学位論文要旨



No 117006
著者(漢字) 半谷,禎彦
著者(英字)
著者(カナ) ハンガイ,ヨシヒコ
標題(和) 界面き裂の破壊基準に関する研究
標題(洋)
報告番号 117006
報告番号 甲17006
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5147号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 渡邊,勝彦
 東京大学 教授 酒井,信介
 東京大学 助教授 柳本,潤
 東京大学 助教授 吉川,暢宏
 東京大学 助教授 高橋,淳
内容要旨 要旨を表示する

 近年,軽量化,高強度化,高機能化の為に様々な材料を接合,複合して使用する動きが活発になってきている.これにともなって,材料と材料の境界,つまり界面の強度もクローズアップされてきた.そして,界面は異なる材料の接合の為のしわ寄せが集中することや,接合における不具合などにより,欠陥が多く存在する可能性が高い場所である.その為,界面き裂の問題は大変重要になってきており,界面き裂の破壊基準の確立が急務で,これまでに盛んに研究されている.しかしながら,界面き裂の問題は

 1.線形弾性解においては,き裂先端近傍で応力が振動し,変位がオーバーラッピングする.

 2.必ず混合モード状態となり,上記1.の振動と密接に関係して各変形モードに分離することができない.

 3.非弾性域を伴った場合,従来のパラメータでは適用限界がはっきりしない.

 4.界面き裂の3次元の理論解や信頼できる解が少なく,2次元近似の意味がはっきりしないまま,2次元近似を3次元現象に適用している.

といったような様々な問題があり,その破壊基準は十分に確立されているとは言い難いように思われる.

 そこで本研究では,上記の問題を克服し,界面き裂の脆性破壊から非弾性破壊まで統一的に考慮できる破壊基準を提案する.その破壊基準として,界面き裂の評価を「き裂エネルギ密度(Crack Enegy Densigy,以下CEDと呼ぶ)」という非弾性状態においても,力学的な意味が明確なパラメータを用いて行おうとするものであり,その基本的な検討を行う.

 CEDは従来からの研究で,均質材における混合モード破壊に対しては,破壊基準となることが知られている.本研究ではこの均質材で有効であるCEDを界面き裂に拡張し,図1に示すように,き裂先端前方に均質材1から均質材2へ材料定数が連続的に変化する層を考え,連続的な場を考えることにより,均質材に準ずる形で,CEDを求めることができるようにモデル化を行った.また,解析を行う場合には,実際のき裂に対応する有限のρを用いるので,上記の界面き裂の問題点で述べた振動の問題も回避されている.また,このCEDは任意方向にも定義することができ,各モード変形に分離することもできる.本研究においては,この各モードに分離されたCEDで評価を行う.

 このCEDの有効性の検討を行う為に,混合モード破壊試験の為に考案された図2に示すようなBNS(Brazil-Nut-Sandwich)試験片による実際の破壊実験と,実験に対応した2次元弾塑性有限要素解析を行い,実験結果と解析結果を比較する.本研究で使用したBNS試験片は金属の間にエポキシ樹脂をはさみこむような材料の組合せであり,試験片作成の際には,常温硬化のエポキシ樹脂を用いることにより,残留応力の影響を極力押さえ,また,硬化しきっていないエポキシ樹脂を用いることにより,エポキシ樹脂部で非弾性効果を入れている.実際の破壊実験の前に,エポキシ樹脂単体の引張試験を行うことにより,実験条件下でのエポキシ樹脂の応力−歪み特性など,基本的な特性を調べた.その特性を反映させて,実験や解析を行う.

 その結果を表1に示す.θLが破壊試験の際の荷重方向,θFが実際の破壊方向,φImaxは解析によって得られたCEDのモードI寄与分が最大の方向,そして,εIφmaxがCEDのモードI寄与分の最大値である.荷重方向θLが15°圧縮の場合について示したのが図3で,横軸にき裂先端からの方向φ,縦軸にCEDの変化量をとっているが,実際の破壊方向θFとCEDのモードI寄与分が最大の方向φImaxがほぼ一致するものとなっており,エポキシ樹脂がモードIで壊れることを考慮すると,CEDが破壊の方向に関して破壊基準となっていることが分かる.表1に示す他の荷重条件のものにおいても,破壊方向をCEDのモードI寄与分が最大の方向で予測することができることが分かる.

