学位論文要旨



No 116701
著者(漢字) 朴,奎相
著者(英字)
著者(カナ) パク,キュウサン
標題(和) 個人と社会を媒介する市場の役割とその変化 : 消費行為からみた情報ネットワーク社会の展望
標題(洋)
報告番号 116701
報告番号 甲16701
学位授与日 2001.11.05
学位種別 課程博士
学位種類 博士(社会情報学)
学位記番号 博人社第340号
研究科 人文社会系研究科
専攻 社会文化研究専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 須藤,修
 東京大学 教授 廣井,脩
 東京大学 教授 姜,尚中
 東京大学 教授 橋元,良明
 東京大学 助教授 田中,秀幸
内容要旨 要旨を表示する

 本研究は「消費者として個人」が情報ネットワーク社会の形成に果たしている役割に関心をおいて、行為としての「消費」と主体としての「消費者」と社会の関係、そしてその関係においての場またはメカニズムとしての「市場」を分析対象にし、情報ネットワーク化による変化とその方向性を探ることを目的にする。

 まず本研究は個人と社会との関係に「相互規定性」という観点をとり入れ、個人がアイデンティティをもって自分を規定するためには社会が必要であり、また社会がアイデンティティをもつためには個人の行為が必要だというものである。したがって、個人の自由行為である消費はただ商品の使用価値を求めるだけのものではなく、社会的意味における側面をもり、また市場は「個人」と「社会」を結ぶ場とメカニズム、すなわち媒介的な役割をもつものとして位置づけ議論を進めた。

 その結果、「消費者−商品−社会」の関係は、消費者と社会との間を媒介する役割をしながら、選択機構としての市場の外側に新たな消費者同士の評価機構としての関係が成立し、この消費者間関係は次第に既存の市場のもつ選択・評価機能を補完する関係になるか、またはそれより優位に立つようになる可能性もあることを明かにした。

 また個人は消費という行為を通して社会の変化に参加することになるが、その消費は関係形成のメカニズムまたは場としての市場によって組織化される、そして今日の情報ネットワーク社会の到来によって新しく登場し成長している市場はより密接な消費者間関係とより多様な選択・評価のための環境を提供しながら個人の行為を組織化することを、主に電子商取引と電子マネーの発展を中心に議論した。

 インターネットの普及による電子商取引の発展はより消費者主導の性格の強い市場を登場させることにより消費者間関係を強化し、またネットワークと電子マネーの発展は市場で個人が自分のアイデンティティを基盤にした消費がより行いやすい環境を構築されることを可能にする。そして情報ネットワーク社会では消費者には自分のアイデンティティにマッチした社会的ネットワークの選択肢が増え、そのネットワークを通じてアイデンティティを普及させることができ、また当該のネットワーク評価を高めることによって自分の望ましい社会アイデンティティを獲得することができる。

 このように考察から情報ネットワーク社会の到来による市場変化の方向性を「アイデンティティ重視への転換」という観点から論じ、市場とは有機的な関係から形成されるもので、消費者は市場に参加し自由に対話(自己を語る行為)することで変わっていき、この市場と消費者の相互作用によって社会はある方向性をもって転換するが、情報ネットワーク社会ではその方向性はアイデンティティ重視というものであることに明かにした。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、情報学、社会学、社会心理学、経済学、経営学、メディア論など多領域にわたる膨大な先行研究を踏まえて、消費者としての個人と市場との相互作用的関係、消費者としての個人と社会との相互作用的関係について着実な考察を行い、その上で情報ネットワーク社会の進展という社会変化において個人はどのような役割を演じるのかという点について考察し、消費者としての個人が情報ネットワーク社会の形成に果たしている役割、あるいは果たしうる積極的な役割について明らかにしている。

 本論文は、序論、4つの章、及び結論の6つの章から構成されている。序論での問題設定及び研究アプローチの提示につづき、第1章「<個人−社会>の相互規定性とアイデンティティ」において個人と社会の関係についての研究動向と本研究アプローチとの関連について検討し、第2章「消費と社会」において消費行為におけるアイデンティティなどの消費と社会との関係、普及による社会変化について考察し、消費−市場−社会の連関を整理し、第3章「関係形成の場とメカニズムとしての市場」において市場がもつ消費行為を集散化する場または制度としての特性について考察を展開している。そしてこれまでの考察を踏まえて第4章「情報ネットワーク社会の市場変化とその方向」と結論において情報ネットワーク社会における市場変化の具体的動向、それに伴う消費行為との相互作用の様態について考察し、情報ネットワーク社会における個人の消費行為と市場の変化の方向性を明らかにしている。

 本論文は、多くの研究領域にまたがる膨大な研究業績を踏まえて個人と社会との相互作用的関係、個人と市場との相互作用的関係に関して基礎的考察を慎重に展開し、情報ネットワーク社会の進展状況と消費者としての個人の相互規定的関係、相互作用的関係を明らかにしている。さらに、第3章までの慎重かつ基礎的考察が第4章にすべて生かされているとはいえないが、(1)情報化という社会変動プロセスにおけるアイデンティティのあり方、(2)個人がいかに社会変動プロセスに影響を及ぼすのかという点、(3)ありうべき情報ネットワーク社会の要件について独自の見地より展望を行っており、学術的に意義のある論文である。よって審査委員会は、本論文が博士(社会情報学)の学位に相当するものと判断する。

UTokyo Repositoryリンク