学位論文要旨



No 117286
著者(漢字) 田中,りつ子
著者(英字)
著者(カナ) タナカ,リツコ
標題(和) び慢性大細胞型B細胞性リンパ腫の染色体転座点より同定された新規遺伝子U50HGの解析
標題(洋)
報告番号 117286
報告番号 甲17286
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1894号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 齋藤,泉
 東京大学 教授 榊,佳之
 東京大学 助教授 平井,久丸
 東京大学 助教授 菅野,純夫
 東京大学 助教授 大海,忍
内容要旨 要旨を表示する

[研究の背景と目的]

 snoRNA(small nucleolar RNA)とは細胞の核小体に局在する安定した小さな機能性のRNA分子である。現在、150種以上のsnoRNAが同定されており、自身のもつ構造と機能によって2つに大別されている。一つはbox C配列(RUGAUGA)とD配列(CUGA)をもち、pre-rRNAの2'−O−メチル化(塩基に結合したリボースのメチル化反応)に関与し、もう一つはbox H配列(ANANNA)とACA配列をもちpre-rRNAのシュードウリジル化(ウリジンの異性化反応)に関与するものである。box C/D型snoRNAはbox CとDの間に10〜21ヌクレオチドのpre-rRNAと相補的な配列をコードしており、この相補性の中にメチル化部位を含んでいる。動物細胞のsnoRNAの多くはリボソーム蛋白質や翻訳関連蛋白質をコードする遺伝子のイントロンやprotein non-coding遺伝子のイントロンにコードされている。このようなイントロンにsnoRNAをコードする遺伝子をsnoRNA宿主遺伝子(snoRNA host gene, snoRNA HG)と呼ぶ。近年同定されたsnoRNA宿主遺伝子にはUHG、U17HG、U19HG、gas5などがある。これら4つのsnoRNA宿主遺伝子はポリ(A)が付加された転写産物を産生するが、大きなOpen Reading Frame (ORF)を見出すことができない。また、UHG、U17HGやgas5についてはヒトとマウスのホモログ遺伝子のエクソンには相同性がないことが判明している。また、snoRNA宿主遺伝子のイントロンにコードされたsnoRNAはRNA polymerase IIによって宿主の遺伝子と共に転写され、イントロン部分のスプライシングや末端のトリミングの過程で形成されると考えられている。

 一方、これらの宿主遺伝子の転写産物の特徴としては5'terminal oligopyrimidine (5'TOP)のモチーフをもっていることがあげられる。5'TOPモチーフはリボソーム蛋白質のmRNAなどの5'末端にみられ、Cからはじまりピリミジンのストレッチが続く配列であり、このモチーフがsnoRNA宿主遺伝子の重要な構造上の共通性としてとらえられている。最近、インプリンティング領域として有名なPrader Willi Syndorome (PWS)の原因領域15q11-q13にコードされているSNURF-SNURP遺伝子のイントロンに新規のsnoRNAがコードされていることが報告された。これらのsnoRNAは脳で高く発現している。複数のPWSの患者において、これらのsnoRNAコーディング部位に欠失や変異があり、そこにコードされるsnoRNAの発現が検出されないことが報告されている。

 共同研究者である佐藤かすみは、t(3;6)(q27;q15)転座を有するSCIDマウスに継代・維持されたび慢性大細胞型B細胞性リンパ腫株OMS19の転座点近傍のゲノム構造の一部を明らかにした。この転座点は3q27に存在するBCL6遺伝子が関わる転座であり、BCL6遺伝子の第1イントロンから上流が未記載の配列に置換されていることが判明した。また、この新規の上流配列にKMS 1プローブを設定した。

 本研究では染色体6q15に存在するBCL6遺伝子の新規転座相方遺伝子を単離し、その構造と発現様式を明らかにする目的でマウスホモログのクローン化及び他の悪性リンパ腫細胞株における発現と遺伝子異常の解析を試みた。その結果、この新規の配列が6q15にマップされる新規snoRNA宿主遺伝子U50HGの一部であることを明らかにした。さらにU50HGの機能解析を行うため、本遺伝子のマウスホモログを単離し、構造及び発現を検討した。また、従来より染色体6q15部位を含む構造異常が血液系腫瘍において高頻度に生じることが知られ、t(3;6)(q27;q15)転座は稀に検出される。そこで、悪性リンパ腫株7株について本遺伝子の構造異常を持つ例の検出を試み、1例にこれが欠失した症例株AMS3を見出した。このAMS3症例株と本遺伝子を単離するきっかけとなったOMS19症例株は共にU50の発現が著しく低下していることが判明した。

[方法]

1) snoRNA (small nucleolar RNA) U50の宿主遺伝子U50HGの同定と単離

 OMS19細胞株の染色体転座点t(3;6)(q27;q15)からみいだされた6q15側の新規の配列をコードする遺伝子を単離するため、KSM 1プローブを用いてRamos cDNAライブラリー、健常人由来のゲノムライブラリーをスクリーニングした。また、末梢血由来のtotal RNAを用いてRT-PCRを行い、5'RACE法にて転写開始点を明らかにした。cDNAとゲノムDNAの配列を決定し、これらの一次情報を照合して遺伝子の構造を明らかにした。また、BLAST検索にて既知の遺伝子との相同性を検討した。

 U50の細胞内の局在をIn Situ Hybridizationを行い検討した。HaLa細胞をスライドグラスに固定し、プローブとしてU50(75mer)及びU50'(70mer)を特異的に認識する合成オリゴマーを用いた。

2) U50HGのマウスホモログmU50HGの同定と単離

 ヒトU50(hU50)配列をプローブにして129SVJマウスゲノムライブラリーをスクリーニングした。また、ここから得られたクローンの一部を用いてMELγp3 cell line由来マウスcDNAライブラリーをスクリーニングした。cDNAライブラリーから得られたクローンの配列をもとにプライマーを設定し、マウスゲノムDNAをテンプレートにしてPCRを行い、遺伝子断片を得た。また、既知の遺伝子の検索及び単離されたクローンの類似性の検討にはBLAST検索を利用した。

 mU50(マウスU50ホモログ)の組織特異性発現をurea変性6%アクリルアミドノザンブロット法にて検討した。プローブとしてmU50合成オリゴマーを用いた。

3)悪性リンパ腫細胞株におけるU50HGの構造異常の検出とU50の発現の検討

 U50HGの転座症例株OMS19の他に構造異常をもつ細胞株を明らかにするために、悪性リンパ腫細胞株からゲノムDNAを抽出しサザンブロットを行った。プローブとしてKSM 1プローブを用いた。これらの細胞株におけるU50及びU50'の発現を検討するために、urea変性6%アクリルアミドノザンブロット法にて検討した。プローブはU50及びU50'を特異的に認識する合成オリゴマー(70-75mer)を用いた。

[結果及び考察]

1) snoRNA (small nucleolar RNA) U50の宿主遺伝子U50HGの同定

 OMS19の染色体転座点t(3;6)(q27;q15)から6q15にマップされる新規のsnoRNA宿主遺伝子を単離した。この遺伝子は5'TOP遺伝子のfamilyに属する全長約2kbpであり、6つのエクソンから構成される。少なくとも6種類のポリ(A)が付加された転写産物を産生するが、いづれも大きな蛋白質をコードする可能性は低いと考えられた。第5イントロンにはU50 snoRNA (accession mumber : X96662)がコードされ、4番目のイントロンにはU50と高い相同性をもつ配列U50'がみいだされた。従って、この遺伝子をU50 host gene, U50HGと名前をつけた。U50及びU50'は細胞の核小体に局在する分子であることが確認された。U50は28S rRNAのC2849とG2864の2'−O−メチル化に関わるsnoRNAであると考えられている。従って、U50HGは核小体で28S rRNAの成熟に関与するイントロン由来のU50及びU50'を産生する遺伝子であると判断された。

2) U50HGのマウスホモログmU50HGの同定と単離

 U50HGのマウスホモログとしてmU50HG(A)とmU50HG(B)の2つの遺伝子が単離された。mU50HG(A)は5'TOP遺伝子のfamilyに属する少なくとも5つのエクソン(A1,A2,A3,A4,A5)から構成される遺伝子であった。転写産物についてBLASTによるopen reading frame (ORF)を検索したが、大きなORFをみいだすことはできなかった。またhU50との相同配列mU50は第4イントロンにのみ見出された。mU50HG(B)もまた5'TOP遺伝子のfamilyであり、5つのエクソン(B1,B2,B3,B3',B4)から構成される全長約1.8kbpの遺伝子であることが判明した。今回も転写産物は大きな蛋白質をコードする可能性は低いと考えられた。mU50配列はB3イントロンとB3'イントロンにみいだされた。ヒトU50HGとマウスU50HG(mU50HG)の類似点はイントロンにコードされたU50相当配列と転写開始点のCTTTT配列に限られた。これらの知見は前述したUHGやU17HG、gas5のヒトとマウスの間で明らかにされている知見と一致する。また、U50HG(6q15)とmU50HG(A)(9E3-F1)の染色体上の位置は相同領域にマップされた。また、mU50は脾臓、胸腺、骨髄、リンパ節で強く発現していることが判明した。

3)悪性リンパ腫細胞株におけるU50HGの構造異常の検出とU50の発現の検討

 AMS3細胞株はKSMI断片を含む遺伝子量が約1/4以下に減少していることが判った。この細胞株における染色体の核型は、6番染色体の片側アリルの6q13-q27にかけて欠失しているものであった。しかしもう一方の染色体アリルについては染色体検索でこの部位の異常を同定することは出来なかった。結果として、片側アリルについて染色体6q15部位に転座が認められたOMS19及び欠失が認められたAMS3では、U50及びU50'の発現が1/4以下に減少していることが判明した。このことから、U50HGは他のsnoRNA宿主遺伝子(SNURF-SNURP遺伝子)でしばしばみられるようなインプリンティングによる発現制御を受けていることが一つの可能性として考えられた。この可能性を、父方、母方由来のヒト6番染色体が導入されたハイブリッド細胞を用いて検証した。U50がインプリンティングを受けていない可能性を示唆する結果を得たが、この可能性を全く否定できるものではなく、この点についてはさらなる実験が必要であると考えている。一方、OMS19、AMA3におけるU50発現の低下の説明として、U50HGのプロモーター領域はCG配列に富むことから、U50HGがメチル化による転写制御を受けている可能性も考えられるが、この検索は現在進めているところであり今後の課題として残されている。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究では悪性リンパ腫のt(3;6)(q27;q15)転座をもつ一細胞株から染色体6q15に存在するBCL6遺伝子の新規転座相方遺伝子を単離し、その構造と発現様式を明らかにする目的でマウスホモログのクローン化及び他の悪性リンパ腫細胞株における発現と遺伝子異常の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1) snoRNA (small nucleolar RNA) U50の宿主遺伝子U50HGの同定