 しかし,破壊の限界値に関しては,荷重条件によって異なるものとなっている.この理由として,破壊時の非弾性域の広がりが図4,図5のように荷重条件によって大分異なるものとなっており,破壊時のき裂先端でのエネルギの吸収の量が異なるためと思われる.このように,非弾性変形を伴う組合せの場合には,非弾性効果を入れた解析が必要と思われるが,CEDはき裂の進展が始まるまでにき裂端が破壊面で吸収した単位面積当たりのエネルギという意味をもっているので,その大小により破壊の抵抗値が表現されていると考えられる.

 次に,引張試験の場合には,非弾性領域が小さく,従来からの破壊パラメータで,弾性で定義されているσθmaxクライテリオンを適用できると思われるので,CEDの結果と比較する.表2は破壊方向に関する結果であるが,σθmaxクライテリオンでもCEDと同程度に破壊方向が予測できることが分かる.表3は破壊の抵抗値に関する結果であるが,こちらも,CEDの破壊抵抗値と同様の傾向を表しており,脆性的な破壊ならば,従来からの破壊基準の役割をCEDが含んでいることが分かる.

 次に,3次元界面き裂の弾性解析を行い,実際の破壊現象の中での2次元近似の意味の検討を行う.その際にき裂の特異性と界面端の特異性の両方を考慮に入れ,精度良く数値解析できる「複合メッシュ法」を新たに開発し,最初に「複合メッシュ法」の基本的な検討を行い,その手法の有効性を明らかにした.その上で,3次元異材中央貫通き裂をモデル(図6)とした数値解析を行いCEDの評価を行った.図7は板厚の違いによるCEDの比較の結果であるが,これより

 1.板厚方向(Z方向)に対しての表面付近以外でのCEDは,2次元平面ひずみ近似におけるCEDと一定の比率を保つように,ある一定の値になる.

 2.板厚方向(Z方向)に対しての表面付近(コーナー点)では,破壊の起点となり厳しくなっているが,板幅に対する板厚の比が小さくなるに従って,その厳しさは少なくなり,早くに一定の値に近づく.

という事が分かり,先に述べた破壊実験における試験片の寸法位であれば,2次元解析のパラメータと対応づけられ,2次元解析によるCEDの評価でも,十分に意味の持つ物になっていることが分かる.

 以上,本研究では界面き裂の破壊基準CEDの界面き裂における有効性を検討してきた.まず,き裂先端前方で連続の場を持ち,均質材に準ずることのできる新たな界面き裂モデルを提案し,それを介してCEDの定義を行った.また,破壊パラメータCEDの有効性を検討するために,BNS試験片を用いた,実験及び,それに対応する解析を行い,CEDが界面き裂問題に対して,脆性破壊から非弾性破壊を含むものまで,統一的に評価することができることを示した.次に異材界面の数値解析用に開発した複合メッシュ法により,3次元の異材中央貫通き裂の解析を行い,2次元近似の意味を明確にした.

図1:界面き裂モデル

図2:BNS試験片

図3:解析結果(圧縮方向15°)

表1:CED解析結果

図4:非弾性領域(15°圧縮)

図5:非弾性領域(30°圧縮)

表2:σθmaxクライテリオンとの比較(破壊方向)

表3:σθmaxクライテリオンとの比較(破壊抵抗値)

図6:3次元中央貫通き裂モデル

図7:板厚の違いによるCEDの比較

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「界面き裂の破壊基準に関する研究」と題し、本文7章と付録からなる。

 近年、異なる材料を接合/複合した材料・構造が様々な分野で用いられ、その強度や信頼性に関連して、異材界面に存在ないしは発生したき裂(界面き裂)の強度・破壊挙動評価手法の確立が求められている。界面き裂の問題には線形弾性解における応力の振動特異性という問題があり、これが主たるネックとなって、その破壊基準は、ぜい性的な破壊に対しても十分に確立されたとはいい難く、非弾性的な挙動を伴っての破壊については何をき裂パラメータとして用いるかということも含め、未解決の問題が多く残されている。本研究はこの界面き裂の破壊基準につき、それによるとき、均質材中のき裂であればぜい性的な破壊から延性的な破壊まで統一的な形で破壊基準を与えることができ、構成条件によらず常にひずみエネルギ面積密度の意味を持つCEDを界面き裂問題に拡張/導入して、それに基づく界面き裂のぜい性的破壊から非弾性的な挙動を伴っての破壊までを統一的に扱う破壊基準を提案し、その有効性を示したものである。

 第1章は「序論」であり、本研究の背景、目的・意義、および本論文の構成について述べている。

 第2章「本研究に関わる基本事項」では、均質材中き裂のCEDとそれによる破壊基準の考え方や従来知られている界面き裂のパラメータ、ぜい性的破壊を対象に提案されているσθクライテリオン等、本研究を展開する上で必要となる基本事項についてまとめている。

