No | 116975 | |
著者(漢字) | 布施,孝志 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | フセ,タカシ | |
標題(和) | 高度撮影時系列画像を用いた車両動態認識手法の開発 | |
標題(洋) | Development of Techniques for Vehicle Maneuvers Recognition with Sequential Images from High Altitude Platforms | |
報告番号 | 116975 | |
報告番号 | 甲16975 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5116号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 現在の交通観測は道路上に設置された感知器,GPSに代表される衛星測位システム,携帯電話等の移動体通信,ビデオカメラ,人手等によって行われている。交通工学・計画における車両の詳細挙動の把握,かつ定点での観測という要請に対し,最も適した方法がビデオカメラによる交通観測である。従来から,ビルの屋上等に設置された固定ビデオカメラによる観測が行われているが,これらの例は,ビデオカメラの観測範囲の制限から,専ら交通事故現場や有料道路の料金所等局所的な観測となっている。ここでは,撮影されたビデオ画像をもとにした専門家による考察,ビデオ画像を用いた人手による車両軌跡の追跡等が行われてきたが,自動車の瞬時の挙動を連続的に把握する点において優れるものの,その作業の非効率性が問題となる。このため,車両動態の詳細把握を可能とする,なおかつ効率的な,新たなる交通観測手法の開発が望まれている。 一方で,高度撮影時系列画像は,広域かつ詳細な情報を得るために適したデータである。現在,ヘリコプターに代表される特定地点に滞空可能なプラットフォームから,任意時間の高度撮影時系列画像の取得が可能である。さらに,地上20km程度の気象の安定した成層圏に無人飛行船を静止させ,これを移動・高速通信の基地とすると同時に,地上に対する観測を行うという成層圏プラットフォーム構想が推進され,その実現が期待されている。このように,今後,従来の人工衛星画像よりもはるかに空間分解能の高い画像による,しかもほぼ定点の地上の時系列観測が可能となる。これにより,従来困難であった詳細車両挙動観測への道が開かれることが予想される。 このような詳細挙動データが利用可能となれば,車線変更・追従・追い越し・避走挙動解析,車線分布状況の解析,山間部交通の幹線道路への影響分析,細街路等の抜け道における行動分析等に基づく渋滞現象解析,地区計画への応用可能な道路交通ODデータの作成,交通シミュレータの検証・精緻化,交差点の右左折率や飽和交通流率等からの交通制御・規制システムの再検討,交通活動が引き起こす環境負荷の計測等,交通工学・計画の調査への貢献が大いに期待される。さらには,画像処理技術を駆使した解析を行うことにより,車両の動態計測の効率性が飛躍的に向上し,その実用性が望まれる。 以上の背景の下,本研究は,高度撮影時系列画像を用いた車両動態認識手法の開発を目的とする。本研究において想定している環境は,成層圏プラットフォーム等の近い将来必ず実現されるであろう技術による観測環境である。そのため,高度プラットフォームの積載能力等からのセンサに対する制約も考慮し,最高空間分解能10cm程度,最高時間分解能1/30秒程度の可視光領域のみを有する高分解能時系列画像を用い,可能な限り自動的な個別車両の動態認識手法を開発することに焦点をあてる。 以下,本論文を構成する各章について,その内容を要約する。 第2章では,従来の交通観測状況を紹介し,感知器,GPS等に代表される通信を用いた測位システム,ビデオカメラ等を比較し,本研究で想定している高度撮影時系列画像の特性を明確化している。さらに,成層圏プラットフォーム等の新たな技術の開発により,高度撮影時系列画像による定点観測が交通観測環境の発展に貢献し,本研究で扱う交通観測法開発の意義,すなわち重要性や実現可能性を論じている。 第3章では,画像処理における既存の動物体認識手法のレヴューを行っている。従来の動物体認識は基本的には,動物体の抽出,抽出された動物体の追跡の2段階から構成される。この流れに基づき,ここでは,動画像処理特有の情報を用いた空間における動物体領域抽出手法,抽出された動物体の対応付けによる追跡手法,さらに,時空間における動物体認識手法に関して論じている。動物体抽出手法では,差分処理による抽出,オプティカルフローによる抽出に分類し,追跡手法では,抽出された動物体領域の追跡,動物体の輪郭の追跡,動物体中の特徴点の追跡に分類して,手法の整理を行っている。 第4章では,本研究で開発する車両の動態認識手法の全体構成を示している。既存研究では,物体認識のための特徴量として様々なものが用いられているが,人間の動物体認識の視点から整理すると,動物体を特徴付ける最も重要な要素は,注目するピクセルにおいて静止領域との差異を明らかにすること,また,画像内における移動ベクトルを抽出することである。これらの特徴量は画像処理においては,背景差分値とオプティカルフローに対応し,動物体認識において極めて重要な情報であることが確認される。人間における,上記の特徴抽出段階は前注意過程と呼ばれ,続く集中的注意過程における群化作用を通して動物体を認識することとなる。すなわち,車両の動態認識問題は,背景差分値,オプティカルフローを特徴量とし,時空間において車両クラスタを形成することに他ならない。以上の整理の基づき,時空間クラスタリング法,及び,段階法により,本研究で構築する車両動態認識手法を構成することとする。 以下,第5章,第6章において,提案した車両動態認識手法を構成する各手法に関して詳説している。 第5章では,時空間クラスタリング法の開発を行っている。時空間クラスタリング法は,幾何補正,背景差分,影領域除去,オプティカルフロー抽出,時空間クラスタリング,車両認識という流れで構成される。高度撮影時系列画像は定点観測画像ではあるが,プラットフォームの揺れにより画像の幾何補正が必要となる。そのため,特に道路部を対象とした自動幾何補正手法の開発を行っている。そして,第3章のレビュー,第4章の人間の動物体認識過程を踏まえ,背景差分値,オプティカルフローの抽出を行う。背景差分後に,影領域除去の処理が含まれるが,車両認識精度を向上させるためには重要な処理である。幾何補正後に背景画像を作成しているため,背景画像を用いることにより単純なアルゴリズムで影領域の特定が可能である。そして,第4章で示した基礎とするアプローチ,すなわち,背景差分値とオプティカルフローを特徴量とした時空間内におけるクラスタの形成を行う。最終的に,車両特性を用い,車両クラスタを同定する。 第6章では,段階法の開発を行っている。第5章の時空間クラスタリング法では,車両に属するピクセルが時空間において隣接しているという条件を満足しなければならない。しかしながら,撮像間隔やサンプリング周期の関係で,この条件を満足しない場合も生じる。そのため,段階法では,単フレームにおける車両抽出,抽出された車両を連続するフレーム間で対応付けることによる追跡の2段階によって車両動態認識を実現させる。その流れは以下の通りである。幾何補正後,背景差分を行い,背景差分値のみを特徴量とした空間クラスタリングにより車両を認識する。ここで,時空間クラスタリング法と同様に影領域を除去する。その後,確率的弛緩法によって追跡を行う手法を開発している。単フレームにおける車両抽出のため,抽出精度には限界があることが予想されるが,撮像間隔が十分に短いものではない場合にも適用可能であることが利点となる。このことは,分析に必要なデータ量の減少を意味し,システム実現のためには必要な機能であると考えられる。 第7章では,第5章,第6章において詳説した各手法を,ヘリコプターから撮影した航空HDTV画像に対して適用し,提案手法の有効性を確認している。更に,各手法の結果の比較を行っている。適用対象は空間分解能10cm,撮像間隔1/30秒,総フレーム数600フレームの時系列画像である。時空間クラスタリング法では100%の車両認識精度が得られ,一方,段階法では,車両抽出段階で90%の抽出率であり,抽出された車両に対してのみ追跡を行った結果,100%の追跡率が得られたことを示している。各手法に対し,空間分解能,時間分解能が及ぼす影響を検討し,時空間クラスタリング法では,時間分解能に対する制約がより厳しく,一方で,段階法では,空間分解能による制約がより強いものである反面,時間分解能に対しては安定した結果を得られることを確認している。更に,マニュアルによる車両追跡結果との比較による位置精度の検証を行っている。直進車両では20cm程度の位置精度が得られ,左折車両等に対して十分な位置精度を得るためには,時間的なスムージング処理が必要であることを示している。 以上の適用を通し,本研究で構築した車両動態認識手法の枠組みの有効性を確認し,高度撮影時系列画像による新たな交通観測法の可能性を提示している。 なお,本研究で構築した車両の動態認識手法は,きわめて汎用的なものであり,広く動体追跡問題に適用可能であり,今後,他対象への適用を通してその将来性が期待される。 以上,本研究は,車両の詳細挙動の計測が可能であり,かつ効率的な観測手法を提示し,実時系列画像への適用を通してその有効性を実証するものである。これにより,交通工学・交通計画への詳細な車両動態の実観測データが提供され,より精緻な現象分析への貢献が期待される。 | |
