学位論文要旨



No 117296
著者(漢字) 朝霧,成挙
著者(英字)
著者(カナ) アサギリ,マサタカ
標題(和) 自然免疫系におけるI型インターフェロン遺伝子活性化機構の解析
標題(洋)
報告番号 117296
報告番号 甲17296
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1904号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 河岡,義裕
 東京大学 教授 野本,明男
 東京大学 教授 北,潔
 東京大学 助教授 高木,智
 東京大学 助教授 横溝,岳彦
内容要旨 要旨を表示する

 インターフェロン(IFN)は、ウイルスの干渉現象(interference)に関する研究から発見された。なかでもIFN-α/β(I型IFN)は、ウイルス感染時に一過性に産生されて初期の免疫応答を司り、自然免疫系において重要な役割を持つ。IFN-β遺伝子のプロモーターにはPRDI、PRDII、PRDIIIおよびPRDIVと名付けられたエンハンサーが同定されており、PRDIIにはNF-κBが、PRDIVにはATF-2/c-Junが結合する。またPRDIとPRDIIIにはIFN regulatory factor(IRF)と呼ばれる転写因子群が結合する。現在までに9種のIRFが同定されており、このうちI型IFNの転写誘導に関係深いのはIRF-1、IRF-3、IRF-7およびIRF-9の4種である。特にIRF-3とIRF-7は、ウイルス感染に呼応して形成されるvirus-activated factorと呼ばれる複合体中に見いだされることから、ウイルス感染時のIFN産生における役割が注目されていた。そこで本研究では、I型IFN遺伝子活性化機構におけるIRF-3とIRF-7の役割を解明するために、両因子の欠損マウスの作成と解析を行って、下記の結果を得た。

(1)IRF-3欠損マウスのEMCV感染における平均生存日数は野生型を大きく下まわった。

(2)IRF-3欠損マウスの胎仔線維芽細胞(MEF)を用いた解析から、ウイルス感染時のIFN産生量は野生型と比較して約20分の1に著減した。この時IFN-αmRNAの発現パターンを調べると、IFN-α4の全体に占める割合が低く通常とは異なっていた。

(3)蛋白合成阻害剤を培養液中に添加したのちにウイルス感染を行うと、IFNの産生は検出限界以下となった。しかしIFN前処理した後に蛋白合成阻害剤を添加した場合には通常の発現レベルに回復した。このことからIRF-3欠損MEFにて観察される少量のIFN産生誘導には、蛋白合成を伴うIFNシグナリングが重要であることが強く示唆された。

(4)また、IRF-3とIFNシグナル伝達に重要な因子IRF-9を両方欠損するマウス(DKO)を作製したところ、MEFと脾臓リンパ細胞の両者において、ウイルス感染によるIFNの誘導は全く観察されなかった。

(5)レトロウイルス発現ベクターを用いてDKO MEFにIRFファミリー転写因子を再構築したところ、IRF-3強制発現細胞ではIFN-βの発現のみ回復がみられた。一方IRF-7強制発現細胞ではIFN-α/β両者の発現回復が見られたが、IFN-α mRNAの発現様式はIRF-3を欠損した場合と同様の異常を示した。この発現様式の異常は、IRF-3とIRF-7を共に発現することで解消された。以上のことから、IRF-3とIRF-7がIFNの誘導性に関して代償不可能な機能を持つこが示された。

(6)IFNプロモーター下流にルシフェラーゼ遺伝子を連結させたレポーター遺伝子を用いたトランジェントアッセイからIRF-3とIRF-7が協調的に働くことが明らかとなった。

(7)IRF-7欠損細胞の解析から、IRF-7がウイルス感染時のIFN-α遺伝子群の活性化に必須の因子であることが明らかとなった。

 以上の結果を通して本研究は、(a)IRF-3とIRF-7は、ウイルス感染時にI型IFN遺伝子を活性化する直接的かつ必須の因子であること。(b)この時IRF-3とIRF-7がIFN誘導性に関してお互いに代償不可能な役割を担っており、協調的に機能していること。具体的には、IRF-3はIRF-7と共にIFN-βの発現を担うが、IFN-αの誘導量に及ぼす影響はほとんど認められない。しかし、複数種存在するIFN-α遺伝子の発現様式を制御している。一方、IRF-7はIFN-α/β両方を効果的に誘導するがIFN-α遺伝子の発現制御に関して特異性がないと言うことができる。また、(c)IRF-3はIRF-7はお互いに単独でも転写活性化因子として機能し得ることを明らかとした。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、I型インターフェロン(IFN)遺伝子活性化機構における、IFNregu1atory factor(IRF)-3とIRF-7の役割を、両因子の欠損マウスの作成と解析を通して検討したものであり、下記の結果を得ている。

(1)IRF-3欠損マウスのEMCV感染における平均生存日数は野生型を大きく下まわった。

(2)IRF-3欠損マウスの胎仔線維芽細胞(MEF)を用いた解析から、ウイルス感染時のIFN産生量は野生型と比較して約20分の1に著減した。この時IFN-αmRNAの発現パターンを調べると、IFN-α4の全体に占める割合が低く通常とは異なっていた。

(3)蛋白合成阻害剤を培養液中に添加したのちにウイルス感染を行うと、IFNの産生は検出限界以下となった。しかしIFN前処理した後に蛋白合成阻害剤を添加した場合には通常の発現レベルに回復した。このことからIRF-3欠損MEFにて観察される少量のIFN産生誘導には、蛋白合成を伴うIFNシグナリングが重要であることが強く示唆された。

(4)また、IRF-3とIFNシグナル伝達に重要な因子IRF-9を両方欠損するマウス(DKO)を作製したところ、MEFと脾臓リンパ細胞の両者において、ウイルス感染によるIFNの誘導は全く観察されなかった。

(5)レトロウイルス発現ベクターを用いてDKO MEFにIRFファミリー転写因子を再構築したところ、IRF-3強制発現細胞ではIFN-βの発現のみ回復がみられた。一方IRF-7強制発現細胞ではIFN-α/β両者の発現回復が見られたが、IFN-α mRNAの発現様式はIRF-3を欠損した場合と同様の異常を示した。この発現様式の異常は、IRF-3とIRF-7を共に発現することで解消された。以上のことから、IRF-3とIRF-7がIFNの誘導性に関して代償不可能な機能を持つこが示された。

(6)IFNプロモーター下流にルシフェラーゼ遺伝子を連結させたレポーター遺伝子を用いたトランジェントアッセイからIRF-3とIRF-7が協調的に働くことが明らかとなった。

(7)IRF-7欠損細胞の解析から、IRF-7がウイルス感染時のIFN-α遺伝子群の活性化に必須の因子であることが明らかとなった。

 以上の結果より、(1)IRF-3とIRF-7は、ウイルス感染時にI型IFN遺伝子の活性化を制御する因子として直接的かつ必須の役割を果たしていること、(2)この時お互いに代償不可能な役割を担っており、協調的に機能していること(3)お互いに単独でも機能し得る事が明らかになった。これまでに、9種の分子がIRFファミリーとして同定されているが、これら因子の発現様式や活性化機構はそれぞれに異なり、いずれの因子がI型IFN遺伝子を制御するのか解明されないまま10年以上混沌としていた。本研究は、このような状況を打破するものであり、学位の授与に値すると考えられる。

UTokyo Repositoryリンク