 第3章「界面き裂パラメータとしてのCED」は本研究でき裂パラメータとして用いるCEDの界面き裂における定義、基本的性質について論じた部分である。連続体に対するCEDは半円状の切欠き端を有する切欠きを介して定義されるが、ここでは二つの異なる材料の間に切欠きを挟み、二つの材料に挟まれた切欠き前方については一方の材料部分から他方の材料部分まで材料定数が連続的に変化する領域と考え、このようなモデルにおいて切欠き曲率半径をゼロと持っていく極限として界面き裂を捉え、CEDを定義することを提案している。このようにするとき、切欠き曲率半径がどのように小さくなっても実現される場は連続であり、CEDに関し均質材を考える場合に存在した各種の性質が保持され、このことから、界面き裂に対してもCEDはき裂端からの任意の方向に定義でき、かつ各変形モードに分離できること、さらにそれらは領域積分により評価できることを示している。また、弾性問題に対しこれまでにいくつかの界面き裂パラメータが知られているが、これらが定義される特殊な条件下ではCEDはこれらパラメータとの間に対応関係が成り立ち、これらパラメータが果たし得る役割を包含するものであることを明らかにしている。

 第4章「界面き裂破壊実験」では、破壊基準検討のため行ったBNS(Brazil-Nut-Sandwich)試験片による界面き裂の破壊実験についてまとめている。高剛性側金属、低剛性側エポキシからなるBNS試験片を作成して、種々荷重条件を変えて破壊実験を行い、破壊荷重、き裂進展方向等、次章における破壊基準の検討において必要となるデータを得ている。なお非弾性挙動を伴っての破壊基準を検討する立場からエポキシについては十分硬化する以前での破壊実験を行っており、対応するエポキシについての材料試験を界面き裂破壊実験に先立って実施し、次章の有限要素解析による評価で必要となるエポキシについての非弾性構成式を決定している。

 第5章は「CEDによる破壊基準の検討」であり、前章の破壊実験に対応する非弾性有限要素解析を行い、3章で定義したCEDの破壊時における値を評価し、CEDに基づく界面き裂破壊基準のぜい性的破壊から非弾性領域を伴う破壊までの統一的有効性を実証している。解析を通じ、BNS試験片に引張り型荷重をかけるときは小さな非弾性領域を伴っての、圧縮型荷重をかけるときは大きな非弾性領域を伴っての破壊となっていること、すなわち前者については金属における小規模降伏破壊に、後者は大規模降伏破壊に対応するものとなっていることが明らかになり、何れにおいてもCEDのモードI寄与分が最大になる方向にその値がある限界値に到達したとき破壊が始まるとして破壊基準が与えられることが示されている。破壊限界値については均質材の場合と異なり、ぜい性的破壊では材料の組合せに依存して定まるが、大きな非弾性領域を伴う破壊においては材料の組合せに加え、き裂端での非弾性変形への拘束が異なってくることから負荷様式にも依存するものとなることを明らかにしている。

 第6章「3次元複合メッシュ法によるき裂パラメータの基本的検討」は、本研究ではこれまでの同種の研究と同様、扱った対象を基本的に2次元問題として扱っているが、異材を組み合わせた材料では均質材の場合と比べ一般に2次元近似が成り立ちにくいことから、き裂の特異性に配慮したメッシュと界面の端部における特異性に配慮したメッシュを組み合わせた複合メッシュ法による界面き裂の3次元線形弾性解析を行い、2次元近似として扱うことの意味につき基本的検討を行っており、本研究で用いたBNS試験片のようなき裂長と試験片厚さの割合においては2次元近似による扱いが十分意味を持つものとなることを示している。

 第7章は「結論」であり、本論文の成果がまとめられている。

 「付録」においては、第6章で用いた複合メッシュ法の定式化と同法の妥当性について行った基本的検討の結果をまとめている。

 以上要するに本論文は、これまで未解決のまま残されている界面き裂の破壊基準につき、均質材につきその適用が成功しているCEDを界面き裂に拡張定義し、それに基づく破壊基準を提案して破壊実験によりぜい性的破壊から非弾性変形を伴っての破壊までのその統一的有効性を示したものである。今後益々その適用範囲が広がると考えられる異なる材料を接合/複合した材料・構造の開発と強度信頼性の向上に寄与するところが大きいものと考えられる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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