審査要旨 | 本論文は、交通工学・計画において需要の高まっている効率的な車両の詳細挙動観測法に対し、高度撮影時系列画像の有用性に着目した車両動態認識手法を開発したものである。 本論文の成果として評価し得る点は以下のようにまとめられる。 (1)既存の動画像処理手法のレビュー、及び、人間の動物体認識の視点からの整理より、動物体を特徴付ける最も重要な要素は、注目するピクセルにおいて静止領域との差異を明らかにすること、また、画像内における移動ベクトルを抽出することであることを示している。これらの特徴量は、画像処理において、背景差分値とオプティカルフローに対応し、動物体認識において極めて重要な情報であることが確認される。人間の認識過程においては、上記の特徴抽出段階を前注意過程と呼び、続く集中的注意過程における群化作用を通して動物体を認識することとなる。すなわち、車両の動態認識問題は、背景差分値、オプティカルフローを特徴量とし、時空間において車両クラスタを形成することに他ならない。以上の整理の基づき、車両動態認識手法の枠組みを構築している。 (2) (1)の枠組みに基づき、時空間クラスタリング法の開発を行っている。時空間クラスタリング法は、幾何補正、背景差分、影領域除去、オプティカルフロー抽出、時空間クラスタリング、車両認識という流れで構成される。高度撮影時系列画像は定点観測画像ではあるが、プラットフォームの揺れにより画像の幾何補正が必要となる。そのため、特に道路部を対象とした自動幾何補正手法の開発を行っている。そして、背景差分値、オプティカルフローの抽出を行う。背景差分後に、影領域除去の処理が含まれるが、車両認識精度を向上させるためには重要な処理である。幾何補正後に背景画像を作成しているため、背景画像を用いることによる単純なアルゴリズムでの影領域の特定が可能である。背景差分値とオプティカルフローの抽出後、これらを特徴量とした時空間内におけるクラスタの形成を行う。最終的に、車両特性を用い、車両クラスタを同定する。 (3) (2)の時空間クラスタリング法では、車両に属するピクセルが時空間において隣接しているという条件を満足しなければならない。しかしながら、撮像間隔の制約等で、この条件を満足しない場合も生じる。そのため、段階法の開発を行っている。段階法では、単フレームにおける車両抽出、抽出された車両を連続するフレーム間で対応付けることによる追跡の2段階によって車両動態認識を実現させる。その流れは以下の通りである。幾何補正後、背景差分を行い、背景差分値のみを特徴量とした空間クラスタリングにより車両を認識する。ここで、時空間クラスタリング法と同様に影領域を除去する。その後、確率的弛緩法によって追跡を行う。単フレームにおける車両抽出のため、抽出精度には限界があるが、撮像間隔が十分に短いものではない場合にも適用可能であることが利点となる。このことは、分析に必要なデータ量の減少を意味し、重要な要素であると考えられる。 (4)前述した手法を、ヘリコプターから撮影した航空HDTV画像に対して適用し、手法の有効性を確認している。適用対象は空間分解能10cm、撮像間隔1/30秒、総フレーム数600フレームの時系列画像である。時空間クラスタリング法では100%の車両認識精度が得られ、一方、段階法では、車両抽出段階で90%の抽出率であり、抽出された車両に対してのみ追跡を行った結果、100%の追跡率が得られたことを示している。両手法に対し、空間分解能、時間分解能が及ぼす影響を検討し、時空間クラスタリング法では、時間分解能に対する制約がより厳しいことを示し、一方で、段階法では、空間分解能による制約がより強いものである反面、時間分解能に対しては安定した結果を得られることを確認している。更に、マニュアルによる車両追跡結果との比較による位置精度の検証を行っている。直進車両では20cm程度の位置精度が得られ、左折車両等に対して十分な位置精度を得るためには、時間的なスムージング処理が必要であることを示している。 以上本論文により、車両動態認識手法を構築し、その有効性の確認を行い、高度撮影時系列画像による新たな交通観測法の可能性を提示している。本論文の成果により、交通工学・計画への詳細な車両動態の実観測データが提供され、より精緻な現象分析へ貢献し得るものと評価される。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |