No | 116807 | |
著者(漢字) | 詹,徳川 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | セン,トクセン | |
標題(和) | ツメガエルの初期発生における前腎形成の分子生物学的解析 | |
標題(洋) | Molecular Analysis of Pronephrogenesis in Early Xenopus laevis Development | |
報告番号 | 116807 | |
報告番号 | 甲16807 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(学術) | |
学位記番号 | 博総合第365号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 中胚葉誘導、形態形成と器官形成の現象は、脊椎動物の発生過程でのもっとも重要の現象である。その中で、器官形成のメカニズムの解明は形態形成に続いて、発生生物学の重要研究課題である。現在器官形成の研究モデルとして使われているのは、心臓、腎臓、すい臓と肝臓がもっとも一般的である。脊椎動物の腎臓は最初に前腎が分化し、それに続いて中腎・後腎が分化することにより形成される。前腎、中腎、後腎では腎臓を構成する腎元の数などに大きな違いがあるが、基本構造はほぼ同じである。また、その形成の過程は、最初に前腎が出現し、それに続いて中腎、後腎が分化するというほぼ同じ形成現象の繰り返しという独特の発生機構であるため、腎臓は器官形成研究の良きモデル器官として古くから利用されてきた。 腎臓の器官形成を研究するのに私はアフリカツメガエルを実験材料にし、実験を行ってきた。前腎は両生類の幼生期での排出器官であり、水分を集める前腎細管と水分を排出する前腎導管、糸球小体によって構成される。ツメガエルの前腎予定域は体節と側板中胚葉原腸胚期の後期に決定され、尾芽胚期の初期に他の組織から分離されて形態形成を進め、発生から三日目に前腎全体の管化が完成されてからはじめて排出器官として機能する。前腎分化の初期段階の理解のためにはなかでも前腎の発生分化機構を分子レベルで調べることが重要である。今まで数多くの前腎関連遺伝子が報告されてきたが、初期前腎形成を決定する誘導機構はまだ解明されていない。これまで私がツメガエルの後期胞胚から切り出した予定外胚葉片(アニマルキャップ)を、誘導因子のアクチビンとレチノイン酸によって処理された後、ツメガエルのアニマルキャップは前腎管を形成し、さらにこの処理されたアニマルキャップが正常のツメガエル胚内で機能しうることを示した。しかし、現在の既知の前腎関連遺伝子が予定外胚葉片中に前腎構造を誘導することはまだ報告されていない。そこで、私はまず現在報告されている前腎関連遺伝子の機能解析を行い、得られた結果は初期前腎形成機構を解明するヒントになるのではないかと考えた。マウスの腎臓形成研究から得られた知見から、現在知られている腎臓形成の最も早い段階に関与する遺伝子はLIM class homeobox遺伝子のlim-1とPax-2であることがわかった。ツメガエルでも、lim-1のホモログであるXlim-1はXpax-8と同じ、ツメガエルの前腎形成においてもっとも早期に発現する遺伝子として知られている。以上のことから、私はXlim-1を選び、Xlim-1が前腎形成における役割を解析した。 ツメガエルのXlim-1が前腎領域だけでなく、オーガナイザー領域にも発現がみられ、ツメガエルの体軸形成に関与していることが知られている。また、前腎誘導が確認されていないアクチビンやレチノイン酸で処理されたアニマルキャップの中も、Xlim-1の発現が報告されている。前腎形成における役割を確認するために、私はアニマルキャップ誘導アッセイを使って、Xlim-1の発現様式と前腎形成の関連と調べた。まず、アクチビンやレチノイン酸単独で処理されたアニマルキャップの中では、報告された通りにXlim-1の発現が確認されたが、その発現を長時間維持することができなく、処理から12時間で発現が程度に減少した。これに対して、前腎を誘導できるアクチビンとレチノイン酸共同処理されたアニマルキャップの中に、Xlim-1の発現が維持されることがわかった。また、アクチビンとレチノイン酸によって時間差処理されたアニマルキャップでは、処理条件によって前腎管の形成率が低下するに伴い、Xlim-1の発現が減少することも確認された。以上のことから、持続的に強く発現するXlim-1が前腎形成に重要であることがわかった。 次に、Xlim-1が前腎形成における役割を調べるために、私はマイクロインジェクション法を用いて、Xlim-1の活性型変異体とドミナントネガティブ変異体が前腎形成に対する影響を調べた。