No | 116773 | |
著者(漢字) | 曺,勝鎭 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | チョ,スンジン | |
標題(和) | 硝酸及び硫酸測定用化学センサー | |
標題(洋) | Chemical Sensors for Nitrate and Sulfate | |
報告番号 | 116773 | |
報告番号 | 甲16773 | |
学位授与日 | 2002.03.14 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5106号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 先端学際工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は、河川及び地下水などの環境中に存在する硝酸イオンや硫酸イオンを、迅速かつ簡便に測定できるシステムの開発を目的するものであり、5章より構成されている。まず硝酸イオンを測定するため、硝酸イオンをアンモニアに還元する塩化チタンを用い、またその反応をより効率的に進行させ、生成物を簡単に回収できるリアクションカートリッジを開発している。次に硫酸イオンを測定するために、硫酸イオンがバリウムイオンと反応して結晶を作る反応を利用し、これを水晶振動子を用いて検出することで高感度なセンサーの開発を行っている。 第1章は緒言であり、環境汚染物質で、酸性雨の主な成分である硝酸イオンと硫酸イオンが環境中に発生する経路や人間と環境中に及ぼす影響などについて述べている。これらの物質を計測する従来法とその問題点を取り上げて、in situ環境モニタリングに適切なセンサーシステムを提案している。特に、硝酸を測定するため用いられる塩化チタン及びリアクションカートリッジと、硫酸を測定するための水晶振動子について述べている。 第2章では、蛍光型硝酸測定用センサーの開発を試みている。塩化チタンは還元剤であり、硝酸イオンは塩化チタンによってアンモニアに還元されることが知られている。還元されたアンモニアは2−メルカプトエタノールなどのチオール化合物との共存下で蛍光物質であるo−フタルアルデヒドと反応し蛍光を発する。その蛍光強度を蛍光測定装置で測定することによって硝酸を定量することが可能であると述べている。硝酸イオンが塩化チタンと反応する時発生するアンモニアの損失を防止し、塩化チタンと硝酸イオンとの反応生成物の回収を容易にするため、リアクションカートリッジを開発している。リアクションカートリッジはシリンジとフィルタを組み合わせて製作している。本章では塩化チタンとリアクションカートリッジを用いて高感度な硝酸イオンセンサーの開発とそのセンサーを河川水の測定に応用について述べている。本センサーを用いて硝酸を測定した結果、検量範囲は0.125〜2.5mg/1であり、測定時間は10分以内であったと述べている。 第3章では、蛍光型硝酸センサーの問題点である装置の大きさや既存アンモニアの影響を解決するため、より迅速かつ簡単に硝酸を測定できるセンサーを開発している。前章で述べた蛍光測定型のセンサーは硝酸が還元されて生成するアンモニアを測定するためサンプル中の既存アンモニアの影響を受け易いだけでなく、装置が大型であるため、環境中の水をin situで測定するにはまだ問題がある。そこでアンモニア電極を導入して装置の小型化を実現し、また既存のアンモニアに影響を受けることなく硝酸イオンをより簡便に測定できるセンサーシステムの開発について述べている。本センサーを用いて硝酸を測定した結果、検量範囲は0.1〜30mg/lであり、従来法とよい相関性があることを明らかにしている。 第4章では、水晶振動子を用いて簡単に硫酸を測定するセンサーの開発について述べている。硫酸イオンの化学反応でよく知られているものに、バリウムイオンと反応して硫酸バリウムの結晶をつくる反応がある。そこで本研究では硫酸イオンとバリウムイオンの反応を利用したセンサーの開発を試みている。水晶振動子はその電極表面の吸着に伴う重量変化、接する溶液の粘度変化や密度変化などのごく小さな変化がその表面に起こったとき、その共振周波数が変化するという性質を持つ。このため水晶振動子電極の表面に硫酸バリウムの結晶を吸着させることによって硫酸イオンを定量的に測定するセンサーを開発できると述べている。硫酸イオンがバリウムイオンと反応してできた硫酸バリウム結晶の水晶振動子表面への吸着を促進するため、水晶振動子の電極表面にスパッタリング法を用いてカーボン膜を作製している。カーボン膜は表面積が広いため、より多くの硫酸バリウム結晶が吸着することを期待して、カーボン膜を用いて測定を行なっている。水晶振動子の共振周波数の変化は周波数カウンターで測定しそのデータをパソコンを利用して解析している。本センサーにより、水晶振動子を用いて溶液中の硝酸イオンを簡単に測定することが可能であることを明らかにしており、さらにこれを用いて実試料の硫酸イオンの測定を試みている。その結果、測定時間は7分以内であり、硫酸濃度0.1〜10mg/l範囲で直線的な応答を得たことを明らかにしている。 第5章は、結論であり、本研究を要約して得られた研究成果をまとめている。 以上のように、本論文は、河川水や雨水に含まれている硝酸と硫酸を迅速かつ簡便に測定できるセンサーの開発を行い、in situで環境モニタリングが可能であるセンサーを製作している。また本センサーを河川水や雨水の実試料測定へ応用することに成功している。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