 OMS19の染色体転座点t(3;6)(q27;q15)から6q15にマップされる新規のsnoRNA宿主遺伝子を単離した。この遺伝子は5'TOP遺伝子のfamilyに属する全長約2kbpであり、6つのエクソンから構成される。少なくとも6種類のポリ(A)が付加された転写産物を産生するが、いづれも大きな蛋白質をコードする可能性は低いと考えられた。第5イントロンにはU50 snoRNA (accession mumber : X96662)がコードされ、4番目のイントロンにはU50と高い相同性をもつ配列U50'がみいだされた。従って、この遺伝子をU50 host gene, U50HGと名前をつけた。U50及びU50'は細胞の核小体に局在する分子であることが確認された。U50は28S rRNAのC2849とG2864の2'−O−メチル化に関わるsnoRNAであると考えられている。従って、U50HGは核小体で28S rRNAの成熟に関与するイントロン由来のU50及びU50'を産生する遺伝子であると判断された。

2) U50HGのマウスホモログmU50HGの同定と単離

 U50HGのマウスホモログとしてmU50HG(A)とmU50HG(B)の2つの遺伝子が単離された。mU50HG(A)は5'TOP遺伝子のfamilyに属する少なくとも5つのエクソン(A1,A2,A3,A4,A5)から構成される遺伝子であった。転写産物についてBLASTによるopen reading frame (ORF)を検索したが、大きなORFをみいだすことはできなかった。またhU50との相同配列mU50は第4イントロンにのみ見出された。mU50HG(B)もまた5'TOP遺伝子のfamilyであり、5つのエクソン(B1,B2,B3,B3',B4)から構成される全長約1.8kbpの遺伝子であることが判明した。今回も転写産物は大きな蛋白質をコードする可能性は低いと考えられた。mU50配列はB3イントロンとB3'イントロンにみいだされた。ヒトU50HGとマウスU50HG(mU50HG)の類似点はイントロンにコードされたU50相当配列と転写開始点のCTTTT配列に限られた。これらの知見は前述したUHGやU17HG、gas5のヒトとマウスの間で明らかにされている知見と一致する。また、U50HG(6q15)とmU50HG(A)(9E3-F1)の染色体上の位置は相同領域にマップされた。また、mU50は脾臓、胸腺、骨髄、リンパ節で強く発現していることが判明した。

3)悪性リンパ腫細胞株におけるU50HGの構造異常の検出とU50の発現の検討

 AMS3細胞株はKSMI断片を含む遺伝子量が約1/4以下に減少していることが判った。この細胞株における染色体の核型は、6番染色体の片側アリルの6q13-q27にかけて欠失しているものであった。しかしもう一方の染色体アリルについては染色体検索でこの部位の異常を同定することは出来なかった。結果として、片側アリルについて染色体6q15部位に転座が認められたOMS19及び欠失が認められたAMS3では、U50及びU50'の発現が1/4以下に減少していることが判明した。このことから、U50HGは他のsnoRNA宿主遺伝子(SNURF-SNURP遺伝子)でしばしばみられるようなインプリンティングによる発現制御を受けていることが一つの可能性として考えられた。この可能性を、父方、母方由来のヒト6番染色体が導入されたハイブリッド細胞を用いて検証した。U50がインプリンティングを受けていない可能性を示唆する結果を得たが、この可能性を全く否定できるものではなく、この点についてはさらなる実験が必要であると考えている。一方、OMS19、AMA3におけるU50発現の低下の説明として、U50HGのプロモーター領域はCG配列に富むことから、U50HGがメチル化による転写制御を受けている可能性も考えられるが、この検索は現在進めているところであり今後の課題として残されている。

 以上、本論文はヒト及びマウスのゲノム中に新規のU50 snoRNA宿主遺伝子U50HG及びそのマウスホモログmU50HG(A)とmU50HG(B)が存在することを明らかにした。これらの遺伝子はprotein non-coding遺伝子である可能性が高く、イントロンにU50 snoRNAをコードする遺伝子であり本研究の他に報告例はない。さらにヒト悪性リンパ腫細胞株の中にU50HGの構造に異常を有するものをみいだし、これらの細胞株ではU50の発現が極めて減弱していることが明らかにされた。従って、本研究は今後のsnoRNAの研究、また将来のヒト悪性リンパ腫の研究において重要な貢献をなすと考えられ、学位論文の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク