学位論文要旨



No 116721
著者(漢字) 大河内,謙太郎
著者(英字)
著者(カナ) オオコウチ,ケンタロウ
標題(和) 増殖抑制性蛋白質Tobの分子生物学的機能解析:TobによるmRNAの翻訳制御
標題(洋) Molecular biological analysis for the antiproliferative protein Tob : Implication of Tob in translational control of messenger RNA
報告番号 116721
報告番号 甲16721
学位授与日 2001.12.19
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1869号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡山,博人
 東京大学 教授 宮園,浩平
 東京大学 教授 中村,義一
 東京大学 教授 横田,崇
 東京大学 助教授 仁木,利郎
内容要旨 要旨を表示する

1.研究の背景

 受容体型チロシンキナーゼErbB-2の細胞内領域に会合する分子としてFar-western screening法により新規遺伝子tob(transducer of Erb B-2)がクローニングされた。Tobタンパク質はヒトB細胞リンパ腫細胞株より同定されていたBtg1(B cell translocated gene 1)及びNGF刺激下でPC12細胞にて発現誘導されるPC3の両者とN端側に高い相同性のある領域(THD:Tob homology domain)を持ちファミリーを成している。Tobは他のファミリーと同様に過剰発現により細胞増殖抑制能を示し多細胞生物で広く保存されているが、その分子機能はほとんど不明であった。Tob、Btg1及びPC3は,yeastでは転写に関与すると考えられているCaf1と結合する事が知られてはいたものの、Tobファミリーは主に細胞質に分布する為もありその解析は進展が見られなかった。Tobファミリーは非常に不安定なタンパク質であるが、多くのタンパク質群と共に巨大な複合体を形成する事は観察されていた。又、Btg1及びPC3がprotein arginine N-methyltransferase(RRMT)-1との結合を介してmRNAの制御に関与する事も示唆されている。Tobは半減期が数分以内と不安定である為、内在性のタンパク質の検出は困難だが、T細胞では十分検出可能であった。

2.T細胞におけるTob結合分子iPABP/PABPの同定

 TobのヒトT細胞における分子生物学的な機能解析の手がかりとして、まずTobに会合する分子のfar-western screening法による同定を試みた。プローブとしてTobのN端側(THD)を用いて,Jurkat human T cell leukemia cDNAライブラリーのスクリーニングを行い、4つのポジテイブクローンを得た。一つはpoly(A)-binding protein(PABP)、そして他の3つはinducible poly(A)-binding protein(iPABP)をコードしていた。PABPは翻訳開始において、mRNAのcap結合タンパク質eIF4Eに結合したeIF4Gとpoly(A)tailの両者を結ぶ事でmRNAのcircularizationを惹起して翻訳開始を促進する。又、これ以外にも,mRNAのmaturation、transport, stabilizationを促進するなど多様な機能を持っている。iPABPはT細胞活性化刺激により発現誘導されるPABPのホモローグであるが、その機能は不明であった。

 これらのTob結合分子として同定されたPABP及びiPABPの相互作用をin vitro及びin vivoで確認した結果、Tobは両者と結合するが、特にiPABPと強く結合する事を示した。さらにiPABPのC端側の様々なdeletion mutantを用いてiPABPの580-605番目のアミノ酸がTobとの結合に必要である事を明らかにした。

3.IL-2mRNAのiPABP及びTobによるin vitroでの翻訳制御

 次にiPABPのC端側とTobが会合する現象の生理的意義を解析する手がかりとして、iPABPが細胞質に局在する為、まずpoly(A)tailを持つintronの除去されたmRNAへのiPABPタンパク質の影響を調べた。iPABPがT細胞活性化に重要であると予想される事、さらに同時期に、抗リウマチ療法を研究する英国のグループが、ヒト末梢血T細胞へのアナジー誘導性T細胞受容体刺激によるdifferencial screeningを行い、著明に発現が誘導される遺伝子としてtob mRNAを同定していた事などから,T細胞のオートクライン増殖因子であるinterleukin-2(IL-2)mRNAに着目した。

