学位論文要旨



No 116959
著者(漢字) 西谷,千佳子
著者(英字)
著者(カナ) ニシタニ,チカコ
標題(和) 篩部特異的HD−Zip型クラスIホメオボックス遺伝子ZeHB3の研究
標題(洋) A study of ZeHB3, an HD-Zip I homeobox gene expressed specifically in immature phloem
報告番号 116959
報告番号 甲16959
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4222号
研究科 理学系研究科
専攻 生物科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 福田,裕穂
 東京大学 教授 長田,敏行
 東京大学 助教授 梅田,正明
 東京大学 助教授 高橋,陽介
 東京大学 助教授 杉山,宗隆
内容要旨 要旨を表示する

<序論>

 維管束は、同化産物や水分の通道、植物体の機械的な支持などの機能を果たしている、高等植物の中心的組織である。維管束は、篩部、木部、形成層(前形成層)から構成され、それぞれの組織の形成機構に関して多くの研究がなされてきた。特に、木部分化に関しては、ヒャクニチソウ管状要素分化系などのin vitro実験系を用いて解析されており、数多くの木部分化関連遺伝子が同定され、研究が進展しつつある。一方、篩部分化の研究は、形態的観察を除いて、十分に進展していない。この理由として、一つには、初期段階の篩部の分化を分子レベルで解析するための分子マーカーが無かったことが挙げられる。私は修士課程で、ヒャクニチソウ茎頂付近で未成熟な篩部特異的に発現するホメオボックス遺伝子ZeHB3 (Zinnia elegans homeobox gene)を単離し、この遺伝子が篩部分化の初期過程を解析するための良い分子マーカーになることを示した。そこで博士課程では、ZeHB3の発現を詳細に調べたうえで、ZeHB3の機能解析を進めることで篩部分化機構に迫ることを目的として研究を行った。

<結果と考察>

(1)ZeHB3 mRNAおよびZeHB3タンパク質の局在解析

 ZeHB3 mRNAの蓄積パターンをin situ hybridizationで詳細に調べた。その結果、ZeHB3は調べた全ての器官において篩部に発現すること、その発現は篩部に篩管要素が形成される前から始まり、篩部が成熟する前までに終わることが分かった(図1)。また、茎頂分裂組織においてZeHB3の発現が見られなかったことから、ZeHB3発現は分裂活性とはリンクしないことが分かった(図1L、M)。

 次に抗ZeHB3抗体を作成し、この抗体を用いてZeHB3タンパク質の挙動を調べたところ、組織内ではZeHB3タンパク質は、mRNAと同様に未成熟な篩部細胞に蓄積し、細胞内では細胞核に局在した(図2)。以上の結果はZeHB3が未成熟な篩部細胞の分子マーカー遺伝子として有用であることと、ZeHB3タンパク質が篩部分化の初期段階で転写制御因子として機能することを示唆した。

(2)分子マーカー遺伝子群を用いた切断傷害による維管束再生過程の解析

 播種後14日目のヒャクニチソウの第一節間の維管束を切断すると、周囲の細胞が管状要素、篩管要素に分化し、維管束の連続性が回復する(図3)。このような傷害による維管束の再生現象は、植物の発生現象を理解する上でとても重要である。しかしながら、その初期過程に関してはほとんど解析されていない。そこで、未成熟な篩部のマーカーZeHB3に加え、管状要素前駆細胞のマーカーTED3を用いて、切断傷害に伴う維管束組織の再構築が時間的・空間的にどのように制御されているかを再生の初期段階から解析した。

 未切断の節間では、ZeHB3は全ての維管束の篩部に発現しているが、切断後24時間目に、切断された維管束において特異的に発現が減少し、切断後36時間目に再び増大した(図4、5A)。切断後24時間目の維管束では、篩管要素数は増大しないことから(図5A)、このZeHB3発現量の減少は、篩部細胞の成熟の結果ではなく、元々ZeHB3を発現していた細胞が篩部分化の活性を失った結果と解釈される。さらに、ZeHB3とは逆に、TED3の発現は切断後24時間で増大した(図4、5B)。様々な植物種で、形成層からの篩部と木部の分化は同調しないことが知られている。ヒャクニチソウの節間での維管束再生過程では、篩部形成よりも木部形成の方が優先することが示唆された。

