No | 117025 | |
著者(漢字) | 野間口,大 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ノマグチ,ユタカ | |
標題(和) | CADのための設計知識管理の研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 117025 | |
報告番号 | 甲17025 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5166号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 精密機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 家電リサイクル法の施行に代表される環境問題に対する消費者の関心の高まりやPL法など,近年の製造業をとりまく環境はますます複雑化している。設計者に必要な知識の量は増大する一方であり、その知識の管理は効率的な設計活動のための重要な課題の一つとなっている。知識を共有、再利用する試みは企業においては一般に設計の最終結果としての図面の設計文書と共に設計者の持っているノウハウや設計事例を記録・管理することによって行われ、その支援を行う研究が行われている。 本研究における著者らの目的は,特に設計活動を支援する立場で知識管理を実現する方法を明らかにし、計算機システムへの実装および例題の実行を通してその検証を試みることである。そこでまず1章および2章において設計知識および知識管理に関するこれまでの研究について概観し、設計知識管理を実現する際の問題点について述べる。まず知識工学や人工知能、計算機科学などの各分野で行われている知識管理に関する研究一般の課題として ・ 知識獲得 ・ 知識検索 ・ 知識配布 の3点を挙げる。次に設計研究の分野で行われているCADを中心とする製品情報や設計知識管理研究の現状、および設計作業における意思決定の理論的根拠である設計根拠を取り扱う研究について述べ、その課題として、 ・ 設計結果としての製品情報だけでなく、設計過程における背景情報、設計根拠を管理する必要がある ・ 設計過程を表現するためのモデルを構築する必要がある ・ 設計過程の獲得を支援する必要がある の3点を挙げる。次に我々のグループがこれまでに研究・開発してきたKIEFおよびシンセシスのモデルに基づく推論フレームワークにおいても、 ・ 設計過程のログは記録できるが、設計意図や設計過程を表現する枠組みが不足 ・ 記録される設計過程は人間にとって理解し難い という問題点がある。本研究では設計支援のための知識管理実現を目指し、知識管理における3つの主要な課題、その中でも特に知識獲得の問題に焦点を置いてその解決を図る。知識獲得とは設計者の経験を獲得することであると考えられるので、設計作業と同時に設計文書を作成することによって設計過程の情報をできるだけ欠落無く獲得することを考える。 3章では本研究で提案する設計文書を中心とする知識管理の枠組みについて述べる。 まず設計文書についてのモデリングを行う。本研究では設計文書は何らかの目的を持って記述されるものであり、またその記述には目的に応じて一定のパターンがあるものであると考える。次に設計文書が作成されるプロセスを考察する。基本的に設計文書は設計に関する文書なのであり、設計過程で考慮された情報に基づいて記述されるはずである。また一方で、実際の設計過程では考慮されず設計文書作成の際に追加される情報もあると考えられる。このような設計文書作成に必要な情報を網羅的に記述したものとしてメタプロセスモデルを導入する。メタプロセスモデルでは情報導出という考えに基づいて、どの設計情報がどの設計情報が導出されたかで設計過程を記述する。次に実際に設計作業で作成された設計文書を分析することにより、本研究で提案する設計文書に関する理論の妥当性について検討を加える。具体的には設計過程の情報および情報間の関係を表現するために本研究で提案するメタプロセスモデルについて述べ、メタプロセスモデルを利用した設計知識管理について述べる。 4章では、メタプロセスモデルを用いて設計知識の獲得を実現する手法につい述べる。この手法の基本的なアイデアは、設計者に大きな負担をかける事なく設計情報の欠落無しに設計文書化を容易に行うために、設計の副産物として設計過程を記述した設計文書および設計文書をコーディングするメタプロセスモデルを作成することである。手法実現の課題として、 ・ 設計作業と同時に設計文書を作成すること ・ 設計文書作成ツールと統合設計支援環境を統合することが必要であること ・ 各種計算機ツールで利用される多種多様な情報を柔軟に取り扱う枠組みが必要なこと を挙げ、これらの課題を解決するために本研究で採用する方法として、 ・ 統合設計支援環境と文書作成ツールとの統合。本研究ではKIEFを用いる。 ・ 文書記述内容を知識操作に基づいて自動生成 ・ ハイパーテキストを用いた設計過程の明示的記述 ・ ハイパーリンクによる多様な設計情報の取り扱い ・ ATMSによる設計情報の管理 を挙げる。これらは本研究で開発する設計知識管理システムに対する主要な要求仕様となる。 5章では設計の文脈を考慮した検索手法を提案する。この手法ではまず、検索対象となる文書を、設計の部分的なサブ問題の解決に必要な知識を記述した小部分に構造化することを考える。これを文書知識と呼ぶ。設計作業中に知識を検索する際には、KIEFにおける設計作業で作成されるメタモデルと文書上における設計対象の記述から現在進行中の設計作業に関する文脈情報モデルを自動生成する。検索の対象となる文書知識にもインデックスとして文脈情報モデルを付与しておき、両者のマッチングにより検索を行う。この手法により、知識としての文書を共有・再利用することが可能となる。本章で提案した手法は、設計文脈情報をグラフとしてモデル化することにより、設計文脈の類似度をグラフのマッチ度によって定量化し、設計文脈を利用した知識検索を実現するものである。