 ヒトIL-2 mRNA及びコントロールのluciferase mRNAの翻訳効率に対するiPABPタンパク質及びTobタンパク質の影響をin vitro cell-free systemを用いて調べた。その結果、iPABPが、コントロールのluciferase mRNAに比較してIL-2 mRNAの翻訳を選択的に促進する事を見い出した。又、Tobがこれを量依存的に阻害する事を示した。さらに、先に明らかにしたTobとの結合領域を欠いたiPABPのmutant(iPABPΔ)は、IL-2 mRNAの翻訳を顕著に促進はせず、Tobの影響による翻訳抑制も受けなかった。これらの結果から、iPABPタンパク質により促進されるIL-2 mRNAの翻訳阻害には、iPABPとTobの結合が重要である事が示唆された。さらにこのTob及びiPABPを介したIL-2 mRNAの翻訳制御には3'非翻訳領域(3'UTR)から下流のRNAの配列が必要である事も明らかにした。

4.TobによるIL-2 mRNAのin vivoにおける翻訳制御機構

 さらに、in vivoでのIL-2 mRNAの翻訳へのiPABP及びTobの作用を調べる為にiPABPのNIH3T3安定発現株(M-iPABP-NIH3T3)を樹立し、Tob及びヒトIL-2の発現ベクターをトランスフェクションした。IL-2及びコントロールのGST mRNAの発現は,Tobの過剰発現の有無に関わらず同程度に検出された。しかし、ウエスタン解析でタンパク質の発現レヴェルを調べると、GSTに比較してIL-2の産生がTobの過剰発現により阻害されていた。この結果より,TobがIL-2の産生を転写後調節のレヴェルで抑制する事が示唆された。新鮮なヒト末梢血T細胞では、アナジー誘導性刺激でIL-2の転写は半減するだけであるが、IL-2の産生はゼロになるというギャップが存在し、ここではIL-2 mRNA選択的なribosomal-loadingの障害が存在する事が既に報告されていた。真核生物では翻訳開始において,PABPがそのN端側のRRM(RNA recognition motif)1及び2でmRNAのpoly(A)tailを認識し、RRM2でeIF4Gと結合してmRNAはclosed-loopを形成する。これにより40S ribosomeのeIF4Gへの結合とPABPを介した60S ribosomal-joiningが促進され、開始コドンの運び込みが始まる。

 そこでまず、IL-2 mRNAへのribosomal-loadingを調べる為に、上記でトランスフェクションしたM-iPABP-NIH3T3のライセートを15-45%ショ糖密度遠心勾配で分画し、polysome fractionを分析した。各20分画をUV吸光度計を用いて、A254でpolysomeの分布をモニタリングした後、各分画ごとのtotal mRNAを抽出してslot-blot northern解析を試みた。コントロールのGST mRNAの各分画における分布は、Tobの過剰発現の影響をほとんど受けなかった。これ対して、IL-2 mRNAの量は、Tobを同時に過剰発現したM-iPABP-NIH3T3のライセートのpolysome分画において顕著な減少を認めた。さらに60S分画での著明なIL-2 mRNAの減少とは逆に40S ribosomeの分画ではむしろ集積を認めた。

5.ヒト末梢血T細胞アナジーにおけるTobの発現誘導

 最後に、新鮮なヒト末梢血からT細胞を採取して、T細胞受容体刺激を行った。プレートコートした抗CD3モノクローナル抗体単独でのアナジー誘導性刺激では、刺激開始後6時間をピークに、著しいTobタンパク質の発現誘導が観察された。iPABPタンパク質は無刺激の時と同程度の弱い発現を呈し、IL-2タンパク質は全く発現が検出されなかった。一方、プレートコートした抗CD3モノクローナル抗体と共に抗CD28モノクローナル抗体によるcostimulationを加えたT細胞活性化刺激では、iPABP及びIL-2タンパク質の強い発現誘導が観察されたが、Tobタンパク質の発現は見られなかった。更に、このアナジックな刺激及び活性化刺激6時間後のライセートを抗Tobモノクローナル抗体で免疫沈降した結果、アナジー誘導性刺激下の場合のみiPABPの共沈が認められた。これよりTobはT細胞アナジー誘導性刺激下で発現誘導されかつ少量ながら存在するiPABPと結合する事が示された。

