学位論文要旨



No 116977
著者(漢字) ハスブラー,ナウィル
著者(英字) Hasbullah,Nawir
著者(カナ) ハスブラー,ナウィル
標題(和) 三軸圧縮試験による砂の降伏特性に対する粘性効果
標題(洋) Viscous effects on yielding characteristics of sand in triaxial compression
報告番号 116977
報告番号 甲16977
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5118号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 助教授 ロランド,オレンセ
 東京大学 助教授 阿部,雅人
内容要旨 要旨を表示する

 土質材料の強度・変形における粘性的特性(載荷速度依存性や、クリープ変形特性、応力解放など)は、多くの地盤の問題を考える上で、非常に重要である。しかし、これら特性から起こる現象は、粘性的側面を考慮していない従来の土質理論では、予測することができない。このため、粘性的特性のシミュレーションを目的として、三要素モデルの研究がなされ、拘束圧一定の条件の下では、時間依存的な変形特性を的確にシミュレーションできるように至った。今回、引き続き、粘性的特性に関する研究として、豊浦砂を用いた数々の三軸圧縮試験を行うことにより、さらに一般的な応力経路での変形特性をシミュレートできるモデルの開発を行った。実際には、同一の供試体を用い、一定の応力経路の条件、及び、二種類の剪断載荷系の間で、拘束圧を徐々に、または、何度も、増加させる条件の下で、一連の繰り返し載荷実験を行い、次のようなことが得られた。

1.一次元応力空間での降伏応力における粘性特性:古典的な弾塑性理論が予測するように、除荷が行われる直前の最大剪断応力と異なるひずみ速度で再載荷した時の降伏応力は同じとは限らない。しかし、それらの相対的な大きさは、ひずみ履歴の関数として、粘性的効果によって決まる。

2.二次元応力空間中の降伏曲線での粘性的効果:載荷、除荷、再載荷を繰り返し行い、さらに、前段階の最大剪断応力でクリープを行うことにより、降伏曲線は、異なるひずみ履歴(例えば、ひずみ速度の履歴など)によらない。しかし、降伏曲線は主に、ひずみ履歴の関数として粘性的特性に影響される。

 加えて、応力経路に依存しない「不可逆エネルギーパラメータ」が発見され、このエネルギーパラメータを用いて、応力平面で降伏応力が一元的に表現されることがわかった。このエネルギーパラメータと従来の応力から求められるパラメータの違いは、応力経路に依存しない剪断降伏点の硬化の関数に関係するということも分かっている。圧縮降伏特性は剪断降伏特性(例えば、二重降伏の概念など)としても述べることができる。これらの事実に基づき、砂における既存の一次元の三要素モデルは、拘束圧一定の条件だけでなく、さらに一般的な応力条件に応用できるように、改良、拡大することができた。そのシミュレーションの過程はこの論文の中で述べている。その結果、一般的な応力条件で行われた三軸試験の結果を、TESRAモデルによりうまくシミュレートされることを示すことができた。

審査要旨 要旨を表示する

 砂礫地盤と言えども、その上に建設された基礎構造物、その中に接地された杭基礎、あるいはロックフィルダムが長期に亘って変位・変形することが知られている。これは、砂礫の変形特性の粘性効果のためである。要素試験レベルでは、三軸圧縮試験等により、砂礫の供試体が一定の有効応力状態でクリープ変形をすること、破壊状態に近いほどクリープ変形が著しくなることが知られている。粘性土のクリープ変形特性と比較すると、砂礫のクリープ変形量が小さいことから、従来は現場における課題は比較的少なかった。また、これに対応して砂礫のクリープ変形の基礎的な研究は、非常に不十分であった。近年許容変位が少ない重量重要構造物をより経済的に建設する必要が高まってきたことに対応して、密な砂礫のクリープ変形特性、より広くは変形強度特性に対する粘性の影響を定量的に予測することが必要な場合が出てきた。これに対応して、近年この課題の基礎研究がなされるようになってきたが、主に変数の応力が一つである場合に限定されてきた。このため、変数である応力が複数である一般的応力状態における砂礫の変形強度特性に対する粘性の影響が分からないため、境界値問題でのこの要因を取り込んだ数値解析法が殆ど行われてこなかった。

 本研究は、以上の背景に基づいて「砂質土の変形特性に及ぼす粘性の一般応力状態における測定とそのモデル化」を目標として、一連の三軸圧縮試験を行うことにより実施された。

 第1章は序論であり、以上のような研究の工学的背景と粘性効果を考慮しない砂の変形特性を扱う既存の弾塑性論の構成と粘性特性を扱う各種の従来の理論が纏められている。本研究では、従来の弾塑性論における降伏関数、ひずみ硬化関数、塑性ひずみポテンシャルに粘性効果を取り入れる方法を研究することが述べられている。また、従来の応力の変数が一つである状態での砂の変形強度特性に及ぼす粘性効果を説明できる非線形三要素レオロジーモデルの発展過程をまとめている。最後に、本論文の構成が示されている。

 第2章と第3章は、実験材料(豊浦砂)と実験方法を詳細に説明している。本実験での特徴は、豊浦砂の直方体の供試体を用意して、軸ひずみを供試体の側面でLDTと称する局所変位計で正確に測定するだけではなく、有効側方応力が変化する状態において側方ひずみを同様に局所変位計で正確に測定している。また、豊浦砂の空気乾燥と飽和した供試体を用意して、単調載荷の途中で載荷ひずみ速度を急変したりクリープ試験を実施するなど同様な載荷条件で粘性効果を調べて、基本的には豊浦砂の変形強度特性に及ぼす粘性効果は供試体の飽和度によらないことを実証している。すなわち、間隙水圧の移動に伴う時間遅れ現象とは独立に砂の変形強度特性には粘性があることを実証している。

 第4章では,いわゆる流れ則を実験的に検討しており、異なる応力経路により不可逆ひずみ増分ベクトルは応力経路によりことなり、またひずみ速度によっても異なることを実証している。すなわち、流れ則の法則性は砂の変形特性における粘性とせん断と圧縮に対する二種類の降伏の存在を考慮する必要性を示している。

 第5章では、一定の拘束圧での応力経路において、除荷後再載荷した時の応力〜ひずみ関係に観察される降伏点が、再載荷時のひずみ速度とそれまでのひずみ履歴に依存し、同一の応力履歴に対して一義的に決定されないこと、その原因は変形特性に及ぼす粘性であることを実証している。更に、偏差応力と有効平均主応力の2つの応力変数がなす応力平面において、せん断に対する降伏が開始する応力状態を示す降伏曲線も粘性の影響を受けるため、同一の応力履歴に対して一義的に決定できないことを実証している。各種のひずみ履歴と除荷・拘束圧の変化・再載荷を含む各種の応力履歴を与えながら粘性効果を受けないせん断に対する降伏曲線の形状を推定している。また、同一の供試体を用いてせん断変形が卓越して生じる応力経路と圧縮変形が卓越して生じる応力経路に沿った載荷・除荷・再載荷を繰り返して行う試験を多く行うことにより、砂の降伏特性はせん断に対する降伏と圧縮に対する降伏から構成されていて、二重硬化理論が適切であることを実証している。

 第6章では、第5章に示す結果に基づいて、応力経路の影響を受けないせん断降伏に対するひずみ効果パラメータとして「修正不可逆せん断ひずみエネルギー」を提案している。また、粘性効果を受けない降伏曲線を表す応力パラメータと「修正不可逆せん断ひずみエネルギー」の関係を求め、これは応力経路によらないせん断降伏に対するひずみ硬化関数であることを示している。同様に、圧縮に対するひずみ効果パラメータとして「修正不可逆圧縮ひずみエネルギー」を提案し、それに対応する圧縮降伏に対するひずみ硬化関数を求めている。

 第6章では、一般応力経路における変形特性に及ぼす粘性効果を考慮できる理論構成を二重硬化理論に基づいて行っている。これは、従来の応力変数が一つであった砂の変形特性に及ぼす粘性効果を説明する理論の一般化である。その結果に基づいて、本研究で得られた実験結果をシミュレーションできることを示している。

 第7章では,本論文で得られた結論をまとめている.

 以上要するに、系統的な室内と現場試験に基づいて理論的検討を行い、砂の変形特性に及ぼす粘性効果を従来の弾塑性論と一次元応力状態でのレオロジー理論を拡張して説明することに成功しており、今後の本研究分野の発展に大いに寄与する新しい知見を与えている。これらは、土質工学の分野において貢献することが大である。よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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