学位論文要旨



No 117059
著者(漢字) 文,南秀
著者(英字)
著者(カナ) ムン,ナムス
標題(和) 波長可変光ファイバブラックグレーティングを用いた多波長光クロスコネクトに関する研究
標題(洋) Study of Multiwavelength Optical Cross-Connect Based on Tunable Fiber Bragg Gratings
報告番号 117059
報告番号 甲17059
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5200号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 菊池,和朗
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 相田,仁
 東京大学 教授 中野,義昭
 東京大学 助教授 土屋,昌弘
 東京大学 助教授 多久島,裕一
内容要旨 要旨を表示する

 Multiwavelength optical cross-connect (OXC), as a dynamic wavelength router, is an all-optical component that will play a key role in WDM transport networks by providing solutions to flexible network management as well as efficient data distribution. A conventional N×N OXC requires demultiplexing and multiplexing of incoming WDM signals before and after space switching, rendering the OXC structure fairly complex. This structural complexity can be alleviated by introducing 2×2 switch elements based on tunable fiber Bragg gratings (TFBG). This is because a TFBG can switch the propagation direction of a particular wavelength channel without affecting other channels. Taking this advantage of TFBG, a novel TFBG-based OXC architecture is proposed in this thesis.

 Fig.1 shows the schematic diagram of the proposed OXC architecture. In this architecture, N×N routing blocks (RBs), which can route specific wavelength channels, are constructed using 2×2 TFBG-based switches (TFSWs). Routing modules (RMs) for these wavelengths are then built from RBs, and finally, the OXC is composed of cascaded RMs. The number of routable channels can be easily upgraded by attaching another RM to the existing OXC.

 The performances of this OXC were investigated by using numerical simulations as well as experimental demonstrations. In these experimental and numerical investigations, which employed a dense WDM (DWDM) as a system model, signal-degradation effects-such as power-penalty induced by interband and intraband crosstalk, and eye-penalty caused by group velocity dispersion of TFBG-were measured or calculated. As a consequence, the maximum size of installable OXC with the proposed architecture could be estimated from the results of these investigations. In addition, from the comprehensive comparison made among various types of OXC switch fabrics, it was found that this OXC does not fall behind other competitors.

 In conclusion, the proposed TFBG-based OXC can be a promising candidate as a wavelength router in DWDM transport network, by providing the excellent features, such as, low insertion loss, low polarization dependency, low cost, and high channel-scalability. Further enhancement of performance is expected from FBG-fabrication and FBG-tuning technologies that are being improved more and more.

 多波長光クロスコネクト(OXC)はダイナミックな波長ルーティングを行う全光学的なネットワークコンポーネントとして、波長分割多重(WDM)ネットワークでの柔軟なネットワークマネジメントや効率よい情報配給のために重要な役割を果たすことになると思われる。ところで、すでに提案されている従来のN×N OXCのほとんどは、WDM信号のMultiplex/Demultiplexを必要としているため、全体的なOXCアーキテクチャーが複雑にならざるを得ない。このOXCアーキテクチャーの複雑度を克服するためのアイディアとしてファイバブラックグレーティングをスイッチエレメントとして導入する方法が考えられる。その理由は、ファイバブラックグレーティングを用いると特定の波長の光たけを選択してスイッチングすることができるからである。この論文では、チューナブルファイバブラックグレーティング(TFBG)の波長選択スイッチングの能力を生かした新しいOXCアーキテクチャーを提案する。

 図1は今回提案するTFBGを用いたOXCアーキテクチャーを示している。全体のOXCはカスケードされた複数のルーティングモジュール(RM)によって構成される。また、一つのルーティングモジュールには一つのルーティングブロック(RB)が含まれていて、あるRMによってキャプチャーされたチャンネルに対してはその中のRBがルーティングを行う。このOXCアーキテクチャーの大きなメリットは、新しいRMを現在のOXCに付け加えることによって、ルーティングできるチャンネルの数を自由に増やせることである。

 今回提案したOXCの性能を調べるために、DWDMをシステムモデルとして実験や数値計算を行い、このOXCの動作による信号の劣化から生じるシステムペナルティー(例えば、クロストークによるパワーペナルティーやファイバブラックグレーティングの分散によるアイペナルティーなど)を計算あるいは測定した。その結果から、提案したOXCの実際のシステムに応用可能なサイズを予測することができた。さらに、現在世界で活発に研究開発されているOXCスイッチング技術との比較からもこのOXCの実用可能性を見ることができた。

 つまり、今回提案したTFBG-based OXCは様々な利点−例えば、低い挿入損失、低い偏波依存性、低いコスト、高いチャンネル拡張性−を持ち、多波長OXCの一つの有力な候補としてほかのOXCスイッチ技術と競争できると思われる。なお、今後のファイバブラックグレーティングの製造とチューニング技術の発展と伴い、このOXCの性能もますますグレードアップできると期待される。

Fig. 1. Proposed TFBG-based OXC architecture.

(a) 2×2 TFBG-based switch (TFSW), (b) routing block, (c) overall OXC architecture constructed by cascading routing modules.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は"Study of Multiwavelength Optical Cross-Connect Based on Tunable Fiber Bragg Gratings(波長可変光ファイバブラッググレーティングを用いた多波長光クロスコネクトに関する研究)"と題し,英文で執筆され,9章からなる。

 近年,波長多重(WDM)技術の導入によって,光ファイバ伝送システムの伝送容量は飛躍的に増大した。次のステップとして,柔軟なネットワークマネージメントを実現するために,ダイナミックな波長ルーティングを全光学的に行うネットワークの開発が急務となってきた。このようなネットワークでは,多波長光クロスコネクト(OXC)が重要な役割をはたす。

 これまでに提案されているほとんどのOXCでは,波長ごとにWDM信号を合分波するデバイスを必要としているため,全体的なアーキテクチャーが複雑にならざるを得ない。本論文は,従来のOXCアーキテクチャーの複雑さを克服するために,波長可変光ファイバブラックグレーティング(FBG)をスイッチングエレメントとする新しい方法を提案し,その基本動作を実証することを目的とする。

 第1章は序論であり,WDM光ネットワークについて概観した後,ネットワークにおいてOXCのはたすべき役割について述べている。

 第2章は"Muitiwavelength Optical Cross-connect in WDM networks"と題し,OXCの機能について述べ,これまでに提案されているアーキテクチャーおよびOXCで用いられるスイッチングエレメントについてまとめている。

 第3章は"Proposition of OXC Based on Tunable Fiber Bragg Gratings"と題し,波長可変FBGを用いた新しいOXCアーキテクチャーを提案している。

 波長可変FBGは,ブラッグ波長の設定により,特定の波長チャンネルを通過または反射させる機能を持つ。このデバイスをスイッチングエレメントとして用いれば,波長に応じてファイバ入出力ポートを切り替える波長ルーティングブロックを構成することができる。さらに新しいルーティングブロックをOXCに付け加えることによって,ルーティングできるチャンネルの数を自由に増やすことが可能である。

 第4章は"Intraband Crosstalk"と題し,WDMネットワークの性能を劣化させる最大の要因であるイントラバンドクロストークについての検討を行なっている。クロストークをガウス近似するモデルの妥当性を理論解析により示したのち,実験によりモデルの検証を行なった。さらに提案するOXCにおいて,イントラバンドクロストークよりどの程度のペナルティーが生じるかを理論的に解析した。

 第5章は"Experimental Demonstrations of the Proposed OXC"と題し,3入力・3出力,4波長のOXCを実際に構築して,基本的な波長ルーティング機能を実現している。

 第6章は"Numerical Simulation of the Signal Transmission in the WDM Network Employing the Proposed OXC"と題し,提案されたOXCを用いたWDMネットワークについて,クロストーク,ファイバブラックグレーティングの分散,光ファイバ増幅器雑音,光ファイバの非線形効果などを考慮した数値シミュレーションを行ない,実現可能な波長数やポート数の評価を行なった。

 第7章は"A Novel OXC Based on Independently Bi-Directional TFBG Switches and Its Application to Network Restoration"と題し,提案したOXCを双方向動作が可能となるように拡張している。このOXCは,障害点が発生時のネットワークの復旧に,大きな効果があることが示された。

 第8章は"Comparative Study of Various OXC-Switch-Implementing Technologies"と題し,種々のスイッチングエレメントを用いたOXCに関し,詳細な比較検討を行なっている。

 第9章は本論文の結論である。

 以上のように本研究では,波長多重光ネットワークにおいて重要な役割をはたすと考えられる多波長光クロスコネクトに関し,波長可変光ファイバブラッググレーティングを基本要素とする新しい構成法を提案した。3入力・3出力,4波長の光クロスコネクトを試作して波長ルーティング機能を実証するとともに,数値シミュレーションにより実現可能なネットワーク規模を明かにした。本論文は,波長ルーティングを用いる波長多重光ネットワーク技術に大きく寄与すると考えられ,電子工学への貢献が大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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