No | 117026 | |
著者(漢字) | 于,随然 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ウ,ズイゼン | |
標題(和) | ライフサイクル設計における設計代替案の生成と評価 | |
標題(洋) | A Framework for Generation and Evaluation of Design Alternatives in Product Life Cycle Design | |
報告番号 | 117026 | |
報告番号 | 甲17026 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5167号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 精密機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 持続可能な資源循環型社会の実現と、ユーザが要求するサービスを適切に提供するため、製品設計は、設計の初期段階においてその製品のライフサイクル全体での関係主体(メーカ、ユーザなど)の利害関係を考慮に入れながら、ライフサイクル全体を適切に設計しなければならない。ライフサイクル設計(LCD : Lifb Cycle Design)とは、製品設計の初期段階において、製品設計だけでなく、さまざまな視点(目標)を考慮しながら製品のライフサイクル全体を設計することである。したがって、ライフサイクル設計においては、従来の製品設計は、製品単体の品質追求から想定する製品ライフサイクルに適合させることが求められる。加えて、アップグレード、メンテナンスのような製品のライフサイクルで生じるイベント群をライフサイクルシナリオとして設計するとともに、製品設計とライフサイクルシナリオの整合性を実現することも求められる。このようにライフサイクル設計においては、さまざまな視点(目標)を考慮しながら、製品とそのライフサイクルを設計するという非常に複雑な問題を取り扱うことになる。 このような複雑なライフサイクル設計問題を解くために、本研究では二つのプロセスを導入する。前半のプロセスでは、ユーザの要求や技術的可能性に加えて、製品のライフサイクルシナリオを表現するライフサイクル変数を用いて、設計代替案を数多く生成させる。後半のプロセスでは、前半のプロセスで得られた数多くの設計代替案から、ライフサイクル全体を考慮した評価を行うことにより、最適な代替案を選択する。このような二段階のプロセスを用いることにより、ライフサイクル設計という複雑な問題を解くことが可能となる。 現在、さまざまなライフサイクル設計方法が提案されているが、これらの多くは製品設計者が自らの経験に基づいて複数の設計代替案を提案し、ライフサイクルシミュレーションによりその妥当性を検証するというものである。この方法における問題点は、設計者の自らの経験に基づいて代替案の生成を行っているため、ライフサイクルパラメータが適切に考慮されているとは限らず、また、設計代替案に偏りがある可能性がある。 本研究では、既存のライフサイクル設計方法の弱点に対して、新しいライフサイクル設計方法を提案する。具体的に次の特徴を持つ。(1)設計代替案の生成は、設計者の経験によるのだけではなく、製品ライフサイクルを規定するライフサイクル変数を定義し、これを設計変数と同じように扱うライフサイクルモデル(計算機で扱うことのできる製品変数の関係性を表現したモデル)を構築し、最適化手法と感度解析を組み合わせることにより、ライフサイクル全体を考慮した比較的適切な設計代替案を生成する(図1)。(2)設計代替案の評価手法として、ライフサイクルシミュレーションに加えて、MCDM(Multi-Criteria Decision Making)とAHP(Analytical Hierarchy Process)の方法を導入することにより、定量的に取り扱うことのできない評価基準も考慮して設計代替案を評価する(図2)。 設計代替案の生成は次のようなステップがある。(1)製品単体の要求機能を決定する。これは従来の製品設計で考慮されていた項目で、いわゆる製品仕様値と同じ意味である。これは従来の製品設計と同様に、市場分析(Voice of Customers)、QFD(品質機能展開、Quality Function Deployment)などによって、目標値、パラメータなどを設定する。