No | 116703 | |
著者(漢字) | 郭,志徹 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カク,シテツ | |
標題(和) | 波長走査干渉計の信号処理及び誤差の検討に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 116703 | |
報告番号 | 甲16703 | |
学位授与日 | 2001.11.15 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5094号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 精密機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 微細加工技術の進歩に伴い,微細加工面や光学部品などの表面形状の非接触,非破壊的な評価に対する要望は高まる一方である.光を用いる形状測定は非接触かつ非破壊であるため,このような用途に適した手法といえる.このような要望に答えるため,3DFD (3 Dimension Functional Digitizer)開発プロジェクトが行われている.3DFDとは,理化学研究所で開発された高速波長可変レーザ技術を応用して,3次元物体の形状や表面状態を計測し,デジタル数値化して情報処理するためのツールである.複雑な三次元の形状を光学的に非接触で,マイクロメータの精度で能動計測できることが本装置の開発によって初めて可能になる.主な計測対象と用途は,精密電子部品、自動車のパーツなど幅広い工業製品の高速デジタル評価から美術品や生体植物などの計測まで,非接触・高速・高精度なデジタイジングや対象の形状と表面状態をすべてモデリングするためのツールである. このプロジェクトにおいて,波長走査干渉計を用いた三次元形状デジタイジングがキーとなる技術開発である.本研究は,レーザ応用における光計測技術である波長走査干渉計に関し,形状計測装置の開発を目指し,その計測システムの構築,自動測定の信号処理および測定精度の検討について総合的に研究を実施したものである. 1.波長走査計測システムの構築 高速,高精度の波長走査干渉法を用いた三次元形状測定装置の開発をめざして,広い波長可変幅を特徴とする電子制御波長可変Ti : Sapphireレーザを光源とした干渉計の研究開発を行っている. 計測システムの構築について,測定の奥行き分解能が掃引幅に制限された波長走査干渉計は,従来光源の波長掃引幅が狭かったため,表面形状計測として応用されることが少なかった.そこで,広帯域波長可変レーザの開発と共に,波長走査干渉計の奥行き分解能が大幅に向上し,他の干渉計測法と同等測定分解能におよんだ.高速,高精度な表面形状の測定を実施するために,電子制御波長可変レーザ(Electronically tuned laser)やマルチポット高速CCDカメラ(MCCD),波長走査干渉計,光ファイバ,同期制御用信号発生ユニット(Signal generator unit),計測用計算機(Measurement PC)などの装置により波長走査干渉計自動測定システムを構築した. 計測用計算機を用い,同期制御用信号発生ユニットを介して,可変レーザに波長を走査させながらMCCDから対象物の干渉信号を同期に取り込む.干渉信号の自動周波数解析により対象物の表面形状を得られる.可変幅が約170nmの広帯域波長可変レーザを用いて,従来低かった波長走査干渉計の分解能を約2μmまで大幅に高めることに成功した. 2.自動測定の信号処理 光源の波長掃引幅を広げたことで波長走査干渉計の奥行き分解能が大幅に向上したが,スペック的にはまだマイクロメータ程度で,微細形状測定に対しての応用面は限られていた.これに信号処理手法で対応するため,まず,レーザの出力の変動や波長の誤差によるノイズ,量子化された干渉信号の情報限界それぞれに対応した自動解析法における信号処理の技術で,信号−雑音比の改善や奥行き分解能をナノメータ程度までの向上などを波長走査干渉計自動測定システムのために自動測定の信号処理に関する研究を行った. 波長走査干渉計に対する信号処理は,信号の前処理や周波数の解析及び補間法などを用い,信号処理の手順を決めることにより自動化を完成した.波長走査干渉法における膨大なデータに対して,信号の解析を高速化,自動化するために,信号処理の手順を考え,コンピュータによる自動解析を実現した. 波長740〜842.3nm (102.3nm)の波長走査幅で等波数間隔になるように1024枚の干渉パターンを取り込んで処理した場合,波長幅により測定の奥行き分解能は約3.0μmとなる.これに対して,周波数の検出に補間法(peak interpolation)を用いることによって測定分解能を0.04μmまで向上させ,実際に連続している表面形状を滑らかに検出することができた. 3.