No | 116994 | |
著者(漢字) | 滕,五小 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | トウ,ゴショウ | |
標題(和) | 地盤特性による地震被害想定手法の開発 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 116994 | |
報告番号 | 甲16994 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5135号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 都市工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 地域防災計画は,地震被害想定を行い,これを前提として策定されるのが一般的である.地震被害想定は,通常,ある特定の地震を想定して行われるのが一般的である.しかし,実際には,想定どおりの地震が発生するとは限らない.異なる想定地震を設定すれば,一般に異なったものとなる.想定地震の地震規模が同じであっても,地震動のスペクトル特性が異なるものであれば,想定結果も異なったものとなる。地域防災計画は一般に一つの被害想定を前提とするが,実際には想定どおりに被害が発生するわけではない.事前の被害想定の結果と実際の被害状況との差がそれほど大きくなければ特に問題は生じないが,これが大きいと,応急対応計画を遂行する上,重大な問題となる。現在,断層調査や地震履歴から起こりそうな地震が各地域で特定されつつあるが,依然として不確定な要素も多い.たとえば,地震動のスペクトル特性に関しては不確定性が高い.防災計画の策定にあたっては,この不確定性を考えておく必要がある.スペクトルに関しては,あらゆるスペクトルパターンに対応しておくことが望ましいと考える。 本研究は,このような背景より行政としては地域防災計画をどのような被害状況にも対応できるようにしておくべきであるという問題意識に基づくものである.本研究では,地震の波の特徴に着目し,想定とは異なる波の地震が起こったとしても対応できるような計画づくりの実現に寄与することを目的とした. 本研究では,まず,異なる想定地震,異なる地盤の想定手法を用いた場合,地盤の揺れの想定結果が異なることを示した上で,地震の入力波の多様性を考慮し,入力波の多様性が地盤の揺れにどのように影響するかを大崎スペクトルで示される9パターンのスペクトルを用いた地震動によって定量的に分析した.その結果,スペクトルの違いが揺れの地域分布に大きな影響を与えることが実証された.また,個別の地盤に注目すると,スペクトルの違いによって被害が大きくばらつくことが確認された.このばらつきは表層地盤の構造に依存しており,ばらつきの大きさは地盤によって大きくことなることが確認された. 地盤速度増幅度はスペクトルにより大きく異なり、地盤種によってそのばらつきの大きさが異なる(下左図)。また、各地域に着目すると、スペクトルに応じて地域分布が異なったものになる。また、増幅度のばらつきが存在し、ばらつきの大きさは地盤種によって異なる(下右図)。 次に,入力波の多様性が建物被害や出火被害などの都市的な地震被害にどのように影響するかを定量的に分析した.その結果,建物被害や出火被害は,建物の地域分布に相当程度依存しており,特にある一定の老朽建物の存在がばらつきを大きくしていることが定量的に明らかになった。 最後に,地域防災計画の策定側からの視点から,スペクトルの違いに起因するこのような被害想定結果のばらつきが地域防災計画の策定にどのように影響するかを考察した.想定地震の波の特性による地域分布のばらつきは,事前の応急対応計画の立案を難しくさせている.通常の計画立案方法である,一つだけの想定地震に基づく応急対応計画では,対応できない可能性が十分高いこと明示しているからである.本研究では,スペクトルの違いによる被害のばらつきを「ばらつきリスク」と呼び,この「ばらつきリスク」を低減することが現在の地域防災計画に必要なことを示している.更に,この「ばらつきリスク」を低減させるために,それまでの分析をふまえ,新たな地域防災計画の策定方法を提示している.それまでの分析から得られた,ばらつきに関する地盤の特性,及び,建物の特性の2つの軸で地域を次のように5つに類型化することによって各々の類型に適した地域防災計画の立案方法を示した。 類型:I類型はスペクトルによる被害のばらつきが小さい地域である。応急対応に関しては、従来どおりの地域防災計画で十分対応できると考えられる。今後、この地域では、新規の宅地開発を行う際も特に問題はない。 類型2:この地域では、被害想定ばらつきは中ぐらいである。ただ、この地域では、建物が相対的な集中しており、今後、建物老巧化した後、被害の絶対や想定被害ばらつきリスクも高まると考えられる。長期的な防災計画には建物の耐震補強などを考えておいた方が良い。 類型3:III類型は、被害のばらつきは大きくないが、地盤のゆれのばらつきは非常に大きい。今後、脆弱な建物が蓄積していくと、被害のばらつきが大きくなる可能性が高い。したがって、都市計画的に対応する必要がある。脆弱な建物の集積、あるいは、経年劣化していくような建物が集積することを抑制するべき地域と位置付けられる。 類型4:IV類型は、被害のばらつきが大きい地域である。地盤のゆれのばらつきは小さいが、建物に問題があるためばらつきを大きくまっている。主に老朽化した建物が集積していることが原因である。