学位論文要旨



No 116992
著者(漢字) ほー ちーかん ひゅーばーと
著者(英字) Ho Chi-kan Hubert
著者(カナ) ホー チーカン ヒューバート
標題(和) 建築技術の革新における部品及び組織の統合化の様態に関する研究
標題(洋) Building Components and Organizations Integration in Technological Innovation Process
報告番号 116992
報告番号 甲16992
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5133号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 松村,秀一
 東京大学 教授 菅原,進一
 東京大学 教授 坂本,功
 東京大学 教授 長澤,泰
 東京大学 教授 野城,智也
内容要旨 要旨を表示する

第1章の「背景と問題提起」では、筆者は研究の範囲と焦点をプロジェクト中心の高層ビル建設における技術革新に定めた

第2章の「定義と分類」では、建築の3つの側面を基本的な研究対象として定義付けた。

 1.人工物としての建築は、3つの要素を含んでいる:その機能を発揮するための部品、部品を支える物理的な構造、そして各部品の相互関係を決める組織構造である。

 2.過程としての建築は、3つの仕事を含んでいる:デザイン、製造および建設である。

 3.知識の構造変化としての革新過程は、2種類の知識を含んでいる:特定分野の知識と特定状況のシステム知識である。

第2章以降、研究調査を分かりやすいように、筆者は技術革新の過程を2種類に分けて別々に分析することにした:つまり単一のプロジェクトに起きる技術革新と複数のプロジェクトに亘って起きる技術革新である。前者は問題解決の模式、後者は発展的模式として、それぞれの研究方法、研究する事例を選択する基準を説明した。つまり、単一のプロジェクトに起きる技術革新を調査するために人工物構造における技術改革を表す事例を選び、複数のプロジェクトに亘って起きる技術革新を調査するために技術革新がもたらす変化の急激さによって事例を選ぶことである。

第3章では、本論で提起した最初の問題の解明を試みた:

「技術の革新過程は単一のプロジェクトにおける各構成要素と各組織間の統合を如何に影響したか」

前人の研究を検討した結果、システム知識はプロジェクトにおける技術の革新過程の中核であることに気付いた。各分野の知識を融合し、技術革新と関連する特定分野の知識との関係をプロジェクト・チームに気付かせる役割を果たしている。

問題解決の模式を用いて、部品、部品の構造および部品の組織における技術革新の3つの選択事例を考察すると、問題を解決する過程の中に、技術革新の発想をするのはだいたい建築家と開発業者であることが分かった。しかし、その発想実現するキーパーソンはシステムの関連知識を持ち、しかも専門知識の提供者と上手く意思疎通できる人である。技術革新の最も肝心な要素は技術革新の主体以外にあることがしばしばである。

そのため、筆者は単一のプロジェクトにおける技術革新の過程に、革新の技術を統合する主要分野の専門知識を見つけ出すことをガイドするのがシステム知識であることを結論として第3章を結んだ。

第4章では、本論が提起した第2の問題を解明することを試みた:

「各部品と組織の統合は複数のプロジェクトにおける技術革新の発展に如何なる影響を及ぼしたか」

今までの研究を参考すると、各部品の間の関係がはっきりして裏の癒着が最小限に抑えられるという複雑なシステムでは、第三者による実験は奨励され、新製品の製造が促進され、発展の仕組みが改善され、つまりシステムの成功に有利であること分かった。

発展の過程を研究するために選択した4つの事例を考察して気付いた点は2つある。

まず、技術革新が急速であるほど、技術を統合する組織構造もより組織化しなければ成らないこと、

そして、技術の革新が複雑で関与する組織の数が多いほど、各部品と組織がよりモジュール化してその技術が発展しやすくすることが重要であることが分かった。言い換えれば、特定の状況知識に頼ることを最低限にしなければならない。

第4章では、複数のプロジェクトに亘る技術の革新過程における変化、選択および維持を促進し、新しいシステム知識が分化して個別の知識分野に定着させることによって、技術の発展に有利であるという結論に至った。

第5章では、単一のプロジェクトにおける技術革新の過程に、革新の技術を統合する主要分野の専門知識を見つけ出すことをガイドするのがシステム知識であるので、よりレベルの高いシステム知識のレベルが必要とされ、そのため組織と部品の高度な統合が遂げられる。しかし、技術が次のプロジェクトへ伝えられる時、技術革新の更なる発展のために、この高度な統合を解消しなければならないという本論文の結論に辿り着いた。

建築における技術革新の過程は専門知識と状況知識が相互交錯に影響し合い、新しい知識が持ち込まれて定着することによって、部品と組織の構造が統合しては分解する過程である。その都度新しい状況知識が生まれ、専門知識が共に発展する。

審査要旨 要旨を表示する

 提出された学位請求論文「Building Components and Organization Integration in Technological Innovation Process(建築技術の革新における部品及び組織の統合化の様態に関する研究)」は、建築を構成する部品と組織の統合化の様態に着目することで、建築プロジェクトにおける技術革新の過程を分析する方法を示すとともに、技術革新を促す部品と組織の構造のあり方を提示した論文であり、全5章からなっている。

 第1章「背景と課題設定」では、研究の背景、目的、方法及び構成を明らかにしている。その中で、研究の範囲と焦点を高層ビルの建設プロジェクトにおける技術革新に定め、その理由を明らかにしている。

 第2章「定義と分類」では、基本的な研究対象として建築の三つの側面を定義付けている。即ち、人工物としての建築、過程としての建築、知識体系としての建築の三つの側面であり、第一の側面に関しては、建築がその機能を発揮するための部品、部品を支える物理的な構造、そして各部品の相互関係を決める組織構造の三要素からなること、第二の側面に関しては、建築がデザイン、製造および建設の三要素からなること、第三の側面に関しては、建築が特定分野の知識と特定状況のシステム知識の二種の知識からなることを論じている。また、これらの考察に基づき、技術革新の過程を、単一のプロジェクトに起きる技術革新と複数のプロジェクトに亘って起きる技術革新の2種類に分けて別々に分析することの妥当性を指摘している。そして、前者には問題解決のモデル、後者には発展のモデルが適用可能であることを論じ、それぞれの研究方法、研究する事例を選択する基準を明らかにしている。

 第3章「単一プロジェクト内での技術革新過程」では、「技術革新の過程は単一のプロジェクトにおける各構成要素と各組織間の統合にどのような影響を受けたか」という問題に関して、既往の関連研究の成果を吟味した後、先ず、各分野の知識を融合し、技術革新と関連する特定分野の知識との関係をプロジェクト・チームに気付かせる役割を果たしているという点から、システム知識がプロジェクトにおける技術革新過程の中核であることを指摘している。次いで、部品、部品の構造および部品の組織における技術革新の三種の事例を選定し、それぞれにおける技術革新の過程を詳細に分析した後、技術革新の発想は一般に建築家と個々の技術の専門業者に負うものの、それを実現する上では、システム知識を持ち、しかも専門知識の提供者と上手く意思疎通できる主体が大きな役割を担うことを明らかにしている。その上で、ここで言うシステム知識の要件を明確化している。

 第4章「複数のプロジェクトにまたがる技術革新過程」では、「各部品と組織の統合は複数のプロジェクトにおける技術革新の発展に如何なる影響を及ぼしたか」という問題に関して、既往の関連研究の成果を吟味した後、先ず、複雑なシステムにおいて、各部品の間の関係が明確にされていることが技術革新の発展にとって重要であることを確認している。次いで、技術革新の発展の過程を研究するために選定した四種の事例の技術革新の発展過程を詳細に分析し、技術革新が急速であればあるほど、技術を統合する組織構造もより明解なものにしなければならないこと、そして、技術の革新が複雑で関与する組織の数が多いほど、各部品と組織を明確なモジュールに分割できるようにし、特定の状況に関する知識の必要性を最小限に押えることが重要であることを明らかにしている。その上で、複数のプロジェクトに亘る技術の革新過程における要件として、新しいシステム知識の分化と個別の知識分野への定着の二項目を指摘している。

 第5章「結論」では、前4章で明らかにした建築プロジェクトにおける技術革新の過程に関する実証的研究の成果と、それに基づく効率的な部品と組織の構造のあり方とを確認、整理し、本論文の結論としている。

 以上、本論文は、これまで明らかにされていなかった建築プロジェクトにおける技術革新の過程を、部品及び組織の構造との関係から実証的に明らかにし、更にそれを促進するための要件と方法を応用可能な形で提示した論文であり、建築学の発展に寄与するところが大きい。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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