No | 116967 | |
著者(漢字) | 平野,勇二郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヒラノ,ユウジロウ | |
標題(和) | リモートセンシングを用いた都市緑地のヒートアイランド緩和効果の評価 | |
標題(洋) | Evaluation of Urban Vegetation Effect on Mitigation of Heat Island Using Remote Sensing Data | |
報告番号 | 116967 | |
報告番号 | 甲16967 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5108号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究の目的は、衛星リモートセンシングを活用し都市緑地の気候緩和効果の評価を行うことである。 まず第2章において、衛星リモートセンシングにより作成した緑被率データを用いて都市気候シミュレーションの地表面境界条件を高精度化する手法を構築した。気象モデルの中に地表面被覆を表現するためには、例えばアルベドや比熱などの地表面の物理特性をあらわすパラメータを各グリッドに対し設定する必要がある。このため土地利用別の地表面パラメータを設定し、土地利用データを用いてこれらの分布を得るという方法が一般的に行われている。ただし、この方法では土地利用データでは把握できない街路樹や宅地内の植木などを表現することができない。一方、近年はリモートセンシングの技術により、緑被率を人工衛星から計測することが可能となっている。そこで、非緑被面のカテゴリーは従来法と同様に土地利用データにより仮定し、混在する緑被面の割合のみを衛星リモートセンシングにより与えるという方法を提案した。この手法を局地気象モデルに適用し、土地利用データのみでシミュレーションを行った場合と比較した結果、緑被率データの適用により現状再現性が向上していることが確認された(図1)。 次に、第3章においてリモートセンシングによる緑被率推定手法について検討した。第2章では緑被率データにより都市気候シミュレーションを高精度化できることを示したが、実際には従来の緑被率推定手法は、実用性や精度の点では多くの問題点がある。そこで実用性を重視し、また都市の地表面の特性を考慮した緑被率推定手法を提案した。第2章で提案した都市気候シミュレーション手法では、土地利用データにより画素内の非緑被面のカテゴリーを仮定し、混在する緑被面の面積比のみを衛星データにより設定する。したがってこれを高精度化するためには、各画素について緑被面と非緑被面がそれぞれ均一な被覆のみであると仮定し、かつ非緑被面のカテゴリーを土地利用データにより設定できるという前提のもとで、できる限り的確な緑被率推定を行うことが望ましい。そこで、2つのカテゴリーの面積比をより直接的に表現する方法として線形混合モデルを適用し、NDVI(正規化植生指標)による緑被率の推定式を作成した。また各土地被覆カテゴリーと土地利用データを対応させる形で緑被率の推定を行った(図2)。 第4章では、都市気候シミュレーションにより植生の気候緩和効果を評価した。従来の研究では、特定の緑化のシナリオに従った評価や、緑被率を段階的に変化させた評価などは行われているものの、必ずしも現実に即しているとは言えない。そこで第2章、第3章の検討結果を用い、現実の緑被率に対応した形で植生の気候緩和効果を評価した。この結果、夏季の典型日であれば植生の効果により日中に約1.5℃の気温低下効果が生じていることが明らかになった(図3)。また、冬季はこの気温低下効果は夏季と比較して極めて小さいため、都市内の植生が熱環境改善に大きく貢献していることが確認された。 図1 観測気温と計算気温の散布図 図2 緑被率推定結果 図3 植生による気温低下効果 | |
審査要旨 | 学位請求論文「リモートセンシングを用いた都市緑地のヒートアイランド緩和効果の評価」では、衛星リモートセンシングにより得られた緑被率分布とメソスケール気象モデルを結合することにより、東京都心部における都市緑地のヒートアイランド緩和効果について評価を行った。 都市緑地のヒートアイランド現象の緩和効果は、快適で持続可能な都市環境の計画・管理を行う上できわめて重要である。特に近年、世界の大都市圏においてヒートアイランド現象の発生が顕著となり、ヒートアイランド現象により様々な社会・経済的インパクトが生じることが指摘されているため、緩和効果について的確に評価し、具体的な都市計画、建築計画等に利用していくことが緊急の課題となっている。本研究は、その目的への具体的な方法論を提示するものであり、その意義は大きい。また、これまでそれぞれ独立に行われてきた、気象シミュレーションによる現象の評価と、リモートセンシングによる地表面特性評価を結びつけることにより、ヒートアイランド現象の評価を行う本研究の手法は、研究上の新規性の点からも評価でき、研究分野への貢献が大きい。 第2章では衛星リモートセンシングによる緑被率データを用いて都市気候シミュレーションにより植生の気候緩和効果を表現する手法を構築した。 地表面被覆を気象モデルにおいて表現するためには、例えばアルベドや比熱などの地表面の物理特性をあらわすパラメータを各グリッドに対し設定するという方法が一般的に用いられている。しかしこうした地表面パラメータの分布を厳密に把握することは困難であるため、土地利用別の地表面パラメータを設定し、土地利用データを用いてこれらの分布を得るという方法が一般的に行われている。ただしこの方法では土地利用データでは把握できない街路樹や宅地内の植木などを表現することができない。そこで非緑被面のカテゴリーは従来法と同様に土地利用データにより設定し、混在する緑被面の割合を衛星リモートセンシングの緑被率データにより設定するという方法を提案した。 この手法をメソスケール気象モデルに適用した結果、土地利用データのみでシミュレーションを行った場合と比較し、気温が低下し海風が減少するなどの傾向が見られた。また、気温の空間的な分布パターンという観点から観測値との比較を行い、緑被率データの適用により現状再現性が向上していることを示した。したがってこの手法は、植生の効果の評価手法というだけはでなく、汎用的な気象シミュレーションの地表面境界条件を高精度化手法として、十分に利用価値があるものと考えられる。また本研究の手法は具体的な緑化施策の効果の評価にも応用できると考えられ、十分な社会的貢献が期待できる。 次に、第3章において緑被率推定手法について検討した。第2章ではリモートセンシングによる緑被率データを用いて、都市気候シミュレーションを高精度化できることを示したが、実際には従来の緑被率推定手法は、実用性や精度の点では多くの問題点がある。そこで実用性を重視し、また都市の地表面の特性を考慮した緑被率推定手法を提案した。本論文では、2つのカテゴリーの面積比をより直接的に表現する方法として線形混合モデルを適用し、NDVI(正規化植生指標)による緑被率の推定式を作成した。これはピュアピクセルのみでNDVIと緑被率の非線形の関係を表現しているため、実用的な緑被率推定式であると言える。これにより、NDVIと同程度に陰影の影響に対して頑健性がある上、線形混合モデルにより面積比を表現した形で緑被率推定が可能である。またテストサイトを設定し、空中写真判読により作成した緑被率データと対応させることにより、推定手法の精度を検証した。また各土地被覆カテゴリーと土地利用データを対応させる形で緑被率の推定を行った。 この緑被率推定手法は、リモートセンシング技術により都市の緑被率調査を効率化する実用的手法として利用価値があると考えられる。 第4章では都市気候シミュレーションにより、植生の気候緩和効果を評価した。都市全体を内包するスケールのシミュレーションでは樹木の3次元構造を表現することが困難であるため、植生は緑被率によりパラメタライズすることが多い。このため特定の緑化のシナリオに従った評価や、緑被率を段階的に変化させて評価した例などが多いが、現実の緑被率を反映させることは困難であった。そこで本論文では第2章、第3章の検討結果を用い、より現実に即した形で植生の気候緩和効果を評価した。この結果、夏季の典型日であれば植生の効果により日中に約1.5℃の気温低下効果が生じていることが明らかになった。また冬季には気温低下効果は小さいことも示されており、都市内の植生が熱環境改善に重要な役割を果たしていることが検証された。 この評価結果は、都市環境の都市緑地の重要性を示したものであり、具体的な都市計画・建築計画に結びつく有益な研究成果であると言える。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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