地域防災計画策定にあたっては、ばらつきの大きさに対応する必要があるが、それに加え、ばらつきを小さくしていくために、建物耐震補強施策を展開し、地域地震被害の減少と被害のばらつきリスクの低減を図っていく必要がある。 類型5:この地域では、被害想定ばらつきが大きい地区である。建物と地盤特性ともに被害想定のばらつきの要因となっている。この地域のばらつきリスクの低減には、建物の耐震性の改善が一定の効果はあるが、地盤のゆれのばらつきが大きいため、その効果には限界がある。地域防災計画策定にあたっては、被害のばらつきが存在することを前提とした応急対応計画が長期的に必要とされる。更に、今後脆弱な建物が集積することがないよう都市計画上の対応もしておく必要がある。 本研究の成果は,地域防災計画の策定において新たな視点を提示したと考えられる.阪神淡路大震災以降,地域防災計画の実効性の向上が言われている中,本研究が提示する方法はこれに寄与できると思われる。 大崎スペクトルによる地盤速度増幅度 増幅度増幅度ばらつきの地域分布 行政ブロックメッシュ当り建物被害棟数 地域防災計画の応急計画のための地区類型 実市街地ばらつきリスク区分↓仮想市街地ばらつきリスク区分 地域防災計画類型図 | |
審査要旨 | 地域防災計画は,地震被害想定を行い,これを前提として策定されるのが一般的である.地震被害想定は,通常,ある特定の地震を想定して行われるのが一般的である.しかし,実際には,想定どおりの地震が発生するとは限らない.本研究は,このような状況をふまえ,行政としては地域防災計画をどのような被害状況にも対応できるようにしておくべきであるという問題意識に基づき行われたものである.地震発生の不確定性として,地震規模,位置,地震の波の特性が挙げられるが,本研究では,地震発生の不確定性のうち,地震の波のスペクトルに着目し,同じ規模の地震であっても想定とは異なるスペクトルの波の地震が起こった場合でも対応できるような地域防災計画づくりの実現に寄与することを目的として研究が行われている.対象としては,市町村レベルの地域防災計画に焦点をあてている.地震規模に関しては,想定以上の規模の地震が起これば対応できなくなることは受忍せざるを得ないので別の課題としている.また,位置に関しては,市町村域がそれほど大きくないことから震源位置による市町村域内の被害分布はそれほど大きな要素にならないことから考慮しないとしている. 本研究では,まず,異なる想定地震,異なる地盤の想定手法を用いた場合,地盤の揺れの想定結果が異なることを示した上で,地震の入力波の多様性を考慮し,入力波の多様性が地盤の揺れにどのように影響するかを定量的に分析が行われている.入力波の多様性として大崎スペクトルで示される9個の異なるスペクトルパターンを用いている.その結果,スペクトルの違いが揺れの地域分布に大きな影響を与えることを実証している.また個別の地盤に注目し,スペクトルの違いによって地盤の揺れが大きくばらつくことを確認している.このばらつきは表層地盤の構造に依存しており,ばらつきの大きさは地盤によって大きくことなることを確認している.次に,入力波の多様性が建物被害や出火被害などの都市的な地震被害にどのように影響するかを定量的に分析した.その結果,建物被害や出火被害は,建物の地域分布に相当程度依存しており,特にある一定の老朽建物の存在がばらつきを大きくしていることを定量的に明らかにしている.なお,起こる可能性のあるスペクトルとして大崎スペクトルを採用していることの妥当性に関しては更に議論する必要があるが,地域分布の相違を定量的に実証したことは十分評価できる. 最後に,地域防災計画の策定側からの視点から,スペクトルの違いに起因するこのような被害想定結果のばらつきが地域防災計画の策定にどのように影響するかを考察している.通常の計画立案方法である,一つだけの想定地震に基づく応急対応計画では,対応できない可能性が十分高いこと明示し,想定地震の波の特性による地域分布のばらつきは,事前の応急対応計画の立案を難しくさせていることを示している.本研究では,スペクトルの違いによる被害のばらつきを「ばらつきリスク」と呼び,この「ばらつきリスク」を低減することが現在の地域防災計画に必要なことを示している.特に応急対応計画においては事前に想定していた被害を超える可能性を事前に把握しておくことの重要性を示している.更に,この「ばらつきリスク」を低減させるために,それまでの分析をふまえ,新たな地域防災計画の策定方法を提示している.それまでの分析から得られた,ばらつきに関する地盤の特性,及び,市街地状況の脆弱性の特性,即ち建物の築年分布,の2軸で地域を5つに地区を類型化し,各々の類型に適した地域防災計画の立案方法を提示している.この類型化は,通常行われている地域の危険性の絶対量による地域類型に加えて,防災計画のマスタープランとしての地域防災計画の計画論に厚みを加えるものと言える.今後,更なる研究の展開を期待したい. 本研究は,全体として地震工学分野と都市防災分野の学際領域的な研究と位置づけられ,これまで研究が手薄であった部分を補うものとして位置づけられよう.また,本研究の成果は,地域防災計画の策定において新たな視点を提示し,阪神淡路大震災以降,地域防災計画の実効性の向上が言われている中,本研究が提示する方法はこれに寄与するものと思われる. よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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