学位論文要旨



No 117012
著者(漢字) 姜,軍
著者(英字)
著者(カナ) ジャン,ジュン
標題(和) SEMによる金属破断面の三次元解析の高精度化と破断面の特性化への応用
標題(洋)
報告番号 117012
報告番号 甲17012
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5153号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 酒井,信介
 東京大学 教授 渡邊,勝彦
 東京大学 教授 塩谷,義
 東京大学 教授 久田,俊明
 東京大学 助教授 吉川,暢宏
 東京大学 助教授 高橋,淳
内容要旨 要旨を表示する

 材料の破断面には,破壊の進行状況を示す特徴的模様が残されており,これを調べることによって破壊機構や破壊の原因に関する重要な情報が得られる.破壊原因を調べ,また破面定量解析するため,破面三次元情報を正確かつ容易に理解することが重要である.本論文においてはSEMによる材料破壊の破面解析に対して,三次元解析の高精度化と破断面の特性化を中心とした.以下の四点について新しい改善と提案を行った:

 まず,TOPO SEMが利用できないとき,ステレオマッチングにより破面三次元形状解析法の改善を行った.従来のマッチング法と比べて,計算速度と精度の両面からより効率的な三次元形状測定アルゴリズムを提案した.パソコンレベルでの三次元形状破面解析を実施したうえで,実用レベルでその有効性を検証した.実際の破面への応用例もあわせて示した.

 次に,TOPO SEMが利用できるとき,二次電子信号積分情報とステレオ解析とを融合して,両者の欠点を補い合う新たな三次元形状測定アルゴリズムを開発することにより,材料の破壊にとって重要な数十μ〜数百μのオーダーの破面立体情報を高精度,高分解能で解析する手法を開発した.また破面への適用結果からその有効性を検証した.

 なお,破面形状の高精度三次元測定結果に基づいて,インターネット上でVRMLのテクスチャマッピングを活用した新たな破面表示技術を確立した.従来二次元の破面観察法で理解し難い破面に対して,リアルな破面三次元画像を表現することにより,観察結果をより効率的且つ直感的に理解できる.また破面解析の結果から,粒界形状、キャビティ、ストライエーションの波状などの空間構造を容易に読取れるだけではなく,かつ破面特性の定量解析、破壊機構の解明に役立つことが確認された.

 最後に,ストライエーション破面率から疲労荷重応力比Rを定量推定する手法を新しく提案した.ストライエーションの形成機構を分析し,ストライエーションの破面率に着目して,Rの評価をすることが有効であることを示した.特に,最大ストライエーション破面率を計測することにより,疲労応力比Rを定量推定する方法を提案した.種々の応力比で典型的な二種類の構造材料2.25Cr-1MoとSUS304のCT疲労き裂進展実験を実施し,この手法の有効性を検証した.一方で,破壊機構の観点から従来法のストライエーション形状に及ぼす作用応力比Rの影響も考察し,従来のストライエーション形状から評価する方法の問題点を指摘した.また,実験結果からも,ストライエーションの高さHと幅Wの比H/Wは応力比との関係が必ず明瞭ではないという結論が得られた.

 以上を要約すると,SEMによる破断面の定量解析にあたり,三次元構造解析の新たな方法を提案するとともに疲労破断面の特性化によって疲労荷重を推定する方法を提案した.提案法は実破断面への適用から有効性が検証された.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、金属材料などの破断面上に残された特徴的模様から破壊のメカニズムや事故原因の究明を行うフラクトグラフィーの分野に資することを目的とし、有力な観察手段の一つである走査電子顕微鏡(SEM)の三次元測定技術を主題とするものである。SEMから破壊メカニズムを推定する方法は、これまでにも活発な研究活動が行われている。ところが、これまでの研究手法は熟練者が撮影された画像を見て判断することを基本としており、今後のこの分野の発展のためには二つの観点から問題点を解決しなければならない。一つは、これまで二次元的に観察された画像から判断することを基本としてきたために限界にきているため、三次元構造解析への道を開くこと。もう一つは、熟練者の経験に依ることなく、客観的な指標により破壊特性を評価する手法を開発することである。本論文は以下の6章から構成されている。

 第1章は序論であり、従来の破断面三次元解析の精度や表示法、定量解析法についてまとめ、本研究の背景と各章の目的について述べている。また、本論文では、三次元解析を行う環境として、通常機能のSEMのみを有している場合と、より高度の解析を実現できる二次電子信号積分の標準機能を有するTOPO SEMが利用できる場合とに分け、各環境に応じた最適な三次元解析手法の提案を行うことを述べている。

