No | 117166 | |
著者(漢字) | 成,敏圭 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ソン,ミンギュウ | |
標題(和) | 生理活性テルペノイド類の合成研究 | |
標題(洋) | Studies on the Synthesis of Bioactive Terpenoids | |
報告番号 | 117166 | |
報告番号 | 甲17166 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第2362号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | テルペノイドは、動植物、微生物や昆虫の生体系に存在するイソプレンを構成単位とする化合物の総称であり、イソペンテニル2リン酸(IPP)の縮合により生産される化合物である。IPPの縮合及びそれに続く環化パターンは多様であり、現在までに報告されているこれらの天然物は22,000以上にもおよぶ。これらは生体の構成成分として、あるいは生理活性物質などとして多様な役割を果たしており、またテルペノイドの生合成経路の基礎研究、もしくはそれらの有機合成研究などの応用研究が現在まで活発に行われている。 そこで著者は、強力な抗菌活性を持つモノテルペノイドとしてthujaplicin類を、またセスキテルペンとして化学的自己防御活性を示す海産毒素の一種であるcaulerpenyne及びその関連二次代謝産物に興味を持ってそれらの全合成研究を行った。 1.モノテルペノイドの合成:β-及びγ-thujaplicinの位置選択的合成1) β-thujaplicin(hinokitiol,(1))及びγ-thujaplicin(2)は、台湾ヒノキ油、青森産ヒバ油及びウエスタンレッドセダー油などの中に存在する結晶性酸性物質で、NozoeらのグループによりChamaecyparis taiwanesから単離、構造決定された天然由来、最初の非ベンゼン系芳香モノテルペンである2)。これらの化合物は現在まで抗菌活性をはじめとし、様々な領域に広がる生理活性を持つことが知られている。特にヒノキチオール1は強力な抗菌性と共に低毒性で、広い抗菌スペクトルなどのメリットを持っているため、対病害虫、防腐剤、頭髪用品、植物生理学などの広い範囲に応用され数々の特許も出されている。 現在まで、これらに関する合成について多くの報告があるが、位置選択的合成研究はほとんどされていない。そこで、著者はその位置選択的な合成法の開発を目的としてβ-thujaplicin 1及びγ-thujaplicin 2の合成を行った。 1及び2の合成では両化合物の構造上、水酸基の位置のみ異なることから共通の中間体を用いることにより効率的に合成することが可能となる。そこで共通の中間体として七員環ケトン4を用いることとした。七員環ケトン4を用いることとした。七員環ケトン4を得るためまずモノテルペンであるリモネンを出発原料として用い、末端のオレフィン部位を選択的に還元し、続くオゾン酸化により生じたオゾナイドを酸性条件下還元させ、ジアセタールとした。その後、LDAとTMSClを用いて反応させ、速度論的安定なシリルエノラート3を良い収率で得た。これに対しルイス酸存在下、分子内向山アルドール反応をさせることにより、求める七員環ケトン4を得ることができた。 次に得られた4を用いて、鍵反応である共役ジエニルシリルエーテル5及び6への変換、続くこれらの位置選択的なα-ヒドロキシ化を行った。まず、4のアセタール基を酸処理することによりα,β-不飽和ケトンとした後、LDAを用いることにより速度論的生成物5を得た。一方、熱力学的に安定な6は4をTMSIで処理することにより得ることができた。これらに対し共にMCPBAを用いて選択的エポキシ化を行った後に、酸処理することによりα-ヒドロキシエノンヘと導いた。これらをDess-Martin酸化によりジケトンとした後に、α-ブロモ化、続く脱ブロモ化による芳香化を経て目的化合物である1と2をそれぞれ位置選択的に合成することに成功した。 2.セスキテルペノイドの合成:化学的自己防御活性を示す海産毒素caulerpenyne関連二次代謝産物の合成研究 caulerpenyne 7は1984年から地中海沿岸に急速に広がった緑藻類の一種、Caulerpa taxifoliaからPiattelliらのグループにより単離、構造決定された3)海産セスキテルペノイドの一つである。Caulerpa属の海草は7を生産し、捕食者に対して化学的自己防御作用を有していることが報告されている。また7は抗がん及び消化活性などの生理活性も知られている4)。 oxytoxin-18及びoxytoxin-29は、海洋軟体動物の一種、Oxynoe olivaceaより単離、構造決定されたセスキテルペンである5)。Oxynoe olivaceaはCaulerpa属の海草を捕食し、7を生体内で代謝することで、より活性の強い防御物質8及び9を生産すると予測されている。しかし、現在までこれらの化合物の全合成は報告されていない。そこで著者はそれらの効率的合成法を確立すべく合成研究を行っている。 まずはじめに、著者はそれらの中で比較的単純な構造である9の合成を行った。 2,3-dihydrofurane 10から数工程で良い収率で得られるホモアリルアルデヒド11と安定なイリド12をWittig反応させることにより(E)-α,β-不飽和エステル13を単一の化合物として得ることができた。