その利点として、まず、キーワード間の関係を設計文脈情報モデルにより記述しているため、検索の精度が上がることが考えられる。次に、設計文脈情報モデルは設計対象の概念モデルと文書に記述されたテキスト情報から自動的に生成されるが、4章で述べる知識獲得手法に基づけば、これらは設計作業と同時に作成されている情報であるため、検索の際に逐一設計者が作成する必要が無いことである。このため、設計作業の中での検索作業がよりスムーズに行えると考えられる。一方で、検索対象となる文書に対して、インデックスとして設計文脈情報モデルを付加しておく必要がある、という問題がある。 6章では、本研究で提案する方法論に基づいてDDMS(Design Documentation Management System)と呼ぶシステムの作成を行う。光造型機、レーザー加工機、建築基礎構造物の各設計事例を例題として用い、各例題をDDMS上で実行してその結果を検討することにより方法論の妥当性の検証を行う。さらに本研究で提案する方法論について考察を加える。 最後に本研究の結論および展望を述べる。 | |
審査要旨 | 近年、CADなどの設計支援システムを用いた際に、設計知識の共有や再利用を行うための設計知識管理への関心が高まっている。本研究は、この設計知識管理を設計作業中にリアルタイムで行うための理論及びその理論に基づいたシステム開発に取り組んだものであり、またシステム実装と設計事例を利用して、その有効性を検証している。 近年、製造業をとりまく環境はますます複雑化しており、そのために設計者に必要な知識の量は増大する一方である。これらの知識を共有、再利用するためには、一般に設計の最終結果としての図面や設計文書を用いることが多い。しかし、設計文書の作成は時として、無視されたり忘れ去られることが多く、設計知識、とりわけ設計ノウハウや設計事例の記録・管理は不完全になる。その結果、過去の教訓が活かされずに設計不具合や事故が繰り返し発生するなどの問題点が生じている。 そこで、まず第1章、第2章では、設計知識および知識管理に関するこれまでの研究について概観し、設計知識管理の問題点について述べている。次に、一般に知識管理においては、知識獲得、知識検索、知識配布が問題となるが、これらに関してCADを中心とする製品情報や設計知識管理研究の現状、および設計作業における意思決定の理論的根拠である設計根拠を取り扱う研究について文献調査を行っている。これらから、設計知識管理におけるさまざまの問題点を整理し、特に知識獲得に対しては、「Design knowledge acquisition by documentation」と呼ぶ方法論を提唱している。 第3章では設計文書を中心とする知識管理の枠組みについて提案を行っている。まず、設計文書のモデリングを行い、次に設計文書が作成されるプロセスのモデルとして、設計文書作成に必要な情報を網羅的に記述したメタプロセスモデルを提案している。メタプロセスモデルは、どの設計情報がどの設計情報が導出されたかで設計過程を記述するものであるが、これを実際の設計文書に適用した結果を分析することにより、本研究で提案する設計文書に関する理論の妥当性について検証している。 次に第4章では、メタプロセスモデルを用いて設計知識獲得を実現する手法につい述べている。この手法は、設計者に大きな負担をかけることなく、また設計情報の欠落無しに設計文書化を容易に行うことが目的である。そこで、設計の副産物として設計過程を記述した設計文書および設計文書をコーディングするメタプロセスモデルを作成することを提案している。そのための課題を明らかにしたあと、本研究では、(1)統合設計支援環境(本研究ではKIEF、Knowledge Intensive Engineering Frameworkを用いている)と文書作成ツールとを統合、(2)文書記述内容を統合設計支援環境上での知識操作に基づいて自動生成、(3)ハイパーテキストを用いて設計過程を明示的に記述、(4)ハイパーリンクによる多様な設計情報の取り扱い、(5)ATMSによる設計情報の管理、(6)作成した設計文書をWeb上で公開可能、などを特徴とした方法論を採用することを提案している。 また第5章では知識検索のために、設計の文脈を考慮した検索手法を提案している。この手法は検索対象となる文書を、設計のサブ問題の解決に必要な知識を記述した、文書知識と呼ぶ小部分に構造化する。設計作業中に知識を検索する際には、KIEFにおける設計作業で作成されるメタモデルと文書上における設計対象の記述から、現在進行中の設計作業に関する文脈情報モデルを自動生成する。検索の対象となる文書知識にもインデックスとして文脈情報モデルを付与しておく。これら二つの文脈情報をグラフとしてモデル化した後に、設計文脈と文書知識の類似度をグラフのマッチ度によって定量化し、設計文脈を利用した知識検索を実現している。この手法により、知識検索が高精度になり効果的であること、また設計文脈情報モデルは設計対象の概念モデルと文書に記述されたテキスト情報から設計作業と同時に自動的に生成されるために、検索の際に逐一設計者が作成する必要が無く効率的であることなどを示している。 第6章では、本研究で提案する方法論に基づいて開発したDDMS(Design Documentation Management System)システムについて述べている。光造型機、レーザー加工機、建築基礎構造物の各設計事例をDDMS上で実行して、その結果を検討することにより本研究で提案した方法論の妥当性の検証を行い、その有効性を示すことに成功した。 第7章では、本研究の結論および展望を述べている。 以上の結果、本研究では設計知識管理のための具体的な方法論を提案し、かつそれを実現したDDMSシステムの開発することによって、その有効性を検証している。設計知識管理におけるさまざまの問題点が解決可能であることを示すことに成功しており、学術上の成果としてのみならず、工業的な応用可能性も非常に高いと評価することができる。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |