学位論文要旨



No 116926
著者(漢字) 加藤,有介
著者(英字)
著者(カナ) カトウ,ユウスケ
標題(和) WWドメインの構造機能相関
標題(洋)
報告番号 116926
報告番号 甲16926
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4189号
研究科 理学系研究科
専攻 生物化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 西郷,薫
 東京大学 教授 横山,茂之
 東京大学 教授 山本,雅
 東京大学 教授 上野川,修一
 東京大学 教授 田之倉,優
内容要旨 要旨を表示する

 本研究はタンパク質モジュールであるWWドメインの相互作用解析を行い構造面から考察したものである。WWドメインはProを持つ配列に結合し、転写制御、細胞周期制御、ユビキチン化、スプライシング等に関与する。また、リドル症候群、筋ジストロフィーやアルツハイマー病等との関与も知られる。WWドメインは多様なタンパク質中に存在する相互作用モジュールであり、おもに4種類のグループに分類されている。グループI, II, III, IVのWWドメインはそれぞれ、PPxYモチーフ、PPLPモチーフ、PPRモチーフ、pS/T-Pモチーフに結合するとされている。また、PGRモチーフ、PGMモチーフといった別のリガンドモチーフも提唱されており、それぞれが独立したグループであるとする報告もある。これらのグループ分類に関してこれまで系統的に解析された例がほとんどないので、WWドメインの相互作用を相対的に比較するために、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いた相互作用解析と構造未知のWWドメインのモデル構築を行った。

1)グループIIおよびIIIとされているWWドメインについて

 これまでグループIIまたはIIIと考えられているWWドメインについて相互作用解析を行った。用いたサンプルはFBP11の1番目のWWドメイン(FBP11A)、Fe65L2のWWドメイン、FBP30の1番目のWWドメイン(FBP30A)である。Scatchard plotによる解析の結果、これまでの報告とは異なりこれらすべてのWWドメインはPL motif, PolyPro, PPR motifのすべてに結合した。これらの相互作用のkon, koffの解析を行ったところ、これらのWWドメインすべてに共通する特徴がみられた。kon値についてはPolyProとの相互作用でもっとも高い値をしめし、koff値についてはPPR motifとの相互作用がもっとも小さかった。これらのWWドメインで共通の結合機構があることが推定される。

 ホモロジーモデリングによる構造解析の結果、これらのWWドメインで共通してループIに酸性残基による負電荷があった。この負電荷のためにPPR motifとの相互作用が可能だと考えられる。また25番目の残基はTyrまたはTrpという共通点も見られた。この25番目の残基は2番目のX-P結合グルーブを形成して、リガンドのPro残基と相互作用することが推測される。これらのことからグループIIおよびIIIのWWドメインには共通する相互作用機構があることが示唆された。

 これらのWWドメインのループIに存在する酸性残基がPPRモチーフとの相互作用で果たす役割については変異体を作製して検討中である。また、25番目の残基のPolyPro配列との相互作用で果たす役割についても検討中である。

 グループIIのWWドメインは脊椎動物の四肢形成に重要な役割をもつforminと相互作用することが知られる。またショウジョウバエのAblキナーゼの基質であり、AblやSrcのSH3ドメインのリガンドであるEnaの哺乳類のホモログであるMenaとも相互作用することが知られている。一方グループIIIのWWドメインは、細胞分裂時にSrcキナーゼのアダプタータンパク質として機能するSam68と相互作用する。また、スプライソソームとも相互作用する。したがってこれらの相互作用でグループIIおよびIIIのWWドメインが競合的に関わって、相互作用のネットワークを形成している可能性があると考えられる。

2)グループIVと推測されるWWドメインなどについて

 ヒトPin1とそのリガンドとの複合体の構造解析がなされて、pS/pT-Pモチーフに対するPin1 WWドメインの相互作用ではArg14とArg17が重要だと述べられた。Arg14を含むWWドメインはこれまで多く知られているのでそれらについて相互作用解析を行い、それらがグループIVなのかどうか確かめる実験をした。酵母Rsp5の2番目のWWドメイン(Rsp5.2)とマウスNedd4の3番目のWWドメイン(mNedd4.3)に加え、ヒトPin1、C.elegans Pin1 homologue(Y110)、Aspergillus nidulans PinAとNeurospora crassa Ssp1について試した。

 その結果Rsp5.2とmNedd4.3はグループIのリガンドであるPPxYモチーフにのみ、それぞれ11μMと55μMのKDで結合した。そのほかの4種のWWドメインはグループIVのリガンドにのみ結合したが、そのKDの範囲は22から700μMであった。そのうちSsp1とPinAはArg17をもたない点がPin1やY110とは異なっている。

 これらのWWドメインのホモロジーモデルを構築したところ、Ssp1やPinAではPin1とLoop Iの構造や水素結合のネットワークが類似していた。グループIVがpS/pT-P配列と結合するための構造パッチとしてpパッチを提唱する。

 グループIVのWWドメインはすべてパルブリン型PPIaseのN末端側に存在するものである。ヒトPin1は重要な細胞周期制御分子と考えられており、リン酸化された細胞周期調節因子と結合することがわかっている。したがって本研究で明らかにされたようなWWドメインとリン酸化配列との相互作用が、それぞれの細胞で細胞周期調節に関与する可能性を示すものである。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究はタンパク質モジュールであるWWドメインの相互作用解析を行い構造面から考察したものである。WWドメインはProを持つ配列に結合し、転写制御、細胞周期制御、ユビキチン化、スプライシング等に関与する。また、リドル症候群、筋ジストロフィーやアルツハイマー病等との関与も知られる。WWドメインは多様なタンパク質中に存在する相互作用モジュールであり、おもに4種類のグループに分類されている。グループI,II,III,IVのWWドメインはそれぞれ、PPxYモチーフ、PPLPモチーフ、PPRモチーフ、pS/T-Pモチーフに結合するとされている。また、PGRモチーフ、PGMモチーフといった別のリガンドモチーフも提唱されており、それぞれが独立したグループであるとする報告もある。これらのグループ分類に関してこれまで系統的に解析された例がほとんどないので、WWドメインの相互作用を相対的に比較するために、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いた相互作用解析と構造未知のWWドメインのモデル構築を行った。

1)グループIIおよびIIIとされているWWドメインについて

 これまでグループIIまたはIIIと考えられているWWドメインについて相互作用解析を行った。用いたサンプルはFBP11の1番目のWWドメイン(FBP11A)、Fe65L2のWWドメイン、FBP30の1番目のWWドメイン(FBP30A)である。Scatchard plotによる解析の結果、これまでの報告とは異なりこれらすべてのWWドメインはPL motif, PolyPro, PPR motifのすべてに結合した。これらの相互作用のkon, koffの解析を行ったところ、これらのWWドメインすべてに共通する特徴がみられた。kon値についてはPolyProとの相互作用でもっとも高い値をしめし、koff値についてはPPR motifとの相互作用がもっとも小さかった。これらのWWドメインで共通の結合機構があることが推定される。

 ホモロジーモデリングによる構造解析の結果、これらのWWドメインで共通して25番目の残基はTyrまたはTrpという共通点が見られた。この25番目の残基は2番目のX-P結合グループを形成して、リガンドのPro残基と相互作用することが推測される。これらのことからグループIIおよびIIIのWWドメインには共通する相互作用機構があることが示唆された。

 グループIIおよびIIIのWWドメインが競合的に関わって、相互作用のネットワークを形成している可能性があると考えられる。

2)グループIVと推測されるWWドメインなどについて

 ヒトPin1とそのりガンドとの複合体の構造解析がなされて、pS/pT-Pモチーフに対するPin1 WWドメインの相互作用ではArg14とArg17が重要だと述べられた。Arg14を含むWWドメインはこれまで多く知られているのでそれらについて相互作用解析を行い、それらがグループIVなのかどうか確かめる実験をした。酵母Rsp5の2番目のWWドメイン(Rsp5.2)とマウスNedd4の3番目のWWドメイン(mNedd4.3)に加え、ヒトPin1、C. elegans Pin1 homologue(Y110)、Aspergillus nidulans PinAとNeurospora crassa Ssp1について試した。

 その結果Rsp5.2とmNedd4.3はグループIのリガンドであるPPxYモチーフにのみ、それぞれ11μMと55μMのKDで結合した。そのほかの4種のWWドメインはグループIVのリガンドにのみ結合したが、そのKDの範囲は22から700μMであった。そのうちSsp1とPinAはArg17をもたない点がPin1やY110とは異なっている。

 これらのWWドメインのホモロジーモデルを構築したところ、Ssp1やPinAではPin1とLoop Iの構造や水素結合のネットワークが類似していた。グループIVがpS/pT-P配列と結合するための構造パッチとしてpパッチを提唱する。

 グループIVのWWドメインはすべてパルブリン型PPIaseのN末端側に存在するものである。ヒトPin1は重要な細胞周期制御分子と考えられており、リン酸化された細胞周期調節因子と結合することがわかっている。したがって本研究で明らかにされたようなWWドメインとリン酸化配列との相互作用が、それぞれの細胞で細胞周期調節に関与する可能性を示すものである。

 なお、本論文は伊藤 三恵、河合 勲二、永田 宏次、田之倉 優との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析および検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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