中和活性は有していなかった。Western-Blotting分析によって産生された抗体はN蛋白質と思われる分子量47kDaのバンドと特異的に反応した。抗体のサブクラスはIgG2aが優勢的で,これはpcDNA/N接種マウスにおけるTh1型細胞の活性化を示唆するものと考えられた。これらの結果は本ベクターが生体内でTGEVに対する液性ならびに細胞性の免疫応答の両者を効率的に誘導し得ることを示している。 本研究で得た研究成果は,TGEV遺伝子の組換え体を用いた本病に対する新しい診断法,予防用のワクチン技術の開発が可能であることを示している。組換えN蛋白質をTGE診断用のELISA抗原として代用することにより,取り扱いが平易なTGE診断法が確立した。また,DNAワクチンの免疫原性についてマウスで基礎試験を行なったところ,液性および細胞性の両免疫応答を効率的に誘導し得ることが示唆された。今後はマウスでの基礎データをさらに積みかさねるとともに豚での臨床試験を試みなければならない。当研究はTGEVに対するDNAワクチンについて新たな知見を示した。よって、審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 | |
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