そしてこれを3,3-dimethylacroleinからCoreyの手法を用いることにより容易に調製可能な14とPd(0)触媒存在下、クロスカプリング反応させることで共役(E,E)-enynene 15を得た。生じた15をLAH還元によりジオールへと変換した後、Dess-Martin酸化により目的化合物の一つであるoxytoxin-29を高収率で得ることに成功した。 次にその結果から、共役(E)-enynene骨格の合成法が確立されたので、現在はcaulerpenyne7及びoxytoxin-18の光学活性体のエナンチオ選択的合成研究を行っている。 1,4-ブタンジオールを出発原料とし一方の水酸基のみTBDPSで保護した後、もう一方の水酸基をPDC酸化させ光学活性体オキサゾリジノン18を高収率で得た。現在は18とアルデヒド11を用いて鍵反応であるEvans不斉アルドール反応の条件検討を行っている。続く合成計画としてはsyn体アルコール19に対し不斉補助其を除去した後、14とクロスカプリング反応により共役(E)-enynene 20を構築後、7及び8へ変換する予定である。 1) Soung, M. G.; Matsui, M.; Kitahara, T. Tetrahedron 2000, 56(39), 7741. 2) Nozoe, T. Nature (London) 1952, 167, 1055. 3) Amico, V.; Oriente, G.; Piattelli, M.; Tringali, C.; Fattorusso, E.; Magno, S.; Mayol, L. Tetrahedron Lett. 1978, 38, 3593. 4) a) Fischer, J. L.; Lemee, R.; Formento, P.; Caldani, C.; Moll, J. L.; Pesando, D.; Meinesz, A.; Grelier, P.; Pietra, F.; Guerriero, A.; Milano, G. Anticancer Res. 1995, 15, 2155. b) Nozomu, B.; Masayori, N.; Takahiro, T.; Hiromichi, O. Lipids 1999, 34(5), 441. 5) Cimino, G.; Crispino, V.; Gavagnin, M.; Ros, J. D. Experientia 1990, 46, 767. | |
審査要旨 | 本論文は天然系に多く存在している生理活性テルペノイド類の合成に関するもので二章よりなる。著者は、モノテルペノイドとして天然から初めて単離、構造決定された非ベンゼン系芳香モノテルペンthujaplicin類またセスキテルペンとして化学的自己防御活性を示す海産毒素の一種であるcaulerpenyne及びその関連二次代謝産物に興味を持ってそれらの合成研究を行った。 まず序論で研究の背景と意義を論じた後、第一章ではモノテルペノイドとしてthujaplicin類に関する位置選択的合成の結果について述べている。合成計画として既存とは全く異なるアプローチを用いて研究を行った。共通の中間体である七員環ケトン7はリモネンを出発原料として用い、末端のオレフィン部位を選択的に還元し、続くオゾン酸化によりジアセタールとした後、速度論的安定なシリルエノラート8を経由、しルイス酸存在下、分子内向山アルドール反応をさせることにより効率的に調製した。その後に、鍵反応である共役ジエニルシリルエーテル9および10に変換、続くこれらの位置選択的な酸化、α-ブロモ化、続く脱ブロモ化による芳香化を経て目的化合物である1と2をそれぞれ位置選択的に合成することに成功した。 第二章ではセスキテルペノイドとして化学的自己防御活性を示す海産毒素caulerpenyne関連二次代謝産物に関する合成研究の結果について述べている。 先に、著者はそれらの中で比較的単純な構造であるoxytoxin-25の合成研究を行った。5の構造的特徴である(E)-三置換オレフィンおよび共役enynene骨格を構築すべく、それらの効率的な合成法について検討した。まず、2,3-dihydrofurane 10から数工程を経て良い収率で得られるホモアリルアルデヒド11と安定なイリド12をWittig反応させた後、3,3-dimethylacroleinから容易に調製可能なstannylenyne 14とPd(0)触媒存在下、クロスカプリング反応させたところ一部異性化した共役enynene15と16を3:1の比で得た。得られた混合物をそれぞれLiAlH4還元およびDess-Martin酸化させて異性体であるiso-oxytoxin-2 17を合成した。その結果、共役enynene骨格が異性化されやすくまた大変不安定であることが明らかになった。現在、caulerpenyne 3からoxytoxin-2 5への生合成的経路を応用し、それらの全合成を目指して不斉Evans aldol反応などの反応条件を検討している。 以上本論文は、抗菌活性を有するモノテルペノイドとしてthujaplicin類、またセスキテルペンとして化学的自己防御活性を示す海産毒素らに関する合成を独創的な有機化学的アプローチで研究を行った成果をまとめたものであり、学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値のあるものであると認めた。 | |
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