学位論文要旨



No 117057
著者(漢字) 徐,懐宇
著者(英字)
著者(カナ) ジョ,カイウ
標題(和) 知的データベース検索のための連想プロセサアーキテクチャの研究
標題(洋) Study on the Associative Processor Architecture for Intelligent Database
報告番号 117057
報告番号 甲17057
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5198号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柴田,直
 東京大学 教授 鳳,紘一郎
 東京大学 教授 喜連川,優
 東京大学 教授 相澤,清晴
 東京大学 助教授 平本,俊郎
 東京大学 助教授 廣瀬,明
 東京大学 助教授 藤島,実
内容要旨 要旨を表示する

 我々はこの色々な情報に基づいて知的活動を行っている。筆者らはこの知的活動を、すなわち現在入力されている情報に対して、過去の経験や学習により得られた自分の中に蓄積された膨大な量のデータベースの中からもっとも近い典型パターンを瞬時に見つけ出し、その結果に従い日常の行動を行っていると考え、モデルのハードウエア化を行っている。このような処理はいわゆる「連想」と言う処理であり、この過去の大量な経験情報に対する連想が知的情報処理の大部分を担っていると考えることができる。これが知的コンピュータの目的である。知的データベース検索技術はこの中でもっとも重要な応用の一つである。知的データベースと普通のデータベースの異なる点は知識を持つことである。この知的データベースの処理手段は類似度評価演算である。すなわち「Query」と知的データベースのテンプレートの類似度を計算する。しかし、蓄積された大量のデータ全てと類似度評価演算を行うのは非常に時間のかかる作業である。このため、一般的には、知的データベースに対しては普通のデータベース検索アルゴリズムが応用できない。この原因は普通のデータベース検索アルゴリズムが柔軟な類似度を考えない為である。この瞬時応答の問題を解決するために、様様な知的データベース検索ソフトウエアアルゴリズムが開発されている。しかし、知的データベースの変更が頻繁におこる状況では、これらのアルゴリズムは適用不可能である。

 本研究は知的データベース検索のための連想プロセサを実現するアーキテクチャを提案し、その実用性を示すことを目的として行った。例として、知的インターネットサーチを連想という概念に基づいて高速に処理するVLSI連想プロセサアアーキテクチャを研究した。

 この研究では、連想プロセッサ上で動作する汎用知的インターネットサーチシステムを実現した。このシステムは非常に大量のデータを有する知的データベースから瞬時にサーチすることができると言う特徴をもつ。また、様様な検索戦略似対応した、もっとも合理的な結果を見つけるため、新たにpenalty functionと言う概念を導入した。ソフトウエア知的情報処理において瞬時応答性を求めることは困難だが、この研究で開発した連想プロセッサの高並列性アーキテクチャを用いると、瞬時サーチが可能である。この知的インターネットサーチシステムに対しては、二種のソリューション提案した:即ちserver-based solutionとclient-based solutionである。Server-based solutionというのは、サーバ側に大規模な連想システムを構築し、サーバが検索を行うシステムのことである。(図1)それに対し、client-based solutionと言うのは、client側に一つの連想システム(ハードウエア)を有し、サーバからデータをダウンロードして、client側の端末で検索を行うシステムである。(図2)それぞれの解決策のため、連想プロセッサアーキテクチャを最適化し、比較.検討した。Sever-based solutionでは、たとえば10,000人もの同時アクセスに対しても、各問いに対して、1秒未満で瞬時に検索結果を返すことができる。同様のことを同消費電力でこれはソフトウエアのみで行うては到底不可能である。一方client-based solutionには、1ms以内の応答時間で非常に柔軟な対話型サーチを行うことが可能である。類似度評価演算知的サーチの例として、eビジネス不動産サーチシステムをField-Programmable Gate Arrays (FPGA)で実現し、このシステムの有効性について検証した。

 さらに、本研究で開発した連想システムアーキテクチャをMPEG-7方式に応用すろことについても研究を行った。ここで、MPEG-7とは「マルチメディアコンテントの記述インターフェース」(Multimedia Content Description Interface)であり、Moving Pictures Expert Group (MPEG)によって提案された方式である。MPEG-7はこれまでのMPEG-1/2/4と全く目的が異なっている。MPEG-7はMPEG-1/2/4と同様にビデオやオーディオなどのマルチメディア・コンテンツを対象とはしているが、これらを有効に検索するための記述子の標準化を目的としている。ただしコンテンツの特徴量抽出の技術や、検索エンジンの構成についてはMPEG-7の標準の対象外である。この研究では、MPEG-7に応用するため、連想プロセッサを利用した汎用類似度評価演算サーチハードウエアシステムも提案した。このシステムは大量のインターネットマルチメディアデータベースから、MPEG-7標準のデータをシステムのキャッシュメモリにダウンロードして、短時間でsimilarity-basedサーチする。このシステムに対しては、連想プロセッサシステムをユーザ端末に構築するclient-solutionを提案した。(図3)例として、eビジネス住宅デザインを実現した。データはMPEG-7ベクトルフォーマットで転送した。MPEG-7で規格化されたデータを用いることにより、汎用連想プロセッサを利用するマルチメディア・コンテンツ検索エンジンが可能になる。

図1 A server-based intelligent Internet search system. AP chips are embedded in the server.

図2 A client-based intelligent Internet search system.

 AP chips are embedded on client PC.

図3 The scheme of the similarity-measure based VLSI searching system for MPEG-7.

審査要旨 要旨を表示する

 情報化社会の進展に伴い膨大な情報が利用可能となったが、これらの中から各個人が本当に必要とする情報を、的確に且つ迅速に探し出すことはなかなか容易ではない。本論文は"Study on the Associative Processor Architecture for Intelligent Database Search"(和題:知的データベース検索のための連想プロセッサアーキテクチャの研究)と題し、データベースの中から必要なデータを各個人の好みや要求に柔軟に応えながら迅速に見つけ出すことを目的とした並列処理VLSIチップ、連想プロセッサについて、そのアーキテクチャを開発するとともに、これを用いた応用システム構築の研究をまとめたもので、全文7章から構成されている。

 第1章は序論であり、柔軟で知的なデータベース検索の必要性が高まっている背景とともに、本論文の目的および構成について述べている。

 第2章は"Literature Review"と題し、最大類似度検索の基礎について述べたあと、インターネット上でのe−ビジネスを例にデータベース検索に関するこれまでの技術開発を概観し、本研究の目指すところを明らかにしている。

 第3章は"Intelligent Internet Search Applications Based on VLSI Associative Processors"と題し、柔軟且つ迅速な検索とともに、データベースの変更が頻繁に行える検索システムの構築を、最大類似度検索を並列処理によって強力に実行できるVLSI連想プロセッサチップを用いることを前提に行った結果について述べている。さらにインターネット上での不動産e−ビジネスをモチーフにテストシステムを構築し、サーバにデータベースを置く方式とクライアントが必要なデータベースをダウンロードする二つの方式を提案するとともに、それぞれの構築に要求されるVLSI連想プロセッサチップの要件を明らかにしている。

 第4章は"Architecture Optimization of Associative Processors"と題し、第3章で明らかにした要件を満足するVLSI連想プロセッサチップのアーキテクチャについて、その最適構成を解析した結果について述べている。データ検索速度、最大保持データ量をサーバーベースとクライアントベースの両方のシステムについて最適化を行い、前者では一万人の同時アクセスに対しマルチチップシステムで対応し、後者では個人の検索ニーズに対し単一チップで対応、いずれも柔軟で知的な検索がほとんど待ち時間無しに実行可能であることを示した。これは重要な知見である。

 第5章は、"An Example of Intelligent Internet Search Applications based on VLSI Associative Processor"と題し、新たにペナルティ関数の概念を導入することにより、インターネット上での不動産e−ビジネス用検索システムにより実用的な性能を持たせるための研究について述べている。さらに、これらの機能を効率よく実現するためのVLSI回路構成についての検討を行い、知的データベース検索のプロトタイプシステムをFPGAチップを用いて実現し、その有効性を実験によって示している。

 第6章は"Similarity-Measure-Based VLSI Searching System for MPEG-7"と題し、前章で開発した連想プロセッサのもつ柔軟なアーキテクチャという特質を生かし、マルチメディア情報の記述形式として重要なMPEG-7に適合する検索システムの構築について述べている。具体的な応用例としてはインターネット上でのマイホーム設計を取り上げ、そのプロトタイプシシテムを構築し有効性を示している。

 第7章は結論である。

 以上要するに本論文は、並列処理によって最大類似度検索を高速に実行できるVLSIチップ・連想プロセッサのアーキテクチャについて、その最適構造の研究を行い、これを用いて膨大なデータベースの中から各個人が本当に必要とする情報を迅速に、しかも各個人の好みや要求に柔軟に応えながら探し出すことのできる知的な検索システムを構築する手法を明らかにしたものであり、半導体集積回路工学ならびに電子工学の発展に寄与するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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