No | 117145 | |
著者(漢字) | 鈴木,潤 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | スズキ,ジュン | |
標題(和) | 特許データによる研究開発の多角化と技術軌道の分析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 117145 | |
報告番号 | 甲17145 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(学術) | |
学位記番号 | 博工第5286号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 先端学際工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 従来、科学技術政策研究の分野では、民間企業の行う研究開発活動はその内部構造についてあまり検討されず、入力と出力のみに着目した解析が行われることが多かった。本研究では、研究開発活動の多角化や異分野の技術との関係を理解し、異業種間競争やイノベーションとの関連性を明らかにすることを目的とする。そのための新たなアプローチとして、特許データを基に企業内の複数の連続する技術開発の系譜(技術軌道)を同定すると共に、定量的な指標と個別研究開発プロジェクトの経緯に関する事例等から、技術軌道間の相互作用を明らかにする。また、技術軌道の分析を業種単位に拡張し、本業と密接に関わる分野(以下、「コア技術分野」と呼ぶ)と、それ以外の分野(以下、「非コア技術分野」と呼ぶ)を区別して、各分野における研究開発のインプットやアウトプットおよび分野間の関係等を明らかにするものである。 まず個別企業について、技術分野ごとの特許出願を調べることにより、特定の技術軌道の盛衰や他の技術軌道との関係を知ることができることを示した。特に、特許分類のCo-occurrenceの解析から、技術軌道の誕生と自立の過程や技術の展開方向の変化を知ることができる(図1)。これらの結果から、研究開発活動の指標のみならずその構造解析の道具としても、特許データが有効であることを考察した。 次に、分析の単位を業種へと拡張し,各業種の技術軌道としてコア技術分野と非コア技術分野(近隣分野と疎遠分野)を定義した。そして、業種と分野の定義に従い、東証1部上場の製造業約800社について、業種×分野の特許出願数の時系列マトリクス・データを作成した。これらデータの解析結果から、各産業の特許出願先分野の多様性やコア技術分野における支配力の変化を定量的に示した(図2)。また、業種単位で見た研究開発の規模と収穫の関係が、コア技術分野と非コア技術分野で異なることを示した。 これらの結果を基に、コア/非コアの研究開発がイノベーションのプロセスにおいてどのような意味を持つのかを考察し、コア/非コアの視点から見た研究開発とイノベーションの関係を4つのタイプに整理した(図3)。そして、典型的な成長産業におけるコア/非コアの研究開発パターンを要約して、各タイプからの解釈を行った。 さらに、既存の業種×分野の研究開発支出の時系列マトリクス・データを上記の特許データと組み合わせることにより、各業種の各技術分野における研究開発支出と特許出願の先行・遅行関係を明らかにし、特に研究開発依存型産業のコア技術分野において特許出願が研究開発支出に先行することを示した。この関係は、実際のプロジェクト単位での事例研究による検証を行い、研究開発依存型産業と成熟型産業のコア/非コア技術分野におけるinput/outputモデルとしてまとめた(図4)。 最後に考察として、企業戦略におけるタイプ別イノベーションの認識が重要であると考えられることを述べ、非コア技術分野への研究開発活動の参入は新規事業分野の創出のみならず、コア技術分野への回帰的イノベーションをもたらすこと、そして、研究開発活動のコア技術分野への集中は、不連続イノベーション指向企業にとってはマイナスであることなどを考察した。 さらに、研究開発依存度の高い分野では、開発費を投入する前に基本アイデアを特許で周到に保護することが一般化しており、このような特許戦略になじみの薄い産業や企業からの参入では、特許戦略を失敗すると参入そのものが失敗する可能性が大きいことを述べた。 そして、不連続イノベーションの振興政策として、研究開発活動のコア/非コア技術分野を区別し、大企業を含む民間企業による近隣技術分野への研究開発投資を政府が重点的に支援することが有効であることを示唆した。 図1 キャノンにおける技術軌道間(カメラと複写機・プリンタ)の相互作用 図2 各業種の特許出願先分野の多様性の変化(左)とコア技術分野の支配率の変化(右) 図3 イノベーションの4タイプコア/非コアの視点から見た研究開発とイノベーションの関係 図4 研究開発依存型産業のコア/非コア技術分野におけるinput/outputモデル | |
審査要旨 | 本研究は、日本企業の研究開発活動や技術軌道を定量的に把握し、イノベーションとの関係を明らかにすることを目的としたものである。そのため、特許分類の組合せにより規定される製品技術の集合と特許出願数の変化によって「技術軌道」を定義し、新たな特許分析手法を持ちいた定量的指標と、個別研究開発プロジェクトの経緯に関する事例等から、技術軌道間の関係を明らかにした。また、技術軌道の分析を業種単位に拡張し、本業と密接に関わる分野(以下、「コア技術分野」と呼ぶ)と、それ以外の分野(以下、「非コア技術分野」と呼ぶ)という視点を導入して、各分野における研究開発支出と特許出願との関係を明らかにしている。 論文の構成としては、背景や目的・関連研究等に関する序論の後に、第2章においては企業単位で見た個別技術軌道の解析から、研究開発の多角化とイノベーションの関係を考察した。第3章においては分析の単位を業種へと拡張し、業種単位で見た研究開発の多角化と、個別業種における研究開発とイノベーションの関係を考察した。第4章においては、業種ごとのコア/非コアの視点から見た研究開発支出と特許出願の分析を行い、第5章において個別プロジェクト単位の事例分析を加えて、研究開発依存型産業とそれ以外の産業における、コア/非コアの視点からの研究開発活動のモデルを構築した。最後に第6章では、得られた知見をまとめると共に、科学技術政策や企業戦略へのインプリケーションについて考察した。 企業単位で見た個別技術軌道の解析においてはおいては、技術分野ごとの特許出願を調べることにより、特定の技術軌道の盛衰や他の技術軌道との関係を知ることができることを示した。特に、特許分類の共出現現象や筆頭特許分類の解析という新しい解析手法の導入により、技術軌道の誕生と自立の過程や技術の支配的地位のシフトなどを定量的に分析できることを示した。これらの結果から、研究開発活動の指標のみならずその構造解析の道具として、特許データが有効であることを明らかにした。そして、これらの結果を基に、研究開発活動の多角化がイノベーションのプロセスにおいてどのような意味を持つのかを考察し、研究開発の多角化とイノベーションの関係を4つのタイプに整理した。 業種単位で見た研究開発の多角化の分析においては、東証1部上場の製造業約800社について、業種×分野の特許出願数の時系列マトリクス・データを作成した。そして、各業種の技術軌道としてコア技術分野と非コア技術分野(さらに近隣分野と疎遠分野に細分)を定義し、これらデータの解析結果から、各産業の特許出願先分野の多様性やコア技術分野における東証一部上場企業の支配力の変化を定量的に示した。これらの結果を基に、各業種の主たるイノベーションのタイプを分類した。 業種ごとの解析では、既存の業種×分野の研究開発支出の時系列マトリクス・データを上記の特許データと組み合わせることにより、研究開発支出と特許の関係が、コア技術分野と非コア技術分野で異なることを示した。さらに、各業種の各技術分野における研究開発支出と特許出願の先行・遅行関係を明らかにし、特に研究開発依存型産業のコア技術分野において特許出願が研究開発支出に先行することを示した。 研究開発依存型産業と成熟型産業に属する企業で行われた実際のプロジェクト単位での事例研究により、研究開発支出と特許出願の先行関係が業種により異なることを検証した。この結果を一般化して、研究開発依存型産業と成熟型産業のコア/非コア技術分野における技術開発活動のプロセスのモデルを考察した。 まとめにおいては、企業戦略におけるタイプ別イノベーションの認識が重要であると考えられることを述べ、非コア技術分野への研究開発活動の参入は新規事業分野の創出のみならず、コア技術分野への回帰型イノベーションをもたらすことや、研究開発依存度の高い分野では、開発費を投入する前に基本アイデアを特許で周到に保護することが一般化していることを述べた。そして、不連続イノベーションの振興政策として、研究開発活動のコア/非コア技術分野を区別し、大企業を含む民間企業による近隣技術分野への研究開発投資を政府が重点的に支援することが有効であることや、産学連携施策への展開などを示唆した。そして、最後に今後の課題として、研究開発活動の構造のダイナミックな変化の解析や、国際比較などの視点が重要であることを考察した。 以上を要するに、従来は定性的にしか記述せざるを得なかった技術軌道の概念を定量的に分析することに挑戦し、ある程度の成果を挙げることが出来た。さらに、コア技術分野/非コア技術分野の違いという視点を取り入れた分析により、従来の分析では考慮されてこなかった、研究開発の役割や、「開発研究」への発展の有無を明らかにし、研究開発依存型産業と成熟型産業における違いをも説明することがた。これにより、企業戦略や政策への新たな視角からのいくつかのインプリケーションを得ることが出来た。 よって本論文は博士(学術)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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