No | 116881 | |
著者(漢字) | 中村,敬喜 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナカムラ,タカヨシ | |
標題(和) | 極超新星における輻射流体力学と元素合成 | |
標題(洋) | RADIATION HYDRODYNAMICS AND NUCLEOSYNTHESIS IN HYPERNOVAE | |
報告番号 | 116881 | |
報告番号 | 甲16881 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第4144号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 天文学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 重力崩壊型超新星の爆発エネルギーは超新星SN 1987Aに代表されるように1051erg程度であると近年まで考えられていた。しかし最近、これをはるかに超える爆発エネルギーを持つ超新星が発見され、これらの天体は超新星を超えるという意味で"極超新星(hypernova)"と呼ばれるようになった。この論文では光度曲線、爆発的元素合成、ショックブレークアウトの3つの観点から極超新星を詳しく調べ,これらの天体が持つ性質を明らかにした。 まず、初めて発見された極超新星であるIc型超新星SN 1998bwの爆発モデルを再構築し、理論的な光度曲線とスペクトルを計算して、観測との比較を行った。この超新星はガンマ線バーストGRB980425の可視領域での対応天体として発見され、電波領域でも非常に明るくなるなど、今までに発見されたことのないような極めて特異なIc型超新星であった。過去にも同様のモデル計算がなされていたが、最近になって観測グループが後期の時期までの全放射の光度曲線を発表したため、より正確なモデル化が可能となった。モデル計算と観測との比較の結果、14M〓のC+O星が爆発エネルギーEexp=5×1052ergで超新星爆発を起したとすると、SN 1998bwの光度曲線の最初の30日をうまく再現できることが分かった。また同じ時期のスペクトルは非常に広いライン幅を持っていた。この性質を説明するためには放出物の速度が極めて大きくなくてはならないが、そのためにもやはりEexp=5×1052erg程度の爆発エネルギーが必要であった。この爆発エネルギーは普通の超新星よりも数十倍も大きく、SN 1998bwが確かに極超新星であることが分かった。爆発から数百日までの超新星の光の源は放射性元素56Niが56Ni→56Co→56Feと崩壊していく過程で出てくるガンマ線のエネルギーである。この論文では観測とモデルとの比較によってSN 1998bwで放出された56Niの量は0.4M〓であることを求めた。これは従来の超新星爆発(0.07M〓程度)の数倍であり、このことからもSN 1998bwが特殊な爆発であったことが分かる。 初期の光度曲線がEexp=5×1052ergの爆発モデルで再現できたのに対し、25日から200日までに観測された光度曲線はそのモデルが予想するよりも変化がゆっくりとしていて、より爆発エネルギーが小さいモデル(Eexp=7×1051erg)の方が観測をよく説明できることが分かった。これは、爆発エネルギーが大きいモデルでは物質の密度が急速に低下し、放射性元素からのガンマ線を十分に吸収できないことが原因である。つまり観測を再現するためには放出物の内側で高エネルギーの爆発モデルよりも密度が高く、より多くのガンマ線エネルギーを吸収して放出物を暖めてやる必要がある。この論文では、そのような複雑な密度構造を可能にするためには、爆発が非球対象であればよいことを示した。非球対象爆発は、現在提唱されている高エネルギー爆発の爆発機構やSN 1998bwの後期のスペクトルの観測とも一致する。 重力型崩壊型超新星爆発では、爆発時に星の中心部分で非常に高温、高密となるためにそこで元素合成が進み、それが宇宙空間にばらまかれる。極超新星は一般的な超新星よりも大きな爆発エネルギーを持つため、爆発的元素合成も超新星とは違った性質を持つと考えられる。そこで極超新星における爆発的元素合成の詳細な計算を行って、超新星における元素合成との比較を行った。その結果、極超新星では爆発的元素合成が星の外側まで進み、より多くの物質が燃えることが分かった。温度が109Kを越える状況ではシリコンを含むほとんどの物質が燃えて56Niになるが、極超新星ではこのような状況になる領域が広がり、鉄属の元素が多く放出される。また超新星の場合と比べて温度が高く、密度が低い状況で元素合成が行なわれるため、シリコンが完全に燃える領域ではトリプルアルファ反応があまり進まず、Heがより多く残されること、また捕獲するHeが多く存在するため、Tiなどのアルファエレメントも多く生成されることなども分かった。普通の超新星爆発における元素合成に基づく銀河の化学進化モデルではTiの量が足りないという問題があったが、極超新星を考慮に入れればその問題を解決できる可能性がある。 また、極超新星では酸素燃焼や炭素燃焼がより広い領域まで進むために、酸素、炭素、アルミニウムなどの元素は消費され、これらの反応でできる粒子(シリコン、硫黄、アルゴン、カルシウム等)が多く生成される。近年、Si/Oが大きいスターバースト銀河が発見され、どのようにしてこの元素比が作られたかが謎であったが、これは極超新星によって汚染されたと考えれば説明できる。さらに、最近になって金属欠乏星には鉄属元素の比に特徴的な傾向([Fe/H]が小さい星ほど[Cr/Fe]と[Mn/Fe]は小さくなるが[Co/Fe]は大きくなる)があること発見されたが、Eexp〜1052erg程度の極超新星でこの傾向を説明できることを明らかにした。 重力崩壊型超新星爆発では、星の中心で発生した衝撃波が星の表面まで達した時に(ショックブレークアウト)、非常に明るい紫外/軟X線バーストを起こす。このとき表面近くの光学的厚みが小さいところでは放射が衝撃波の伝播に大きな影響を与え、超新星爆発から出てくる光子の数やそのエネルギー、放出物の形や速度を変化させる。衝撃波面の前にあるガスが放射による加熱や加速を受け、全体として衝撃波を弱める効果が働くためである。過去の解析的、及び数値的研究によって、星の表面近くにおいて衝撃波が放射の効果で弱まるだけでなく、その後の放射冷却によって高密度の薄いシェルが形成され、新たな衝撃波が発生するという複雑な衝撃波の伝搬過程が明らかになっていた。この論文では、星の大気構造や爆発エネルギーによるショックブレークアウトの違いを詳しく調べるため、輻射流体力学のコードを用いて数値シュミレーションを行なった。 まず、超新星SN 1987Aにおけるショックブレークアウトのモデル計算を行ない、ショックブレークアウト時の光度曲線とスペクトル、周りの星間物質をイオン化した光子の数やその後の放出物の形状を求めた。その結果、衝撃波は重力崩壊から90分後に星の表面に達し、L〓1045erg/sの紫外/軟X線バーストを起こすことが分かった。また、SN 1987Aの表面では放射冷却によってM〜7×10-8M〓の質量を持つ高密度の薄いシェルができ、このシェルはレイリーテイラー不安定に対して安定であることを示した。ショックブレークアウト時には星の外層にある物質が高温に熱せられてイオン化し、その時に大量に発生した電子によって光子が散乱されるため、星の内側からくるエネルギーが高い光子が大量に放出される。この論文では各周波数毎の輻射輸送方程式を解くことによって、詳細なスペクトルの計算を行った。その結果、希薄黒体放射近似で予測されるよりもより多くの高エネルギー光子が放出されることが分かった。またSN 1987Aの周りにある物質からの放射の観測から、ショックブレークアウト時に周りの物質をイオン化した光子の数が推定されているが、モデル計算はこの推定量を満足するものであった。 さらに、SN 1987Aよりも広がった外層を持つ赤色巨星におけるショックブレークアウトのモデル計算を行い、超新星SN 1987Aのそれとの比較を行った。赤色巨星では衝撃波が表面に到達するのにより長い時間がかかり、ショックブレークアウト時のバーストも長続きする。その反面バースト時に出てくる光子のエネルギーは低いことが分かった。 最後に、SN 1987Aと同じ親星を持つ極超新星におけるショックブレークアウトを調べ、バースト時の明るさは爆発エネルギーの2乗に比例することを示し、バースト時に大量の軟X線(〜keV)が放出されることを明らかにした。この極超新星ではショックブレークアウト時に非常に明るくなるため(L〓1046erg/s)、z=1,000程度の距離にあってもNGSTを使えば観測することが可能である。また、ショックブレークアウト後もしばらくは明るく輝き続けるため、z=1程度の距離にあっても、SUBARU等の現存する望遠鏡で観測することが可能である。さらに、超新星ではショックブレークアウト後に放射冷却によって高密のシェルが形成されていたが、極超新星では放射冷却が効く前に放出物が広がってしまうため、このようなシェルは形成されないことを明らかにした。 | |
審査要旨 | 通常の鉄光分解型超新星の爆発エネルギー1×1051ergをはるかに超える爆発エネルギーを持つ超新星が最近発見され、"極超新星"と呼ばれるようになった。論文提出者は、この極超新星の光度曲線、核反応生成物、および爆発時における衝撃波を理論的に計算し、それらを観測値と比較することによって、極超新星の物理的性質を明らかにした。 提出された論文は、6章からなっている。第1章では、超新星の観測的な性質を概観し、観測面からの分類について現状をまとめて紹介している。第2章においては、球対称1次元の構造という制限付きではあるが、輻射輸送と流体運動をともに考慮した数値計算コードについて詳しく解説している。これは、以降の各章で述べられる問題を解くのに使われる。 第3章においては、はじめて極超新星と認識されたIc型超新星SN 1998bwの爆発モデルを再構築し、理論的な光度曲線とスペクトルを計算し、観測との直接比較を行うことで、極超新星の諸物理量の推定をおこなった。この極超新星については、いくつかの先行研究があるが、最近になって、爆発末期の全輻射光度曲線が発表されたため、爆発初期と合わせ、より正確なモデル化が可能となった。その結果、14倍の太陽質量の炭素酸素星が5×1052ergで超新星爆発をおこし、かつ、極超新星の明るさの源である放射性同位元素ニッケル56の量が0.4倍の太陽質量であるとすると、初期の30日間にわたる光度曲線、および初期のスペクトル分布をうまく再現できること、しかし、爆発末期の光度曲線を再現するには、爆発エネルギーがより小さいモデル(7×1051erg)が必要となることを示した。これら爆発初期と末期の結果がともに球対称の仮定の基での結論であることを考慮し、論文提出者は、極超新星の爆発が初期の光度曲線を説明する、速く膨張する部分と、末期の光度曲線を説明する、ゆっくり膨張する部分が混在していること、すなわち、球対称から大きくずれた、双極的爆発の必要性に触れている。 第4章においては、極超新星のように、通常の超新星にくらべて1桁以上爆発エネルギーが大きい場合の元素合成について詳しく調べた。その結果、極超新星では、爆発的元素合成が星のより外側まですすみ、より多くの核反応物質が生成されることが判明した。温度が109Kを超える領域では、Siを含むほとんどの物質が燃えて56Niになるが、極超新星においては、温度が高い領域が広がるので、56Niなどの鉄族元素が多く放出される。また、109Kより温度が低いがSiが完全に燃える領域では、トリプルアルファ反応があまり進まず、Heがより多く残されること、またTiなどのアルファエレメントも多く生成されることなども明らかにし、その結果、通常の超新星爆発のみでは説明できなかったTiの量を、極超新星を考慮すると解決できる可能性を示した。同時に、酸素燃焼や炭素燃焼がより広い領域まで進行するために、OやC、Alなどの元素が消費され、これらの核反応でできる、SiやS、Ar、Caなどが多く生成され放出される。最近、Si/Cの元素組成比が通常の超新星爆発では説明できないほど大きい銀河が発見されたが、多くの極超新星によって汚染されたとすれば、この組成比を説明できることを示した。さらに、重元素の量が非常に少ない星、いわゆる金属欠乏星の鉄族元素組成比においてみられる特徴のなかで、通常の超新星爆発のみでは説明のつかない傾向も、極超新星爆発の効果を考慮すれば、説明できることを示した。今まで宇宙の中における元素組成で、通常の超新星爆発のみからでは解決のつかなかった多くの問題点を、極超新星爆発を考慮することで解決できることを世界ではじめて示したことは、高く評価できる。 第5章においては、超新星爆発時に発生する強い衝撃波が、星の表面から抜け出ていく現象(ショック・ブレークアウト)を数値的にしらべ、それらが観測的にどう見えるかを予測している。極超新星のモデルにおいては、バースト時の明るさはほぼ爆発エネルギーの2乗に比例し、大量の軟X線が放出されること。SN 1987Aなど、通常の超新星では、ブレークアウト時に高密度のシェルが形成されるが、極超新星においては、放射冷却が効いて高密度シェルができる前に、放出物が高速で膨張してしまい、高密度シェルができないことなどを示した。第6章は、以上の結果のまとめである。 最近発見された極超新星は、宇宙の中において最も高エネルギーな爆発現象であると同時に、宇宙の元素組成を解明する上で非常に重要な役割をになっている。論文提出者は、先行研究の土台のうえに、さらに詳細な光度曲線解析を行い、極超新星の爆発エネルギーが通常の超新星爆発より1桁以上大きいこと、その爆発よって合成される元素組成が通常の超新星爆発によるものとは異なり、いままでの宇宙元素組成の問題点の多くを解決できること、を明瞭に示した。これらは、極超新星の理解を大きく進めると同時にその意義を明確にした点で、天文学において重要な貢献をしたものと判断できる。なお、3章は、野本憲一、岩本弘一、Paolo A. Mazzaliとの、また4章は、野本憲一、岩本弘一、梅田秀之、橋本正章、W. Raphael Hix、Friedrich-Karl Thielemannとの共同研究であるが、論文提出者が主体となっておこなったものであり、論文提出者の寄与が十分であると判断できる。 したがって、論文提出者は博士(理学)の学位を授与される資格を有するものと認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |