学位論文要旨



No 117098
著者(漢字) 陳,文莉
著者(英字)
著者(カナ) チン,ブンリ
標題(和) 機械掘削におけるずりの寸法と形状に関する研究
標題(洋) Study on Size and Shape of Detritus in Mechanical Excavation
報告番号 117098
報告番号 甲17098
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5239号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大久保,誠介
 東京大学 教授 正路,徹也
 東京大学 教授 山富,二郎
 東京大学 助教授 福井,勝則
 東京大学 講師 定木,淳
内容要旨 要旨を表示する

 近年,環境保全のために,主として都市部の地下空間の開発・利用が話題になっている.それに伴って,トンネルや地下空間の掘削方法として機械化掘削が増加する傾向がある.この理由としては,安全性の向上・省力化・騒音対策などに対する社会的認識が高まってきたことや,機械掘削工法では掘削とずり出しが同時に行えるため,条件さえよければ高い掘進速度を達成することが可能であり,また周辺岩盤に対する損傷度が小さいなどの機械化掘削の利点があげられる.

 機械掘削は機械的に生起した応力を用いる方法であって,機械的工具による方法と流体の運動エネルギー・圧力などを用いる方法の二種類に分けられている.前者は現在もっとも普及している方法のひとつで,削岩機,ローラ・カッターを用いる全断面トンネル掘進機(TBM),自由断面掘進機などで用いられている.一方,発破,水力ジェットなどは後者に属する.

 全断面トンネル掘進機(TBM)によって得られる掘削ずりは,他の掘削方法によるずりに比べって薄板状のものが多く,経験的に硬質な岩盤ほど薄板状となりやすいといわれてきた.この性質が確かならば,掘削ずりを観察することによって切羽の岩盤特性を判断することができるはずである.この他にも掘削ずりは様々な情報を含んでいるものと考えられる.また,切羽から掘削ずりを運搬する方法の選択・操業条件の最適化,掘削ずりの再利用・処分方法,粉塵対策などにおいて,掘削ずりの形状や粒度分布が重要と考えられるが,掘削ずりに関する研究は比較的遅れている現状といえる.

 本研究では,まず,基礎データを収集するため,一軸圧縮試験を中心とした室内試験を行った(2章).ついで,本研究の中心をなす,TBMのずりの収集とその分析を実施した(3章).さらに,自由断面掘削機,回転削孔機,削岩機などの掘削ずりについて調査・検討した結果を述べる(4章).また,エネルギー効率の観点から,いくつかの機械掘削について評価する(5章).最後に,室内試験と原位置で採取したずりの検討結果を踏まえて,理論的な考察をしながら,TBMの適用性などについて検討を行った(6章).

 各章の内容と検討結果は以下のようである:

 第二章は,室内試験を行って,岩片の粒度分布に関する基本データと基本知識を提供することを目指す.試験は三つの系列を含んでいる.まず,基本的な試験条件下で,三城目安山岩を用いて試験を行った.ついで,岩種の影響を調べるため,岩石試料として来待砂岩・田下凝灰岩・葛生ドロマイト・秋吉大理石を追加して同じ基本条件で試験を行った.さらに,試験条件(例えば:試験片寸法,端面の整形,湿潤状態)の影響を調べるため,いくつかの条件を変えて試験を実施した.

 得られた結果は以下である:(1)一軸圧縮試験の岩片の粒度分布は大体2桁程度の範囲内に分布する.変位が大きくなるに従って,粒径が小さくなる.ある範囲内でRosin-Rammler分布に従う.(2)秋吉大理石以外の岩石では,粒度分布の傾向はあまりかわらない.(3)粒径は消費エネルギーと密接な関係がある.

 第三章では,TBMのずりについて調査,検討した結果を述べた.TBMの掘削ずりは,ずり捨てピットから一回あたり20kgを回収して実験室に搬送し,乾燥させてから,ふるい分けにより粒度を求めた.さらに質量が5g以上のずりを対象として形状の測定を行った.

 結果をまとめると次のようになる.(1)TBMの掘削ずりの粒度分布は2桁程度の範囲内に分布し,一軸圧縮試験の岩片の粒度分布と似た傾向を示す.(2)TBMの掘削ずりは特独の扁平状となることがある.(3)掘削ずりの形状は二次破砕の影響を受けている可能性がある.

 第四章はTBMの掘削ずりの結果と比べるため,他の機械掘削方法のずりについて調べた.現場から削岩機・スロット削岩機,ブームヘッダーおよび発破の掘削ずりを採取し,三章で述べたふるい分け法を用いて粒度分布を調べた.また,実験室で行った,PDC回転削孔試験と回転振動削孔試験のずりも回収して,粒度分布を求めた.

 結論としては,各種機械掘削方法のずりの粒度分布はほぼ2桁程度の範囲内に分布し,傾向は一軸圧縮試験での岩片やTBMの掘削ずりと大差ない.また,各種機械掘削方法のずりの粒度分布は代表長さにより正規化できることがわかった.

 第五章はエネルギー効率の観点から,一軸圧縮試験での岩片,TBMの掘削ずり,他の機械掘削方法のずりについて検討した.岩盤掘削のために消費されたエネルギーは,掘削方法の評価に際して重要であり,掘削体積比エネルギー(単位体積あたり消費されたエネルギー)やこれを一軸圧縮強度で割った値などが用いられる.

 得られた結果は次の通りである.(1)室内試験における掘削体積比エネルギーは比較的小さい.(2)原位置での掘削の中では,発破の値が最も小さい.(3)掘削機械の中で,TBMの値が小さい.(4)掘削ずりの粒子径だけに着目するとき,Bondの式である程度説明できる.

 第六章は考察である.ずりの形状に関して,西松の提案した掘削に関する理論を適用したところ,ある程度,この理論によりTBMなどの掘削ずりの形状が説明できることがわかった.

 TBMなどの機械化掘削にあたっては,その適用性を事前に検討することが大切である.本研究では,TBMを例にとり,その適用性を検討するためのエキスパートシステムを検討した.なお,このエキスパートシステムの原型は,10年ほど前に大久保が開発したものであり,この原型を全面的に見直すとともに,本研究を含めた最近の研究成果や実績を勘案して改良した.

 本論文の結果をまとめてみると,主に二つある:

 (1)ずりの粒度分布は掘削方法によらない

 (2)ずりの形状は西松の理論で説明可能

 (1)の結果は,掘削方式を多少変更したとしても,従来の積み込み,運搬方式を大幅に変更する必要がないことを意味している.また,掘削機械の寸法拡大や縮小にあたっても,積み込み・運搬機械の拡大や縮小を決める基礎になりえると思う.さらに,掘削したずりを再利用する場合,計画段階で役立つ情報と思う.

 ずりの形状は,TBMにおける流体輸送時のずりの運搬効率,さく岩機や回転削孔機のずりの運搬効率,さらにはタイヤなどの消耗品の損耗と関係がある.(2)の結果によれば,岩盤の物性値あるいは簡単な室内試験から,このずりの形状が前もって予測できることになる.また,今後の検討が必要であるが,ずりの形状から,岩盤の物性値を推定できる可能性も示唆している.

 本論文の主たる結論(1)と(2)は,常識的な結果ともいえるが,これまでに学問的な検討がほとんどなされてこなかった分野であり,掘削機械の設計や選定,施工条件の決定などにおける一つの基礎を与えるものと考えている.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文では、既往の研究がほとんどない機械掘削におけるずりの寸法と形状について論じている。本論文の背景として、近年、環境保全のために、主として都市部の地下空間の開発・利用が話題になっていることや、それに伴って、トンネルや地下空間の掘削方法として機械化掘削が増加していることがあげられる。本論文で取り上げられた全断面トンネル掘進機(TBM)の掘削ずりは、他の掘削方法によるずりに比べて薄板状のものが多く、経験的に硬質な岩盤ほど薄板状となりやすいといわれてきた。この性質が確かならば、掘削ずりを観察することによって切羽の岩盤特性を判断することができるはずである。この他にも掘削ずりは様々な情報を含んでいるものと考えられる。また、切羽から掘削ずりを運搬する方法の選択・操業条件の最適化、掘削ずりの再利用・処分方法、粉塵対策などにおいて、掘削ずりの形状や粒度分布が重要と考えられるが、掘削ずりに関する研究は比較的遅れている現状といえる。

 本論文では、まず、基礎データを収集するため、一軸圧縮試験を中心とした室内試験を行った結果が述べられている(2章)。ついで、本研究の中心をなす、TBMのずりの収集とその分析を実施した結果(3章)、さらに、自由断面掘削機、回転削孔機、削岩機などの掘削ずりについて調査・検討した結果が述べられている(4章)。また、エネルギー効率の観点から、いくつかの機械掘削について評価している(5章)。最後に、室内試験と原位置で採取したずりの検討結果を踏まえて、理論的な考察をしながら、TBMの適用性などについて検討している(6章)。

 第二章では、岩片の粒度分布に関する基本データを得ることを目指した室内実験結果が述べられている。まず、基本的な試験条件下で、三城目安山岩を用いて試験を行った。ついで、岩種の影響を調べるため、岩石試料として来待砂岩・田下凝灰岩・葛生ドロマイト・秋吉大理石を追加して同じ基本条件で試験を行った。さらに、試験条件(例えば:試験片寸法、端面の整形、湿潤状態)の影響を調べるため、いくつかの条件を変えて試験を実施した。得られた結果は、(1)一軸圧縮試験の岩片の粒度分布は2桁程度の範囲内に分布する。(2)秋吉大理石以外の岩石では、粒度分布の傾向はあまりかわらない。(3)粒径は消費エネルギーと密接な関係がある。

 第三章では、TBMのずりについて調査、検討した結果が述べられている。TBMの掘削ずりは、ずり捨てピットから一回あたり20kgを回収して実験室に搬送し、乾燥させてから、ふるい分けにより粒度を求めた。さらに質量が5g以上のずりを対象として形状の測定を行った。結果をまとめると次のようになる。(1)TBMの掘削ずりの粒度分布は2桁程度の範囲内に分布し、一軸圧縮試験の岩片の粒度分布と似た傾向を示す。(2)TBMの掘削ずりは特独の扁平状となることがある。(3)掘削ずりの形状は二次破砕の影響を受けている可能性がある。

 第四章では、TBMの掘削ずりの結果と比べるため、他の機械掘削方法のずりについて調べた結果が述べられている。現場から削岩機・スロット削岩機、ブームヘッダーおよび発破の掘削ずりを採取し、三章で述べたふるい分け法を用いて粒度分布を調べた。また、実験室で行った、PDC回転削孔試験と回転振動削孔試験のずりも回収して、粒度分布を求めた。その結果、各種機械掘削方法のずりの粒度分布はほぼ2桁程度の範囲内に分布し、傾向は一軸圧縮試験での岩片やTBMの掘削ずりと大差なく、各種機械掘削方法のずりの粒度分布は代表長さにより正規化できることがわかった。

 第五章では、エネルギー効率の観点から、一軸圧縮試験での岩片、TBMの掘削ずり、他の機械掘削方法のずりについて検討した結果が述べられている。岩盤掘削のために消費されたエネルギーは、掘削方法の評価に際して重要であり、掘削体積比エネルギーやこれを一軸圧縮強度で割った値などを用いて議論している。得られた結果は次の通りである。(1)室内試験における掘削体積比エネルギーは比較的小さい。(2)原位置での掘削の中では、発破の値が一番小さい。(3)掘削機械の中で、TBMの値が小さい。(4)掘削ずりの粒子径だけに着目するとき、BONDの式である程度説明できる。

 第六章は考察である。ずりの形状に関して、西松の提案した掘削に関する理論を適用したところ、ある程度、この理論によりTBMなどの掘削ずりの形状が説明できることがわかったとしている。また、TBMなどの機械化掘削にあたっては、その適用性を事前に検討することが大切であるとし、その適用性を検討するためのエキスパートシステムを検討している。

 主たる結論は次の2つである。(1)ずりの粒度分布は掘削方法によらない。(2)ずりの形状は西松の理論で説明可能。(1)の結果は、掘削方式を多少変更したとしても、従来の積み込み、運搬方式を大幅に変更する必要がないことを意味している。また、掘削機械の寸法拡大や縮小にあたっても、積み込み・運搬機械の拡大や縮小を決める基礎になりえると思う。さらに、掘削したずりを再利用する場合、計画段階で役立つ情報と思う。

 ずりの形状は、TBMにおける流体輸送の際のずりの運搬効率、さく岩機や回転削孔機のずりの運搬効率、さらにはタイヤなどの消耗品の損耗と関係がある。(2)の結果によれば、岩盤の物性値あるいは簡単な室内試験から、このずりの形状が前もって予測できることになる。また、今後の検討が必要であるが、ずりの形状から、岩盤の物性値を推定できる可能性も示唆している。本論文の主たる結論(1)と(2)は、常識的な結果ともいえるが、これまでに学問的な検討がほとんどなされてこなかった分野であり、掘削機械の設計や選定、施工条件の決定などにおける一つの基礎を与えるものと考えている。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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