 柔細胞からの篩管要素形成は、細胞分裂後に起きることが知られている。しかしながら、篩部分化への方向付けの前に細胞分裂が起きるのかは不明であった。切断した傷口に10-3Mコルヒチンを与え、細胞分裂を阻害したところ、篩管要素形成のみならず、ZeHB3発現も抑制された(図6)。一方、TED3発現と管状要素分化はコルヒチンによる阻害を受けなかった。このことから、篩部分化への方向付けの前に細胞分裂が起きることが示唆された。

(3)ヒャクニチソウ培養細胞系からの篩部に発現する遺伝子群の単離

 篩部で発現する遺伝子はこれまでにも様々なものが単離されているが、ほとんどが篩管の内容物などを手がかりにして単離されたものであり、篩部分化に関連するものはあまり知られていない。一方、木部分化関連遺伝子はヒャクニチソウ単離葉肉細胞からのin vitro管状要素分化系(図7)を利用して数多く同定されている。先述のように、植物体内では木部と篩部は関連しあいながら形成されることが知られており、この管状要素分化過程においてもZeHB3が発現していた(図7B)ことから、培養細胞の中の一部の細胞で篩部細胞分化が進行している可能性がある。そこで、ヒャクニチソウ管状要素分化過程でZeHB3と類似した発現パターンをする遺伝子群には、ZeHB3と同様の篩部分化関連遺伝子が含まれているのではないかと考えた。

 ヒャクニチソウマイクロアレイの1344遺伝子を対象に、管状要素分化過程でZeHB3と類似した発現パターンを示す9遺伝子を積率相関係数を基に選抜し、in situ hybridizationを行った結果、篩部に発現する5つの遺伝子が単離された(図8)。これらのうち1つは既知の遺伝子とのホモロジーが見られなかったが、ほかの4つの遺伝子の配列のホモロジーから、expansin(123)、polygalacturonase inhibitor(1274)、NADPH oxidase(1402)、xylogulucan endotransglycosylase(XETG)などが篩部形成に関与することが新たに分かった。

(4)ZeHB3の形質転換シロイヌナズナを用いた標的遺伝子の探索

 植物のHD-Zipタンパク質は発生のキーとなる転写制御因子として働くことが予想されている。そこで、篩部分化におけるZeHB3の転写制御機構を明らかにするために、ZeHB3過剰発現体を作成して、ZeHB3により発現が誘導される遺伝子群を同定することにした。現段階では、ヒャクニチソウでは安定した形質転換体ができないためシロイヌナズナに35S promoter-ZeHB3を導入した。シロイヌナズナにおいてもZeHB3に類似した遺伝子が存在することから、このようなヘテロの実験系でもZeHB3の機能解析が出来ると考えた。また、ZeHB3標的遺伝子の探索のためには、ZeHB3の発現のタイミングを人為的に制御することが必要と考え、DEX(デキサメタソン)によりZeHB3 mRNAの過剰発現を人為的に誘導できるシステムを用いた。

 ZeHB3により発現が制御される遺伝子の候補はシロイヌナズナジーンチップを用いて探索した。30μM DEXによるZeHB3 mRNA発現誘導後4時間で、コントロール条件よりも2.5倍以上のシグナル強度を示した遺伝子群を選抜した。その結果、8297の遺伝子から7遺伝子が選抜され、内4つについては、ノザンでもZeHB3の発現と呼応した発現パターンが確認された(図9)。また、これらの遺伝子の上流域には、HD-Zip Iタンパク質の結合配列と考えられる配列が含まれていた。さらに、これらの遺伝子のmRNAの蓄積をin situ hybridizationで調べたところ、このうちの3遺伝子は、野生型の植物体内で篩部に強く発現していた(図10)。以上の結果から、ZeHB3は、シロイヌナズナにおいて篩部で発現する遺伝子群の発現を誘導することが明らかになった。これらの結果から、今回得られた遺伝子はZeHB3様の篩部特異的転写制御因子の直接の標的である可能性が示唆された。誘導される遺伝子群にはzinc finger proteinといった転写因子をコードすると予想されるものも含まれており、篩部分化における転写カスケードの存在が予想された。

