学位論文要旨



No 117054
著者(漢字) 根塚,智裕
著者(英字)
著者(カナ) ネヅカ,トモヒロ
標題(和) スマートポジションセンサとその3次元形状計測への応用に関する研究
標題(洋)
報告番号 117054
報告番号 甲17054
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5195号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 浅田,邦博
 東京大学 教授 鳳,紘一郎
 東京大学 教授 柴田,直
 東京大学 教授 櫻井,貴康
 東京大学 教授 相澤,清晴
 東京大学 助教授 平本,俊郎
内容要旨 要旨を表示する

1 研究の背景

 集積回路技術の発展とともに、情報の流通形態が、文字情報から、静止画、音声、現在では、動画へと広がっている。近年、3次元情報を取得する技術が多く研究されており、近い将来、3次元情報を含んだ静止画や動画などの情報が広く流通すると考えられる。また、ロボットビジョン、バーチャルリアリティ、計測などの幅広い分野への3次元計測技術の応用が行なわれており、リアルタイムでの3次元計測技術の重要性が高まっている。3次元計測技術の中でもスポット光やシート光などの能動光源を用いた光切断法は、3次元情報の再構成に必要な計算量が少なく、高精度な計測が実現される。この方式では、大量の画像情報が必要であり高速化のための専用回路を持つイメージセンサが提案されているが、画像情報へのアクセスがボトルネックとなり、高解像度の高速3次元計測は実現されていない。

 本論文では、センサ面上における画像情報へのアクセスの高速化を実現する手法について論じ、提案したアクセス手法を用いた画像センサの高速なスポット光およびシート光を用いた3次元計測への応用について述べる。4進木構造を持つ画像情報へのアクセスパスを効率的に実現した高速ポジションセンサを提案し、試作したセンサの評価およびスポット光を用いた3次元計測への応用を行なう。また、アレイ構造中の情報への2進木構造を持つ並列のアクセスパスの効率的な実現手法の提案ならびに列並列アクセス機能を持つセンサの行単位の処理時間の高速化手法を提案し、提案手法を用いたセンサの評価およびシート光を用いた3次元計測への応用を行なう。

2 可変ブロックアクセス方式による効率的な4進木スキャン機能の実現

 スポット光を用いた3次元計測における輝点のポジション検出に、4進木スキャン(図1)と呼ぶ階層型の画像情報へのアクセスパスを持つ走査方式を用いることを提案し、その評価を行なった。4進木スキャンを用いることにより、輝点のポジション検出に必要なスキャンのサイクル数および出力データ量が削減されることを示した(図2)。また、可変ブロックアクセスと呼ぶ画像情報へのアクセス方式を用い、4進木スキャン機能を効率的に実現したスマートポジションセンサの試作および評価を行なった。試作したセンサを用いた撮像の結果、4進木スキャンによる輝点の取得に必要なサイクル数が削減されることを確認した。

3 4進木スキャン機能を持つポジションセンサの実現と3次元計測への応用

 4進木スキャン機能を有する3次元計測向けのポジションセンサの高解像度化および高速化を行なった。画素回路の回路規模を削減するとともに、開口率の向上、信号振幅の低減を行ない、フレームレートの向上を図った。また、高解像度化にともなうスキャンサイクルの低下を抑えるための高速な汎用可変プロックアドレスデコーダの回路方式を提案し、4進木スキャンのサイクル時間を削減した。0.6μmルールのCMOSプロセスを用いて4進木スキャン機能を持つ高速ポジションセンサ(図3)の試作を行ない、試作したチップを用いた3次計測システムを構築した。回路シミュレーションおよび試作したチップを用いた3次元計測により提案手法およびセンサの評価を行ない、提案手法がスポット光を用いた3次元計測の高速化に有効であることを示した。