私はXlim-1の活性型変異体とドミナントネガティブ変異体のmRNAを合成し、初期ツメガエル胚に注入し、アニマルキャップ誘導アッセイとツメガエル胚の前腎形成率を調べた。その結果、ツメガエルのアニマルキャップに活性型のXlim-1を注入しても、前腎を誘導できなかった。また、活性型のXlim-1が注入されたツメガエルのアニマルキャップをアクチビンやレチノイン酸で処理しても、前腎形成を確認できなかった。しかし、ドミナントネガティブ型のXlim-1を注入されたアニマルキャップをアクチビンとレチノイン酸で処理すると、予定外胚葉片中の前腎の形成率が低下したこと。ドミナントネガティブ型のXlim-1をツメガエルの予定前腎領域に注入すると、ツメガエル胚の前腎形成が阻害され、前腎構造中の前腎細管の形成が強く押さえられることを確認した。以上の結果から、 Xlim-1は前腎形成を決定するものではなく、前腎細管の形成に重要であることが明らかになった。しかし、前腎形成過程での早期マーカー遺伝子であるXlim-1が前腎管形成を誘導できないという結果から、Xlim-1や既知の遺伝子以外に、初期前腎形成にはさらに未知の遺伝子が前腎の形成に関与していることが考えられる。 前腎形成を誘導する遺伝子を探索するために、私はツメガエルの神経胚期の予定腎管域を材料にcDNAライブラリーを作製し、Expression screeningというスクリーニングを使って、前腎遺伝子の発現を誘導できる遺伝子の探索を行った。まず、このcDNAライブラリーを100クローンずつプール化し、これらのcDNAライブラリーを鋳型にmRNAを合成した。その後、合成されたmRNAを初期ツメガエル胚の動物極に注入し、切り出したアニマルキャップを24時間培養した後、RT-PCRによってアニマルキャップ中に前腎遺伝子、Xlim-1、Xpax-2、とXSMP-30の発現を調べた。この手法で100プール、約10,000クローンのマイクロインジェクションを行ったが、Xlim-1、Xpax-2、とXSMP-30の発現を誘導できるプールは単離できなかった。 次に私がWhole-mount in situ hybridization screening法を行い、初期ツメガエル胚の前腎に発現している遺伝子分化の単離及び同定を行った。ツメガエルの神経胚期の予定腎管域を材料に由来するcDNAライブラリーの一部(約107クローン)を、単鎖のcDNAプラスミドライブラリーに変換し、この単鎖のcDNAライブラリーをとstage 7ツメガエル胚由来のmRNAとサブトラクションを行った。サブトラクションを行った後、得られたライブラリーを96クローンずつプレートに植してそのシーケンスを解析した後、既知の遺伝子や機能が推測できないまったく新規の遺伝子を除いて、最終的に38クローンに対してWhole-mount in situ hybridizationを行い、ツメガエル胚での発現様式を調べた。その結果、の前腎管に発現する遺伝子9個を単離した。その中にXC3H-3bとXTRAP-γ二つの候補を選び、この二つの遺伝子が前腎形成に対する影響を調べた。 XTRAP-γは153アミノ酸から構成され、4つの膜貫通部域を持つ膜タンパクであることを、マウスやラットのTRAP-γの解析報告からわかった。XTRAP-γは未受精卵の中にも存在し、ツメガエルの後期原腸胚の神経板中軸に局在が見られた。また、尾芽胚期のツメガエル胚の前腎細管の領域に発現がみられ、その後目、耳胞、肝臓などでの発現が確認された。この遺伝子が前腎への影響を調べるために、私はXTRAP-γのmRNAを合成し、初期ツメガエル胚に注したが、注入されたツメガエル胚の発生に変化がみられなかった。XC3H-3bは二つのCCCH zinc fingerモチーフを持ち、364アミノ酸から構成される遺伝子である。ツメガエルやほかの動物のCCCH zinc finger遺伝子の報告から、この遺伝子はmRNAのAU richドメインに結合するmRNA結合タンパクであることが考えられる。この遺伝子はツメガエルの未受精卵から存在し、原腸胚期に原口の側腹部に局在がみられ、その後、中脳と後脳の間や顔面神経冠組織、そして前腎周辺の中胚葉組織に発現がみられた。この遺伝子のC端領域が欠損した変異体のmRNAをツメガエル胚に注入すると、頭部や顔面の形成異常が観察された。また、変異体のmRNAを初期ツメガエル胚の前腎領域に注入すると、前腎細管の形成が阻害された。以上の結果から、XC3H-3bはツメガエルの前腎細管の形成に必要であることがわかった。 私は前腎形成の機構を解明するために、以上の実験を行った。これらのデータから、前腎形成の決定は、初期のXlim-1やXPax-8の発現より早い時期で起こり、その後XC3H-3bやXlim-1も含め、XPax-8、Xpax-2、XWnt4、XWT1、そしてNotchなどの遺伝子の相互作用によって前腎の分化が決定され、前腎細管や前腎導管、糸球体の構造が形成されることが考えられる。 | |
