No | 117201 | |
著者(漢字) | 金,雄鎭 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | キム,ウンジン | |
標題(和) | セルロースの過ヨウ素酸酸化による機能性材料の開発 | |
標題(洋) | Periodate oxidation of cellulose for functional derivatization | |
報告番号 | 117201 | |
報告番号 | 甲17201 | |
学位授与日 | 2002.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第2397号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 第1章 緒言 セルロースを過ヨウ素酸で酸化するとグルコース残基当たり二つのアルデヒド基を導入することができる。導入されたアルデヒド基を媒体として様々な官能基及び誘導体を調製することができる。 本研究では第一にセルロースの過ヨウ素酸酸化が固体セルロースでどのように進行するのかを結晶性の異なる試料を用いて調べた。第二にこの反応をセルロースからの機能性材料の調製に応用し、新しい型のセルロース系カラム充填剤を開発した。 第2章 結晶性セルロースの過ヨウ素酸酸化 セルロースの過ヨウ素酸酸化によるジアルデヒド化反応が結晶性セルロースに対してどのように進行するかを調べた。ジアルデヒド化反応は結晶性が高くなると反応が進みにくいことが分かった。反応度(置換度)が高まるにつれてセルロースの結晶化度は下がるがX線回折ピークの半価幅はほとんど変わらなかった。FTIR分析からジアルデヒドセルロース由来のピークが1740cm-1と880cm-1に現れたが、置換度の高いジアルデヒド化セルロースにおいてもCP/MAS 13C固体NMRではアルデヒドに相当するピークは現れず、導入されたジアルデヒド基はfreeのアルデヒドとしては存在していないと考えられた。しかしジアルデヒド化物をさらに亜塩素酸で酸化した試料はジカルボキシル化されていることが水溶液13C NMRから示された。高結晶性のシオグサセルロースを中程度にジアルデヒド化してTEMで観察すると、ミクロフィブリルはジアルデヒトによって柔軟化していることが分かった。このアルデヒド基をチオセミカルバジドで修飾し金コロイドでラベルすると金粒子の分布が不均一であることから、過ヨウ素酸酸化は不均一に進むと考えられた。このジアルデヒド化シオグサセルロースを50%硫酸で処理すると、太さは元と同じだが短くなったミクロフィブリル断片が多数生じた。以上の挙動から過ヨウ素酸酸化はミクロフィブリル表面の互いに離散した場所で始まり、反応はそこから表面に沿って広がるのではなく結晶の内部方向に進んでいくと考えられる。 第3章 ジアルデヒドセルロース及び窒素含量セルロース誘導体の熱分解挙動 酸化度の異なるジアルデヒドセルロースおよびそれにヒドロキシルアミンあるいはヒドラジンを反応させたイミンの熱重量・示差熱分析を行なった。ジアルデヒドセルロースは酸化度が高くなるにつれ分解開始温度が下がるが炭化収率は酸化度の増加と共に上がり、酸化度98%ではセルロースの約2倍であった。ジアルデヒドセルロースから得た窒素含有誘導体は窒素含量があるレベルを超えると145〜170℃の範囲で特徴的な爆発的分解を示した。爆発的分解を示したものを還元するとこの現象は見られなくなったことから、この現象はシッフ塩基反応により形成された炭素−窒素二重結合の窒素が抜けやすくなったためと考えられる。 第4章 ジアルデヒドセルロースゲルによる反応クロマトグラフィー アルデヒド基を導入したセルロースゲルを担体とするクロマトグラフィーにより、シッフ塩基反応を利用してアミン類を分離する新規な手法の開発を試みた。セルロースゲル(Cellulofine GC-700sf)を過ヨウ素酸酸化によりアルデヒド基含量の異なる二種類のゲルを調製した。ジアルデヒド化セルロースゲルは二、三級芳香族アミンおよび共役酸の酸解離定数(pKa)が6以上の一級芳香族アミンとは相互作用を示さなかったのに対し、共役酸のpKaが5.3以下の一級芳香族アミンとは特異的な相互作用を示した。共役酸のpKaが4〜5.3の一級アミンはpHが高くなるにつれ溶出が遅くなり、共役酸のpKaが3.4以下の一級アミンはpHが高くなるにつれ溶出が早くなった。遅れの程度はアルデヒド基が増えるほど大きくなった。 これらの挙動は以下のように解釈される:シッフ塩基反応ではまずフリーのアミノ基がカルボニルの炭素に求核反応を起こし、続く脱水により炭素−窒素間の二重結合が形成される。この反応は可逆であり、酸で触媒される。二、三級アミンは一級アミン基を持っていないためシッフ塩基反応が起こらない。