<まとめと展望>

1)ZeHB3のmRNAとZeHB3タンパク質の蓄積パターンを詳細に解析した結果、ZeHB3が未成熟な篩部の有用なマーカーであることと、ZeHB3が未成熟な篩部細胞で転写制御因子として機能している可能性が示唆された。

2)ZeHB3を篩部分化のマーカーとして利用し、切断傷害による維管束再生過程では篩部分化よりも木部分化が優先すること、柔細胞からの篩部細胞への分化転換に先立って細胞分裂が起きることを示した。また、ヒャクニチソウ培養細胞を用いた研究では、管状要素分化過程におけるZeHB3 mRNAの発現を手がかりとして、篩部に発現する5つの遺伝子を新たに見いだした。

3)ZeHB3を導入したシロイヌナズナの研究で、ZeHB3が実際に、篩部発現遺伝子群を誘導できることを示した。

4)今後は、ヒャクニチソウから単離した5つの篩部発現遺伝子やZeHB3の標的と考えられた遺伝子について、発現制御機構の解析、および機能解析を進めることで、篩部分化機構を明らかにしていくことができると期待される。

図1↑ ZeHB3 mRNA蓄積パターン

 全てアンチセンスプローブでin situ hybridizationを行った像である。【A to E】播種後1日目の植物体の第一葉(A)、子葉(B)、胚軸(C、D)、根(E)の横断切片。全ての器官で篩部にシグナル(紫色)がみられる。【F to J】播種後14日目の植物体茎頂上方の全体像(F)、第四葉(G)、第三葉(H)、第二葉(I)、第一葉(J)の横断切片。篩管要素が分化する前の第四葉篩部にもシグナルがみられる。一方、多くの篩管要素(緑の矢尻)が分化した第一葉ではほとんどシグナルがみられない。【K to M】播種後14日目の植物体の縦断切片。第二葉維管束(K)ではやはり篩管要素の内側の細胞層にシグナルが見られる。一方、茎頂分裂組織(L and M、MはLのノマルスキー像)にはシグナルがみられない。【N and O】播種後50日目の茎の横断切片。シグナルが全くみられない。SP,篩板、TE,管状要素。Bars : A-F, I, J and L-O, 100μm; G, H and K, 10μm.

図2↑ ZeHB3タンパク質の局在

 【A to D】播種後14日目の植物体の茎頂上方で抗ZeHB3抗体による組織染色を行った。全体像(A)、第二葉(B)、第三葉(C、D)。未成熟な篩部細胞にシグナル(茶色)がみられる。抗体を反応させなかったコントロールではシグナルはみられなかった(data not shown)。(D)は(C)をDAPIで染色したもの。シグナルが細胞核に局在していることが分かる。緑の矢尻は篩管要素。Bars : A, 100μm; B-D, 100μm.

図3→ 播種後14日目のヒャクニチソウ第一節間における切断傷害による維管束再生の模式図

 (0h)切断直後のヒャクニチソウ第一節間。(96h)切断後96時間の節間の、切断部位上方から下方までの連続した横断切片の模式図。特に切断部位の上方で盛んに木部(茶)、篩部(緑)が再生する。斜線は細胞分裂の起きた部位。

図4↑ 切断部位0.4mm上方の維管束におけるZeHB3(A to H)とTED3(I to M) mRNA蓄積パターンの経時的変化(図中の数字は切断後の時間)

 全てアンチセンスプローブでin situ hybridizationを行った像である。(B)および(J)では赤線から左側が切断された維管束である。(D)、(F)、(H)はそれぞれ(C)、(E)、(G)のアニリンブルー染色像。緑の矢尻は篩管要素。Bar in A : 150μm for A, B, I, J. Bar in C : 100μm for C-H, K-M.

図5← 切断部位0.4mm上方の維管束における

【A】篩管要素(SE)、ZeHB3を発現する細胞および【B】管状要素(TE)、TED3を発現する細胞の数の経時的変化切断された維管束(triangles)、傷害を与えた植物体のうちの切断されていない維管束(circles)および無傷の植物体(squares)におけるそれぞれの細胞の数を計測した。

図6← コルヒチンによる細胞分裂阻害が篩管要素形成または管状要素形成に与える影響

 切断直後に傷口にDW(A、C、E)またはコルヒチン(B、D、F)を与え、96時間後に観察した。(A)と(B)はアニリンブルー染色像である。コントロールのDWを与えた方では篩管要素(緑の矢尻)および管状要素(青の矢尻)の両方が分化し(A)、ZeHB3 mRNA(C)およびTED3 mRNA(E)の発現が見られる。一方、コルヒチンを与えると篩管要素は分化しないし(B)、ZeHB3 mRNAの発現も見られないが(D)、管状要素分化とTED3 mRNA発現は見られる(F)。Bars : 100μm.

図7← ヒャクニチソウ単離葉肉細胞のin vitro管状要素分化系とZeHB3 mRNAの消長

 ヒャクニチソウの葉から機械的に単離した葉肉細胞は、植物ホルモンを含む培地で培養すると、培養約72時間で約40%の細胞が管状要素へと分化する。【A】単離葉肉細胞の形態変化。Bars : 25μm. 【B】培養時間と管状要素分化率(青)、管状要素分化過程でのZeHB3 mRNAの消長(赤)。マイクロアレイの結果をグラフにした。

図8↑ ヒャクニチソウ管状要素分化系のマイクロアレイにおいてZeHB3と類似した発現パターンを示す遺伝子群の組織内での発現

 篩部での発現を示した5遺伝子とZeHB3の播種後14日目のヒャクニチソウの葉の維管束におけるin situ hybridization像。全てアンチセンスプローブの像である。123およびZeHB3は第三葉、その他は第一葉。123は将来篩管要素になる細胞(緑の矢尻)を取り囲む4つの細胞、1076、1274、1402は師管要素−伴細胞複合体、XETGは篩部のなかでも形成層よりの細胞にシグナルがみられる。Bars : 50μm.

図9← ジーンチップで選抜された遺伝子群の発現パターン

 選抜された7遺伝子のうち、5つについてジーンチップに用いたサンプルとは別にDEX処理したサンプルでノザンを行った。上の4つはZeHB3導入ライン(#1、#9)で特異的に、DEXにより発現が誘導されており、ZeHB3の発現の影響を受けて発現していると考えられる。14420はDEXの影響のみでの発現が見られる。

図10→ ジーンチップとノザンで選抜された遺伝子群の組織内での発現

 ノザン解析によりZeHB3の発現の影響を受けて発現していると考えられた4遺伝子のうち、篩部での発現がみられた3遺伝子の野生株のさやの維管束におけるin situ hybridization像。全てアンチセンスプローブ。右下は、同等の部位をaniline blueで染色し、画像処理したもの。緑の矢尻は篩板の染色(黄緑)がみられる箇所。篩部は木部の両側にみられる。Bars : 10μm.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は4章からなり、第1章では、ヒャクニチソウから単離した篩部特異的HD-Zip型ホメオボックス遺伝子ZeHB3のmRNAとタンパク質の局在解析について、第2章では、ZeHB3を分子マーカー遺伝子として用いた維管束再生過程の解析について、第3章ではZeHB3の発現パターンを手がかりとしたヒャクニチソウ培養細胞からの篩部関連遺伝子群の収集について、第4章ではZeHB3により発現が誘導される遺伝子群の探索について述べられている。

 篩部は、同化産物を転流する重要な組織であり、植物ホルモンなどのシグナル伝達経路としても注目される。篩部の分化過程に関しては、形態学的な解析が、また篩部の機能に関しても生理学的解析を主とした様々な解析がなされているが、分子レベルでの解析はほとんどなされていない。篩部に関連した現象を分子レベルで解析する第一歩としては、篩部の、特に発生初期に発現する転写制御因子の単離と解析が有効と考えられる。論文提出者は修士課程において、シュート頂付近の未成熟な篩部細胞に特異的に発現するヒャクニチソウのHD-Zip型ホメオボックス遺伝子ZeHB3を単離した。そこで、博士論文では、ZeHB3の発現を詳細に解析した上で、ZeHB3の分子マーカーとしての性質を利用し、分子マーカー遺伝子群を用いた切断傷害による維管束再生過程の解析、ヒャクニチソウ培養細胞からの篩部関連遺伝子群の収集を行うとともに、ZeHB3の機能を解析した。

 まず、第1章では、ZeHB3 mRNAの蓄積パターンを解析し、ZeHB3 mRNAが全ての器官で篩部に蓄積すること、ZeHB3 mRNAの蓄積は篩管要素がまだ分化していない未成熟な篩部から始まり、篩部の成熟の前にその蓄積が見られなくなることを明らかにした。また、抗ZeHB3抗体によりZeHB3タンパク質の局在を解析し、ZeHB3タンパク質が未成熟な篩部細胞の細胞核に局在することを見いだした。これらの結果から、ZeHB3が未成熟な篩部細胞の分子マーカーとして有用であることと、ZeHB3が未成熟な篩部細胞において転写制御因子として機能していることを推定した。

 第2章では、未成熟な篩部細胞の分子マーカーZeHB3に加え、未成熟な木部細胞の分子マーカーTED3用い、切断傷害による維管束再生初期における篩部と木部の分化の制御を解析した。その結果、維管束形成初期には、木部と篩部の分化は異なって制御されており、篩部分化予定細胞から木部分化予定細胞への分化転換の起こる可能性を初めて見いだした。

 第3章では、篩部関連遺伝子群の収集を目的として、ヒャクニチソウcDNAマイクロアレイの1344クローンから、ヒャクニチソウ単離細胞の管状要素分化実験系においてZeHB3と類似した発現パターンの遺伝子群の収集、発現解析を行った。その結果、4クローンを篩管要素−伴細胞複合体に発現する遺伝子として、1クローンを未成熟な篩部細胞に発現する遺伝子として同定することに成功した。

 第4章では、第1章、第2章、第3章の結果から、ZeHB3は篩部細胞の形成やその機能にとって重要な遺伝子であることが示唆された事を受け、ZeHB3により発現が誘導される遺伝子群の探索を行うことで、未成熟な篩部細胞における遺伝子発現のメカニズムに迫ることを目的とした。デキサメタソン(DEX)によりZeHB3 mRNAの発現を誘導できるシロイヌナズナを作成し、シロイヌナズナのオリゴアレイを用いてZeHB3 mRNA発現により発現が誘導される遺伝子群の探索した結果、4遺伝子(subtilisin-like protein, zinc finger protein PEI1など)の同定に成功した。これらの内の3遺伝子のmRNAが野生株の組織で未成熟な篩部細胞に蓄積することが確認され、ZeHB3が実際に未成熟な篩部細胞に発現する遺伝子群の発現を促進することが明らかとなった。これらの遺伝子はZeHB3タイプのホメオボックス遺伝子の直接のターゲットとなる可能性があり、篩部における遺伝子発現ネットワークの一端を初めて明らかにすることに成功した。

 なお、本論文第1章、第2章は、出村拓、福田裕穂氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって解析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 ここに得られた結果の多くは新知見であり、いずれもこの分野の研究の進展に重要な示唆を与えるものであり、かつ本人が自立して研究活動を行うのに十分な高度の研究能力と学識を有することを示すものである。よって、西谷千佳子提出の論文は博士(理学)の学位論文として合格と認める。

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