6.結論と考察

 以上の実験により、TobはiPABPのC端側と結合しiPABPによるIL-2 mRNAの選択的な翻訳効率の上昇をTobが阻害する事、又、このIL-2 mRNAの翻訳制御にはiPABPのTobとの結合領域及びIL-2 mRNAの3'UTRより下流の配列が必要である事を示した。またiPABP存在下でのTobの過剰発現によるIL-2 mRNAの転写後調節による蛋白生成阻害は主にの60S ribosomeのloadingの疎害による事を明らかにした。更にTobはアナジー誘導性刺激下のヒト末梢血T細胞で強く発現誘導され、iPABPと結合する事を確認した。

 PABP及びiPABPはN端側に保存された4つのRNA認識モチーフ(RRM)をもつがC端側(PABC)も有核細胞生物間で保存されており、特にC末端(CTC)は非常に高い保存性を持つ。またPABCはPAIP、eRF3、hnRNP Eなど様々な因子と結合する他、3'-poly(A)organizingや60S ribosomal-joiningに貢献する、また意義は不明であるが、PABCを介してheterodimerを形成する。iPABPもPABPと同様に60S ribosomeのIL-2 mRNAへのloadingを促進すると仮定すると、Tobによって直接または間接的にこのribosomal-joiningが阻害された事が考えられる。

 転写されたmRNAが安定に細胞質に搬送される過程では,mRNAの3'UTRやcoding region内の特定の領域(mCRD)に結合する蛋白質及び、PABPやPABPに結合する蛋白質によりマスクされた大きなmRNP複合体が形成されている。これによりdeadenylaseやribosomeのmRNAへのアクセスが阻害され、分解や翻訳開始などが不可能な状態が保たれる。特にサイトカインなどの増殖因子や癌原遺伝子のmRNAは3'UTRの不安定化シグナル(ARE)の存在によって急速に分解される為、通常はこの領域はマスクされた状態にある。このように蛋白合成が不要な状況下で迅速にmRNAの利用性(availavility)を低下させる機構は、蛋白質の過剰産生による癌化などの異常を防ぐ為には不可欠である。TobとiPABPによるIL-2 mRNAの翻訳効率の制御にはIL-2 mRNAの3'UTRから下流の配列を必要としたが、この結果は3'UTRに結合するmRNAの制御因子群にTobやiPABPが含まれる事を示唆している。

 TobはBtg1やPC3等と共にファミリーを成し、いずれもCaf1(CCR4 asociated factor 1)と結合することが知られていたが、その意義は全く不明である。Caf1自体も転写因子CCR4やdecapping component Dhh1と結合するが、その機能は未知であった。最近このCaf1/CCR4は細胞質で最終段階のmRNAのdeadenylaseとしても機能する事が報告された。核で合成されたpre-mRNAは転写の終結と同時進行してRNA polimerase IIのC端(CTD)上のいわゆるmRNA factoryに於てsplicingやcreavage-polyadenylationなどが始まる。長いpoly(A)tailはmRNAの細胞質への輸送過程で徐々にdeadenylaseによって削りこまれ、最適な長さでmRNAへの60S ribosomal-joiningを促進して翻訳開始へ向かわせ、更に短くなったpoly(A)tailはdecappingをも誘発してmRNAを壊してしまう。このdeadenylaseの活性はPABPをcofactorとして必要とする事は以前より知られており、Tobによる60S ribosome-loadingの阻害は、このCaf1による適切なpoly(A)の削り込みが阻害された結果としてもたらされた可能性もある。