共役酸のpKaが6以上の一級芳香族アミンはpH4.0-5.5ではほとんどプロトン化されており、フリーのアミノ基の求核は起こらない。共役酸のpKaが4-5.3の一級芳香族アミンはpHが高くなるにつれフリーのアミノ基の量が増えるためカルボニルの炭素への求核が起こり、溶出が遅くなると考えられる。共役酸のpKaが3.4以下の一級芳香族アミンはpH4.0-5.5ではほとんどフリーのアミノ基として存在するので求核反応はほぼ同じ程度で起こるが、pHが低くなるにつれシッフ塩基反応によって形成された炭素−窒素二重結合の窒素へのプロトン化が起こるので平衡が右にずれ、溶出が遅くなると考えられる。 第5章 ジカルボキシルセルロースゲルによるイオン交換クロマトグラフィー セルロースゲル(Cellulofine GC-700sf)を過ヨウ素酸酸化によりアルデヒド基を導入した後、亜塩素酸酸化によりカルボキシル基とし、陽イオン交換体としての能力を市販の陽イオン交換体(CM-Cellulofine C-500m)と比較した。ジカルボキシルセルロース(DCC)ゲルは共役酸の酸解離定数(pKa)が3.3以上の芳香族アミンと強いイオン交換作用を示した。DCCゲルのイオン交換挙動は緩衝液のpHに強く依存し、特にpH4付近では大きな交換能を示した。 共役酸のpKaが3.3〜5.3のアミンは高pHではプロトン化が抑えられるためretention factor (k')が低下する。共役酸のpKaが6以上のアミンはこのpH域ではほとんどプロトン化しているのでk'のpH依存性はカルボキシル基の解離状態の変化によると考えられる。すなわち、高pHではジカルボキシル基はともに解離して相互に反発し、孤立したカルボキシル基のように振舞うのに対し、pH 4付近では1つだけが解離した状態になる(ジカルボキシルセルロースゲルの酸解離定、3.66と4.76)。このとき陰イオンの数は半分になっているはずであるが、隣接した非解離のカルボキシル基がアミンと陰イオンの相互作用を強める作用を及ぼすため、なお高い交換能を示すと考えられる。 第6章 ポリアリルアミンを結合したセルロースゲルによるイオン交換クロマトグラフィー セルロースゲル(Cellulofine GC-700sf)を過ヨウ素酸酸化してアルデヒド基を導入した後、ポリアリルアミン(分子量5000)をシッフ塩基反応により結合し、ポリカチオンセルロースゲルを調製した。導入アミノ基の量の異なる三つのゲルのイオン交換能を市販の陰イオン交換体(DEAE-Cellulofine A-500m)と比較した。結合ポリアリルアミンの量はアルデヒド基の増加とともにも増加するが、比例関係にはならなかった。ポリアリルアミン分子鎖はいくつのアルデヒド基と反応すると考えられる。 ポリアリルアミン結合セルロースゲルは一価酸に対してアミノ基量の順でイオン交換能を示したが、二価酸には市販の陰イオン交換体よりアミノ基量は少ないにもかかわらず著しい相互作用を示した。ポリアリルアミン結合セルロースゲルはアミノ基が集中的に存在するので強いイオン相互作用を示したと考えられる。またこのゲルでの二価酸のretention factorはアミノ基量の差による相違点は見られなかった。これはジアルデヒドセルロースゲルのアルデヒド基と結合されたポリアリルアミンの分子鎖の自由度がアミノ基の増加とともに減少するからと考えられる。 第7章 ポリアリルアミンを結合したセルロースゲルによるタンパクの分離 孔の大きいセルロースゲル(Cellulofine GCL-2000m)を過ヨウ素酸酸化によりアルデヒド基を導入した後、ポリアリルアミン(分子量5000)をシッフ塩基反応により結合し、ポリカチオンセルロースゲルを調製した。導入ポリアリルアミンの量の異なる三種のセルロースゲルと市販の陰イオン交換体(DEAE-Cellulofine A-800m)でのタンパク質の溶出挙動を調べた。 ポリアリルアミン結合セルロースゲルは市販のゲルより窒素含量が少ないにも関わらず、強いイオン相互作用を示し、アミノ基の量が多くなるにつれイオン交換能は高くなった。またこれらのゲルは等電点と分子量の等しいタンパク質(ヒト血清アルブミンと牛血清アルブミン、β−ラクトグロブリンAとB)を分離することができた。 以上のようにポリアリルアミン結合セルロースゲルは低い窒素含量でも高いイオン交換能を示した。これはポリアリルアミンの高いアミノ基密度がアニオンとの結合力を強くすることを示している。 | |
審査要旨 | 本論文は、セルロースの特徴的な反応として古くから知られているが、これまで十分に活用されてこなかった過ヨウ素酸酸化によるジアルデヒド化反応を新しい機能性材料の製造に利用することを企図したものである。論文は第1〜8章からなる。 第1章は序論であり、セルロースの酸化、とくに過ヨウ素酸酸化の特徴とその利用についての既往の知見をまとめた上で、本研究の課題と構想を述べている。 第2章では、不均一反応であるセルロースの過ヨウ素酸酸化がセルロースの結晶性に及ぼす影響を調べた。申請者はこれまで調べられていない特に高結晶性の海藻セルロースを用いて結晶性の影響を詳細に調べ、以下の諸点を明らかにした:反応度(置換度)が高まるにつれてセルロースの結晶化度は下がるがX線回折ピークの半価幅はほとんど変わらない。このアルデヒド基をチオセミカルバジドで修飾し金コロイドでラベルすると金粒子の分布が不均一である。これらのことから、過ヨウ素酸酸化はミクロフィブリル表面の互いに離散した場所で始まり、反応はそこから表面に沿って広がるのではなく結晶の内部方向に進んでいくというモデルを提案した。 第3章では ジアルデヒドセルロースのアルデヒド基にシッフ塩基反応で窒素含有基を導入した誘導体の熱重量・示差熱分析(TG-DTA)を行なった。ジアルデヒドセルロースは酸化度が高くなるにつれ分解開始温度が下がるが炭化収率は酸化度の増加と共に上がり、酸化度98%ではセルロースの約2倍であった。ジアルデヒドセルロースから得た窒素含有誘導体は窒素含量があるレベルを超えると145〜170℃の範囲で特徴的な爆発的分解を示した(Figure 3-7, 3-8, 3-9, 3-10)。この現象はシッフ塩基反応により形成された炭素−窒素二重結合の窒素が抜けやすくなったためと結論した。 第4章ではアルデヒド基を導入したセルロースゲルを担体とするクロマトグラフィーにより、シッフ塩基反応を利用して芳香族アミン類を分離する新規な手法の開発を試みた。市販のビーズ状セルロースゲルを過ヨウ素酸酸化して調製したジアルデヒド化セルロースゲルは二、三級芳香族アミンおよび酸解離定数(pKa)6以上の一級芳香族アミンとは相互作用を示さなかいのに対し、共役酸の酸解離定数(以下pKaと書く)が5.3以下の一級芳香族アミンと特異的な相互作用を示した。pKa 4〜5.3のアミンはpHが高くなるにつれ溶出が遅くなり、pKa 3.4以下のアミンはpHが高くなるにつれ溶出が早くなった。遅れの程度はアルデヒド基が増えるほど大きく、また溶離液のpHに強く依存した。これらの挙動をアミンの解離度と、反応により生成するイミンの解離度のpH依存性により合理的な解釈を与えた。 第5章では、部分的にジアルデヒド化したセルロースゲルをさらに亜塩素酸で酸化してジカルボキシル基を導入し、イオン交換クロマトグラフィーに応用した。ジカルボキシルセルロース(DCC)ゲルはpKa 3.3以上の芳香族アミンと強いイオン交換作用を示した。イオン交換作用は緩衝液のpHに強く依存し、特にpH4付近では大きな交換能を示した。この特異な挙動を、アミノ基とジカルボキシル基の解離状態のpH依存性に基づいて説明する仮説を提案した。 第6章ではジアルデヒドセルロースゲルに水溶性の合成ポリアミンを結合し、そのイオン交換作用を調べ以下の知見を得た:結合ポリアリルアミンの量はアルデヒド基の増加とともにも増加するが比例関係にはなく、ポリアリルアミン分子鎖はいくつのアルデヒド基と反応している。ポリアリルアミン結合セルロースゲルは一価酸に対してアミノ基量の順でイオン交換能を示したが、二価酸には市販の陰イオン交換体よりアミノ基量は少ないにもかかわらず著しい相互作用を示した。ポリアリルアミン結合セルロースゲルはアミノ基が集中的に存在するので強いイオン相互作用を示したと考えた。 第7章ではポリアリルアミン結合セルロースゲルによるタンパクの分離を試みた。その結果、このゲルは市販のアニオン交換用セルロースゲルより窒素含量が少ないにも関わらず、タンパク質と強いイオン相互作用を示し、高い分離能を示した。そして等電点と分子量の等しいタンパク質(ヒト血清アルブミンと牛血清アルブミン、およびβ−ラクトグロブリンAとBを分離することができた。このようにポリアリルアミン結合セルロースゲルは低い窒素含量でも高いイオン交換能を示したが、これは高いアミノ基密度を持ち水中にランダムコイルとして広がったポリアリルアミン分子鎖がタンパク質分子に絡みつくよう結合するためと考えた。 以上を総合して本論文は過ヨウ素酸酸化で得られるジアルデヒドセルロースが結晶性セルロースの性質の改変、ビーズ状セルロースゲルへの新しい機能付与に利用できることを示し、それらに関わる多くの重要な知見を得たものであり、学位授与の要件を満たすと判定される。本論文内容の大部分は既に専門学術誌に発表されている。したがって審査員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 | |
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