審査要旨 | ツメガエルの初期発生において、卵からどのようにして各器官が出来るのかという器官形成のメカニズムの解明は重要な研究課題である。そのような中に〓氏は排泄器官として重要な働きをもつ前腎がどのようにしてできるかということを分子生物学的に解析を行った。脊椎動物の腎臓発生では最初に前腎が出現し、その後、前腎内の導管から中腎が誘導され、最後に導管から出現した尿管芽と周辺の間充織との相互作用により後腎が誘導される。 この論文は2章に分かれて、前腎形成がどのようにしてなされるかについて書かれている。まず序論で〓氏が修士学位論文で行った前腎移植についてのべられている、これはツメガエルの後期胞胚から切り出した予定外胚葉片(アニマルキャップ)を誘導因子のアクチビンとレチノイン酸によって、前腎構造が誘導される。〓氏はこの方法で処理したアニマルキャップを前腎が除去されたツメガエル胚に移植し、アニマルキャップ中に誘導された前腎がツメガエル胚内で正常の前腎と同様に機能することを示していた。 第一章では前腎発生分化の初期段階の理解のためにはその機構を遺伝子レベルで解析することが必要であるので、腎形成に関与していると言われているXlim-1遺伝子の前腎形成における役割の解析をいくつかの手法で行った。第一はXlim-1の発現が前腎形成に必要であることを確認するために、アニマルキャップ誘導アッセイ法を使って、Xlim-1の発現様式と前腎形成の関連を調べた。前腎が誘導できる条件であるアクチビンとレチノイン酸共処理したアニマルキャップでは、Xlim-1の発現が長時間維持されることを明らかにした。また、アクチビンとレチノイン酸処理に時間差を設けたアニマルキャップでは、時間差の条件によって前腎管の形成率が低下するに伴い、Xlim-1の発現も減少することが確認した。第二はXlim-1の前腎形成における役割を調べるために、マイクロインジェクション法を用いて、Xlim-1の活性型変異体とXlim-1の機能を抑制するドミナントネガティブ型変異体が前腎形成に与える影響を調べた。活性型のXlim-1を注入したアニマルキャップや、活性型のXlim-1を注入したアニマルキャップをアクチビンやレチノイン酸で単独処理しても、前腎形成を確認できなかった。しかし、ドミナントネガティブ型のXlim-1を注入したアニマルキャップをアクチビンとレチノイン酸で処理すると、予定外胚葉片中の前腎形成率の低下があることを示した。また、ドミナントネガティブ型のXlim-1をツメガエルの予定前腎領域に注入すると、前腎形成が阻害され、前腎構造中の前腎細管の形成が強く抑えられることも確認し、Xlim-1は前腎全体の誘導ではなく、前腎細管の形成に必要であることが明らかにした。その後、Xlim-1とXpax-8遺伝子などの関係についても調べた。 第二章ではWhole-mount in situハイブリ法を用い、初期ツメガエル胚の前腎に発現している新規遺伝子の探索を行った。ツメガエルの予定腎管域に由来するcDNAライブラリーの一部(約107クローン)を、単鎖のcDNAプラスミド・ライブラリーに変換し、この単鎖のcDNAライブラリーとツメガエル桑実胚由来のmRNAでサブトラクションを行った。その後、得られたライブラリープールのクローンの5'側の塩基配列を解析した後、既知でなく配列上から機能が推測できそうなクローンを対象にWhole-mount in situハイブリ法を用い、ツメガエル胚の前腎での発現を調べた。その結果、前腎に発現するクローン9個を単離した。特にその中からXC3H-3bに着目し、この遺伝子の前腎形成における役割を調べた。XC3H-3bは二つのCCCH zinc fingerモチーフを持ち、364アミノ酸のタンパク質をコードする遺伝子である。この遺伝子のC端領域が欠損した変異体を作製し、mRNAを初期ツメガエル胚の予定前腎領域に注入すると、前腎細管の形成が阻害されることを初めて明らかにした。 このように〓氏はツメガエルの初期発生における前腎形成にかかわる既知および未知の遺伝子の解析を分子生物学的に研究を行った。そのことによって前腎形成の機構の解明に大きく寄与したといえる。 したがって、本審査委員会は博士(学術)の学位の授与するにふさわしいものと認定する。 | |
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