(2)製品ライフサイクルを考慮するために、製品寿命、MTBF、アップグレード時期といった製品ライフサイクルを規定するライフサイクル変数を設定する。(3)製品ライフサイクル全体を対象とした場合に新規に考慮しなければならない、ライフサイクルユーザコストやアベイラビリティなどのライフサイクル目標を設定する。そして、これらのライフサイクル変数とライフサイクル目標との関係性を計算機上で表現するライフサイクルモデルを構築する。(4)ライフサイクルモデルを定量的に扱うために、既存の製品データや要素技術のデータなどから、データ予測する手法を用いる。(5)従来の製品設計の設計変数とライフサイクル変数を用い設計問題を定式化し、最適化手法を用いて最適解(設計案、一組のライフサイクル変数)を求める。ここでは、複数のライフサイクル目標を同時に実現することが困難であることが予想されるため、多目標最適化手法を採用している。(6)求めた最適解には、ライフサイクル変数の係数やライフサイクル目標に不確定要素、不確実性があるため、これらの変数に対して、感度解析やパラメータ解析を行うことにより、複数の代替案(設計代替案)を作成する。 ライフサイクルモデルは、ライフサイクル目標とライフサイクル変数の関係性を計算機上で表現するモデルである。一般的なライフサイクル目標はユーザ側のライフサイクルコスト、メーカ側のライフサイクルコスト、メーカの利益、稼働率、エネルギ消費、廃棄物量などである。また、一般的なライフサイクル変数は製品寿命、ライフサイクル管理に関するもの(メンテナンス、アップグレード)、エンドオブライフ(End-of-life)戦略、モジュールのMTBF(Mean Time Between Failure)などがある。ライフサイクルモデルでは、これらの目標と変数の関係性を符号や関係式で関連づける。 本研究で用いた多目標最適化手法は、目標をダイレクトに表現できること、目標の優先順位がつけられること、取り扱える変数の形式に汎用性があることなどの特長を持ってあり、ライフサイクル設計問題において、適切な最適化手法である。この手法では、目標の優先順位をつけ、最適化することで、目標に達成までの距離(未達成の大きさ)の和を最小化することができる。 ライフサイクル目標の不確定要素、不確実性とは、新規製品の設計であって現存のデータから推測する必要があること、将来発生するライフサイクルイベントは確率的に生じることなどによるものである。そのため、得られた最適解は必ずしも真の最適とはいえない。したがって用いた変数に関して感度解析やパラメータ解析を行うことにより設計代替案を生成する。 後半のプロセスでは、生成した代替案から最適代替案を選択する。ここでは、次のようなステップがある。(1)評価基準の選択を行う。製品のライフサイクルを全体的に評価するためには、各方面の評価基準が必要である。これらの基準は、数学的にモデル化できる基準と数学的にモデル化が難しい基準がある。(2)選択した基準で設計代替案を評価する。数学的にモデル化できる基準はライフサイクルシミュレーション方法で代替案を評価する。数学的にモデル化できない基準はAHP(Analytical Hierarchy Process)方法を用いて評価する。(3)二つの評価は単位が異なるので、スケーリングを行う。(4)MCDMを用いて総合的な評価を行い、最適代替案を選択する。 本研究は、ライフサイクル設計における設計代替案の生成と評価を行い、最適設計案を導出するフレームワークを提案した。このフレームワークを、実際の冷蔵庫などの製品に適用し、ライフサイクル設計を行った場合の製品設計、ライフサイクル設計の結果を求め、本フレームワークの実効性を検証した。本フレームワークを活用し、ライフサイクルモデルの精度とデータの精度を向上させることによって、さまざまな製品のライフサイクル設計を可能にすることができる。 図1.最適化手法を用いた設計代替案の生成 図2.最適代替案の評価のプロセス | |
審査要旨 | 本論文は、「A Framework for Generation and Evaluation of Design Alternatives in Product Life Cycle Design」(ライフサイクル設計における設計代替案の生成と評価)と題して、製品機能、環境親和性あるいは経済性など多様な要求に対して、製品ライフサイクルを適切に計画・設計するための体系的な手法を提案し、事例によりその有効性を検証したものである。 近年、先進技術の導入による工業製品市場における競争激化とともに、地球環境の持続可能性を視野にいれた製品・製造体系の変革が要求されている。そのためには、製品そのものの性能のみならず、製品を利用し、保守・改良して、最後にリサイクル・廃棄するまで、製品の全ライフサイクルにおける技術的な最適化を追求しなければならない。そこで本論文では、ライフサイクルの評価基準として、製造者や利用者の利益、資源・エネルギー消費や廃棄物排出などの環境負荷などを設定し、製品の全ライフサイクルに対して数理的な最適化手法が適用できるような巨視的なモデルを構築する手法を提案した。そのようなモデルに基づき、設定したライフサイクル評価基準を満たすような可能なライフサイクルの形態を設計代替案として最適化手法により生成する手法を示した。 本論文は5章よりなり、その概要は以下のようである。 第1章は序論である。真に環境に適合した製品を製造するためには、単にリサイクル技術などを充実させるだけでは不可能であり、利用者による製品の利用の仕方なども考慮して、最初から製品の全ライフサイクルを環境に適合するように計画・設計していくことが重要であることを述べている。ライフサイクル設計は、利用者や製造者が多くの異なる評価基準で要求を提示する困難な問題であり、そのための製品設計支援の方法論が必要であることを論じて、本研究の目的と基本的な考え方を明らかにしている。 第2章は、製品ライフサイクル設計の課題と題して、本研究の背景となる既存研究や本研究で用いられる手法を解説している。ライフサイクル設計の基礎として従来からの設計工学や設計方法論を概説し、ライフサイクル設計のために必要な事柄をまとめている。ライフサイクル設計の考え方を提案し、関連する既存研究として、設計における最適化手法、ライフサイクル管理やシミュレーション、製品情報管理システム、ライフサイクル評価手法(LCA)などについて、ライフサイクル設計への有効性を論じた。 第3章は、最適化手法に基づくライフサイクル設計の方法を詳しく述べており、本研究の主要な部分である。ライフサイクル設計の手順を、製品ライフサイクルのモデリング方法、モデリングに必要なデータの収集と推定方法、最適化手法によるライフサイクル設計方法、設計方法により生成された代替案の評価方法、に分けて述べている。 ライフサイクルモデリングおよびデータ決定のために、変数間の依存性を明示する符号付グラフによるモデリングを基礎として、品質機能展開によりモデル構造を確定していく手法を提案し、更にファジー関数を応用したデータ推定法によりモデルの変数を推定していく方法を述べた。ライフサイクル設計における各種の評価基準を制約条件に設定し、それらの評価値が想定された設定値になるようにライフサイクル設計の変数を決定するために、ゴールプログラミングによる最適化手法を適用した。設定値が厳しければ、実現可能なライフサイクル変数の値は存在せず、緩すぎれば多くの実現可能な変数の組み合わせが存在することになる。これらの組合せを代替案として整理し、主観的な代替案評価をできる限り体系的に行おうとする階層化手法により、設定値の感度解析も含めてライフサイクル設計を合理的に行う手法をまとめた。 第4章では、第3章で提案された手法の有効性を評価するために、二つの例題について設計実験を行っている。評価の例題として、家庭用の標準的な冷蔵庫と空調機をとりあげた。ライフサイクル設計を決定する変数として、製品寿命、部品の信頼性、使用中のアップグレードの可能性などを考え、評価基準として、利用者および製造者の利益、製品の性能や稼働率を設定した。前章の手法により、種々に設定された評価基準に対して、その基準を達成できるライフサイクル設計変数の組み合わせが求められ、また基準を変化させることにより、ライフサイクル設計が影響を受ける様子を設計代替案として評価することができ、ライフサイクル設計への有用性が評価された。 第5章は、以上に記述されたような本研究で得られた成果のまとめと今後の課題を述べている。 以上を要するに、本論文は、製品機能、環境親和性あるいは経済性など多様な要求に対して、製品ライフサイクルを適切に計画・設計するための体系的な手法を提案し、事例によりその有効性を検証したもので、精密機械工学の学術の発展に寄与するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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