4 センサ面上における高速行並列ポジション検出方式とその実現手法の提案

 センサ面上において行毎に並列に高速ポジション検出を実現する手法を提案した(図4)。シート光を用いた3次元計測において画像情報の走査に必要なサイクル数の解像度依存性を計算し、提案手法が他手法と比較して、高解像度化にともなうサイクル数の増加が少ないことを確認した。提案した走査手法の従来の手法から類推可能なの実現方式を検討し、それらの手法では、高解像度化が困難であることを示した。従来手法の問題点の検討の結果から、画素あたりのハードウェア量がセンサの解像度に依存しない効率的な高速行並列ポジション検出方式の

実現方式を提案した(図5)。提案手法を用いた具体的な走査手順を示し、提案手法により特別なデコードを用いずに輝点の座標を取得できることを示した。

5 行並列2進木スキャン機能を持つ高速ポジションセンサの実現と3次元計測への応用

 第4章で示した高速行並列ポジション検出方式の具体的な回路方式を示し、0.35umルールのCMOSプロセスを用いてポジションセンサの試作を行なった。試作したチップを用いた3次元計測システムを構築し、3次元計測およびセンサのポジション計測精度の評価を行なった。また、回路シミュレーションによる提案手法およびその他の手法の3次元計測速度の解像度依存性の評価を行なった(図6)。評価の結果から、提案手法では、高解像度においても複数回のサンプリングによるサブピクセルレベルポジション検出を用いた高精度な動画レベルでの3次元計測が可能であることを示し、提案されている他手法と比較して高速な3次元計測を実現できることを示した。

6 列並列アクセス機能を持つ高速ポジションセンサの実現と3次元計測への応用

 列並列アクセスによる画像情報の読みだしにより高解像度の動画レベルでの3次元計測を実現する高速ポジションセンサを提案した。列並列アクセスの高速化を行なうための高速読みだしが可能でかつ回路規模が小さい画素の回路方式を提案した。また、画素アレイ1行あたりの信号処理の高速化を実現する小型かつ高速なプライオリティ決定およびプライオリティエンコード機能を持つ回路を提案した。提案した回路を用いた列並列アクセス機能を持つ高速ポジションセンサを0.6μルールのCMOSプロセスを用いて試作した。試作したチップを用いた3次元計測システムを構築し、3次元計測およびセンサのポジション計測精度の測定を行なった(図7,8)。また、回路シミュレーションにより、提案手法およびその他の手法の3次元計測速度の解像度依存性の評価を行なった。評価の結果から、提案手法は高解像度における動画レベルの高速な3次元計測を効率的なハードウェア量で実現できることを示した。

7 結論

 本論文では、

 1.可変ブロックアクセス方式による効率的な4進木スキャン機能の実現

 2.4進木スキャン機能を持つ高速ポジションセンサの実現と3次元計測への応用

 3.画像センサ面上における高速行並列ポジション検出方式およびその実現手法の提案

 4.行並列2進木スキャン機能を持つ高速ポジションセンサの実現と3次元計測への応用

 5.列並列アクセス機能を持つ高速ポジションセンサの実現と3次元計測への応用

が行われた。

 これらの成果は、今後の高機能撮像素子およびアレイ型集積回路の設計、3次元計測システムの構築において、撮像および情報の走査の高速化、高速な3次元計測の実現に貢献するものであると考える。

図1: 4進木スキャンによる画像の走査手順

図2: スポット光を用いた3次元計測における画像情報の走査に必要なサイクル数の解像度依存性

図3: 4進木スキャン機能を持つ高速ポジションセンサの構成

図4: 行並列2進木スキャンの走査手順

図5: マスクレジスタを用いた行並列2進木スキャンの効率的な実現

図6: 各走査方式のシート光を用いた3次元計測速度の解像度依存性

図7: 試作したセンサによるシート光を投射した計測対象の撮像結果(256階調)

図8: 試作したセンサを用いた3次元計測の結果

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「スマートポジションセンサとその3次元形状計測への応用に関する研究」と題し,CMOSイメージセンサにより3次元形状を計測するための高速輝点位置決め機能をもつセンサ回路方式について研究したもので,七章より構成されている.

 第一章は序論であり研究の背景と研究の目的を述べている.本研究で対象としているスマートイメージセンサの基本概念について述べ,このセンサとスポット光およびシート光とを用いた3次元形状計測の原理について述べ,あわせて本論文構成を述べている.

 第二章は「可変ブロックアクセスによる効率的な4進木スキャン機能の実現」と題し,4進木スキャン方式による輝点位置の高速検出方式について述べている.本スキャン方式は撮像面の可変矩形ブロックを一括アクセスする機能を用いて4進木検索アルゴリズムを実現し,輝点位置を高速に検出する方式である.さらに本方式で設計した試作チップの回路構成と撮像実験結果についても述べ,4進木スキャン法でスポット光位置を高速に検出できることを実験的に示している.

 第三章は「4進木スキャンを用いた3次元計測向けポジションセンサの実現」と題し,第二章で原理を示した4進木スキャンセンサを用いて実現した3次元形状計測実験の結果について述べ,実験結果とシミュレーション結果をあわせて本方式のセンサの性能を評価している.256x256画素を有するブロックアクセスセンサを用いて4進木スキャンを実現し,X-Y偏向機能を有するレーザスポット光源と組み合わせることで3次元形状計測システムを構成し,モデル静止物体に対し測定を行い,その相対距離精度が約0.2パーセントとなることを実験的に検証している.また,本実験システムの計測速度がインターフェース部で制約されているものの,センサ自体の性能は約毎秒3枚の3次元画像を取得できる性能を有することをシミュレーション結果から示している.

 第四章は「センサ面上における高速行並列ポジション検出とその実現法の提案」と題し,運動物体を対象とする高速3次元形状測定のための高速ポジションセンサの構成について提案している.このセンサはシート光源と併用することを前提にしており,センサ面上の各行毎に並列して行内画素の2進木スキャンを実現する.これにより一回の2進木スキャンで行数分の輝点の位置を高速に検出する機能をもつ.本省では2進木スキャンの基本原理を示すとともに,本方式で実現される性能改善について定量的に述べている.

 第五章は「行並列2進木スキャン機能を持つ高速ポジションセンサの実現と3次元計測への応用」と題し,第四章で原理を述べた行並列2進木スキャンセンサを設計試作し,3次元計測システムの応用した実験結果について述べている.具体的画素回路,128x128画素のセンサの回路構造,2進木スキャン回路について述べた後,走査機能を有するシート光源と試作したセンサチップとを用いて実現した3次元形状計測システムの実験結果について述べている.実験結果より約0.3パーセントの相対距離計測誤差を実現していることを述べ,マルチサンプリングにより精度が向上することを示している.測定速度については試作システムでは毎秒12枚の距離計測を実現しているが,これはインターフェース回路による制約であり,スキャン性能上は最大毎秒2万枚以上の距離測定が可能であり,運動物体の3次元形状計測が十分な速度で実現できることを述べている.

 第六章は「行単位読み出し機能を持つ高速ポジションセンサの実現と3次元計測への応用」と題し,行単位で画素情報を読み出す回路とポジションエンコーダを組み合わせた運動物体用高速ポジションセンサの構造とその試作結果について述べている.本センサは第四章で提案したものに比較し,位置検出速度ではおとるが解像度の点で有利な方式となっている.352x288画素のセンサを設計試作し,3次元形状計測システムに応用した実験結果を述べている.実験結果より,マルチサンプリングを併用すると相対距離誤差が約0.08パーセント程度となることを示した.またシミュレーションより毎秒60枚以上の距離計測が実現でき,3次元動画像取得に適用可能であることを示している.

 第七章は「まとめ」であり本論文の研究成果をまとめている.

 以上,本論文はCMOSイメージセンサによる3次元形状計測のための高速輝点位置決め回路方式について研究し,具体的センサチップを設計試作し,3次元形状計測システムに応用できることを実証し,その有効性を示したもので電子工学の発展に寄与する点が少なくない.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格したものと認められる.

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