学位論文要旨



No 116833
著者(漢字) 大谷,宗久
著者(英字)
著者(カナ) オオタニ,ムネヒサ
標題(和) ゲージ化されたヴェスズミノ作用におけるソリトンについて
標題(洋) Topological Soliton in the Gauged Wess-Zumino Action
報告番号 116833
報告番号 甲16833
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4096号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 森松,治
 東京大学 教授 吉岡,大二郎
 東京大学 教授 蓑輪,眞
 東京大学 教授 大塚,孝治
 東京大学 助教授 中畑,雅行
内容要旨 要旨を表示する

 バリオンをパイオンの非線型場からなるソリトンとして記述する考えは1960年代Skyrmeによって提唱された。後にこの考えは、量子異常から引き起こされるWess-Zumino項の存在下でバリオン数を計算することで正当化されることが明らかになった。これをきっかけにして、ソリトン模型を用いてバリオンの性質を調べる研究が多く行われるようになった。

 様々あるバリオンを区別するには、ソリトンのアイソスピンを考える必要がある。従来は、ソリトンの静的質量を変分して得られる配位を集団座標によって回転させ、この自由度を量子化することによりソリトンのアイソスピンを指定していた。しかし静的質量と回転エネルギーの和である全エネルギーをより低くするという観点からすると、変分する際に回転エネルギーを取りこむことがより望ましいと考えられる。回転エネルギーを取りこんで変分するとソリトンの遠方での振舞いに量子化軸の方向による違いが生ずることが知られている。

 我々は、この漸近形に違いが生ずるという効果を取り入れるため、ソリトンの変形を考察した。変形したソリトンを表す試行関数を設定し、全エネルギーが低くなるように試行関数中のパラメータを決めると、オブレート変形する方がより安定な配位となることが明らかになった。

 この変形は、回転による遠心力の効果で引き起こされるものであると解釈できる。

 また、ソリトンとゲージ場が結合した系についても考察した。ゲージ場を考慮することは、ソリトンを局所的に回転させることに対応しており、集団座標による回転量子化の取り扱いを包含していることになる。

 まず、ソリトンの存在下、変分によって磁場の配位を決めた。得られた配位はマイスナー効果の類推で説明できることが明らかになった。これは、ソリトンがゲージ場に対する質量の効果をあらわす凝縮の役割を果たし、磁場はこの凝縮を避けるようにその配位が決まるというものである。実際、磁場は凝縮が作るトーラス状の構造に巻きつくように分布するという結果が得られた。

 しかし、磁場を変分で決めるだけでは、アイソスピンが然るべき値に設定されないため、このソリトンがどのような状態かを指定できないという問題がおこる。

 そこで、次に我々は、磁場に対して試行関数を設定し、アイソスピンが適切な値を持つように拘束をかけて、試行関数中のパラメータを決定した。その結果、磁気能率や全エネルギーは実験値に比べて大きな値となることがわかった。これはアイソスピンの拘束条件があるためゲージ場の大きさ自身が大きくなってしまうことに起因すると考えられる。

 この磁気能率やエネルギーの食い違いを正すため、我々はA0が一定値をもつ場合について考察した。アイソスピンにはA0と磁場の両方からの寄与があるので、変分によって導き出される磁場に対する方程式とアイソスピンからくる拘束条件がともに満たされるように自己無撞着的にゲージ場の配位を決定した。

 その結果、磁場はやはり拘束がない場合と同じく凝縮がつくるトーラスを避けるように決まり、磁気能率や核子間の質量差も実検値と同程度の値が得られることがわかった。

 ゲージ場の結合した系では、ゲージ場の時間成分と空間成分の両者を同時に考えることがソリトンの電磁気性質を見る上で重要であるということが結論づけられる。

図1:変形に依存したソリトンのエネルギー

図2:z=0平面上の磁場

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は5章と補遺から構成されている。

 第1章は序文にあてられていて、本研究に至る歴史的背景と動機が説明されている。

 第2章では、以下の章での議論の準備として、カイラル対称性の自発的破れを記述する非線形場とヴェスズミノ作用を説明している。第1節では、カイラル対称性とカイラル対称性が自発的に破れた場合の非線形表現について、第2節では、スキルム模型について、第3節ではアノマリーとヴェスズミノ項について述べている。第4節ではネーターカレントについて、まずヴェスズミノ項が存在するときのネーターカレントの一般形を、次にバリオンカレントとアイソスピンカレントの具体形を示している。

 第3章では、ゲージ場を導入しないスキルム模型におけるソリトンの変形について論じている。第1節では、古典的なソリトン解の安定性が非自明なトポロジーによることを、第2節では、スキルミオンの回転について、すなわち集団座標を導入して静的なソリトン解を回転させることによってソリトンのスピン及びアイソスピンを射影できること、またこの回転により回転エネルギーが生じることについて説明している。第3節では、スピン及びアイソスピンの射影後に変分を行うと、スキルミオンの回転によってソリトン解の漸近形が影響を受けることを示し、第4節では、漸近形の差を考慮に入れるためにヘッジェホッグ解からのソリトンの楕円体型の変形を考察している。変形したソリトンを表す試行関数を決め、全エネルギーが低くなるように試行関数中のパラメータを決めるとオブレート変形する方がより安定な配意となると結論している。

 第4章においては、スキルム模型にヴェスズミノ項を加えた作用をゲージ化することによってゲージ場を導入し、ゲージ場の効果を論じている。第1節では、磁場について考察している。ソリトンが存在する下で変分によって磁場の配位を決め、得られた配位はマイスナー効果との類推で説明できること、すなわち、ソリトンがゲージ場に対する質量の効果を与える凝縮の役割を果たすことを示し、磁場はこの凝縮を避けて凝縮が作るトーラス状の構造に巻き付くように分布するという結果を得ている。しかし、磁場を変分で決めるだけではアイソスピンは正しい値にならないため、磁場に対して試行関数を決めアイソスピンが正しい値を持つように拘束をかけて変分すると、磁気能率や全エネルギーは実験値に比べて大きな値となってしまう。そこで、第2節では、磁場だけではなく、ゲージ場の時間成分A0が一定値を持つ場合を考察している。変分によって導出される磁場に対する方程式とアイソスピンの拘束条件をともに満たすように自己無撞着にゲージ場の配位を決定した結果,磁場はゲージ場の時間成分を考えないときと同様に凝縮が作るトーラスを避けるように決まり、核子の時期能率や核子間の質量差も実験値と同程度の値が得られるという結果を得ている。このことより、ゲージ場の結合した系では、ゲージ場の時間成分と空間成分の両方を取り入れることがソリトンの電磁的性質を見る上で重要であると結論付けている。

 第5章では、本論文の内容がまとめられている。

 補遺では、ヴェスズミノ項の導出について説明している。

 本論文において、新しい内容は、第3章第4節の楕円体型のソリトンの変形の考察の部分と第4章のスキルム模型にヴェスズミノ項を加えた作用をゲージ化した模型におけるソリトン解のまわりのゲージ場の効果の考察の部分である。前者については、これまでにも、スピン及びアイソスピンの射影後に変分解を求めた論文はあるが、楕円体型の変形を考察したのは本論文が最初であり、オブレート変形する方がより安定な配意となる結論は物理的にもっともらしい。また,後者については、ソリトン解のまわりのゲージ場の効果を考察したのは、論文提出者が最初であり、マイスナー効果と類似な効果により磁場は凝縮が作るトーラス状の構造に巻き付くように分布するという面白い結果を得ている。これらの結果は、論文提出者が一人で得たものであり、博士論文として十分な内容であると評価できる。

 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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