審査要旨 | 科学技術の発展に伴い、産業が高度化した結果、地球環境汚染の問題(地球温暖化現象、大気汚染、水質汚染、土壌汚染など)が世界的に深刻な状態になっている。環境汚染は人間と生物に直接、間接的に悪影響を与えている。環境汚染の原因として考えられるのは、農作物に対する病害虫駆除あるいは雑草などを積極的に防除するために用いられる農薬や、農作物に養分を与える目的で土壌にほどこす肥料、自動車や火力発電による排気ガスなどである。また工場や自動車などから発生する窒素酸化物、硫黄酸化物、炭素化合物や、火山から発生する二酸化硫黄、塩化水素が原因と考えられる酸性雨が挙げられる。酸性雨は湖沼や河川の酸性化による陸水生態系への被壊、植物や土壌の酸性化による森林の衰退など環境に悪影響を与える。さらに、農業で用いられる肥料や家畜の排泄物、また火力発電所や鉱山などから発生する物質が土壌に浸透し、地下水や河川を汚染している。これらの環境汚染の主な原因物質となっているのが硝酸イオン(NO3-)と硫酸イオン(SO42-)がある。 硝酸イオンや硫酸イオンを測定する従来法では主に、還元カラムを含む吸光光度法やイオンクロマトグラフ法が用いられている。これらの方法は試料の前処理や高価で大型な装置を必要とするため現場における環境測定には必ずしも適していない。一方で、酵素や微生物を用いた様々なバイオセンサーやイオン電極を用いた測定法が近年、盛んになっている。しかし、バイオセンサーは優れた選択性を持っているが安定性と再現性の点で問題がある。またイオン電極は簡便に硝酸イオンや硫酸イオンを測定することが可能であるが、煩雑なイオン膜の作製が必要であり、また妨害物質に影響を受け易いという欠点がある。したがって自然環境試料中の硝酸イオンや硫酸イオンを迅速かつ簡便に再現性が良く高感度に測定できる方法が望まれている。 そこで本研究では、河川及び地下水などの環境中に存在する硝酸イオンや硫酸イオンを、迅速かつ簡便に測定できるシステムの開発を目的とした。まず硝酸イオンを測定するため、硝酸イオンをアンモニアに還元する塩化チタンを用い、またその反応をより効率的に進行させると同時に、生成物を簡単に回収できるリアクションカートリッジを開発することにした。また硫酸イオンを測定するために、硫酸イオンがバリウムイオンと反応して結晶を作る反応を利用し、これを水晶振動子を用いて検出することで高感度なセンサーの開発を行った。 第1章は緒言であり、環境汚染物質であり、酸性雨の主な成分である硝酸イオンと硫酸イオンが環境中に発生する経路や人間と環境中に及ばす影響などを述べた。これらの物質を計測する従来法とその問題点を取り上げて、in situ環境モニタリングに適切なセンサーシステムを提案した。硝酸を測定するため用いられる塩化チタンとリアクションカートリッジと硫酸を測定するための水晶振動子について述べた。 第2章では、蛍光型硝酸測定用センサーの開発を試みた。塩化チタンは還元剤であり、硝酸イオンは塩化チタンによってアンモニアに還元されることが知られている。還元されたアンモニアは2-メルカプトエタノールなどのチオール化合物との共存下で蛍光物質であるo−フタルアルデヒド(o-phtaladehyde; OPA)と反応し蛍光を発する。その蛍光強度を蛍光測定装置で測定することによって硝酸を定量することが可能である。硝酸イオンが塩化チタンと反応する時発生するアンモニアの損失を防止し、塩化チタンと硝酸イオンとの反応生成物の回収を容易にするため、リアクションカートリッジを開発した。リアクションカートリッジはシリンジとフィルタを組み合わせて製作した。本章では塩化チタンとリアクションカートリッジを用いて高感度な硝酸イオンセンサーの開発について述べた。 第3章では、蛍光型硝酸センサーの問題点である装置の大きさや既存アンモニアの影響を解決するため、より迅速かつ簡単に硝酸を測定できるセンサーを開発提案した。前章で述べた蛍光測定型のセンサーは硝酸が還元されて生成するアンモニアを測定するためサンプル中の既存アンモニアの影響を受け易いだけでなく、装置が大型であるため、環境中の水をin situで測定するにはまだ問題がある。そこでアンモニア電極を導入して装置の小型化を実現し、また既存のアンモニアに影響を受けることなく硝酸イオンをより簡便に測定できるセンサーシステムの開発について述べた。 第4章では、水晶振動子を用いて簡単に硫酸を測定するセンサーの開発を示した。硫酸イオンの化学反応でよく知られているものに、バリウムイオンと反応して硫酸バリウムの結晶をつくる反応がある。そこで本研究では硫酸イオンとバリウムイオンの反応を利用したセンサーの開発を試みた。水晶振動子は水晶振動子の電極表面の吸着に伴う重量変化、接する溶液の粘度変化や密度変化などのごく小さな変化がその表面に起こったとき、その共振周波数が変化するという性質を持つ。このため水晶振動子電極の表面に硫酸バリウムの結晶を吸着させることによって硫酸イオンを定量的に測定するセンサーを開発できると考えた。硫酸イオンがバリウムイオンと反応してできた硫酸バリウム結晶の水晶振動子表面への吸着を促進するため、水晶振動子の電極表面にスパッタリング法を用いてカーボン膜を作製した。カーボンは表面積が広いため、より多くの硫酸バリウム結晶が吸着すると期待される。水晶振動子の共振周波数の変化は周波数カウンターで測定しそのデータをパソコンを利用して解析した。本研究では水晶振動子を用いて溶液中の硝酸イオンを簡単に測定することが可能であった。 第5章は、結論であり、本研究を要約して得られた研究成果をまとめた。 | |
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