測定精度の検討 測定精度に影響する要因をハードウェアおよびソフトウェア二種類に分類し,それぞれの原因を検討した.現時点では,ハードウェア的な要因に装置の性能や技術の限界があるため改善成果が制限されている.一方,ソフトウェア的な要因に波長走査干渉法の測定誤差に影響を及ぼす主な要因が波長の掃引精度であることが分かった上で波長の掃引誤差を検討した.波長走査干渉法に深く関る波長掃引における誤差の検討より,波長掃引校正法,波長の掃引誤差による測定誤差の推定を行った. 波長の掃引精度は直接に波長走査干渉計の測定精度に影響を与える.波長の掃引精度の検討により,掃引誤差は系統誤差と偶然誤差を二種類に分けて検討した.波長掃引の系統誤差は波長掃引テーブルに系統的な要因で誤差を伝播するため,波長校正を行なうことで大幅に減少できる.波長掃引の系統誤差を補正するために,波長計による校正法および瞬時周波数による校正法を比較し校正精度を評価した.瞬時周波数による校正法は余計な設備の必要がなく,補正効率が高く,校正した精度も高いことが分かった. 一方,波長掃引の偶然誤差はランダムの要因で誤差を伝播するため校正できないが,測定精度にも影響を及ぼすために,総合的な波長掃引誤差から測定誤差への伝播を理論的に検討する必要がある.波長走査干渉法の測定誤差を推定するために,まず波長の掃引誤差を求める手法を確立して,誤差の伝播理論や最小二乗法を用い,波長掃引誤差から波長走査干渉法の測定誤差へ伝播する理論を導いた.そして,波長掃引の系統誤差と偶然誤差の両方面から総合的に誤差伝播モデルを考案して,実験的な測定誤差から最適な誤差伝播モデルを評価し,波長掃引誤差による測定誤差の推定法を確立した.評価の結果によると,測定誤差は実際の測定高さが高くなると共に大きくなることが分かった.それに,測定誤差は主に波長掃引の系統誤差に左右されることも分かった. 誤差推定法の確立により,測定結果に対する不確かさが評価できる.測定結果に不確かさを評価することによって,測定データ量の減少や走査測定による測定結果の張り合わせの処理などに対して重要な評価手法が確立された. 以上のように,本論文は,高速波長可変レーザを用いた形状測定システムを開発したばかりでなく,このシステムを高精度化するための信号処理手法,誤差推定手法を確立した工業的にも有用なシステム構築が行えた. | |
審査要旨 | 本論文は,「波長走査干渉計の信号処理及び誤差の検討に関する研究」と題し,波長走査干渉計により三次元形状を測定する場合における,新しい信号処理手法を開発し,その誤差評価技術を確立している. 微細加工技術の進歩に伴い,微細加工面や光学部品などの表面形状の非接触,非破壊的な評価に対する要望は高まる一方である.光を用いる形状測定は非接触かつ非破壊であるため,このような用途に適した手法といえる.本研究は,レーザ応用における光計測技術である波長走査干渉計に関し,形状計測装置の開発を目指し,その計測システムの構築,自動測定の信号処理および測定精度の検討について総合的に研究を実施したものである. まず,高速,高精度な表面形状の測定を実施するために,電子制御波長可変レーザ(Electronically tuned laser)やマルチポット高速CCDカメラ(MCCD),波長走査干渉計,光ファイバ,同期制御用信号発生ユニット(Signal generator unit),計測用計算機(Measurement PC)などの装置により波長走査干渉計自動測定システムを構築した.計測用計算機を用い,同期制御用信号発生ユニットを介して,可変レーザに波長を走査させながらMCCDから対象物の干渉信号を同期に取り込む.干渉信号の自動周波数解析により対象物の表面形状を得られる.可変幅が約170nmの広帯域波長可変レーザを用いて,従来低かった波長走査干渉計の分解能を約2μmまで大幅に高めることに成功した. 波長走査干渉計に対する信号処理は,信号の前処理や周波数の解析及び補間法などを用い,信号処理の手順を決めることにより自動化を完成した.波長走査干渉法における膨大なデータに対して,信号の解析を高速化,自動化するために,信号処理の手順を考え,コンピュータによる自動解析を実現した.さらに,周波数の検出に補間法(peak interpolation)を用いることによって測定分解能を0.04μmまで向上させ,実際に連続している表面形状を滑らかに検出することができた. 誤差推定法の確立により,測定結果に対する不確かさが評価できる.測定結果に不確かさを評価することによって,測定データ量の減少や走査測定による測定結果の張り合わせの処理などに対して重要な評価手法が確立された. 以上のように,本論文は,高速波長可変レーザを用いた形状測定システムを開発したばかりでなく,このシステムを高精度化するための信号処理手法,誤差推定手法を確立した有用なシステム構築が行え,工学的に大きく寄与すると考えられる.よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
UTokyo Repositoryリンク |