 第2章では、TOPO SEMが利用できない条件で、通常機能のSEMにおいて多く用いられるステレオマッチング法について新たな提案を行っている。テンプレートサイズを通常行われるように確定的なものとせず、比較画像間の相関値と連動するアルゴリズムの導入によって、処理時間、精度ともに飛躍的に改善することを示した。溶接用構造用鋼と高温強度材料の典型的な破断面に本手法を適用したところ、提案法はミスマッチングが劇的に減少し、処理時間も飛躍的に短縮できることを示した。この結果、パソコンレベルでの小規模計算機によっても十分に実用レベルの三次元破断面解析が実現できることを実証した。

 第3章では、TOPO SEMが利用できる環境にあり,二次電子信号積分情報とステレオ解析情報の両者を利用できる場合について、新しい視点から三次元解析原理を提案している。これまでの代表的な解析法であるステレオマッチングを用いる方法と、二次電子信号の積分を用いる方法について特徴を見ると、前者は、マッチングが妥当である範囲で高精度であるが、分解能に限界があること、多くの処理時間を要すること、ミスマッチングによる誤差を生じやすいことなどの欠点があった。一方、後者は分解能や処理時間は優れているものの、精度が保証されるためには、ビームと表面の入射角度に制約があるという問題があった。そこで、本章では両者の方法を組み合わせることを新たに提案し、両者の長所のみを引き出すことを新たに提案している。解析精度上の問題点は、計算機シミュレーションで確認している。提案法の検証を行うため高温クリープ破断面や衝撃破断面に開発手法を適用した。その結果、ステレオマッチング法の欠点である、離散化誤差の問題を解消できるとともに、二次電子積分法の欠点である急傾斜部などの特異点での解析誤差も発生しないことが確認された。

 第4章では、破断面のSEM三次元解析結果の表示法について新たな提案を行っている。旧来の表示法として専ら用いられてきた方法は、鳥瞰図であった。ところが、この方法では、SEM像上での位置との対応関係が明瞭ではなく、破断面の空間構造理解にとって支障となっていた。そこで、本章ではVRML言語の導入によってテキスチャマッピングによって破面模様を三次元像上に重畳させることを提案した。高温クリープ破断面に対して、本手法によって観察したところ、二次元像では明瞭でない粒界割れや、キャビティの形状などが明瞭に識別可能なことが明らかとなった。

 第5章では、破断面の特徴から負荷荷重を推定する際の、フラクトグラフィーの適用性について考察している。具体的には、繰り返し荷重下の疲労き裂進展破断面から荷重の応力比を推定する方法を提案している。ストライエーション破面率から疲労荷重応力比Rを定量推定する手法を新しく提案している。これまで、疲労破面の特徴であるストライエーション幅から疲労荷重の振幅については精度よく求められることが示されてきたが、荷重の応力比については推定するための決定的方法は存在していなかった。本章では、まずストライエーションの形成機構を考察し,ストライエーションの破面率が応力比と関係付けられることを示し、モデルとして提示した。特に、破面率が最も顕著に表れる、破面内での最大破面率に着目することにより、応力比との相関が求められることを示した。このことを実証するため二種類の構造材料2.25Cr-1MoとSUS304についてCT疲労き裂進展実験を実施し破面観察を行った。旧来は、ストラエーションの三次元構造に着目する方法が提案されており、これに対して本論文で提案する三次元解析方法を適用し妥当性を検討したところ、応力比との明瞭な相関が認められないことを示した。次に、応力比とストライエーションの最大破面率との関係を求めたところ、強い相関が認められた。本提案法は、応力比が正である場合に限られること、き裂発生から破断までの全ての破面が与えられることなどの制約はあるものの、破断面から応力比を推定する手段としては有力な手段となり得ることを示した。本論文では、両者の関係のマスターカーブを求め、実際の破面への応用が容易になるよう提示した。

 第6章では、本論文により得られた結論と、その意義を述べ、今後の発展についても展望を述べている。

 以上のように、本論文で開発されたSEM三次元解析手法および、疲労破断面からの荷重推定手法は、フラクトグラフィーの分野に大きな貢献があり、その波及効果は極めて大きなものがある。本研究によって、強く求められている事故破断面の三次元情報データベース化への道が切り拓かれるものと考えられる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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