 IL-2 mRNAは、細胞外の刺激に対応して発現を制御する様々な転写後調節が存在する。アナジー誘導性刺激での転写後調節以外にも、T細胞の活性化刺激過剰ではpre-mRNAが核に停滞し、翻訳をCHXで抑制するとmaturationの加速により細胞質mRNAが超急速誘導される。本論文では、Tobがアナジー誘導性のT細胞刺激によって発現誘導される事も示した。アナジー誘導性の初回刺激では、basal-levelで存在するiPABPによりIL-2 mRNAの翻訳が促進されてしまう。Tobは初回アナジー誘導性刺激後の迅速なIL-2タンパク質産生の抑制に関与すると考えられる。又、Tobの不安定性は、2回目以降の刺激の後アナジー或いは増殖のいずれの状態へも円滑に移行する為には合理的な性質である。アナジー誘導性刺激で発現誘導されるTobは、ヒトT細胞アナジーにおけるIL-2 mRNAの翻訳レヴェルでの制御因子の一つである可能性が示唆された。IL-2などのサイトカインのmRNAは、CD28刺激により安定化されるが、先に示したようにiPABPの発現誘導にはCD28共刺激が必要であり、iPABPがこのCD28刺激下でのサイトカインmRNAの安定化にも関与している可能性がある。

 他のTobファミリーメンバーであるPC3はNGF以外にもEGF、FGFやIL-6の刺激で発現が誘導される。Btg1はPGE2刺激下の不応答状態のマクロファージ、FSH刺激下のSertoli細胞、そしてアンドロゲン依存性の前立腺癌細胞株に於て高く発現が誘導される。不応答に陥ったマクロファージでは、TNF-αの産生が転写後調節により抑制され、リボゾームのエントリー障害が観察されているが、T細胞におけるTobと同様にBtg1により制御されている事も予想される。これらの事から,Tobファミリーは、多細胞生物で細胞への様々な過剰な刺激に応答して発現誘導され、細胞内の恒常性維持の為に、核から細胞質に輸送される過程でのmRNAの運命を調節する抑制因子群としてのエンジンブレーキ様の機能を持つと考えられる。

 さらにTobファミリーはある刺激下では核に移行する事も観察されてはいるが、この意義も不明である。PABPが転写抑制下で核移行しsplicing factor S35と共に斑状に局在する事や、pre-mRNAのcleavage factorとも結合する事、さらにCaf1/CCR4複合体がRNA polymerase IIのホロ酵素に含まれる事が明らかになりつつある。このようにTobとの結合分子達はmRNA factoryから蛋白質産生管理に渡る広範囲な役割を担うと考えられるが、これらの生理機能の解明がTobファミリーの核移行の意義を理解する手がかりもたらすであろう。少なくともmRNAの制御因子としてTobが合成直後のpre-mRNAを核内で待ち伏せする事は効率的ではある。IL-2では先に示したように、mRNAの生成・成熟・移送・利用性という核と細胞質に介在する蛋白質の需要とmRNAの供給のバランスを律速する監視機構の存在を仮定したが、多細胞生物で展開されるTobファミリーの生理的な存在意義は、この監視機構の一端を担うmRNP 3'-endの制御因子群として、各種の細胞外からの刺激に応答して迅速に発現誘導されて、増殖因子などの適切な蛋白生成を維持する事であろう。

Optimal deadenylation stimulates 60S ribosomal-joining

Tob-iPABP inhibit 60S ribosomal-joining

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は受容体型チロシンキナーゼErbB-2の下流のシグナル伝達を解明するため、ErbB-2受容体の細胞内膜近傍領域での会合分子としてクローニングされた増殖抑制性タンパク質Tobの生理機能の解析を試みたものである。コンセンサス配列をもたず、過剰発現によってのみ増殖抑制能を呈するものの、内在性の蛋白質の検出が困難なTobの分子機能の解明は極めて難航していたが、新規Tob結合蛋白の同定を手がかりとして下記の結果を得ている。

1.Tobに会合する分子として、far-western screening法によるJurkat leukemia cDNAライブラリーのスクリーニングを行い、Tob homology domainへの会合分子の候補として、poly(A)-binding protein(PABP)及びT細胞活性化刺激で発現が誘導されるPABPのホモローグであるinducible poly(A)-binding protein(iPABP)の二種類の蛋白質を同定した。これらPABP及びiPABPとの相互作用をin vitro及びin vivoで確認した結果、Tobはこの両者と結合するが、特にiPABPとより強く結合する事を示した。さらにiPABPのC端側の様々なdeletion mutantを用いて免疫共沈した結果,iPABPの580-605番目のアミノ酸がTobとの結合に必要である事を明らかにした。

2.次にiPABPのC端側とTobとの会合の生理的意義を解析する手がかりとして、まずpoly(A)tailをもつ細胞質のIL-2 mRNAへのiPABPタンパク質の影響をin vitro translation系を用いて調べた結果、i-PABPがヒトIL-2 mRNAの翻訳効率を上昇させ、Tobがこの効果を抑制する事、またこのTobによるIL-2 mRNAの翻訳調節には、iPABPのC末端のTob結合配列及びIL-2 mRNAの3'UTRより下流の配列が必要である事を示した。またコントロールのliciferase mRNAではこれらの翻訳制御は観察されなかった。iPABPの代わりにPABPを用いて行った同様の実験ではIL-2の翻訳への影響はややiPABPよりも弱いものの同様な結果が得られた。

3.さらに、内在性のIL-2 mRNAの影響を受けない動物細胞でのin vivo実験系でTobによるIL-2 mRNAの翻訳制御機構を解析する為に、iPABPを恒常的に発現するNIH3T3細胞株を樹立し、これにTobを過剰発現させてIL-2及びコントロールのGSTの発現への影響を調べた。この結果Tobの過剰発現によりIL-2 mRNAの生成は減少しなかったが、IL-2タンパク質の生成は抑制する事を確認した。つまり、過剰発現されたTobはIL-2の産生を転写後調節により抑制すると考えられた。内在性に多く存在するPABPの影響についてiPABPとの比較をするとより厳密な議論が可能であったがより優れた実験系の構築はin vivoでは困難であった。

4.このTobによるIL-2発現の転写後調節の分子メカニズムをさらに詳しく調べる為に、ショ糖密度勾配を用いたポリソーム分画を解析した。過剰発現させたTobはIL-2 mRNAへの60S ribosomeのエントリー障害をおこし、40S ribosomeの集積が認められた。つまりTobによるIL-2 mRNAへのリボゾームのエントリー抑制でのタンパク合成阻害が転写後調節による蛋白の発現抑制の原因の一つである事を示唆する結果を得た。

5.最後に、新鮮なヒト末梢血からT細胞を採取して内在性のTob及びiPABPについて調べた。ヒト末梢血T細胞への抗CD3単独のアナジー誘導性刺激では、Tobの発現が約6時間をピークに誘導されiPABPとも会合するが、抗CD3及び抗CD28による活性化刺激では、Tobの発現誘導もiPABPとの会合も確認されなかった。Tobはユビキタスであるが不安定であり内在性の蛋白質の検出が困難であったが、アナジー誘導性刺激では強く発現誘導されることが確認された。また一連の解析により、TobがヒトT細胞アナジーの成立過程初期において早期に発現誘導され、転写後調節レヴェルでの抑制因子として働くとする作業仮説を呈示するに至った。

 以上、本論文は機能未知のTobに結合する分子の新規同定及びその相互作用がもたらす生理的意義に関する解析を行った点で他のTobの研究に類を見ない新しい進展といえる。IL-2以外の増殖因子や他のTobファミリー間でのターゲット特異性に関してのより広範な解析が将来的な課題ではあるが、Tobの細胞増殖抑制の分子機能の解明への糸口を見い出した点で、今後のTobファミリーの研究に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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